勇者業・3-3
「……四天王~?」
思わずうっかり阿呆な感じに間延びさせてしまった。訝るというよりもちょっと小馬鹿にした響きを出してしまったが、まあ仕方あるまい。
「なんだそのダサい呼び名は」
「え。ダサいって……。ルウさん、もしかして知らないのか? 魔族には魔王の側近のほかに、四天王って呼ばれる強いヤツらが存在するんだぜ」
まるで常識を諭すかのようにオーラムは言うが、そんな常識はじめて知ったわ。
――……知っておったか?
――ええ、まあ。人間どもが勝手にそう呼んでいるものたちがいる、という程度でしたが。
思わずベイズに思念で問いかけてしまった。ふーむ。つまり、人間どもが勝手に、人間どもにとって特に強いと判断した魔族に、四天王だなどという呼び名をつけたというわけか。
……ふむ。
「ちなみにだが、それ、ほかはだれがそう呼ばれておるのだ」
「ん? えーっと、四天王だろ? まずはさっき言った、奸計の智勇グリードで」
…………おい。なんかさらにくっついているぞ。
ふたつ名というヤツか? ちょっとこう、当人でもないのにもぞもぞするな。変な笑いが漏れそうだ。
それに、あやつが智勇だと? せっかくだ、ふたつ名をつけたいというのであれば、浅知恵の粗忽ものと脳内変換しておいてやろう。ふ、ぴったりよな。
「あとは双頭の蛇、ヴィアラズア」
「…………双頭の蛇~?」
おっと、阿呆な声第二弾を発してしまった。
「おい、貴様ら、死にたいのか」
「え⁉ なになに、ルウさん、ヴィアラズア知ってるのか? てか、ルウさんにそこまで言わせるって、ヴィアラズアってそんなに強い魔族なのか?」
オーラムよ……思慮の足りない阿呆ものだとは思っておったが、よもやそれほど死にたがりだったとは……。
「ひとつ忠告しておいてやろう。死にたくなくば、当人たちに向かって双頭の蛇だとかヴィアラズアだとか、纏めて呼ぶのはやめておけ。即殺されるぞ」
「へ? え? ヴィアラズアって、ふたりなのか?」
それ以上の情報はやらん。別に知られたところであやつらに敵う人間なんぞそうはおらぬだろうが。グリードなんぞという小物とは違い、あやつらはそれなりに実力のあるものたちゆえな。
――にしても、これ、ヴィアはともかく、ラズアは知らぬのか?
知っておったら、どこぞの人間の領域が焦土と化しておるだろうが。そう思いながらベイズに問う。
――おそらく、知ってはいるでしょう。それでもあのふたりとて魔族ですから。魔王様のご意向を理解し、短慮は起こさぬようこころ掛けているのだと思います。ただ……。
――直接耳にすれば、その相手と周辺くらいは、まっさらにしてしまうだろうな。
――ええ。ヴィアはともかく、ラズアは刹那さえ開けず行動に移すかと。
だよなあ。
ヴィアとラズアは妖蛇の魔族で双子ゆえ、人間が勝手につけたふたつ名もまあ理解できなくはない。だが、あやつらはちょっと面倒な性分でな。お互いに割とちゃんとお互いを尊重しあっておるくせして、似ているだなどと言われることを嫌がるのだ。
似ている、程度でそれならば、同一視なんぞされればどう思うか理解できて余りあろう。まだ理性の働くヴィアならともかく、考えるより行動派のラズアはすぐに手を出すな。簡単に想像できる。
「忠告はしてやった。では次だ」
「えー……知ってるならもっと教えてくれても……」
「知ったところで貴様ら程度にどうこうできる相手ではない。次だと言っておる」
「う……。ルウさん、相変わらず俺様過ぎる……」
俺様? ふむ、魔王様だが。
「文句があるならついてこなくとも構わぬぞ」
「いやいや! ありません! 文句ないです!」
「……ルウさん、絶対有言実行するものね」
慌てて否定したオーラムの隣で、シアラがぼそりとつぶやく。当然よな。
「えーと、で、残りの四天王だっけ? 鉄壁の守護者アスカージルと……」
「なんと! あやつが⁉」
「え、ルウさん、アスカージルも知ってるのか?」
知っているもなにも、あやつはとても重要な任を担う、余にとってとても大事な存在だ。
「あやつは」
「アスカージルはアオナギ共同区域によく顔を出すからな。知名度で言えばダントツだろう」
むう。ベイズがあからさまに遮ってきおった。
――彼に関して余計な情報をくちにしませんよう。
などと、ご丁寧に思念で釘まで刺されてのだが。余計な情報とはなんだ。あやつがどれほど重要な魔族か、ちょっと語ろうとしただけではないか。
アスカージル。もともと割と魔族らしい魔族のあやつは、先々代に喧嘩を売って、結果気に入られて、守備隊のいち部隊長を任せられるに至った男だ。実力はそこそこ。ベイズには遠く及ばぬでも、ヴィアやラズアとならば肩を並べても構わぬだろう。いまは守備隊全体の副隊長にまで上り詰めておる。
が、あやつの真価はそこにはない。あやつを重要視するのは、もっと別の理由からだ。
あやつは、そう。
ツチノコ様捜索隊の総隊長なのだ。
ツチノコ様……。ああ、ツチノコ様。御名だけでなんと甘美なことか。魔王たる余であっても、伝承でしかそのお姿を知ることのない神秘的なその存在。いつか拝謁賜りたく、余はツチノコ様を探すための部隊を創設した。そのもっとも重要な役割である総隊長の任を授けた魔族こそ、アスカージルだ。
ゆえに、あやつは余にとってとても重要な魔族と言える。
ツチノコ様は余のロマン。志をともにする魔族も多く、ふだん涼しい顔をしておるベイズとて、その魅力に取りつかれたひとりなのだ。
――魔王様。ツチノコ様に思考を囚われすぎです。戻ってきてください。
む。いやまだツチノコ様の魅力については語りはじめてもおらぬぞ。
しかし、それを語り出すと幾日もかかることは幾度も実証しておる。ここは深く思考を沈める前に、意識を切り離すのがよかろう。
名残惜しいが。…………名残惜しいが。
「ルウさん? 大丈夫か? なんか意識がどこか飛んでたような」
「うむ。気にするな。して、残りのひとりはだれだ」
「ああ、うん。あとは堕ちた聖者って呼ばれてるんだけど、なまえはちょっと……」
「わからぬのか?」
「うーん、わからないっていうより、なんかいろいろ伝わってるみたいでさ。シュウとかセツヤとか」
セツヤ……。なるほど、あやつが最後のひとりか。
まあうむ、全盛期のあやつなら、おそらくベイズにとて劣らぬ実力を持っておっただろうが、いまはもうそのへんの人間と同等程度の力しかあるまい。それでも生き残っておるだけ奇跡のようなものだが。
セツヤというのは先々代の関係者で……ちょっと面倒で複雑な関係者ゆえ、どういう関係者かはどうでもよいとして、とにかく先代魔王を殺した魔族のひとりである。フェイアが余を監視して、その動向を報告している相手というのが、そのセツヤなる魔族なのだ。
それにしても、堕ちた聖者か。なかなかに言い得て妙よ。
なにせセツヤは、元人間の勇者から魔族に堕ちた存在。詳細はもっと面倒なのだが、人間からすればそれだけで充分な情報と言えよう。もともと勇者としての評価が高かったゆえ、聖者などと呼ばれておるのだろうな。
昨今の勇者の株の暴落にあやつの件がすこしでも関わっていようものなら、腹いせも兼ねて猛抗議でもするのだが、これは……うん。オレの案件だ。過去にそういった勇者もいたし、と、株上げの障害にくらいはなっておるやもしれぬが、それとて後付けだろう。それであやつを責めるのは、ちょっと責任転嫁甚だしいのではなかろうかという認識はあるので黙っておく。
まあ、うむ。とにかくだ。これで四天王とかいうちょっとアレな名を与えられた魔族がわかったわけだ。
うむ。……うむ。
――……なぜにこの五人なのだろうな。
ヴィアとラズアは分けてカウントし、素朴な疑問をベイズに呈す。
――おそらく、なんらかのかたちで人間と接触があったものたちの中から、それっぽい魔族をチョイスしたのでしょう。
そんな適当な……。
グリード以外なら、まあ概ね理解はできる面子ではあるが。
「ふむ。なるほど。四天王なる存在、理解はした。では仕事に戻るか」
「え⁉ え、なに、ルウさん、マジで聞いてみただけ?」
「ほかになにがある」
「なにって……うーん。まあ、そうか。だれが四天王って呼ばれてるか知らなかったみたいだし、知りたかっただけって言われればそれまでか」
なんかルウさんなら倒せそうとか思ったけど、さすがに無理だよなあと、オーラムがぼそりと付け足したことを、オレは聞き逃さなかった。




