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勇者業・2-2

で。結局料理云々についてどうすべきかということなのだが。



 そうしてやってきた、念願の勇者業二回目。ふ、二回目といえど、もはや慣れたものよ。

 前回と別の町のギルドで依頼を受けようかとも思ったが、まずは足元をしっかりと固めるべきとベイズに進言され、それもそうかと受け入れた。嘆かわしくも、勇者という職の現状があまりにも低迷しすぎているゆえ、その汚名を返上するのは容易ではないのだ。


 というわけで、リアネスト王国再訪。此度の供はフェイアなのだが……。

 なぜか、メルナも一緒に来た。


 オレがまた勇者として町に繰り出すと知ったメルナが自ら志願したらしく、それをフェイアが受け入れたためこうなったのだが、そこにオレの意志の介入はまったくない。なんか、一緒に行きますから、と、もはや確定したかたちで伝えられたのだ。


 魔王って、魔族のトップのはずなのだがな……。


 まあよい。メルナひとり増えた程度どうということもなかろう。オレの邪魔さえしなければ放っておけばよいだけだ。

 そう、放っておけば……。



「……なにゆえ、オレのレベルが一番低いのだ……」



 解せぬ。

 人間に扮し、いざ出発というところで、前回のこともあったしと、とりあえずちょっと各々のステータスを確認してみた。結果。


 オレ、レベル15。メルナ、レベル37。フェイア、レベル40。



 ……………………。



 いやいやいや、おかしいだろ! おかしいよな! これ!



「メルナは前回、偽らずこのステータスのままだったとお聞きしましたわ。今回、レベルを下げて偽るのは不自然ですもの。仕方ないかと」



 おなじ町に向かうのだ、特にそうだろう。それは納得する。

 ではフェイアはというと。



「わたしはふたり……いえ、メルナの保護者的立場ですので、彼女よりもレベルを低く設定するわけには参りませんわ」



 ……ベイズだな。ベイズしかおらぬわ、この要らん入れ知恵。

 前回を彷彿とさせおる。



「であるならば、オレのレベルももっと高く設定しても……」


「あら。ルウ様のレベルはクーベルハイズ様ときちんとご相談なされた結果決められたものと伺いましたわ。クーベルハイズ様がなんのお考えもなしに進言されたとは思えませんもの。深慮あってのものですわ」



 ですからどうぞそのままで。と、ことばやわらかに、けれどにっこりと有無を言わせぬ笑顔でもってしてフェイアが説き伏せてくる。

 む、むう……しかしこのレベル差……さすがにちょっと納得が……。



「大丈夫ですわ、ルウ様。ステータスなど所詮見かけだけのもの。本来のルウ様のご威光が揺らぐことなどかけらたりともあり得ません。そうでしょう?」


「それは……そうだが……」


「ええ、もちろんです」



 にっこり。


 ……く。なぜオレの周りは、笑顔に毒やら気迫やらをこれでもかと含ませるものが多いのだ。ちょっとオレ、笑顔というものの本質がわからなくなりそう。

 いやもうよい。フェイアのいうとおり、見かけだけのものに拘っては、魔王としての威信に関わろう。そんなちいさな器ではないのだ。うん。


 ……これから紛れ込む人間どもこそが、見かけに騙されるのだが、気づかぬふりをしておこう。


 というわけで、オレはオレの倍以上もレベルのあるものどもを率い、ギルドに向かうのだった。


 そうして受け取る、依頼リスト。ふむ、Cランクともなれば、多少依頼内容に幅が出るな。雑用群が圧され、冒険者っぽい依頼が増えておる。いい傾向だ。

 よし、では此度も討伐系依頼を受けるとするか。



「ルウ様、わたしも拝見してもよろしいですか?」


「ん? ああ、構わぬぞ」


「ありがとうございます」



 ぺらりぺらりとフェイアが依頼リストを確認。ざっくり目を通しているだけなのか、はたまた読むのが早いのか……フェイアゆえ、後者だろう。彼女はいろいろと仕事のできる魔族なのだ。なにせ、いまここにベイズに代わっているくらいなのだからな。

 そんな彼女が魔王の側近に至れぬ理由はただひとつ。戦闘能力は低いということにしかない。

 獣人はその種の中で戦闘に向くか向かぬか大きくわかれるからな。彼女に限らず、戦闘に向かぬものも多い種族なのだ。

 リストを軽く流し読みしていたかと思えば、フェイアの手がぴたりと止まる。



「……ルウ様、こちらを受けられるのがよろしいかと思いますわ」


「ん?」



 どれだ、と思い、彼女の手のうちのリストを覗き込めば、そこに書かれた依頼のひとつを示された。ふむ。……護衛依頼、だと……?



「なぜオレが人間の護衛なんぞせねばならん」


「ルウ様、おことばに気をつけましょうね」


「む……いや、うむ。そうだった」



 フェイアも長く生きているからか、それとも先々代と友好関係にあったせいか、時折こども扱いされている気がして仕方がない。

 魔王の威厳というものがだな……いや、いまは人間に扮しておるし、気にしない方向性にしておこう。



「勇者とは弱きを助け、強きを挫くもの。人間の脅威となる魔族を抑えることも確かに大事でしょうが、助けを求める声を聞き届けることもまた大事なのですよ」



 なるほど……。確かに、勇者の株を上げるには、それもまた手であろう。魔王に挑める勇者を求めるのであれば、武勇を轟かせその方面の勇士を募るほうがよい気もするが、そもそもの勇者の株が低すぎる現状、まずは勇者の素晴らしさを多方面からアピールするというのもわからなくはない。

 という納得もしつつ、オレはちゃんとわかっていた。

 フェイアがそれだけの理由でオレに進言してくるわけがないということを。



「で。数ある護衛依頼の中からこれを選ぶという理由はなんだ?」


「……そうですね……。すこし、気になる情報を得ているのです。もしかしたらそれに関わる依頼なのではないかと思いまして」


「気になる情報?」


「ええ、まだ確たるものに至るほどのものではありませんが……」



 そう言い置いてから、フェイアはくちを閉ざす。そして会話を思念によるものに切り替えた。



——どうにも、近々戦争が起きる気配があるようで。


——戦争? ふむ。どこぞの愚かものかは知らぬが、それでも魔族に喧嘩を売る度胸は買ってやろう。


——いいえ、魔王様。その戦争は対魔族ではありませんわ。人間同士のものです。



 はあ? 人間同士? 人間が人間と戦争をはじめようというのか?



——魔王様が温和に魔族を統べてくださるおかげで、人間が魔族を脅威と見なさなくなって久しいですから。現状、人間にとっての敵は魔族よりも人間なのですわ。



 なんという……。なんという愚かものなのだ……、人間。

 余が存外温和で温厚であるがゆえ、魔族をさほど脅威と見なしていないことは理解していた。だが、であるならば人間同士で相争おうと考えるとは、なんたる浅慮。度し難いな。矮小なもの同士で争ってどうするのだ。どうせならその戦力を余に向けろ。



——仕方ありませんわ。戦争を起こす理由に掲げるものは種々あれど、その理由をもってして魔族を襲うにはリスクが大きすぎますもの。藪をつついて魔王様のご不興でも買うくらいならば、実力がまだ拮抗する人間同士で争ったほうがリスクを抑えられると考えるのでしょう。



 うむ、そのたとえ、余自身も以前したが、蛇扱いというのはなあ……。やっぱりちょっとこう、なあ……。ほら、余、蛇に収まる器じゃないし。


 それはともかく。自身の身の程も弁えぬ貪欲な人間どもは、昔から覇権だ領土だと煩わしいことに変わりはない。空さえ碌に見もしない井の中の蛙が、よくもまあ囀るものよと思っておったが、それでも魔族を脅威と怯えておる間は人間同士で諍う暇などなかっただろう。手に手を取って魔族と敵対しておったと聞く。

 どちらが人間にとってよしとなるかはわからぬが、どうあれ争わねば生きられぬことに違いはないのだな。

 まあ、そのあたり、魔族もあまり言えた義理ではないが。でもほら、魔族はそういう種族だし。弱肉強食だし。戦ってなんぼのところあるから。人間みたいに面倒な柵とかそういうので戦いあうわけじゃないし。


 というのはともかく。



——人間同士で諍うというのなら勝手にすればよいのではないか?



 魔族には関係あるまい。そう思っての問いに、フェイアはすこし間を空け、否を返す。



——確かに、戦禍に巻き込まれるような場所付近を棲家としている魔族以外に関りはないかもしれませんし、そういった魔族も、巻き込まれることを憂うのならばほかの地に移住なりすればよいのかもしれません。ですがルゥ様。ルゥ様は現在、なにをなさっておいででしょう。



 指摘を受け、はっとした。そうだ、オレはいま、魔王ではあっても勇者なのだ。勇者として、人間の諍いを止めぬというのは……。



 …………いや、戦争止めるとか。オレにならばできなくはなかろうが、それ、勇者の格を上げすぎてだれも追随できなくなる案件になるのではなかろうか。



 とりあえずそう告げてみる。



——ええ。その可能性は大いにあると思いますわ。ですのでルウ様が勇者として止めるまではなさらなくてもよいかと思います。ただ、それでも今後も勇者として人間に扮するおつもりなら、情報くらい仕入れておくべきですわ。戦争ともなれば、人間の世の情勢も大きく変わるでしょう。勇者としての活動に影響がないとは思えませんわ。



 む。それはそうか。



——なるほど。フェイアの言いぶんは理解した。ではこの依頼はその戦争絡みということなのだな?


——確実に、とは言えませんが、可能性は高いかと思われます。



「ふむ。ではこの依頼を受けるとしよう」



 なにをもってしてフェイアがそう判断したか、詳細はわからぬ。だが、彼女は先々代の時代から一目置かれる情報収集能力を有していた。まあ、わからぬのはその手段のことなのだが、それは常に笑顔ではぐらかされるため、謎のままとなっている。

 ともあれ、その信頼性は先々代のころから折り紙つきゆえ、疑う必要などない。フェイア本人も信用の置ける魔族だからな。わざわざ子細聞き出さずとも構わぬのだ。



「はい、ではユグクラム王都までの護衛で登録させていただきます。依頼人はシーラ亭にてお待ちです。そちらに向かい、この紹介状を提示してください」



 今日の受付は前回のふたりのどちらでもない……と思う。人間の顔なんぞいちいち覚えぬから確実とは言えぬが、対応の様子からしておそらく間違いあるまい。

 このくらいスムーズに職務を全うできるものこそを基準とせよ、と思いもしたが、さすがにベイズの殺気を受けて平然としていろと人間に強いるのは酷かとも思った。

 というより。



「シーラ亭とはどこだ」


「町の南にある宿屋です。少々お待ちください」



 受付のものはそう言い置くと、なにやら近くから一枚の紙を取り出し、それに赤いペンで丸をつける。



「こちらがシーラ亭となります」


「ふむ。大儀である」



 なるほど、町の地図があるのか。オレもそうだが、この町以外からやってくる冒険者も多かろうからな。町の内部をあまり把握しきっておらぬものも多くいるのだろう。

 納得しひとつ頷くと、隣でなぜかフェイアが溜息をついた。

 なんだ、急に。



「ごめんなさいね、ちょっと尊大なひとなの。気にしないで」



 は?

 急になにを言い出したのかとフェイアを見れば、彼女はオレではなく受付の人間へ微笑を向けていた。受付の人間はそれにさっと笑顔を取り繕い、いえ、と返す。

 オレは見逃さなかった。受付の人間が、笑顔を浮かべるその直前、なにやら呆けた顔をしていたのを。



「……なんだというのだ」


「それはあとで。とにかく、シーラ亭に向かいましょう」



 意味がわからん。

 が、有無を言わせぬ様子で促してくるフェイアにあえて否とする理由となるほどでもないため、オレたちはギルドをあとにするのだった。





まあよいか、そんなもの。勇者業を営むための実力を左右するほどのものでもないしな。


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