黒瞳の努力
ユーマはベッドからゆっくりと体を起こした。
まだ少し頭がふらつくが、痛みはほとんどない。エレナおばあちゃんの薬草が効いているのだろう。
「おばあちゃん……ここで、少しの間、お世話になってもいいですか?」
エレナは目を細めて優しく微笑んだ。
「もちろんさ。森で倒れていた子を放っておけるわけないよ。
ただ、うちは貧乏だから、贅沢はできないけどね。」
「それで十分です。……僕、働きます。力仕事でも家事でも、何でもしますから。」
ユーマは即座に答えた。
元の世界では「頑張っても報われない」と諦めていたが、ここでは違う。
努力の魔眼がある。試してみなければ始まらない。
エレナは少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「ふふ、しっかりした子だね。じゃあ、まずは体を慣らしてからにしようか。
今日は軽く村の周りを案内するよ。ルミナ村は小さいけど、いい人たちばかりさ。」
その日の午後、ユーマはエレナとともに村を歩いた。
ルミナ村は深い森に囲まれた小さな集落で、人口は五十人ほど。
家々は木と石でできていて、屋根には不思議な光る苔が張っており、夜になると淡く輝くらしい。
村人たちはユーマの黒髪と黒い瞳を見て最初は驚いていたが、エレナが「森で助けた子だよ」と説明すると、すぐに温かく迎えてくれた。
「珍しい髪色だねえ。でも可愛いじゃないか。」
「体が弱そうだけど、元気になったら手伝ってくれよ。」
ユーマは一人一人に丁寧に挨拶しながら、心の中でステータスを確認した。
(まだLV1……当然か。まずは基礎からだ。)
夕方、エレナの家に戻ると、ユーマは早速行動を始めた。
「エレナおばあちゃん、今日から僕が薪割りや水汲みをします。
それと、薬草の仕分けとかも手伝いたいです。」
エレナは慌てて止めた。
「まだ体が本調子じゃないんだから、無理しちゃダメだよ。」
「大丈夫です。少しずつやりますから。」
ユーマは笑顔で言いながら、心の中で「努力の魔眼」を発動させた。
対象は――自分自身。
瞬間、視界の端に小さな青い文字が浮かぶ。
【努力の魔眼 LV1 発動中】
【あなたの努力効率が約3倍に増幅されています】
ユーマは小さな薪割り斧を握り、庭に出た。
最初はぎこちなかったが、10回、20回と斧を振り下ろすたびに、体が少しずつ慣れていくのが分かった。
汗が滴る。息が上がる。
でも、通常ならすぐに疲れて投げ出したくなるはずの作業が、なぜか苦にならない。
(これが……努力の魔眼か。)
30分後、ユーマは薪を綺麗に積み終えていた。
普通の12歳ならここまでできない量だ。腕が少し筋肉痛になったが、達成感が胸に広がった。
エレナが驚いて近づいてくる。
「まあ……こんなにたくさん? 本当に大丈夫だったの?」
「はい。おばあちゃんの薬のおかげです。」
ユーマは内心で微笑んだ。
魔眼の効果は「努力の成果を増幅」する。
同じ時間、同じ労力で、通常の3倍近い成果が出ている。
その夜、ユーマはエレナの家の小さな明かりの下で、村の地図を借りて覚え始めた。
次は村の周囲の森の危険な場所や、食べられる野草、簡単な薬草の名前を覚える。
(知力が高いのは元の世界からか……ここでも活かせそうだ。)
翌朝から本格的に動き出した。
朝は薪割り・水汲み。
午前中はエレナの薬草採取に同行し、帰ってから仕分けと乾燥作業。
午後は村の畑を手伝い、夕方は簡単な読み書き(この世界の文字)をエレナに教えてもらう。
毎日、少しずつ「努力の魔眼」を自分にかけたまま作業を続けた。
3日目には、薪割りの効率がさらに上がり、村の人たちから「悠真君(ユーマの村での呼び名)は働き者だね」と声をかけられるようになった。
1週間後。
ユーマは自分のステータスを再確認した。
名前:ユーマ
種族:人間
ジョブ:なし
LV:1 → LV:2(微増)
HP:8 → 10
力:2 → 3
敏捷:4 → 4
体力:3 → 4
知力:24
魔力:1
運:5
パッシブスキル:なし
固有スキル:努力の魔眼 LV1 (成長の兆しあり)
わずかだが、確かにステータスが上がっていた。
特に力と体力が少しずつ伸びている。
ユーマは静かに拳を握った。
(努力が……ちゃんと数字になってる。
元の世界じゃ、どれだけ頑張っても何も変わらなかったのに。)
エレナおばあちゃんが夕食のスープを運んできて、優しく言った。
「最近、悠真君は本当に頑張ってるね。
無理はしないで、ゆっくりでいいんだよ。」
「ありがとうございます。でも、僕はもっと強くなりたいんです。
おばあちゃんに恩返しできるくらい……この村を守れるくらい。」
エレナは少し目を潤ませて、ユーマの黒髪を優しく撫でた。
「いい子だね……。でも、強くなるのも大事だけど、笑顔でいるのも忘れちゃダメだよ。」
ユーマは頷きながら、心の中で誓った。
まずはこの村で、基礎体力を固める。
次は簡単な狩りや薬草の知識を深め、ジョブを得るための準備をする。
努力の魔眼を上手に使いながら、確実に成長していく。
いつか、このスキルがもっと強くなった時――
努力しなくても楽に生きているような人たちに、
「努力すれば、こうなるんだ」と見せてあげられるかもしれない。
ルミナ村の静かな夜に、ユーマの黒い瞳は穏やかで、しかし確かな光を宿していた。




