結び直したその先に
「だから嫌だったんだ、神様に会うのは」
不機嫌そうに顔を歪め、アヒルのように口を尖らせた銀が、全身で怒りを表すように尻尾を地面に何度も叩きつけている。
「帰るためには必要なことだったからしょうがないだろ」
「それでも! 篤志が危険な目に遭うのが俺は許せないの!」
わかってないな、というように銀は篤志から顔を背ける。篤志は神様とは毛色の違う子供を相手にしているような気分になった。
「……また、お前が消えたら俺は――」
痛みに耐えるように一瞬歪められた表情に、篤志は小さく息を呑む。
「なぁ、銀」
「……なんだよ」
怒っているのに篤志の呼びかけには律儀に答えてくれる。その甘さがなんだかくすぐったく感じて、篤志は口元を押さえながら肩を揺らす。
「お前は、俺のこと知ってるんだよな。俺が忘れてしまったことも、手放してしまったことも、全部」
篤志の言葉に銀の肩がびくりと跳ねると、彼は大きく目を見開いた。そして、ゆっくりと篤志の方を向くと、なんでそれを、と視線で訴えかける。
「縁花神が少しだけ俺に教えてくれた」
光のカーテンの向こうで見た景色。それを見た瞬間、理解してしまった。
「――俺もかつては神様だったって」
「……ちがっ! いや、違わないけど…………でも、そうじゃっ!」
いつもの余裕のある様子とは打って変わって、目に見えて狼狽える彼がおかしくて、愛おしく思えたのは前世の影響だろうか。
「なんで妖のお前が俺と一緒に人間の生活を送ってたのかとか、どうしてそこまでし俺を守ろうとするのかとか。聞きたいことは山ほどあるけど……」
篤志は顔を青ざめさせ、固まる銀の冷たい手を握る。そして、温もりを分け与えるようにや優しく包み込むと、目元を和らげ、優しく口元をほころばせた。
「ありがとう、俺との縁を繋いでいてくれて」
「……っ!」
銀は大きく息を呑み込むと、わなわなと唇を振るわせる。何かを言おうとして口を開くが、最後までそれが言葉になることはなかった。それでも、握られた銀の手は決して離れようとしない。
分け合った温もりが、今の二人の縁を表しているようで篤志は肩の力を抜いて笑い出す。
「改めて、よろしく、銀」
震える唇を強く引き結ぶと、銀は諦めたように、けれどどこか優しく微笑む。
人間の篤志と妖の銀との間に、縁が結び直された瞬間だった。
篤志はその繋がりを心の奥で感じ取りながら、これからどうしようかと考え始める。その時、くいっとズボンを引っ張られる感覚がした。
「ねぇ、お兄ちゃん――私のお家はどこにあるの?」
まろやかな幼子の声が聞こえてきて、篤志と銀は声のする方に顔を向ける。
そこには赤い着物を着た、小さな子供が立っていた。
五歳くらいの背丈に、丸い頬と艶々とした黒髪。切り揃えられた前髪の下からぱちぱちと大きな金色の瞳が篤志のことを見上げている。その瞳は深く、ずっと見ていると吸い込まれて何かに呑まれるようだった。
その足元には、影がなかった。
提灯の灯りが揺れているのに、その足元だけは何も映さない。
「ねぇ、私と遊ぼーよ」
ニコリと笑うその顔は愛らしいのに、笑みが消えても口角は下がらない。その奇妙な様子に篤志は背筋が冷えていくのを感じる。
小さな子供は呆然とする二人を見上げ、その手を握ると力強く引っ張った。子供とは思えないほど強く、氷のように冷たい手だった。




