勇者業・1-11
念のために言っておくが、余は別にベイズに頭が上がらぬというわけではないぞ。
「あー! ルウさん! ルウさんとベイズさんが戻ってきたわよ!」
「ホントだ! おーい、ルウさん!」
オレたちの姿を確認するやいなや、駆け寄ってくる人間ども。コンパスの差で遅れながらも、ゴブリンもまた駆けてくる。
「すっげー! マジでこの森もとに戻したんだな!」
「そう言っただろう」
「そうですけど、本当にそんなことが可能だなんて……」
興奮冷めやらぬ、といった様子のオーラムたちとは違い……いや、抑えておるだけで、滲み出ておるな。ともかく、一番冷静に見えるユフォルも驚嘆の声でつぶやく。
やれやれ。レベル2という設定にばかり気を取られすぎなのだ、こやつらは。
「モリ、モドッタ。ツヨキモノ、カンシャ」
「うむ」
遅れてきたゴブリンも足元からそう声を上げたため、大仰に頷いておいた。
「……ところでルウさん、その子は?」
ようやく気づいたのか、それとも気づいてはいたがタイミングを見計らっていたか。どちらでもよいが、弓使いの人間に問われ、この場の一同の視線がオレに抱かれるハーピーの子に注がれる。
「こやつに呪詛がかけられていて、それがもとで瘴気が発生しておったようだな」
そう教えると、まずは全員揃って驚いた様子を見せ、次いですぐさまゴブリンから怒気が漏れた。
「コイツ、セイ」
「やめよ。この者とて被害者だ」
「ぐ、ぐ……。ワカッタ」
こやつが元凶であったことには違いあるまいが、そうなりたくてなったわけでもあるまい。そう諭せば、ゴブリンは理解した様子で引き下がった。
うむ、なかなかにはなしのわかることよ。
「呪詛って、どうして……」
「そこまでは知らぬ。ただ、かなり衰弱しておるな」
戸惑うようにつぶやく弓使いの人間の頭には、おそらく犯人は人間であるという考えが浮かんだことだろう。まあ、呪詛をかけられたのが魔族なのだからそう考えつくのは理解できる。
ただ、それは安易でもあるな。魔族間同士とて諍いはあるし、能力を誇示したく弱者を狙うものも、魔族の中にとている。だからこそ犯人なんぞわからぬのだが、そこまで説明してやる義理もなかろう。
下手なことをくちにして、なぜそこまで魔族に詳しいか問われても面倒だしな。
そんなオレの判断をよそに、なにかを決意した様子のユフォルがキッと視線を向けてくる。
「あの、ルウさん。その子、僕に診せてもらえませんか?」
「ユフォル?」
声を上げたのこそユフォルの傍らに立つオーラムだったが、訝しんだのはオレもおなじ。軽く眉根を寄せてみせるが、ユフォルのまなざしは揺るがなかった。
「ルウさんとベイズさんが瘴気の中に入っていったあと、このゴブリンとすこし会話をしたんです。まさか魔族と会話ができるなんて思っていなかったけど、はなしてみると、危険な感じとかしなくて……。すくなくとも、討伐しなければいけないほどの相手には思えなかったんです。だから、その……。魔族だから、とかじゃなくて、弱っている相手だから、診てあげたいというか……。その、僕、治癒術師なので」
「ふむ」
さて、いったいこのゴブリンとなにをはなしたというのやら。わからぬが、裏で奸計を巡らせておるようにも見えぬな。
しばし悩んでおると、残る人間ふたりも真剣なまなざしを向けてきた。
「頼む、ルウさん、ユフォルを信じてくれ」
「私からもお願い。その子のこと、助けてあげたいの」
そうさなあ……。人間との共存というのは、先々代の魔王の願いだ。余とてその流れを一応ながらも汲んでおる。であれば、この状況というのは喜ばしくもあるのだろう。
「ぎ、ぎ。ムラ、ツカエ。ゼンイン、ヤスム」
信用してみてもまあいいか、と、そう思った矢先、今度はゴブリンがそう提案してきた。確かに、このハーピーの子の治療を行うとなれば、すこしでもゆっくりできる場所のほうがよかろうが……。
「……よいのか? 人間に棲み処を知られることになるぞ」
「ぐ、ぎ、イイ。オマエタチ、ダイジョウブ」
「ゴブリン……!」
しっかりと頷くゴブリンに、人間どもが感動した様子で表情を輝かせる。
いや、本当に、オレたちがいない間、なにをしておったのだ、貴様ら。
なんか友情めいたものが芽生えているような、そんな気配にちょっと置いていかれた気持ちになる。いや別に羨ましいとかそういうのではないのだが、単に状況についていけないのだ。
まあ、しかし、なんだ。この状況自体は好ましいものに違いない。ちょうど日も傾いてきたところだし、ゴブリンの厚意に甘えておくか。
もちろん、オレやベイズに日の傾きなんぞまったくどうということもないが、人間どもにとって夜道は危うかろう。気を遣ってやるわけではないが、ここまで来てオレの勇者としての活躍をほかの人間どもに知らしめる前になにかあってももったいない。オレのここまでの労力を無に帰すのはさすがにいやだからな。
というわけで、オレたちはゴブリンの提案を受け入れ、ゴブリンどものムラへ向かうことになった。
……あやつが魔王を魔王と思わぬだけなのだ……。




