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プロローグ


 鬱蒼とした森の中に、木々の隙間から光の筋が差していた。

 鳥の鳴き声が天高く響き渡り、辺りは生物が息を潜めているような緊張感がある。今にも野生動物に鉢合わせしそうな空気が漂っていた。


 「ここは……一体どこなんだろう」

 どこからか獣の遠吠えらしき雄叫びが聞こえてきた。

 ——この森の中で、遭難どころか命を落としかねない。

 生きている間に、まさかこんな不安を抱くとは思ってもみなかった。

 「あぁもう、何でこんな事にっ……」

 半泣きになりながら、なるべく音を立てずに明るい方を目指す。不幸中の幸いか、デニムとスニーカーという服装がとても役に立っている。


 ノートパソコンを抱える腕に、自然と力が入った。外部の連絡と夏休みの課題は、これの有無にかかっている。バッテリーはまだあるがネットはまるで繋がらない。無駄にしないよう電源は切った。他にも手荷物はあったが、目が覚めたら他の手荷物なんか無かった。一番高価な物が無傷で手元にある事だけが、今の精神的な支えである。


 「はぁ、はぁ……」

 どのくらい神経を張り詰めながら、森の中を歩いただろうか。日がまだ沈んでいない事が、少し気持ちを落ち着かせた。傾斜だと思われる所は下へ行き、ひたすら明るい方へと歩みを進めている。


 「もうだめかもしれない……」

 ノートパソコンを開き、電源を入れる。まだネットは繋がらない。送れないと分かっているが、登録している父母宛にメールを入力し送信してみる。

 「ぜんっぜん送れないぃ……」

 勿論、現在位置も把握ができなかった。

 電源を切って、思わずバチン!と閉じた。ノートパソコンに八つ当たりしても意味が無いのにと少し項垂れる。


 「お父さん、お母さん、今日帰れないかも……」 

 溢れる涙を拭い顔を上げると、少し先に明るく開けた場所が見えた。

 「もしかして……森から出られる!?」

 思わず走ってその場へ向かったが、その先は断崖絶壁だった。


 「ひっ……」

 下から巻き上げる風が、長い黒髪を乱雑に弄ぶ。しかし、崖の高さに驚いている場合ではなかった。眼下に拡がるその光景に目を見張る。

 「日本に……こんな所があるの?」

 視線の先にはまるで城壁のような、石造りの壁で囲まれた街と思しきものが築かれていた。中の建物も石造りのものが多く見られる。極めつけは、中心に聳え立つ大きな建物がヨーロッパの城の様であった。まるで象徴のごとく、尖頭が天高く伸びている。


 「グオオォォッッ!!」 

 はっと息を呑み振り返った時にはもう遅かった。熊にツノが生えたような、見たこともないが明らかに凶暴な動物が、口を大きく開けてこちらをギロリと睨み付けている。

 「ひぃっ」

 その動物は再び「グオオォォッッ!!」と雄叫びを上げると、こちら目掛けて全力疾走して向かってきた。

 立ち上がるにしても、腰が抜けて動けなくなっていた。大事に抱えていたが、自分より硬いノートパソコンを盾にする事しかできない。

 ——私、終わったかも……お父さん、お母さん、ごめんね……


 ——ガキイィィン!!

 ドオォォォン……


 硬い物がぶつかった音、そして大きな振動があった。

 ——あれ?何か起きた?

 ノートパソコンを目下まで下ろして前方を見ると、鎧らしき物を身に付けた人が立っていた。右手には、人間の力では到底振れないであろう、幅と厚みがある大きな剣を持っている。


 その人物がくるりと振り返った。

 一つに束ねた長い金髪がふわりと揺れる。目が合った。碧眼の男性のようである。

 ——私、実家に帰る途中だったのに、ヨーロッパに来た?

 混乱し切った頭では、状況を全く呑み込めない。

 男性が近寄って来てしゃがみ込み、右肩に手を当てて少し揺すってきた。

 「おい、大丈夫か?」

 ——日本語喋ったーっ……

 そう思ったのを最後に、意識が遠のいて行った……

⭐️お読みいただきありがとうございます!次回更新はR8.8.15の20時です!是非お楽しみに⭐️

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