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WHITE LIE  作者: うさぎさん⭐︎
エピソード1 過去視(トラウマ)のダーク

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2 過去視(トラウマ)のダーク

 

湿った服を脱ぎ捨て、着替える。

 黒いシャツにパンツ。黒のロングコート。これがケイオスのいつもの服装だ。飾り気のある物といえば、左耳の逆十字の血色のピアスくらいだ。

 髪と瞳も黒いが、よく見ると左目だけ焦点が定まっていない。──身体的に異常はないはずなのに、ケイオスの左目は機能していない。

 白い細面に、薄い唇。長身で、体も細い。実年齢は二千八だが、整った顔形は、もっとずっと若く見える。だが、彼の疲れたような雰囲気は、三十を軽く超えた男でもかなわないほどだ。

 煙草をくわえ、ライターで火をつけ、窓の外を見る。空はまだ白い。少し早く起きすぎたようだ。二度寝する気にもなれず、ケイオスは階下へ歩いていった。


「う、うぅーんっっ!」

 大きくを伸びをして、ヘヴンはあくびの出まくる口を押さえる。

 白を基調としたしゃれた服に着替え、白銀色の癖のない艶やかな髪を協かす。

 大きな瞳は舞りのないブルー。睫が長い。

 鼻と口は小作りで、少女と間違うような愛らしさだ。 

 歳はただいま十二。小柄で、同年代の子供と比べても、まだ小さい。

 声変わりもまだの瑞々しい少年だった。

 ヘヴンは自室のドアを閉め、階段を下りる。

 ダイニングに行くと、テーブルの上に載せた腕に顔を伏せて、眠るケイオスがいた。

 ヘヴンは微笑むと、ケイオスに近づいた。

「ケイオス、ケイオス」

 自分と比べてたくましいケイオスの肩を揺さぶる。

「う、うーん・・・」

 ケイオスが呻いて、寝言を呟く。

「…………ライト」

 ヘヴンは息を呑んだ。

 暗い瞳をする──。

 どれほど俯いていたか、ふいに頭を乱暴に撫でられる。

「ヘヴン」

 ケイオスが自分を見ていた。ヘヴンは慌てて笑顔を作るという。

「おはようございます、ケイオス」

 表情の乏しいこの男が、自分を見るときだけは優しい瞳をすることを、ヘヴンは知っている。


 昼過ぎになって、客がやってきた。

 ケイオスは探偵をしている。ヘヴンはケイオスの身の回りの世話をしながら、できる範囲でケイオスを手伝っている。書類盤理などの危険のないものだけだったが。

 客は、若い女だった。十八くらいか。長い水色の髪に同色の瞳。薄水色の服。線は細いが、出るとこは出ていた。まーそんなことはケイオスもヘヴンもどうでもいいことだ。

 客はエントランスから現れると、正面にある机に置いてあるホワイトベルを鳴らした。

 すぐにヘヴンが奥から出てきた。奥はそのままケイオスとヘヴンの住む家だ。

「いらっしゃいませ、お客さま!どうぞ、こちらにお座りください」テーブルを挟んだソファーに客を座らせ、ヘヴンは一旦下がる。

「少々お待ちください、お茶を用意して…・・・・」

「待って!」

 少女がそれを止めた。

「あなたが探偵さん?な、わけないわよね。どこにいらっしゃるのかしら、探偵さんは?」

「……あ、すみません。ケイオスは今ちょっと出かけてまして」

「ふーん?」

 少女は立ち上がると、いきなりヘヴンを後ろから抱くようにした。手や腕などは触れてはいず微妙に間隔があいていたが。

「え、あ、ちょッ⁉︎」

 少女はヘヴンの耳元で甘く暗く。

「ぼく、かわいい。ねぇ、今夜暇?」

「は、はぃぃぃっ⁉︎」

「おねーさんと、すてきな夢を見てみない?」

 ヘヴンはいきなり少女を殴ろうし── 避けられた──彼女から離れ、机の陰に避難する。

 同時に入り口の扉が蹴り開けられ、ケイオスがピストルを少女に向ける。

「ヘヴンに手え出すんじゃねぇクソババァ」

 少女は頭を押さえて苦笑いした。

「じ、冗談よ。かわいいからからかっただけ」

「俺はそういう冗談が大嫌いなんだよ」

 相変わらず無表情のまま淡々といい、ケイオスは少女を探偵所から蹴り出した。

 ケイオスは机の上に持っていた袋を下ろす。リンゴやらパンやらが入っていた。ケイオスは暇だったので買い物に行っていたのだ。

「すみません、ケイオス。てゆーかあの……」

 蹴り出したはずの少女が、今度はケイオスの腕に抱きつくようにしていた。

「あーん、こっちのお兄さんもす・て・き♡」

 ケイオスは何も言わず少女を探偵所から殴り出した。ご丁寧に鍵までかける。

「ヘヴン、ああいう変態にはくれぐれも気をつけろ」

「はい、ケイオス」

「変態ってのは言い過ぎじゃない?」

 ケイオスたちの横の壁から、少女が顔を出す。彼女はそのまま壁抜けをして、部屋の中に入ってくる。

「…………」

 ケイオスは目を狭める。

「おまえ、人間じゃないな」

「はぁーい♡」

 少女は無意味にジャンプする。

「私はメモリア! 幽霊でえすッ!」

 

 幽霊さんはソファーに座ると、ヘヴンの淹れてくれたお茶を啜った。……ような動作をした。

「あ~おいしい♡ なぁんて、ホントは飲めないんだ・け・ど。ユーレイだから。というわけで、残念だけどぼくとは夢を見れないの、ごめんねぇ」

「ヘヴンに流し目送ってんじゃねぇ」

 普段は無口で他人に感心のないケイオスも、メモリアの所業には耐えられないらしく、眼が危険に光っている。殴ろうとしても拳は彼女をすり抜けてしまうので、むかつき指数は上昇する一方だ(最初殴られ蹴られるようにしていたのは、ふりだけだったらしい。かなり変だとは思っていたのだ。もしかしたら、ソファーにも座っているふりをしているだけで、本当は微妙に位置がずれているのかもしれない)。

「ああーん。怒らないで♡ あなたもすてきよぉケイオス~」

 フェロモン過多な甘い声でメモリアは言った。どっかのバカ男なら一発でノックアウトかもしれないが、ケイオスやヘヴンからしたらうざったいだけだ。

 ケイオスは煙草を取り出すと、立ったまま吸い始めた。

「さて……と」

 メモリアは居住まいを正すと、挑戦的にケイオスを睨み上げた。

「私の依頼を受けてもらいましょうか、<過去視トラウマのダーク>」

 空気が凍った。


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