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「あの城壁で囲まれている国が、我々の国。通称"始まりの国"と言われている。イノッツィーオ=ヴァンダーニャ国だ」
草原を爽やかな風が駆け抜ける。日がもう傾き始めていた。
タスクに支えられながら、ミヤコは有翼のユニコーン、白幻に乗っている。
乗り慣れている様で、タスクはぽつりぽつりと国の事を話してくれた。
タスクは国王補佐兼国王直属の騎士団の団長を務めているらしい。そして今共にいる十名はその中でも選抜されたメンバーである。今二人が乗っている有翼のユニコーンはこの白幻だけで、希少な個体らしい。他の者が乗っているのは普通のユニコーンである。
「ここは異世界だと話したが、だいたいの者がこの国にまずやってくる。私と、そして国王もそうだった。ここに来る以前の事は思い出さなくなっていたが、久し振りに"日本"という言葉を聞いたよ」
「タスクさんって、日本人だったんですか!?」
「あっははは!この見た目だと日本人ではないよね。国王も日本人だったよ。私と共にここに来たからね。今は他の者達がいるし、この後国王にも会わせるから、その時にでも話そう。舌を噛まれては困りますからね」
——始まりの国。イノッツィーオ=ヴァンダーニャ国。立派な城壁が国をぐるりと囲んでおり、旗が掲げられた門をくぐる。
「お帰りなさいませ!」
門番と思われる男性の声が響いた。
「おう、お勤めご苦労様」
タスクが片手を上げて声を掛けている。
門から続くメインストリートは広く、沢山の人々が行き交っていた。
「あっ!騎士団が帰って来たー!」
「タスク様ー!お帰りー!」
石畳みの道を歩いていると、あちらこちらから声が掛けられる。どうやら随分人気があるらしい。
中央に聳え立つ城は、まるで崖の上に建っているかのように高い場所にあった。城に近付くにつれて傾斜が急になってくる。
メインストリートを外れると、路地裏へ続く道はどこも細く、建物が密集しているように見えた。
——ドゴオォォンッ!
路地裏の方から、何かが破壊された音が響き渡った。
「そんなに文句を言うなら、報酬は払えないよ!!」
「だーかーらー!最初から銀貨五枚って書いてあったじゃないか!!だからこれを引き受けたんだろ!」
「こっちには銅貨五枚って書かれているんだよ!」
「ミヤコさん、悪いが少し寄り道をします」
「は、はい……」
白幻から二人は降り、路地裏の出入口で他の騎士達に任せた。
路地裏を少し行くと、一人の男性が壊れたドアの横に座り込んでいた。
「おい君、大丈夫か?何があった?」
男性はふと顔を上げると、目をまん丸に見開いた。
「タ、タスク様!?」
「ああ、そうだ。先程言い合いになっていたようだが。しかもドアが壊れている」
「……俺はこの銀貨五枚の討伐を引き受けました。でも、それがなぜか銅貨五枚の討伐だと……受付の控えの紙にそう書かれていて……」
「あー……なるほど。その契約書を借りても良いか?」
「は、はい」
「ふむ、銀貨五枚と書かれている。それで、ノルマの爪は?」
「こちらです……」
男が背負っていた袋から取り出した物は、指の長さ程ある何らかの爪が十枚あった。ミヤコはその鋭い爪にギョッとした。
「まぁ、確かにこれで銅貨五枚は無いだろうが」
タスクはそう言うと、銀貨五枚を男性に渡し、契約書と爪が入った袋を手に店の中へ入って行った。
「えっ、ちょ、タスク様!これはいただけません!」
男性の声を背に、タスクは店内に入った。ミヤコもそれに続く。
店内には、客と思しき者達が十名程飲食をしていた。
「おや!タスク様じゃないか!そちらのお嬢さんは……こんな所に何か?」
肝っ玉母さんのような、貫禄のある女性が二人を出迎えた。
「やあローズ、久し振りだね。相変わらずお元気そうで。ちょっとこの契約書の事で聞きたくてね」
タスクはローズに、その契約書を広げて見せた。
「これはさっきの坊ちゃんの契約書だね!」
ローズは出入口をちらりと見た。先程の男が様子を伺っている。
「ローズ様、こちらの契約書です……」
受付嬢が引き出しから出した契約書の原本には、銅貨五枚と書かれていた。
「私はこちらの複製を、確かにお渡ししました」
受付嬢は、私のせいではありませんと言いたげな、どこか浮かない顔をしている。
「こちらの原本は、見ての通り銅貨五枚なんでね!」
ローズが"銅"の文字を指差して示した。
「確かにそうだが、アーケルラビットの爪十枚は、銀貨五枚が妥当だろう?」
ミヤコはその二枚の契約書を覗き込んでいた。
「たまにこういう不思議な事があるとは言え、妥当な金額を払うのも筋ってものだと思うが。ローズにはそういうセンスがあると思っていたのだがなぁ……」
「ぐ……ぅ……」
タスクの覗き込む瞳にローズは何も言えずにいた。反論するどころか、寧ろ少し褒められてさえいる。
「あの、少しよろしいでしょうか……」
ミヤコはおずおずと声を掛けた。
「ミヤコさん、どうかしましたか?」
二枚の契約書を見比べ、重ねて透かしたりしてみる。確かに、書き直されたような痕跡は見当たらない。
「先程、このような事はたまにあると仰っていましたが……」
「何故かはわかりませんがあるんですよ。その度に喧嘩になるのはどこも一緒なんです」
「そんな……」
だからと言って、苦労が水の泡になってしまってはあまりにも不憫だ。
「あの、提案があります」
ミヤコのその一言が、店中の視線を集めた。
「契約書を三枚にして、原本は国で保管するのはいかがでしょうか」




