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8 交換条件


「これ、ほんとの話かなあ。塚と城跡、どこにあったんだろ……」

しよみはこの話に気を引かれたらしく真剣に考え込んでいる。

さっきの会話も俺の怒りもまるで気にしていない。


だから俺もそうすることにして、気になった点を考えこむ。

ひょっとして首を切り離されたせいで、あの首無しの幽霊は成仏できていないのだろうか。

『首を切り落として』とは、例えば──自分のものではない体に自分の首が乗っているから元に戻して──という意味、だとか?


だが、こんなもの作り話だ。

それとも、実は元ネタがあるのか。



例えば女がこの城跡に行って首を奪われたとしたら、『他人の体に載っている自分の首を切って、きちんと弔ってくれ』、という意味が通るんちゃうか?


しかしそれでも根本的な疑問は残る。

──なんで、俺?

城跡になんて行ったこともない。


「あ、ヒットした、縛り塚。よし、ここ突き止めて城跡探しに行こっか?」

しよみが取り出していたスマホから顔を上げて言う。


「え、本とにあるん? なんでそうなる!?」

「ほら、化け物には化け物をぶつけるって映画でもあるじゃん。首なし女に首武者ぶつければよろしくやってくれるんじゃない? 刀だって持ってるしさ」

「お前の理屈はお前一人にしか通じへんてわかれや。人でも幽霊でも一般人には無理があるて」


「えー、そんなことないよ。なんならわかりあってる子、いーっぱいいーっぱい、いたもん」

「過去形やろ、どうせ」

「……それはまあ、過去形だけどさ。でもあの子達はもうわたしの一部だもん。顔も声も話し方も考え方も、ちゃんと覚えてて、いつでも記憶から持ってこられて、忘れちゃう他の人とは全然違うんだから」


「わかりあったって、そんなんお前が勝手に一方的に思ってるだけちゃうか」

俺は少々恨みがましく言う。

先程のように、空気を読まない配慮ゼロの傷を抉(えぐ)る発言をしていたとしか思えない。


「そりゃ、最初はどうしても仲良くなれない子もわたしを嫌いなままの子もいたけどさ。でも喜んでくれた子も望んでくれた子もいたよ。だってあたしにはその子を分かる必要性があってその子の辛いこと理解できたから。その子が好きなら余計に理解するよう覚えていられるよう、頑張って来たもん。まるでわたしが、あの子たちそのものみたいになれるまで。例えば、君がなーんも苦労してなくて綺麗で可憐で優しいお嬢さんと思って憧れてた弥生さんにだって、君が知らない別の面がいっぱいあったみたいに、さ」


しよみが空になったグラスを置いてうそぶく。

「お前、弥生さんと会(お)うたことないやろ」


「──ねえ、」

「ン?」

「いより君の夢ってさ、看板女優さんとは違うわけ?」

「ばっ、なんちゅう不吉なことを。ちゃうわ、弥生さん勝手に殺すなや!」

「本当に?」

「頭無くてもさすがにわかるわ、声もちゃうし」

「ふーん、違うのか……、じゃあやっぱりただの悪夢なのかな」

「だから、それもちゃうって!」

「そっか。タイミングとしては、合ってなくもないんだけどな。顔の消化は大体終わった頃だから」

「何の話や」


「弥生のことはさ、劇団に入る前に、終わらせちゃったからね。本当はもっと観察して、ちゃんと弥生みたいになれるようにするつもりだったんだけどさ、色々間が悪くて」

「は? 何言い出すんや」


「あれって、心配した優しさ故のおせっかいってやつかな。わたしの傷の痕、気になったみたい。気候のせいで体の傷みが思ったより速くて、一新する時期だったから。膿んじゃってて、救急車呼ぶって頑として譲らなくて、諦めてくれなくてさ。予定を少し繰り上げることになっちゃって」


俺のアザを傷と勘違いしてまごついていた弥生さんの記憶が、しよみの言葉に重なって思い出される。


弥生さんはいなくなる前、浮気の疑いをかけられて揉(も)めていた。

それがまさか、こいつ、とか?


「おい、ちょっと待て、何言い出すんや。お前ひょっとして弥生さんに何か──」

「ねえ、ちょっと待って。それ、はみ出てるの、お戦ちゃんじゃない!?」

「は?」

「コースター!! やっぱいより君、謎にくじ運いいじゃん、ちょうだい!」

「んなもんやるから、弥生さんのこと、お前、知り合いやったんか!?」


「えー、それって今日じゃなきゃダメ? いより君の誕生日当日だからおまけしてあげたいし、ゲームの周回イベント零時に始まるからもうちょい先でもわたしは別にいいのに。ほら、この縛り塚とかいうところ、一緒に行った時でもさ、人気無さそうだからのびのび話できるよ? お互い可愛い女の子の出会いあるかも知れないし」

「お前、警察に届け出すほどの大事って分かっとんのか!?」

「いより君こそ分かってないよ、今日お祝いした誕生日で君はもう大人の年齢なのにさ。アタシの優しさ無にして、弥生のこと聞きたがるなんて泣けてきちゃう」

「ふざけとらんで、このコースター要らんのか!?」

「いる」

「交換や」

「本っ当に聞きたいの?」

「当たり前や、どんだけの人が心配しとると思ってんのや」

「どうして人って、自分の聞きたいことが聞けるって思い込むのかな。まあ、いいや、それファイナルアンサーってヤツね。先払いでお願い、汚れたり傷ついたりしないように大事にしまうから」


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