5 死神のウィープ
「お師様を……ご存じなんですか?」
「あのバカ魔法使いのラーフは……もう、四百年も前に死んだはず……!」
「……死んだ? ノーデータ」
「……奴のパペットは、すべて滅ぼしたはず」
「でも、私は生きていた。だけど再起動したのは、つい数年前。お師様の塔に雷が落ちた。ダストシュートにひっかかっていた私は、長い眠りから覚めた。
ウィープウィープ……ウィープヲコロセ」
ヘヴンは俯く。
「そうか……。でもなあ、ウルズ」
顔を上げる。
「先に嘘をついたのは、ラーフのほうだぜ?」
「ウソ? ワカラナイワカラナイ。NO DATA」
ヘヴンは何度も何度も頭を掻いた。
「……オレは」
俯く。
「あの頃……信じてた……思ってた。ラーフは、ラーフだけは……。
──ガキだったんだ。試したんだ……ラーフの気持ちを。
空音じゃない、確かな──本音の声を、聴きたかったから……」
ウルズの瞳を見つめる。
「あぁわかってたさ。奴はオレの力を利用しようとしただけさ。
オレは奴により、この世界に召還されたんだから。
……おまえと同じだ、ウルズ。奴にとってオレは、ただの人形と変わらなかった。最初から──最期まで」
赤い月。風に騒ぐ木々。嗤う白銀の髪の少年。
「アイツは嘘をついた。許せない裏切りだ。少なくとも、その頃のオレには嗤って許せる類いのものじゃなかった。
『おまえが好きだ、ウィープ』そういったんだ──おまえの師匠は。真っ赤な嘘を──……」
空目遣いをする。
「だから、アイツの目の前で、アイツの女を──わざわざ崖から突き落として殺してやった。好きなら、その気持が嘘の音じゃない、本物の旋律なら、なら──女を殺されたくらいで、心変わりしないはずだろう?」
「ワカラナイ」
「奴はパペットどもをオレに差し向け……だけど、オレはちゃんと最期にチャンスをやったんだぜ?
女と同じように壁っぷちに追いつめてやって、オレは訊いたよ。
『オレのことが好きか?』って。アイツは、真っ赤な血を流しながら、夕焼けに赤く染まる崖下の海と、赤い鎌を持ったオレを見比べて、泣きながら言ったよ。
『好きだ、ウィープ。助けてくれ』」
ヘヴンは嗤った。
「──だから、殺ったんだ。ソウル・イーターで」
「ワ、ワカラナイ──ウルズには、よくわからない……」
「わかるだろう? オレだよ──オレが、ウィープだ」
ウルズは目をむいた。
「ウィープウィープ──キサマガウィープ?」
ウルズは嗤った。
「ソウカ──ナラバ、シネ」
亀を背負って、ケイオスは帰ってきた。
探偵所のドアから、中に放り込もうとして、気づく。亀が大きすぎ、ドアにつっかえる。
舌打ちする。
迅速に奪還してきた亀を睨む──、
と、左耳の青いピアスが光り出す。
「…………」
手をやる。そこに砕けたかけら。
「──ヘヴン……?」
「……ヘヴン⁉︎」
夜の公園に、ヘヴンは独り佇んでいた。
「ケイオス──……」
自分を見上げた少年の姿に、ケイオスはどこか、違和感を覚える。
ヘヴンはボロボロのハーモニカを持って、何かの燃えかすを見下ろしていた。
「また、壊れちゃったね、ピアス……。明日にでも、替わり、買いに行く……」
ヘヴンは訊いた。
「ケイオスは──ボクが、好き……?」
ケイオスは黒い瞳を揺らした。
「ヘヴンじゃない、オレが好き?」
「……ヘヴン?」
「ライトじゃない、オレが好き?」
「……!」
ケイオスはしばし考えるようにしてから、口を開こうとする。
それをヘヴンは止めた。
「いいよ、言わないで。この世には空音しかない。そんなこともわからないくらい、オレはガキだったんだ」
ヘヴンはいつもどおりに笑った。
「ボクは──ケイオスが好きだよ」
★ ⭐︎
庭に捨てられたハーモニカに手を伸ばしかけ──ヘヴンはそれを蹴飛ばす。
「くだらない」
赤い満月に背を向けて、自室に戻る。
部屋の隅に、袋が置いてある。
中に、赤い服が入っていた。
ワードローブを開ける。
白い服だらけ。
これは、血の色だ。ケイオスがもっとも嫌う色。ピアスくらいならともかく……
こんなの、
「着れるわけが、ないじゃないか……」
ドールも、ハーモニカも、赤い服も、廃棄処分。
だけど、本当は──……
「眠れ、哀れなマリオネット」
一度だけ、
あの赤い服には袖を通した。




