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WHITE LIE  作者: うさぎさん⭐︎
ラストエピソード  未来視(ディスペア)のライト

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13/15

1 ホワイト・ライヤー〜十三夜の生贄〜


 未来なんて、知らないほうがいい。

 優しい顔した嘘つき悪魔。

 天使のふりした嘘つき悪魔。

 さぁ、殺せ。

 過去も未来も狭間の時も。

 みんなみんな混沌へ帰れ。

 

 ケイオスは、書から目を上げる。

「殺せ……混沌へ」

 白い服の少年を思い浮かべる。

「そうして、新しい秩序を」

 少年を抱きしめる。白銀ではなく──金色の髪の少年を。


    ★   ⭐︎


 ヘヴンはクリームシチューを皿によそって、ダイニングテーブルに載せる。

 シチューを一口含んだケイオスに嬉しそうに訊ねる。

「おいしいですか、ケイオス?」

 ケイオスはスプーンを置き、もう皿に手をつけようとはしない。

「……ど、どうしたんですか、ケイオス? 

 か、風邪ですか? それとも、腹痛? それとも何か……」

「──もうすぐだ」

「は?」

「もうすぐ、十三」

「? あ、ぁあ! ボクの誕生日……三日後ですね!」

「十三歳。十三夜。十三年前……」

「……?」

「ヘヴン」

「は、はい」

「……なんでもない」

 ケイオスは珍しくコーヒーにミルクを入れると、それを別のスプーンで掻き混ぜる。

 黒と白が渦を巻くように混ざって、どこまでが黒で、どこからが白だったのか、わからなくなる。


 シャツを脱ぐ。背中の傷に触れる。大きな十字の傷。

 自分ではうまく触れない。鏡に映してみる。

「……ライト」

 ケイオスはそのままベッドに横になる。

 目を閉じる。

「ライト……」


「……兄さん」

 崖の下、ライトは最期に言った。

 青灰色せいかいしょくの瞳を細めて。

「未来が、視えたよ……」


 朝、目覚める。ヘヴンの十三歳の誕生日。

 ケイオスは自室の白い壁に歩み寄ると、隠し倉庫から十二種の血色の武宝具を取り出す。

 剣。短剣。槍。ほこ。根棒。ヌンチャク。類。環。弓。快。爪。銃。

「後は、鎌だけ……」


 ケイオスは、左耳のピアス──黒と白のクロス、縦が黒。横が白──を外す。

「随分と信用してくれたもんだよな、ヘヴン……いや、ウィープ」

「……⁉︎」

 ヘヴンは飛び起きた。

「……なっ、」

 遠くに、ケイオスが立っている。

 ヘヴンはどこかの広間の大きな魔方陣の上──中央に寝かされていた。

「おはよう、ウィープ」

「……⁈  な、なに、いって、ケイオス……」

 そこは、ケイオスの家の隠し地下室だった。ヘヴンには知らない場所。 

 壁も床も天井も皆白い。

「俺が知らないと、思っていたか ?俺は、<過去視トラウマのダーク>だぞ」

「ケイオス……」

 赤い魔方陣に閉じ込められて、ヘヴンはそこから抜け出せない。

 時計の数字のように、十二の武器が、魔方陣の外側に配してある。

「俺の家に不幸を運んだのは──おまえだ、ウィープ」

「……‼︎」

「罪滅ぼしのつもりだったか?

 生憎だが、おまえじゃ役不足だよ、ウィープ」

「…………」

「おまえは、ライトじゃない」

「ケ、ケイオス、オレは……!」

「言い訳なんかするな。壺に憑いてバカ正直な男の家に不幸を呼び込んだように、おまえは、俺の家の……よりによって、女神像に憑いて、俺たちが不幸になるを見て嘲けて楽しんでいたんだ」

「……あ、あの頃、オレは……いろいろあって、酷い人間不信だったんだ……」

「知るか! そうだ、父さんが新しい女神像を買ってきてからだ。

 父さんが……おかしくなったのは」

「あ、あ……ケ、ケイオス、そ、そんな眼で、オレを、見ないで……」

 ヘヴンの瞳から涙が流れる。

「俺は、ライトが死んだときに、俺の過去視トラウマと、あいつの未来視ディスペアで、すべて知ったんだ。

 最初っから、知ってたよ。おまえが──ヘヴンじゃないことくらい。

 おまえは嘘つきだ。大嘘つきだ!」

 ホワイト・ライアー。

「俺は、あいつの未来視──俺の過去親とほぼ逆の能カ──に従って、過去視のダーク>や、探偵をしながら、秘かに十二の武具を集めた。──この日のために」

「違う、オレは……知らなかったんだ。おまえが、女神像に憑いていたオレのことを知っていたなんて──……。

 オレは、本当に、嬉しかったんだ…………おまえが、オレに、キスしてくれたこと……」

「思い出しただけで反吐へどが出るぜ。

 わっかんねぇな、悪魔って。たった一度のキスで落ちちまうなんてよ。眠り姫かよ」

「だ、だって、誰も、誰も、オレなんか……見ちゃくれなかったんだ、

 あんな優しいキスをしてくれたのは……ダーク……君だけ」

「黙れ、ホモ野郎」

「……オ、オレ、別にそういうつもりじゃ……。

 オレ……他の女にキスされても、心が動かなかった!

 ケイオスだったから──ケイオスのキスだったから、嬉しかったんだ……!

 遠い昔に死んでしまった母さんに抱きしめられたときと、似た匂いがした」

「悪魔にも、母親がいるのか」

 ヘヴンは下を見た。白い服を握りしめて、ケイオスの黒い瞳を見上げる。

「……嘘だよ……あぁ嘘さ!

 たかがキスくらいで好きになるかよッ!

 オレはそんなお綺麗な悪魔じゃない。

 女神像に憑いて堕としてやったガキが、でかくなってオレの前に現れたじゃねぇか。こりゃあ、おもしれぇ、──そう思ったんだよ」

「…………」

 ケイオスの顔が歪む。

「後づけだよ!  自分へのごまかしだ‼︎ なかったことに──女神像のことは、なかったことに──嘘にしたかったんだ……っ‼︎」

 ケイオスは魔方陣に歩み寄る。

「さぁ、大人しくソウル・イーターをよこせ」

「な、なぜ……?」

「おまえが十三になり、空に十三夜の赤い月が輝くとき。十三の武宝具で作った魔方陣に閉じ込めたおまえを──生け贄として捧げよ。

 さすれば……失われた時は再生する。

 呪われた女神像なんてなかった頃の家に戻り、俺は、幸せな普通の暮らしを送れる。

 優しい父さんと、あったかな母さんと、誰より純粋で綺麗なライト。みんなで、幸せに……」

「う、嘘だろっ……⁈」

「嘘なものか。俺の過去視が本物なのは、おまえだって知ってるはずだ。 

 俺の弟のライトの未来視だって本物だ」

「いくらなんでも、そんなの信じられない! 時を戻せる奴なんて、オレは知らないッ!」

「おまえは全知全能なる神か? 自分の知っている世界がすべてなんて思うなよ!」

「……そ、それは……」

 ケイオスは右手のひらを上向ける。そこに、黒と白のクロスピアス……。

「おまえ、バカすぎ。こんなもん俺に渡しちまって。十二のやたら頑丈な武具を破壊しない限り、おまえの力は解放されない。そういうふうに変えてやったぜ」

「…………」

「ただし、俺じゃあ、ソウル・イーターは取り出せなかった。

 だから、おまえがソウル・イーターを具現化しろ。

 おっと、生憎、その魔方陣の中までは、武宝具は入り込めないぜ。

 そもそも、おまえにはもう、ソウル・イーターを操れるだけの力もない。──意味、わかるよな」

 額に手をやるようにして、ヘヴンは白銀の髪を掻き上げる。

「…………ケイオスは、やっぱり、オレのことが好きじゃないんだね」「大っ嫌いだ。おっと、その魔方陣を舐めるなよ。方陣内にいるおまえを携問することだってできるんだ。

 ちょっと加減を間違えれば、力の使えないおまえなんか、あっという間にあの世送りだ」

「オレが、拒否したら?」

「死ぬより辛い目に遭わせてやる。早く殺してくださいと、ソウル・イーターを差し出すようにな」

「──その必要はないよ」

 ヘヴンは微笑んだ。

「わかってたさ。オレが、勝手にケイオスを好きなだけだった──……」

 クロスピアスが僅かに光って、ケイオスのそばに血色の大鎌が出現する。

「ねぇ」

 ヘヴンは言った。

「空に月が輝くまでには、まだ時間があるよね。もう少しだけ、そばにいてよ……」


 ケイオスは地下を後にした。

「混沌へ帰り──新しい秩序を手に入れる」

 ケイオスにとっては、時の再生とはそういうことだ。

 天地創造以前の混地へし、新しい天地と、秩序を手に入れる。

 いや、本来あるべきだった天地を。こんな、嘘だらけの世界ではなく──。

 そこに、あの白銀の髪のウィープはいらない。金色の髪のライトが微笑む。

「……バカな、悪魔だ」

 あの死に神は、バカすぎる……。

「どうして、あんなにあっさり、鎌を差し出す…………ヘヴン」


 ケイオスは行ってしまった。魔方陣の中に力なく座って、ヘヴンは前髪を掴む。

「そうさ……オレは、悪魔さ、死に神さ、気まぐれで人間を不幸にし、ソウル・イーターでヘヴンだってラーフだって殺した……。

 ウルズも燃やしちまったし、あぁそうさっ! オレは悪魔さ! 嘘つきで、残酷で、利己主義で……」

 ヘヴンの瞳にまた涙が溜まり、頬を伝い落ちる。

「人間なんかに執着しちまった、愚かな悪魔さ……」


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