勇者業・1-12
ふーむ。余についてというのもなかなかどうして。難儀なものなのだな。
「ぎ、ぎ……ユウシャ。ユウシャ。マオウサマ、テキ」
「うむ。その勇者だ」
招かれたゴブリンどものムラで、オレたちは存外歓迎された。オレはともかく、ほかのものは、瘴気を消す場に立ちあわせたあのゴブリンの説得あってのものだが、どうあれ友好的に接されていることには変わりない。
ゴブリンどものムラは簡素そのもの。雨風を凌げればいい、というほどにも成り立っていない、吹けば飛ぶようなつくりの、木を組み立ててみただけといった様相のものに木の葉などをかぶせただけのものが住居とされ、当然ながら家具などは一切ない。人間どもを襲ったときの荷物にでも入っていたのだろう、布などが布団代わりにもされているが、それとて全員ぶんには行き届いていないようだ。
それでも、下級の魔族がこうして家もどきをつくったことには驚く。それだけの知能を有しているという表れだからな。人間のことばを解すことといい、ここのゴブリンどもはゴブリンにしては知恵があるのではなかろうか。
ふむ。此度の件の評価に際し、ドワーフでも派遣してやるか。多少しっかりした家を建て、ついでに若干防備を上げてやるくらいしても文句は出まい。もちろん、ベイズからだ。
オレたちは瘴気のもとまでともに来たゴブリンの家もどきに招かれ、ユフォルはハーピーの子とともに、その治療に専念できるよう別の家もどきを与えられていた。ここにはオレたちのほか、家主のゴブリンと、ユフォルらの家もどきの家主のゴブリン、それとオレたちに興味を抱くゴブリンどもの中からここに入れる程度のものが集まっている。
オレはそんなゴブリンどもへと、オレが勇者であることを強くアピールしていた。
勇者としての株は、人間にその功績を広めて上げるだけではなく、魔族に威光を示し、脅威となるものであるという認識を与えることでもまた上げられるのだと踏んだのだ。
つまり。魔族が勇者を恐れる、イコール、勇者恰好いいが成り立ち、みながこぞって我こそもと続くことを狙っているということ。
ふ、我ながらなかなかに賢しいことよな。
オレが勇者だと知り、ゴブリンどもに動揺が広がる。しかしながら敵意を向けられることはなかった。
「ユウシャ、マオウサマ、テキ。デモ、ミンナ、タスケタ。ユウシャ、ココ、テキデナイ。ユウシャ、ツヨイ」
「うむうむ。敵かどうかは重要視せぬ。勇者は強いものだとだけは認識せよ」
「ユウシャ、ツヨイ」
「ツヨイ」
「ツヨイ」
口々に勇者が強いと喝采するゴブリンどもに、オレはひたすら満足する。オレの勇者活動もなかなかよい進み具合よ。
「うんうん、確かにルウさん強いよなー。ギルドで会ったとき、勇者だなんて言い出すから心配したけど、マジで強いし」
「ホント。レベル2だなんて全然信じられないわ。……もしかして勇者ってそういうものなの?」
ゴブリンどもだけでなく、人間どものほうもオレを褒め称える。おお、これは本格的に順調というヤツではないか?
内心で鼻高々に意気揚々としつつも、努めて冷静を装う。そうであったほうが勇者として恰好よいのではないかと思っての態度だ。勇者の株を上げるためであれば、多少なりとも印象操作にも気を配らねばな。
で、なんだったか。…………そうそう、弓使いの人間からの質問だな。
「勇者がみなそうというわけではなかっただろうが、勇者が強きものの代名詞であったことは事実だ」
勇者とはみなそういうものだ、とこたえてしまうのは容易い。そのほうが手っ取り早く勇者への畏敬をさらに深めることもできるだろう。
しかし、そうしてしまうことは間違いなく次の勇者の台頭への枷となる。ハードルは上げればよいというものではない。特に、初期段階に関わるものともなればな。
オレはオレの評価を上げたいのではなく、あくまで勇者の評価を上げ、次代の勇者が続々と生まれ、その者らが我先にと魔王に挑んでくれることこそを目的としておるのだ。それを努々忘れるわけにはいかぬ。
「うーん。俺たちは勇者についてそんな強いイメージないんだけどな……」
「そうね、あまりいい印象で伝わっていないし。でも、ルウさんがそう言うならそうだったのかもとは思うわ」
「あー確かに。なんかもう、ルウさんとベイズさんに対する信頼度すげーわ」
「ね。ふたりなら大抵のことがありなんじゃないかって思えてきたわ」
「……私はなにもしていない。すべてルウ様がなされたことだ」
なんか都合よく解釈をはじめた人間どもに、そう思われだしたのであればもう面倒なくちは挟んでこぬだろうと、今度こそ煩わしさがなくなっただろうかと半信半疑に考える。その間に、ベイズが不服そうにくちを挟んだ。
うーむ、まあ、ベイズは基本的に必要以上に手を出さぬようにしておったしな。それでオレと同列に語られることをよしと思わぬのだろう。
けれどそんなベイズの内心を知らぬふたりは、すぐさま否定に入る。
「いやいや! あの瘴気の中平然とルウさんについていって、平然と戻ってきたんだから充分すごいって!」
「そうよね。あんなの私たちには絶対無理だもの」
だろうな。とは、思ってもくちに出さぬあたり、さすが存外温和で温厚なオレだなと思った。波風を立てずにおいてやったのだ。
オレは気にしておらずとも、当のベイズはまだ納得がいかなそうに眉根を寄せていた。そのためオレはその不服を飲み込むよう、軽く手を上げることで意を示す。察したベイズが納得したかどうかは定かではないが、それでもそれ以上異を唱えることはしなかった。
「ユウシャ、スゴイ。ユウシャ、ナカマ、スゴイ」
「ユウシャ、イイヤツ。ユウシャ、ナカマ、イイヤツ」
「ははっ、おまえたちもいいヤツらだよ。な、シアラ」
「そうね。魔族にもわかりあえる相手っているのね」
………………おい。ちょっと待て。なにをいいはなしに持っていこうとしておる。
「貴様ら……。だれが仲間だ、だれが」
「え、ひどっ! 俺たちもうとっくに仲間だろ?」
「なにを勝手なことを。いつからそうなったというのだ」
「えー、だってルウさんの功績で、私たちレベル上がったし。それってつまり、パーティメンバーだって認識されているってことでしょ? パーティメンバーということは仲間ってことじゃない」
…………どういうことだ。
弓使いの人間の言っていることがさっぱり理解できず、ベイズに視線で問う。が、首を振られた。ベイズにわからぬらしい。
そもそも、自分にパーティメンバーがいるということがわからぬ。魔王であるぶんにはそんなもの必要とせぬしな。どういったものかという程度は知識としてあるが……。
「認識されるとは、だれにだ」
「え? それ、メンバー全員の共通認識でしょう?」
「なんと! ではオレが貴様らをパーティメンバーと認めているというのか!」
「え、う、うん。だからルウさんが稼いだ経験値が、私たちにも振り分けられたわけだし……」
どういうことだ……。オレはこやつらのことなんぞ、オレの活躍を宣伝するための同行者としか……。
…………。
………………。
まさか、それか……?
ついうっかり頭を抱えてしまいそうになるのを、なんとか耐える。思い至った可能性にちらりとベイズへと視線を向ければ、どうやらベイズもおなじ結論を導き出したのだろう、心底いやそうに顔を顰めておった。
「……そうか……仲間とは寄生することを言うのだな」
「ちょ、それもそれで酷いっ! いや、今回のことでは事実だけど!」
案ずるな。ちょっとした八つ当たりだ。
盛大な溜息を吐くオレに、オーラムが抗議になっていないことばで抗議する。
……もうよい。どうせ此度だけのことだ。すきに言わせておこう。
「ニンゲン、ナカイイ」
「断じて否定させてもらおう」
それだけはきっちりと訂正を入れておくのだった。
…………なんか、なんなら魔王がなんなのかさえわからなくなってきそうな気がするな。




