静寂を裂く咆哮、泥中の開花
「……カイル、風の音が変わった。来るぞ」
フェルゼンへと続く街道の難所、切り立った岩壁に挟まれた「断頭回廊」。
数日間の「停滞」により、二人の間には重苦しい空気が流れていたが、その静寂を裂くような、地響きを伴う咆哮が響き渡った。
現れたのは、街道の影に潜む捕食者、「岩殻大百足」。
通常の魔物よりも遥かに硬い外殻を持ち、並の攻撃では弾き返される、今の二人にとっては格上の相手だ。
「……チッ、あんなデカ物、どうやって斬れってんだよ!」
カイルが戦斧を構えるが、連日の特訓による筋肉の疲労で、その動きには微かな「ズレ」が生じている。
ユーマの「知力28」が、瞬時に百足の関節、外殻の厚み、移動速度を演算する。
(解析完了……弱点は第三節の繋ぎ目。だが、今のカイルの速度では、外殻に弾かれる確率が82%……!)
「カイル、僕の『共鳴』に合わせようとするな! 君が一番振りやすいように、全力で斧を叩き込め! 補正(計算)は、僕の側で合わせる!」
ユーマは、特訓で培った「魔力の糸」をカイルに繋ぐのではなく、直接「百足の足」へと放った。
昨日までは「カイルを正解に導く」ことにこだわっていたが、今は「カイルの不完全な動き」を前提に、周囲の環境をねじ曲げる戦術に切り替えたのだ。
「――『魔力の糸』、固定!」
百足がカイルへ飛びかかろうとした瞬間、ユーマの糸がその数本の足を地面に縫い止める。
不自然に体勢を崩した魔物。そこへ、カイルが「理屈」を捨てた、野生剥き出しの咆哮とともに突っ込む。
「うおおおおおおおッ!!」
カイルの戦斧が、岩のような殻に激突した。
本来なら弾かれていたはずの一撃。しかし、ユーマが「衝撃」をカイルの斧の背に同時に叩き込むことで、強引に威力を上乗せし、殻を粉砕した。
「……いま、だっ!」
カイルは意識して練習していた型ではなく、極限状態の中で「最も効率よく力が伝わる形」を身体が勝手に選び取っていた。
バキリ、と嫌な音がして、大百足の巨躯が地面に沈む。
返り血を浴び、肩で息をする二人。
ステータスの数字はまだ動いていない。だが、ユーマは確信していた。
「教えられた正解」をなぞるのではなく、「自分たちの泥臭い正解」を掴みかけた瞬間だった。




