1 純白の独白 血に咲く花
ボクはケイオスが好きだ。
ボクは八年前、四つのときに、ケイオスに拾われた。
旅商人だったボクの両親は、とある街である男に壺を売りつけた。別になんてことのない、普通の壺だ。ただ一つ、両親は嘘をついた。それは<幸せを呼ぶ魔法の壺>だと。
そんなのに騙される男のほうが悪いだろう。慈善事業じゃないんだ。商人ならそんな嘘くらい誰でもつくさ。この世界は騙し合いだ。食うか食われるか。殺るか殺られるか。そんなものを盲目的に言じちまうその男のほうがどうかしてるのさ。
そしてそのバカな男は、ボクの両親に逆想みした。幸せを呼ぶどころか、うちは不幸だらけだ。バカ息子はいつまでたっても職に就かないし、手塩にかけた娘はどこの馬の骨ともつかない男と駆け落ちしちまった。女房だって浮気してるに違いない。あんな女と結婚しなきゃよかった。
それはそれは大変ですねぇ。いっそのこと神社にでもいってお祓いしてもらえば?
で、そのバカ男は、ボクの両親を殺しちまったわけだ。
ボクはケイオスに拾われた。その少し前から、ケイオスは左目が見えない。
そう──ケイオスは過去視をしたんだ。
バカ男がどうやってか手に入れてきた大金と引き替えに、ボクの両親の居所をバカ男に教える手助けを。
それから、ケイオスは二度と過去視をしなくなった。
ボクは、ケイオスが好きだ。
★ ⭐︎
真っ赤な世界に、少年が独り行んでいる。壁に咲く血の花。足を濡らす血の海。
赤い海はやがて、少年の腰をもその内に包み、歓喜の歌を歌うように揺れ動く。
少年の顔に表情はない。
ただ、その目は人形のように瞬きをしない。
海面に、何かが浮かんでくる。
中年の男の死体。
少年はそれを見ようともしない。
「……っ」
息を呑む音。
少年は初めて首を動かした。
そこに、もう一人、少年がいた。少年よりも少し若い。真っ白な服を着ている。血の海に浸かる少年の黒い服とは正反対だ。
「……兄さん?」
白い服の少年は、呆然と呟いて、海に浮かぶ死体を見た。
「と、父さん?」
黒い服の少年が動いた。血に染まったまま──頬や手にも血がついていた──白い服の少年に近寄り、その身を抱きしめる。
「よかった……ライト」
「う、うわぁぁぁっっ⁈」
白い服の少年は、黒い服の少年を突き飛ばす。血の海に尻餅をつき、黒い服の少年は血だらけになる。
「ライト?」
黒い服の少年は、徴かに眉を動かす。
「よ、寄るな、寄るな……」
「ライト?」
黒い服の少年は立ち上がり、おもむろに手を伸ばす。
「ライト」
白い服の少年は、後ずさる。近寄ってくる黒い服の少年の手を、腕を大きく振って弾く。
場面が変わる。
少し成長した黒い服の少年は、やはり少し成長している白い服の少年と向かい合って立っている。表情の乏しい黒い服の少年と違い、白い服の少年は色濃い恐怖に顔を歪めている。
真っ暗だった。辺りには不気味な静寂に包まれた木々や草や大地── 山の中だった。
「……、こんな所に呼び出して、どういうつもりだ……」
「ライト」
黒い服の少年は微かに笑った。無垢な笑みだった。
「よかった、俺」
「……、母さんに、おまえには会うなっていわれてる」
「でも、来てくれたんだな」
白い服の少年は、隠し持っていたナイフを取り出すと、黒い服の少年に刃先を向ける。
「おまえは、父さんのかたきだ」
黒い服の少年は目を伏せた。そして上げた目で笑う。
「わかったよ。殺れよ」
一歩、近づく。手を伸ばす。
「う、うわっぁぁぁっっっ⁈」
白い服の少年は、ナイフを捨て、その手から逃れようと──駆け出す。
「ラ、ライト?」
「うわぁぁぁっ⁈ 寄るな、来るな⁉︎」
「ま、待てライト! そっちは……崖……!」
左手を伸ばしたまま、ケイオスは目を覚ました。全身を汗が濡らしている。乱れた呼吸を整え、ベッドの上で半身を起こす。
「………夢」




