6 白い服の人形
彼は優しく微笑んで、メモリアの両頼をその手で包んだ。
「さあ、言え、メモリア。『私が死んでも、あなたを生かしたい』──と……。
メモリア。
……《《ケイオス》》」
メモリアは──いや、ケイオスは目を見開く。
気づくと、そこは草原。
メモリアが、封印塚のそばで微笑んでいる。その足元に、ヘヴンが倒れていた。
「ヘヴン⁈ 貴様、ヘヴンに何を⁉︎」
「貴様を呼び戻すと聞かないのでな、まだ腹に霊光を食らわせて気絶させただけだ」
ヘヴンは逆十字のピアスを握り締めたまま動かない。
「おもしろいな、貴様。この少年の危機を感知して戻ってきたわけか」
最後の『ケイオス』という声は、ヘヴンのものだった。
「……おまえ、メモリアじゃないな」
ケイオスはヘヴンを気にしながら、メモリアを睨む。
「ご名答。俺はリィアル」
「……リイアルは封印されたはず」
「そう。俺はバカな風習により殺された。
だけど、俺の妹のメモリアが、俺の封印を解いてくれた。──中途半端にね」
「……」
「霊体として目覚めた俺は、メモリアがただ一言、体を明け渡してくれるといえば──完全に解放されるはずだった。
だけど、あのバカ、言わなかったんだ。『お兄さんと一緒じやなきゃ嫌』ときたもんだ。さけんな、善人面しやがって、アイツは俺を解放したかったわけじゃない、俺を利用したかっただけだ」
リィアルは村を滅ぼし、だけど、生き残ったメモリアにより、再び封印された。……中途半端に。
リイアルは霊体として、この世にとどまった。
「もう、二百年の前の物語さ」
「二百年間も、何をしていた」
「……捜していたんだ。メモリアの替わりを。俺の器になってくれる人間──」
「それが俺か」
「俺にはもうほとんど力はない。メモリアに力を封印されちまったからな。
やっとおまえを見つけたときは、世界が天国に思えたね。俺を見れて俺の体になれる──そんな相性のいい奴、なかなかいないんだぜ?」
「それで俺のことを調べた」
「あぁ、おまえはおもしろい奴だ。過去視──人と一体化した過去の幻を見られるんだからな。
あのままメモリアになったまま、自分が死んでも俺を生かしたいといっていれば」
「俺の体が手に入った」
「そうだ。体の所持者が強くそう想わないことには、俺は体を手に入れられないからな」
「それは残念だったな」
「いやいや、まだまだだよ」
メモリアは髪を払った。その体がひととき眩しく光り、少女から青年の姿へ変わった。
「実は君だけじゃないんだなぁ、俺はラッキーだぜ? この、ちまっこい小僧でも、器になってくれるときたもんだ」
「ヘヴンになんかしてみろ──殺すぞ」
「はて、どうやってこの俺を殺すつもりだい? それとも、再び封印でもするつもりかい? 無理だね。メモリアが──俺の封印を解いた双子の片割れかいなければ、この状態の俺を封印することは不可能さ。
メモリアは、二百年も前に俺に半端な打印をするとほぼ同時に──俺が殺してやった。メモリアも村の奴らもあっけなく昇天しちまった。霊体になれてこの世にとどまっていられるのは俺だけさ。
いや、正確には俺は幽霊とは違う、特殊なマイナスエネルギーの塊だ。よくいわれる霊なんて、この世には存在しない」
「……大して変わらない気もするが」
「だから、簡単に幽霊やなんかになれやしないんだよ!
俺は特別だ。だから、おまえのデータだって、ライ・サウンドから調べることができた」
「…………ライ・サウンド?」
「誰も鳴らしていないのに聞こえてくるサウンド。その中からおまえや小僧に関するファイルやフォルダを検索した」
「意味がわからん」
「俺にも理解できないサウンドや、開かないフォルダなんかもも結構あったけどな」
「理解不能だな」
「俺はな、嘘が大嫌いだ。徳善者どもが大嫌いだ。優しい顔した悪魔は、みんなみんな殺してやりたくなる」
リィアルはヘヴンを見下ろす。
「おまえだって、思ったはずだ。助けてやった弟に信じてもらえず、ナイフを向けられ──思ったんだ。《《死んでしまえ》》」
ヘヴンは瞳を開かない。
「この少年だって、思ったんだ。何度も何度も。おまえがいなければ、親は死ななかった。おれはもっと普通の暮らしができた」
リィアルは片頬だけで嗤う。
「おまえは、それで満足か? 弟の代わりの人形を抱いて、そんなんで満足かよ?」
「ヘヴンは人形じゃない」
「人形だろ? ダーク。おまえの大好きな大好きなライトの代わりだ」
「違う!」
「ならばなぜ、おまえは──この人形に、白い服ばかりを買い与える?」
「…………」
「ライトは白い服が好きだった。そうだろう、ダーク?」
「…………」
「認めろよ。コイツは、ヘヴンじゃない。《《ライトだ》》」
「…………、ヘヴンだ」
「嘘つき」
「…………う”っっ」
ケイオスは突然胸を押さえて膝をつく。




