2 しよみ
「そうしてって言われてるなら、とりあえず切ってあげてみたら?」
しょうもない返答が返ってくる。
しよみは涼しげな色のネイルの爪で、ガサガサとお菓子の袋をかき回すことに集中していた。
劇団で地味な自分となぜだか最近つるむようになった相手だ。
真剣に相談しているのにこの関心の薄さにはさすがに腹が立つ。
「せやからっ! 夢の中のそいつ、もう首ないん。首ないままの体でこっちに迫ってきてるんや。どっから声出してるかもわからんのに、どうせえっちゅうねん!」
「あっはは、そりゃ困ったねー」
──うーわ、全然深刻に聞いてないわ、こいつ。他人事感が半端ない。
「いや、ちゃんと聞け! お笑い話のお披露目ちゃうぞ。相談するために呼んだのになんでウケとんねん。お前、ホラーとか怖い話好きやろ。具体的で頼りになりそうな助言、なんかないんか」
「──いやいやいやいや。ただの通りすがりのホラー好きのカワイイ女子にさすがにそれは無茶振りじゃないですかね。あたし考察とかで楽しむ派じゃないし。ただ、きゃっきゃっしてるだけなのに、そんな事言われましても。首なし女ねえ、」
いそいそと選んだお菓子を開封しようとする。
お菓子の袋を奪い取る。
「ちょっと、いより君!? 乙女からお菓子を奪うなんて極悪人だよ、非モテ道まっしぐらだよ?」
「何の役に立つことも言わんと、報酬食い出すお前が極悪やろがい。俺はお前と違うて、怪談やら心霊スポット巡りやら興味ない。あの女にも心当たりあらへん。なんで祟られてるのか思い付いたりせえへんか?」
「えー、心当たりないのに、いきなり普通じゃない頼みされて反応迫られてるってことは、アレじゃない、アレ」
「アレ?」
「彼氏検定のつもりの、試し行為? おめでとう! モテ期到来、選ばれたね」
「アホかっっ。ありもせん首を切るのがモテてるって、恋愛観どころか頭どうなっとんねん。 お前、しょっちゅう良いと思った子に着拒されてブロックされるとか言うとんの、絶対そういうズレとるところ原因やからな」
「ひっどー、あたしの話、今関係なくない? あ、さらにいっこ思いついた」
「なんや」
「いより君、関西弁だから」
「あ?」
「だって、もう首ないのに首切ってって言ってくるんでしょ? キレッキレのツッコミ待ちなのでは?」
「お前は関西弁レイシストか!! この東京方言話者がっ。 自分が死んでんのネタにしてツッコミ待ちするレベルの陽気なやつは幽霊なんかならんわ、ボケがッ! 」
しよみが片耳を押さえて不満そうに言う。
「だってさー、実害はないんでしょ」
「ある! 睡眠がじわじわ削られとる!! 健康の基本やろが」
「え~、もうしょうがないなあ」
しよみが、キラキラにデコった目にやかましいケータイを取り出す。
「ん、吉夢だってよ。物事の始まりやとらわれない視点を表すだって。やったね! あ、でも別のサイトだと進歩のない人間関係や愛情に飢えた状態だってさ。マチアプしな、がんば! あたしの女の子たちを紹介するのは、無しね。はい、応援したからお菓子返して」
「いや、どっちやねん。なんて検索したん?」
「『夢 首のない人』」
「それ、首切り落としてって頼まれたりする夢なん?」
「そこは書いてないね」
「お前、ほんまガバな相談相手やな!?」
「文句あんなら帰りますう~。あ、お菓子は連れ帰るから」
要ツッコミの発言だけしておいて、そこは持って帰る気なんか……。
凹む。
自分の交友関係の乏しさと見る目の無さに。
『なんか、いより君ってあたしと名前の感じ似てるね~、親近感』がしよみとの初対面での第一声だった。
いきなり顔を堂々と覗き込んでくるくらい相手との距離感がバグっている。
さらにかなり無頓着にずけずけと物を言うので人から距離を置かれている。
こういうやつゆえに、ちょっと他人には頭がおかしいと思われる相談もしてみる気になったのだ。
どうせ今、問題があって劇団の予定が空白になることが続いている。
──結果、大いに気の迷いだった。
他のやつはこういう時のために、俺らみたいな浮いてるヤツ遠ざけてまともな反応する友達作りに励むんやな。
かといって、大学でこっち来てこんな相談する相手おらへんし。
脱力してお菓子の袋を渡した。
「あれ、拗ねちゃった? えー、本気で落ち込んでる? 元気出して、ほらお菓子あげるから」
いらんわ。出資元俺やろ。
「ひょっとしなくても、マジもんの相談だった?」
しよみが首を傾げる。
「最初から真剣にそういうてるやろが」
「……本当に本当なら、提案がある、かなー。ワンチャンと思われても面倒だし止めといたんだけど」
「なんとかできるん!?」
じゃーん、とケータイ画面を見せられる。
「怪談カフェ?」
なんじゃ、そりゃ。
「この間、画面見てたでしょ? わたしがやってるホラーゲームがコラボカフェやります! 」
……?
いや、なんか、グロいゲーム喜んでやっとるのは知っとるけど。
「すごく困ってるんでしょ、一緒に行かない? コラボメニューの目玉はなんと、生首パフェ! いより君の相談状況にまさかのぴったり。食べながら怪談聞けるから、参考になるかもしれないよ。気分転換にもなるしね。怖がってたら相手の思う壺かもしれないじゃん?」
開いた口が塞がらなかった。
──いや、お前本気で言ってる?
幽霊に憑かれているかもしれないと真剣に相談している相手に、怪談カフェで、怪談聞きながら生首パフェ食べに行こう??
なんか俺、こういう相手表す表現、台本で見かけたことがある。
──『鬼畜』、や。
その夜は夢を見なかった。
しよみがほぼ遊びみたいな感覚で適当に検索した、盛り塩だの、結界だの、ファブリーズだの、マツケンサンバだのの効果かはわからない。
*他人事を〈よそごと〉と読ませているのは、正しい用法ではなく、どこかで見かけたそのルビの振り方を気に入ったからです。好みです。




