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——パカッ、パカッ、パカッ……
身体がリズミカルに左右に振れる。それなのに背中側が安定している。周囲のざわめきが少しずつ耳に届いてきた。
「う……ん……?」
目を開くと真っ白な鬣と一本の角、そして自分の両側には美しく大きな翼が見えた。
——角?翼!?
「ええっ!?」
のけ反った瞬間に、ゴチンと金属のような物に頭をぶつけた。
「あ、起きましたか?舌を噛むといけないので、喋らないでくださいね」
頭上から声が聞こえてきた。一束の長い金髪が視界の端でゆらゆらと動いている。右手側から後ろの人物の腕が伸び、手綱を握っていた。お腹の辺りがぎゅ、ときつくなる。恐る恐る確認すると、左腕で支えられていた。
——お腹周り!恥ずかしすぎるー!!
身体をもぞ、と動かして気恥ずかしさをごまかした。
「もう少ししたら森を抜け、池に着きます。そこで休憩を入れるので、必要な話をしましょう」
鬱蒼とした森を抜けると、だだっ広い草原が拡がっていた。少し先に崖の上から見たであろう城壁がある。
「手を」
先に馬?から降りたその人物が手を差し伸べてきた。
「あ、ありがとうございます……」
森の中で助けてくれた金髪碧眼のヨーロッパ風の鎧を着た日本人男性?の手を取り、地面にすとん、と降りる。
「怪我はありませんか?道中お身体を痛めていませんか?」
身体を動かしたり見たりするが、怪我や痛みは無い。
「たぶん、特には……」
「そうですか、もし何か気が付きましたら仰ってください。申し遅れましたが、私は国王補佐のタスクと申します。どうぞお見知り置きください」
「わ、私は……ミヤコと申します。タスクさん、よろしくお願いします」
ミヤコは妙な感覚を覚えた。もう少し長い名前だった気がする。
「ミヤコさんですね。混乱しているかと思うので、順にご説明させてください。先に、ミヤコさんが持っていた荷物はこれだけですか?」
タスクはそう言うと、担いでいた荷物の中からノートパソコンを取り出した。
「あっ!私のノーパソ!」
そうだ、唯一私の手元に残っていた、大事な大事なノートパソコン。謎の獣に襲われそうになった時には盾にしたが、心の底から大事なのである。それをぎゅっと抱きしめた。
「タスクさん、ありがとうございます!」
「いいえ、とんでもない」
タスクは真っ白な馬?をポン、と叩いた。
「こいつは、有翼のユニコーン、白幻です。さ、水を飲んで休んでおいで」
白幻はタスクのその言葉を理解しているのか、他のユニコーン達の群れている池に向かって行った。その周辺には他にも鎧を身に付けている者が複数いる。
「ユニコーン!?現実にいるんですか!?というか、この状況が全くわからなくて……私、実家に向かう途中だったんです。ここ、どこですか?」
「そうでしたか」
ふむ、とタスクはハンカチを草の上に広げた。
「脚を伸ばして身体を休めながら、聞いてくれますか」
地面に腰を下ろした二人は、脚を伸ばし水を飲んでいた。ミヤコはタスクが敷いてくれたハンカチの上に座っている。
「きっと驚くだろうが、ここは……異世界なのです」
タスクはミヤコの様子を伺いながら"異世界"という言葉を口にした。
「えっ!?い、いっ!?異世界!?日本でも、ヨーロッパでもなくそもそも地球ではない異世界!?」
「そうですね……ミヤコさんが知っている世界ではないです。私も元はそうでしたが……。ここに来る前、何がありましたか?」
その言葉に、ミヤコは色々と思い出していた。浪人して念願の大学の法学部に入学し、初めての夏休みを迎えた。田舎の実家にバスで向かう途中、何らかの原因でバスが崖へと落ちた。その時ノートパソコンで課題を進めていたが慌てて閉じ、抱えたまま意識を失って気が付いたらこの世界にいた。
「もう、何が何やらといった感じでした」
「我々がミヤコさんを見つけるのがもっと早ければ、怖い思いをさせずに済んだのですが。遅くなりました」
水をゴクリと飲んだタスクが再び口を開く。
「国で信頼できる占い師が、未来の行方に関わる者が森に現れると予言をしたので、探し回っていたのですよ。そうしたらミヤコさんがいたので保護をした、といったところです」
タスクがミヤコの目を真っ直ぐ見つめた。
「勝手にここまで連れて来て今更聞くのもおかしな話ですが、我々の国に来てくれますか?」
碧眼の瞳に映し出されたミヤコの顔は、自身でも見た事の無いとぼけた顔をしていた。
他に行く当ても無ければ、帰る方法、生き延びる方法すらわからない。おまけに必要とされているかもしれないとなれば、断る理由の方が見当たらないと来た。
「はい、よろしくお願いします」
——未来の行方に関わる者。その意味を知る者は、まだ誰もいなかった。




