1 空音のメロディー
この世は嘘だらけ。綺麗なものなんて一つもない。誰一人信じられる奴なんかいない。
溢れるのは空音空音空音。
ついうっかり本音なんて漏らしてごらん、嗤われるだけさ。
落ちてきそうな赤い満月を見上げながら、屋根に腰かけて、ヘヴンはハーモニカを吹く。
「…………綺麗なもの」
本音と空音の見分け方──……君は知っているかい?
本音を嗤われ、空音に紛れて生きていく。
昨日の友は死して、踊るは哀れなくぐつたち。
だけど君。君はどうだい? 君は本当に綺麗? その心は偽りなき宝石?
くぐつは君のほうじゃないのかい?
落ちこぼれのドールは、膝を抱えて涙する。
ハーモニカの吹き方がわからないの。
どうしてみんなあんなにうまくメロディーを奏でられるの?
ねぇ、ハーモニカの吹き方を教えて?
ハーモニカから口を離し、ヘヴンは独り呟く。
「しかし果たして、そのメロディーを覚えてしまったら──」
嘘つきなくぐつたちが幸せか。
嘘のつけないドールが幸せか。
「……くだらない」
この世は嘘だらけだ。できのいいくくうも、落ちこぼれのドールも、所詮は嘘の塊だ。
なのにどうしてときどき信じてしまいそうになるんだろう。
嘘のつけない無垢なドールを。
できそこないの、スクラップド・ドール。
嘘がつけなきゃ、生きていけないのに。
「くだらない。そんな廃棄人形、くだらない」
ヘヴンはボロボロのハーモニカを投げ捨てる。
「オレは、そんな、子供じゃない」
大人が幸せか子供か幸せか、そんなことどうでもいい。
オレはヘヴン。それが真っ赤な嘘でも。
オレには綺麗な綺麗なケイオスがいる。
綺麗で綺麗で汚れて汚れて、嘘つきなケイオス。
傷だらけの宝球。だからこそ美しい。
傷のないドールは、スクラップ。
傷を作れない哀れなドールには、誰も綺麗だとは言ってくれない。
本音も空音も、風の中に紛れていく……




