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「契約書を三枚にして、原本は国で保管する……?」
ミヤコの提案を、タスクは確認するように繰り返した。
——ゴーン、ゴーン、ゴーン……
「日暮れの鐘が鳴ってしまった」
振り返ったタスクは表を見た。ミヤコも同じ方へ視線を向けると、外はすっかり暗くなってしまっている。
「ローズ、すっかり時間が遅くなって申し訳ない。我々は城に戻るよ」
「いーや、今話題の騎士様に時間を取らせてしまって悪かったよ。ついでに銀貨五枚、あの男に渡してくれるかい?私からだと怖いだろうからねぇ」
そう言うと、ローズは銀貨五枚をタスクに持たせようとした。
「ん?あぁ、もう渡してあるから、その銀貨であのドアを修理してもらうと良い」
タスクはローズの手を押し戻すとミヤコの方を向き、肩に手を回して足早にその場を立ち去った。
「えっ、タスク様!?ちょっと待って、どういう事!?えー!?タスクちゃーん!」
ローズは壊れた戸口で、小走りに去る二人をただ見送る事しかできなかった。
「実は、日暮れの鐘が鳴るまでに戻るようにと言われていまして。まぁ、こちらの事情ですが……」
「そうだったんですね!すみません、口出しをしてしまって」
「タスク様!」
他の騎士達がタスクの戻りを待ち侘びていたかのように、サッと各々のユニコーンに乗った。
タスクの手を借りて、ミヤコは白幻に乗る。
「私だけなら白幻を飛ばすのですが、他の者もいるので走らせます」
ドンッという踏み込みと共に、白幻は城へ向けて一直線に走り出した。メインストリートの店や家々が、形を捉える間もなく次々と過ぎ去り、あっという間に坂を駆け上がって立派な城門の前に辿り着いた。
「これが、王の門です。ここから先が城の中となります」
「うわぁ……」
ミヤコの目の前の城は、遠くから見た時よりも大きく見えた。頑丈そうな石造りの城は、ただならぬ風格を感じさせる。
王の門の手前で白幻から降り他の騎士に白幻を任せると、タスクはミヤコを連れて城へと向かった。
階段を上り、角を曲がり、また階段を上り……
「はぁ、はぁ……玄関遠くないですか?」
「そこを曲がって着きますから。もう一息です」
ミヤコは力を振り絞って再び歩き始めた。角を曲がってそこには——
噴水が広場の中心にあり、その奥に重厚そうな大きな扉が見えた。
「では、中に入りましょうか」
門番が扉の両脇に立っており、「お帰りなさいませ」と挨拶をしてきた。
「お疲れ様です。遅くなりました」
タスクはそう言うと中に入って行く。ミヤコも両脇の騎士のような人達に礼をし、タスクに続いた。
「す、凄い……!」
天井が高く、ステンドグラスの様に色鮮やかなガラスがふんだんに使われた窓は圧巻だった。レッドカーペットが奥の祭壇のような所まで続いている。ただ少し残念なのは、乙女が思い描くようなお城ではなく、重厚で歴史的なお城、という表現が近いように思われた。
「タスク、お疲れ様です」
「お疲れー!タスク!」
廊下側から姿を現したのは、二人の男女であった。
「おう、お疲れ様。森でこちらのミヤコさんに出会った。ルナ、君の占いの人だろうか」
「うーん、あの祭壇でまず職業を見たいかな」
小柄で、紫色のウェーブした髪が腰まであり、モノトーンを基調としたフリルが盛り沢山のワンピースを着た女性が言った。
「ではまず、あちらの水晶に手をかざしていただけますか」
示された先は、レッドカーペットの奥だった。確かに、豪華そうな台の上に何らかが乗っている。四人は水晶の周りを囲み、ミヤコは手をかざした。
——ポウッ……
白い光を発した水晶は、文字を映し出した。
名前:ミヤコ
性別:女
年齢:20歳
その他:法学部
「え……っと?」
ミヤコは静まり返った三人を見渡した。ミヤコにとっては、必要最低限の情報が表示されただけである。
「この、ほうがくぶ?とやらは何ですか?初めて見るのですが。職業が無いのは何故だ?」
ルナがミヤコをじろりと見た。髪と同じ色をした瞳には、無数の小さな輝きが反射している。
「あ、大学生でして……法学部、法律に関して学んでいます。まだ仕事はしていませんが……」
「職業と言うのは、勇者や魔法使いやらの事を言うの……」
「だから契約書の話に提案をしてくれたのか!」
タスクはルナの言葉を遮り、一人合点がいった様子であった。
「え?何かあったの?」
ミヤコの向かい側にいた男性が、タスクに聞いた。
「そうそう、食事の時にでも話そうと思っていたんだ。ルナ、職業が表示されないのは何故かはわからないが、必須ではないだろう?」
「確かにそうだが、どう転ぶかは分からないぞ」
「タスクの中では、この子は占いの予言の子だと見ているわけ?」
「あぁ。早速提案したい事が一つあるんだ」
タスクはこくりと頷いた。
「まぁ、一緒に食事をするなら、ちゃんと自己紹介した方が良いよな」
コツ、コツと赤いローブを纏ったその男性がミヤコに近づいて来た。短髪の黒髪、黒い瞳は日本人を思わせる。
「俺は、イノッツィーオ=ヴァンダーニャ国……通称"始まりの国"の国王、ハジメだ。ミヤコ、よろしく」
ハジメはニカッと笑い、右手を差し出してきた。
「よ、よろしくお願いします!」
ミヤコは差し出された手を握った。
⭐️お読みいただきありがとうございます!次回更新はR8.9.26の20時です!是非お楽しみに⭐️




