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メディルス・サレンが本当にサーシェス辺境伯家を訪れたのはイリーナが彼に出会ったパーティから1週間後の事だった。
メディルスは丁寧に訪問の事をしたためた手紙を送ってきた。軽そうに感じた印象とは裏腹に、とても綺麗な字の真面目な手紙だった。
「ようこそメディルス様。遠いところご来訪いただきありがとうございます」
「こちらこそ、お招きありがとうございますイリーナ嬢。こちらお土産です」
メディルスはそう言って王都で有名なパティスリーのお菓子を渡してきた。
「まぁ!シルバースプーンのクッキー缶ですね!ありがとうございますメディルス様」
「喜んでいただけたのなら何よりです。レディに人気と聞いておりましたから」
そう言ってメディルスは世の女性が喜びそうな甘い笑顔を向けてくる。かく言うイリーナも心の中でキャーと叫んでいた。
改めて見るとメディルスはエンディオとは違うタイプの美丈夫だった。薄紫色の長い髪は今日は三つ編みに結われゆったりと後ろに流されている。紺色のスーツには彼の瞳と同じ琥珀色のブローチがセンス良く合わさっておりちらりとポケットから見えるハンカチなどの小物からも彼のオシャレのこだわりが見える。軽そうな印象を受け、その甘い顔で何人の女の子を泣かしてきたのか数しれなさそうだった。
まずメディルスを案内したのはサーシェス辺境伯家の自慢である図書室だった。ここには数多くの精霊術に関する書籍が保管されており、その内容は他の追随を許さない。精霊術を嗜む者であれば喉から手が出るほど訪れたい場所の1つであり、サーシェス辺境伯家はその知識を見たい人が見れるように比較的制限緩く公開していた。
「これが噂に名高いサーシェス辺境伯家の図書室ですか、拝見しても?」
「ええ。ご自由にどうぞ」
メディルスはワクワクとしたような目をしながら、早速と本の海に向かっていってしまった。
精霊契約に興味があるのかその類の棚の前で本を漁っていた。
―――
「素晴らしい蔵書の数々でした」
「まぁ。気に入っていただけたならなによりですわ」
しばらくして、サロンに用意されたお茶の席でメディルスはサーシェス辺境伯家の図書室を絶賛していた。
「サレン家にもウロボロスの聖印に関する知識が多く収蔵してあるのですが、使い道が私にはあまりなくてね。まぁたまには役に立つ情報もあります。女性は宝物を扱うように優しく抱きしめること、とかね?」
メディルスはウィンクをしながらそんなことをいうのだった。
「メディルス様は精霊契約にご興味がおありで?」
「ええ。そうですね。精霊契約自体と言うよりかは精霊と人間の相性などに興味があります」
「相性と言うと?」
「例えば私などはウロボロスの聖印を受け継ぐ家の出身です。ともなればやはりウロボロスと契約するのが相性が良いのかなどといった事ですね」
なるほど相性か。ふむとイリーナは考える。
そう言われると一番にイリーナが思いつくのはオーラと契約精霊の関係性になるのだが、エディなどはシルフの白色のオーラがあるが契約精霊はドラゴンである。オーラと契約精霊は関係ないと言えるだろう。それにこれまでも聖印を受け継ぐ家のものが様々な精霊と契約してきた実績があることをイリーナは知っていた。
「私の知る限りではどんな精霊に好かれるのにも聖印を受け継ぐ家などは関係ないように思いますわ。メディルス様はウロボロスとの契約をご希望なのですか?」
「我がサレン家はウロボロスの聖印を引き継ぐ家なのですが、お恥ずかしながら私には発現していなくてね。ウロボロスと契約が出来ればなにかの拍子に聖印が浮かび上がってこないかと考えてしまったりするものなのですよ」
(聖印に執着してるんだわ)
イリーナは彼の表情の変化を見逃さなかった。
3代連続でウロボロスの聖印を発現させている稀な家。その4代目ともあればそれはそれは期待されていたのだろう。
「イリーナ嬢は聖印と精霊の関係についてなにか知っている事はありませんか?」
それは彼にとっては本題なのだろう。にこやかな笑顔は少しなりを潜め、切実であるといった表情がみてとれた。
イリーナは貴方の聖印なら表面化できそうですよと言ってあげたい気持ちを抑えながら、自分が知っている情報を述べることにした。
「聖印と精霊の関係ですと、聖印は精霊からの祝福であり、精霊の能力が聖印の能力の由来とされているってことくらいでしょうか。一般論ですけれど」
「やはり聖印は精霊の祝福ですか……」
イリーナは「やはり」と言うメディルスの言い方が気になったが、メディルスはにこやかに話題を精霊術のことに戻した。
それからは聖印のことは話題にはならなかったが、メディルス・サレンは聖印を欲しているようだということはイリーナにもはっきりとわかった。
―――
「どうだった?シェン」
メディルスが帰った後、従者として背後に控えていたシェンに問いかける。
「うーんどうだったって言われても……オーラ弾けてるなぁ〜くらいしか感想はないかな。あんまりいいものじゃないのは確か。すごく不快だったもん。できるなら彼にもオーラの浸透かけて欲しいよボクは〜」
なるほど、とにかくあのオーラの弾けている現象は精霊には好まれない状態であるということが確実にわかった。
かろうじて1歩前進と言っていいものだろう。
あとはどうやって自然にオーラの浸透をかけるかだ。
イリーナは悩むのだった。




