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泥にまみれた背中

熊の角がユーマを貫く――そう確信した瞬間、横から放たれた泥臭い衝撃がユーマを突き飛ばした。


「……ッ!? カイル!」


地面を転がったユーマが目を開けると、そこには熊の突進を正面から受け止め、肩を角で深く抉られたカイルの姿があった。


「ガハッ……! クソ、重てえんだよ……この、バケモノが……!」


カイルは大量の血を流しながらも、震える足で熊を押し返そうとしていた。

木に激突した衝撃で意識が朦朧としているはずなのに、彼は手斧を握り直し、ユーマの前に立ちはだかる。


「カイル、逃げて! 君じゃ死ぬ!」


「うるせえ……っ! 逃げるわけねえだろ! ……俺は、村で一番の力自慢なんだよ……っ!」


カイルの声は震えていた。だが、その背中は今まで誰よりも大きく見えた。


「テメエみたいに……不器味なほど努力してる奴が、こんなとこで死ぬんじゃねえ! ……俺が見てきた中じゃ……テメエが一番、『報われなきゃいけねえ』奴なんだよ!!」


その言葉が、ユーマの心に深く突き刺さる。

元の世界で、誰からも言われなかった言葉。

「頑張っているお前は、報われるべきだ」という肯定。


(報われるべきなのは……僕じゃない。必死で僕を守ろうとしている、このバカな相棒だ……!)


ユーマの視界が、熱い涙と青い閃光で塗り潰される。

今まで自分のステータスを上げるためだけに「内側」に向けていた魔眼が、激しい感情とともに「外側」のカイルへと溢れ出した。


【致命的なエラーを検知――論理回路をバイパスします】

【固有スキル:努力の魔眼、限定解除】

【新機能:共鳴シンクロ――強制接続】


「……カイル!!」


ユーマの黒い瞳が、銀河のような青い光を放ち、カイルの背中に吸い込まれていく。


カイルの体に、血管のような光の筋が走り、抉られた肩の傷が無理やり魔力で固定される。


「なんだ……!? 力が……溢れてきやがる……!」


カイルのステータスが、ユーマの魔力と「知力」によって一時的にオーバークロックされる。

カイルが努力してきた「筋力」を、ユーマの「知力」が最適に制御し、100%以上の出力を引き出す。


「カイル、右に跳んで! そのまま顎の下に斧を叩き込んで!」


「おう、見えてるぜ……! 全部分かる……ッ!!」


魔眼の予測線が、ユーマだけでなくカイルの視界にも共有される。

二人の呼吸が重なり、一つの生命体のように連動した。


熊の咆哮が、今度は恐怖の悲鳴へと変わる。

ユーマの知力による「最適解」と、カイルの魂による「全力」が、今、死神ベアの喉元に届こうとしていた。

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