水族館⑭
電車で帰る頃には辺りはすっかり夕焼けに包まれていた。
座席に座ると、今日一日の出来事が頭の中をグルグルと駆け回る。
三木が魚のことを色々説明してくれた事。
その三木が森村直美に怒られた事。
それで気まずい雰囲気になった事。
山岡沙希と鈴木麻衣子が歌って場を和ませようとしてくれた事。
そして、秋月穂香のスカートが捲れた事。
イルカショーの会場に向かう途中で、通り抜けて行った秋月穂香の香り。
ショーの前に俊介の気持ちを聞いた事。
イルカに水を掛けられて、水浸しになった事。
俺と、山岡沙希の目が赤かった事。
更衣室から、俊介と秋月穂香を見ていた事。
シロップの味を確かめる、秋月穂香の長いまつげ。
シュップを出て行く俊介と秋月穂香の後姿。
俺にぶつかった山岡沙希。
今日一日色々なことがあり、その事に悩み苦しみ、そして自分なりの結論を出したつもりだ。
だけど、兎に角疲れた。
今迄十七年間生きてきて、これ程疲れた事はなかったのではないか。
”失恋は疲れるもの”
そう、俺はいま本当に失恋をしたんだ。
寂しい気持ちで、流れて行く地上の星たちを眺めていると、いつの間にか暗黒の世界へ誘われた。
降りる駅に電車が入る直前、俊介に起こされる。
あたりを見渡すと、他のメンバーは既に前の駅までに全員電車を降りていた。
「良く寝ていたなぁ」
俊介が優しく俺の顔を覗き込んで優しく笑う。
今迄これ程近くで俊介の顔を見た事がなかったが、色白の顔にそばかすはあるものの整った顔で、眼鏡がなければイケメンだし、それに優しい感じが言葉にも、その顔立ちからも良く分かる。
屹度、秋月穂香は俺よりも先に、この俊介の魅力に気がついたんだろうな。
寝ぼけ眼でジッと俊介の顔を見ていた。




