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第十二話 査問会

 その日は皮肉にも青く晴れ渡った空だった。

 王都にある裁判所。そこで、イリーダの査問会は行われた。

「これより、イリーダ・クリフの査問会を始める」

 厳粛に言い放った国王陛下に、イリーダが動揺をあらわにする。

 おそらくは、自分の裁判ではなく「ダリア・マクシミリアンの裁判」と言われてやってきたのだろう。

「な、なぜこのような場を?

 あたしはなにもしていません」

「そうだ。イリーダにはなんの落ち度もない」

 イリーダの反論に、イリーダのそばに寄り添ったクリス殿下も同意する。

「イリーダ・クリフがダリア・マクシミリアン伯爵令嬢に貶められ、加害されたという証言だが、全てが嘘だったとわかった」

「な、」

「証言した人間全てが『決定的な瞬間を目にしていない』と最後には証言した。

 つまり、クリフ令嬢は演技と嘘で、さも自分がマクシミリアン伯爵令嬢に加害されたという証拠を作り上げたのだ。

 それは、そなたに頼まれて嘘の証言をしたと、モルダー伯爵令息が証言している」

 そう、この査問会までに、証言をした全ての人間に聞き取りを行ったのだ。

 以前ならばともかく、ダリアとイリーダの評判が逆転し、ましてマゼイラ公爵一派が手を引いたイリーダに、自身の家名を賭けてまで味方しようという者はいなかった。

「そんな、なにかの間違いです」

「また、そなたには別の容疑もかかっている。

 マクシミリアン伯爵令嬢毒殺未遂容疑だ」

「あ、あれは間違いです! き、きっと、そう、ダリア様が自分で毒を仕込んだんです!」

 必死な顔で反論したイリーダだが、想定していなかった事態に声がどもってしまっている。

「なぜそんな真似をする必要がある?」

「それは自分が毒殺されそうになったという証拠を作るために……!」

「普通は、なぜそんな真似をしたかと疑問に思う。

 その理由には思い至らぬものだ。

 迷わずそう弁解したということは、クリフ男爵令嬢がそれを企んでいたということ」

「そんな! あたしそんなこと企んでません!」

 クリス殿下と手を握り合って否定するイリーダだが、国王陛下は容赦なく事実を並べ立てる。

「だがマゼイラ公爵令嬢、ミランダが証言した。

 あの毒は、クリフ男爵令嬢が用意したものだと」

「…っ」

「そんな……」

 イリーダとクリス殿下が蒼白になる。

「証言を許す。参れ」

 国王陛下の声に、部屋の中に入ってきたのはマクシミリアン伯爵家で働くダーキリーとハンナだ。二人を解雇しなかったのはこのときのためだ。

「私どもは、マクシミリアン伯爵家で働く使用人でございます。

 お嬢様が自殺未遂を行う以前より、ある方から脅迫され、旦那様の謀反の証拠を屋敷に仕込めと命じられておりました」

 そのダーキリーの証言に、傍聴席に座っていた貴族たちがざわめく。

「証拠として渡されたのは豪華な首飾りと呪いの人形。

 私どもはそれを拒否しました。

 つまり、それを今持っているのが犯人でございます」

 その証言に、国王陛下が今し方室内に入ってきた騎士に視線を向けた。

「国王陛下、発言をお許しください」

「許す」

「先ほどクリフ男爵家を家宅捜索した結果、こちらのものを押収致しました」

 騎士が差し出したのは、豪奢な首飾りと呪いの人形だ。

 それに貴族たちがどよめいた。

「それは、間違いなくわたしの首飾り」

 傍聴席にいた王妃が驚愕をあらわに口にした。

「クリフ男爵令嬢、王妃の首飾りと呪いの人形がそなたの部屋から見付かったそうだ。

 なにか、弁解はあるか」

「し、知りません! 本当になにも知りません!」

 そう、こればかりは本当に知らないだろう。

 なぜならこの首飾りと呪いの人形をイリーダの部屋に隠したのはチャールズなのだから。

「ならばなぜ、そなたの部屋から王妃の首飾りが発見された?」

「そ、それは、そ、そうだ! ダリア様が盗み出してあたしの部屋に隠しておいたんです!

 きっと、そう……!」

「おかしなことを言う。他人の屋敷に侵入することがそんなに容易いものか。

 伯爵令嬢がそんなことをやってのけたと?

 冗談も大概にせよ。

 まして、王宮に忍び込んで王妃の首飾りを盗み出すなど、不可能だ」

「あ…………」

 普通は不可能だ。だから誰も疑わない。

 転移の力を持つチャールズだからこそ出来たことを、誰も疑わない。

 イリーダ。あなたが私の大事な人たちに牙を向けた。だから、私も手段を選ばないのよ。

「マクシミリアン伯爵令嬢、これに関してなにかあるか」

「はい」

 名を呼ばれた私は、証言台に立ってありのままを口にした。

「私はクリス殿下に婚約破棄を宣言された夜会の日に、イリーダ様にこう言われました。

 屋敷に父上の謀反の証拠を仕込んだ。家族を処刑されたくなければこの毒で自害しろ、と」

 その証言に貴族たちがざわめく。

「あの自殺未遂は、クリフ男爵令嬢に脅されて行ったものだということで良いか?」

「はい。そもそも、家族以外知らないはずの私の自殺未遂をなぜ皆様方がご存じなのでしょうか?

 それは、そう脅した人間が広めたという証明です」

 私の証言に、イリーダは最早真っ青だ。

「イリーダ・クリフ。罪状は明らかである。

 その罪、流刑や修道院送りでは足りぬ。

 お前を公開処刑とする」

「い、いや、違います!

 こんなのなにかの間違いよ!」

 錯乱して暴れるイリーダを近寄った騎士たちが取り押さえる。

「イリーダ!」

「クリス様、助けて!」

「父上、イリーダをどうかお許しください!

 これはなにかの間違いです!

 きっとダリアの企みで……!」

 イリーダを助けようとするクリス殿下も騎士によって動きを阻まれた。

 国王陛下が自身の息子を睥睨した。

「クリス。その罪を罪とも思わぬ小娘を今でも庇うか。

 愚か者め」

「ち、父上……?」

「お前もその娘の罪に加担し、マクシミリアン伯爵令嬢を貶めた。

 その罪をその身を以て購え」

 国王陛下は最早息子を見る目ではない視線でクリス殿下を見下ろし、言い放つ。

「お前を廃太子とし、辺境の地に流す。

 そこで長い余生を送り、自身の罪を悔い改めよ」

「父上!?」

 思ってもみなかったという反応に、私は哀れに思う。

 こんな人を、一時でも好きだったなんて。

 なんて愚かな。

「そんな、わたしを廃太子だなんて、では王太子はどうなるのです!?」

「わかりきったことを聞く。

 お前の後は、お前の弟が継ぐ」

「そういうことです。兄上、いいや、クリス」

 騎士によって捕縛されたクリス殿下の背後に佇んだサフィール殿下が静かに言う。

「サフィール……」

「連れて行け」

「はっ」

 青ざめたクリス殿下から視線を外し、サフィール殿下は騎士たちに命じる。

 騎士たちはイリーダとクリス殿下を外へと連れ出していく。

「ま、待ってくれ。これは罠だ。なにかの間違いだ!

 サフィール! お前がダリアと組んでわたしを陥れて!

 誰か! 誰かわたしの話を聞いてくれ!」

「殿下!」

「イリーダ!」

 最後まで二人は自身の罪を認めることなく、暴れていた。




「全て片付いたね。

 少しは楽になった?」

 査問会の後、裁判所の奥の部屋で私はサフィール殿下と向かい合っていた。

「……はい。

 私はずっと、生きていてはいけないのかと悩んでいましたから」

「そんなことはないよ。

 君はなにも間違っていない」

 優しく首を振って私の肩に手を置いたサフィール殿下に、まだ少し男の人を怖がる気持ちはある。それでもこの人なら信頼出来ると思えた。

「よくぞやりきった。マゼイラ公爵一派まで御したその手腕、見事だった」

「国王陛下……」

 室内に入ってきた国王陛下に賛辞され、私は涙ぐみそうになりながら首を横に振る。

「いいえ、私一人の力ではなく、チャールズのおかげです」

 そう、私一人では無理だった。全てチャールズのおかげだ。

「……一つ聞きたい。

 その執事のフルネームはなんと言う?」

 急な国王陛下の質問に首をかしげる。

 チャールズは自分のフルネームを人に言うなと釘を刺していたが、国王陛下とサフィール殿下なら大丈夫だと思った。

「チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンです」

「そうか……」

 私の返答に、国王陛下は思案するように顎に手を当てる。

 それからサフィール殿下に近づいてその肩をぽんと叩いた。

「よくわかった。サフィール。しっかりな」

「はい」

 それだけ言って、国王陛下は部屋から出て行ってしまう。

 扉が閉まった。

「しっかりってなんでしょう」

「男を見せろってことだよ」

「?」

 意味がわからず首をかしげた私に、サフィール殿下は少し照れた顔をして頬を掻く。

「これで僕が王太子になる。

 僕には婚約者がいないから、すぐに婚約者を決めなくちゃいけない」

「あ、そうですよね」

 ハッとした私の手を、サフィール殿下が取った。

「この前のこと、覚えてる」

「あ……」

 そこでやっと思い出したのだ。サフィール殿下に、求婚予告をされていたことを。

 恥ずかしながら、イリーダの査問会が終わるまではほかのことを考えられなかった。

「僕は君が好きだ。ずっと好きだった」

「ずっと、って」

 いつから、だろう。三年前? でもずっと、という言葉には足らないような。

「本当にずっと、好きだったんだよ」

 そう、万感の笑みを浮かべてサフィール殿下は私の手の甲に口づける。

「だから、僕の妃になって欲しい。

 君を愛しているよ。ダリア」

「サフィール殿下……」

 真っ直ぐな求婚に頬が赤く染まる。こんな真摯な求婚、クリス殿下にもされたことがない。

 なのにどうして、胸が締め付けられたように痛むのだろうか。


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