4 生首パフェ
「いやーん、かわいいーっ、おいしそうー♪」
生首パフェはグロくはなかった。
というかドクロ型ケーキだし、眼窩に星とハートの形の可愛さ強調なフルーツデコされてるし。
一応血に見立てたであろうでろでろのベリーソースをかけて食べるのだが、普通に旨そうケーキパフェ。
びびらせ要素は、ちっこいのに二度見させる値段にしかない。
「生首やないやん」
「生クリームたっぷりの首じゃん」
「成る程、そういう!?」
「というか、なんで俺のにはローソク立っとるん、嫌がらせか」
勝手がわからないので、注文はしよみ任せだ。
「今月の何日だか、君の誕生日でしょ。優しいしよみ様に感謝していいよ~。あ、一応言っとくと変な期待は無しね、お菓子くれる人にはマメなだけだから」
今月の何日だか、とか言ってる時点でマメじゃなく雑なのだが。
「なんで知っとるん? 不気味やねんけど」
「特技。相手が気にしないようにしてること、嗅ぎ当てるのが。いより君って、誕生日の話題イヤそうにしてるよね」
「……嫌な特技やな」
人に距離をおかれる一因だろうに、これを堂々と言えて本人が全く気にしてないところはたまに羨ましい。
俺は、自分が生まれた日の本当の日付も親も知らない。
「今度あたしが行ってるメンタルヘルス相談も行く? 普通の人っぽい思考とか教えて貰えて便利だよ」
「なんでや。それ、全然お前の役に立ってへんぞ」
「だって、変な夢見るのそのせいじゃない?」
「いや、あれは絶対幽霊やし、違うから行かへん」
しよみがあっそと肩を竦めてから、飲み物に付属していた袋を開封して、ガックリ顔を伏せる。
目当てを外したらしい。
「いより君は!?」
「お、ロボや」
「~~っ、ダメかあ」
お前、絶対俺の心配じゃなくそのために誘ったろと思える気配が濃厚である。
「もおっ、ネットで交換探せるかな……。あ、なんか来てる」
俺のケータイにも劇団から通知が来ている。
「次の公演中止で、今月いっぱいは、活動休止か。やっぱりなんかあったんかな」
説明のための集会の日時も書いてある。
「看板女優さんの失踪届け出すってなんか他の人が話してたよ」
「ほんまか?」
「ほら、いより君の貴重な知り合いの、──いい人っぽい人?」
「滝川さんや、お前もそこそこ話してる人やろが。人の名前と台本のセリフはちゃんと覚えろ」
「しょうがないでしょ。あたしの記憶はあたしの一部になった大事な人たち優先なの。出会いがわんさかあって、どうしたって容量足りないし、どうでもいいことは記憶からこぼれるんだって。友達どころか知り合いすら一人二人のいより君とは苦労が違うって」
うっせえわ。
看板女優である弥生さんは付き合っている脚本家とのケンカで家出したと思われていて、月初めからの予定している公演のための練習が滞っていた。
連絡のない欠席はらしくない、とは言われていたが脚本家の方が余程酷いことをしたのではないかと噂されていた。
俺は大して関わらなかったが、脚本家がクソミソに言われるような人間だったので。
「うちの看板女優、実は活動費ほとんど出してるお金持ちのとこのお嬢さんなんでしょ。親が政治関係とか。誘拐とかじゃない? あー、看板女優の失踪なんてさー、座長の好きなミステリものにしてもいいのにね」
「お前、ほんま不謹慎発言製造機やな。ほどほどにしとけ。弥生さんは皆に好かれとるんやぞ」
しよみは最近加わったばかりの俳優志望で、もちろん演目の発言権はなく、弥生さんとは顔合わせしていない。
顔はまあ、女優としてはそこそこだが、アドリブで目立ちたがる上にセリフが棒なので、端役止まりだろうと思う。
うちの劇団が指導協力や道具提携している、演劇セラピーのサークルにいた人間で元から腫れ物扱いされている気配はある。
弥生さんはしよみとは対極の性格で、繊細で丁寧な気遣いの人だった。
ろくに口ごもって挨拶もできない俺を見て、慌てて駆け寄ってケガで具合が悪いのかと尋ね、自分の誤解と知るとひどく慌てて謝ってくれた。
そして、隣で脚本家に冷笑されることにまごついていた。
育ちのいい人間というのを、実感したものだ。
心配も罪悪感も、慌てているところも素直に出せる。
それを弱さと見て攻撃してくる人間が周囲にいないからだ。
施設で育つと、それを容赦なく馬鹿にしてくるやつと出会うことも多い。
同時にこんな人でも殻を被っているんだ、とも思って妙な感動を覚えた。
多分、弥生さんの普通も俺とは恵まれた意味で違っていて、彼女もできるだけその溝を深めないように、違いを表に出さないように気を遣っていた。
「ホラーとかにもなりそうなのにな」
人の話を聞かずに不穏なことをしよみがぼやく。
最もこいつが誰に対しても傍若無人だから、まともに人と向き合って座ることすら得意ではない俺でもこんな謎のカフェに付き合ったりできるのだが。
初対面の距離バグがえぐかったからか、しよみとは対面に座っても気にならない。
店員が恭しく鍵を持ってきて、個室に設置されていた観音扉を開くと、ガラスケース入りの人形が登場するとしよみが黄色い歓声を上げる。
「あ、お戦ちゃんだ! りーりしい♪」
写真の通りに人形の大きさだと大刀にも見えるナイフを構え、銃や剣を踏んでいる。
ん、このナイフ、レプリカやなくて鞘の縮尺だけいじって有名ブランドの本物持たせとんのか。
地面に突き刺してある銃剣などをうまく重さの支えに使っている。
刃潰しとらんな、着物も生地がかなり豪華やし拘りのある作家か。
うちの劇団も、舞台で使うものを本物を使うかフェイクを使うかでたまに意見が食い違って揉めることもある。
本物を使うと役者がリアリティを持って芝居できるが、舞台映えしない場合もあるからだ。
ケースには美術館などで使う警報装置もついている。
怪盗ものの舞台の時に、一つ購入して音の調整を入れて使った。
人形の両隣には音響装置。
「お話が終わったら、会計でお清めの塩貰ってくださいね~、途中退席の際、お話はストップできますが予約時間は厳守になります。予約の際に誓約書頂いてますが、人形とケースにお手を触れないようお願いします。ライト調整はこちらになりますので、お好みの明るさでお楽しみ下さい」
「はーい」
しよみが元気よく返事して俺の意向も聞かずに早速部屋を暗くする。
最もテーブルにライトが付いているから大した暗闇でもない。
カチリ、と音がしてさらさらとした雨音が流れる。
お戦ちゃんが話し始めた。




