5 産み落とされた双子
「……今、なんていったの? 母さん……」
水色の髪を揺らして、少女が笑う。
「兄さん──私には、お兄さんがいるの?」
「……ここか」
背負っていたリュックサックを下ろし、ケイオスは溜め息をつく。
ここまで来るのに二週間もかかってしまった。結構な長旅だった。
辺り一面、草野原その中に立つ、一つの塚。
「ここです。ここに、兄が……。リィアル兄さんが、封印されているんです」
ヘヴンは油断なくメモリアを睨んでいる。
「ここには、私たちの住む村があった。だけど──今はもう何もないわ。
私が、兄さんの封印を……解いたから。中途半端に覚醒した兄さんは、村を滅ぼし、そして、再び封印された。
だけど、それは……私が間違った方法を取ってしまったからなの。あるはずなの、兄さんを完全に復活させ──、兄が人として生きることのできるすべが。
お願いします、兄を、兄の封印を点々完全に解いて、兄を解放してください」
ケイオスは無言で塚に歩み寄ると、手を翳し──
その手が掴まれる。
「ケイオス」
今にも泣きそうな瞳をしたヘヴンが、ケイオスの手を握りしめる。
「……次は、左目じゃ済まないかもしれないよ?」
ケイオスは頷く。ヘヴンの手を優しくほどき、再び塚に手を翳す。
そこで、ふと彼は手を引くと、左耳の逆十字のピアスを外し、ヘヴンに手渡す。
「持ってろ、お守りだ」
塚に手を翳す。
「すぐに、戻る」
目を開く。
目の前に姿見。
水色の髪、水色の瞳。薄水色の服。
ケイオスはメモリアになっていた。
メモリアは髪を梳かし直し、階下に向かう。
ずっと、思っていた。兄弟とは、どんなものなんだろう。一人っ子の自分にはよくわからない。ずっと、憧れていた。もし、自分に兄弟がいたら……どんな感じなんだろう。
「……母さん?」
母の悲鳴が聞こえた。父の悲鳴も。
「父さん……⁈」
リビングに、悪魔がいた。
父と母は血を流して倒れている。悪魔は自分に気づくと嗤い、窓から消えていった。
悪魔……違う、たぶん、強盗か何か。あれは人間。心のどこかではわかっているのに、心のこちら側では理解できていない。
「メ、メモリア……」
「母さん?」
メモリアは母親のそばに膝をつく。
「メモリア……リィアルだ、リィアルが復讐に来たんだ……」
「リィアル? 何を言っているの? 母さん」
どうして、父さんも母さんも、真っ赤な服を着ているの? 二人とも、赤い服なんて、めったに着ないのに……
違う、それは服じゃない。あれは血だ。
「おまえには……兄がいるんだ……」
「え?」
おかしいの。二人とも、こんな所で寝ちゃって。風邪ひいちゃうよ?
「……今、なんていったの? 母さん……。
兄さん──私には、お兄さんがいるの?」
メモリアは母の部屋で日記帳を探す。
おにいさん。おにいさん。リィアルおにいさん。ママとパパはもうねむっちゃったから、ママのにつきちょうをよませてもらおう。
『私は悪魔の子を産んでしまった。産まれてきた子供は、災いを呼ぶとされる双子。私は兄のほうだけを殺し、封印塚に埋めた。だって、私はとてもとても女の子が欲しかったのだ。
産婆や何やらは金で言いくるめた。夫にもばれていない。封印塚は、昔から双子を埋めてきた墓だ。私は、産婆に夜中にこっそり、リィアルを埋めさせた。そう──名前だけはつけてあげた。リィアル、ごめんね。でもね、双子なんかに産まれてきたあなたがいけないのよ?』
むずかしくって、よくわかんないよ。どうすれば、おにいさんとあそべるの?
『封印塚には伝説がある。双子の片割れのみが埋められていた場合、もう片方が祈りを棒げれば、埋められていた者の封印が解け、その者は生者となれる。だが、祈りを捧げた片割れは──』
う、うーんと。つまり、メモリアがいのれば、リィアルおにいさんはおきるってこと?
日記帳を閉じ、メモリアは笑う。
封印塚は、村のはずれにあった。
やった。ここだ。これで、おにいさんとあそべる。なにしよう?
なにしてあそぼう?
おにいさん。おにいさん。どうしてずっとそばにいてくれなかったの? おにいさんがずっとおうちにいてくれたら、メモリアすごいうれしい。おにいさんは、どんなふうに──
兄がもし、最初からあの家で普通に暮らしていたら……彼はどんなことをしただろう。
どんな男の子に育っただろう。
「リィアル兄さん。お願い、目覚めて!」
もう、メモリアには、お兄さんしかいないの……
封印塚が白く光って、メモリアの目の前に、メモリアにそっくりな青年が現れる。
「……お兄さん?」




