9 しよみの話
「特別にわたしの首の話をしてあげるね、本当に、特別に」
むかーしむかし、首の化け物がいたの。
昔は確かに人間だったんだけど、どうしてだかいつの間にか化け物になっていたんだ。
体を取り替えると、ずっと生きていられた。
それに、体の持ち主の顔になることもできた。
いつの間にか化け物になってるなんて、混乱しちゃうけどその女の子は一人じゃなくて、兄さんと、それから兄さんが仕えているお姫様と婆やさんが一緒だった。
お姫様は鬼から貰った黒い箱を持ってていて、多分そのせいだったんじゃないかな。
鬼から貰った時はがんじがらめに縛ってあったはずなのに、いつの間にか紐はほどけてたから。
それで、四人でなんとかやっていたの。
そうやってしばらくいたんだけど、世の中が色々騒がしくてバラバラになっちゃった。
女の子は幸い婆やさんとはぐれずに、二人で兄さんとお姫様を探してあちこち巡り歩いてた。
だけど婆やさんは段々記憶が曖昧になって、自分が誰かもわからなくなった。
人目につかないように、目立たないようにって婆やさんは、もうそんなことも忘れてしまって。
だけどお姫様のことだけは覚えてるみたいで、お姫様に似ている人を誰彼構わず襲っちゃうの。
きっと目立っちゃったんだ。
女の子のところに帰ってこなかったの。
必死になって探したよ。
それで、だいぶん経ってからお寺の箱の中で見つけた。
不思議だけど、お姫様が持ってた箱に良く似てた。
首だけ箱に閉じ込められて、干物みたいに死んじゃってた。
お別れするために、婆やの顔少しかじったら印についての記憶があったんだ。
婆やのこと、閉じ込めたやつに婆やがつけた印。
顔に噛みついた跡。
それって呪いになって、そいつの血縁に延々と現れるんだ。
死ぬと消えるんだけどね。
それで次の子孫に現れる。
女の子は婆やのために、印がついたやつを始末してまわることにしたの。
それからもう四百年くらいになるかなあ、色んな人の顔になりながら、色んな名前を名乗りながら。
で、その印、いより君の顔についてるやつアザみたいなやつね。
この顔にも、それと同じアザついてたんだ。
今使ってる顔って、いより君のお母さんの顔だからさ。
君は覚えてないからあんまり意味無かったけど、まあ親子の再会させてあげるのもいいかなって。
いより君でちょうど呪いが終わって最後だからさ。
わたしが名乗ってる 詩詠、ってのいうのも君のお母さんの名前。なんか洒落てるよね、いより君のおじいさんが付けたんだって。
普段は別の顔と名前を使ってるよ。
わたしの本当の名前は──、まあ、いっか。
しよみね、女の子だからいより君よりよっぽど悩んでた。
呪いのことも知ってて怖がってた。
わたしたち、ただ食べるだけなら首から上は要らないんだけど、相手の顔お腹の中で溶かして消化すると、本人の記憶もわかるし、上手に成り代われるんだ。
でもさ、なぜかいより君の記憶は、うまく隠してて、わかんなかった。
しよみとそのお母さんは最初から呪いとわたしのこと知ってて、あちこち転居したり占い師とか宗教家とか怪しい筋なんかも頼ってたから、そのせいかな。
どうやったんだか知らないけど 場所も名前も性別もわからなくて、アザだけを手がかりに、いより君見つけるの苦労したんだよ。
こつこつ、こつこつ、長かったなあ。お姫様の言い付けでね、子どもは襲うのダメなの。
だから、見つけても育つまで見守ったりしてさ。
これまでのいより君の血筋の人たち、みんな婆やを殺した報いを受けて貰ったんだ。
勿論ちゃんと大人になってから。
目には目を、ってやつ。
今日ってね、君の本当の誕生日なんだ。
あたし、しよみの《《産んだ記憶までは覚えてるの》》。
で、今日君は襲っちゃダメな子どもでなくなったわけ。
今日君を産んで、君をどこかに隠して、それから君の記憶をどうにかしたのかなあ。
で、その後しよみ、わたしに食べられたの。
この顔としよみって名前になったのは、少し前に君を見つけてからだよ。
どう? このあたしの首としよみの首の話。
要らないから捨てられたんじゃなくて、守るために捨てられたって知ったら嬉しい?
素敵な誕生日になったかな?




