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それからメディルスは三日に一度程のペースでサーシェス辺境伯家を訪れるようになった。
彼の目的は主にサーシェス辺境伯家の有する蔵書のようだ。イリーナだけでなく、エディやジルとも何やら話している様子がみてとれ 、メディルスとどんな事を話しているのかとエディに聞いてみると、やはり精霊のことや聖印に関する内容の話が多いようだ。
「やぁイリーナ」
「まぁメディルス。熱心ね」
まぁねとメディルスは笑う。イリーナはメディルスとはすっかり仲良くなってしまっていた。メディルスはサーシェス辺境伯家に来る度にイリーナにお土産を持ってきたりイリーナとお茶をしたりしているのだ。
メディルスのように調べ事があってサーシェス辺境伯家に出入りする人はたまにいるので家の者もあまり気にはしていなかったが、エディに「エンディオ様から乗り換えたのか?」などと言われた時は流石に小突いた。冗談にしては笑えない。
確かにここまで通われるとイリーナに熱烈な求愛をしている風にも見えてしまうが、メディルスにその気が無いことは話していると分かる。本当は調べ事のために毎日でも訪れたいのを抑えての三日に一度だろう。
四度の訪問を経てなんとなくメディルスの為人がわかってきた。
聖印をとてもとても欲している。
軽そうに見えて意外と誠実。
レディの扱いを心得ていて面白い話を沢山してくれるなど、総評としては好青年だと言えるだろう。
(これなら聖印を表面化しても大丈夫そうなお人柄だわ。オーラが弾けてるって心配事を除けば)
イリーナはそんな風に思い始めていた。
「メディルスは何を探しているの?私でお手伝い出来る事があれば良いのだけど」
「今は精霊から祝福を受ける方法かな」
「精霊から祝福を受ける方法とはかなり難易度が高そうね。精霊が祝福を与えていたという時代ははるか昔だから」
シェンの話によると昔人間に祝福を与える精霊たちの一大ブームがあったらしい。それが現代の聖印に繋がっているとかいないとか。
「精霊が祝福を与えなくなった理由さえ分かればまた精霊から祝福を受けられたりすると思わないかい?」
確かにそうなのかもしれない。そんな事考えたこともなかったが、どうして精霊は祝福を与えなくなったのだろうかとふんわり考える。
(もしかしたらオーラが関係しているのかもね……今度シェンに、聞いてみましょう)
イリーナはちらりと従者として背後に控えるシェンに視線を送る。複数の祝福が混じり合う現象をシェンは良しとしなかった記憶がある。祝福が被ることで身体に合わず死んでいった人でもいるのかもしれない。
「メディルスは聖印が欲しいのよね?もしも、もしもよ?聖印が手に入るとしたらどうする?」
「きっとどんな事でもするだろうね」
メディルスは躊躇いなくそう言った。
―――
「ねぇメディルス。うちには古くから伝わる精霊に好かれるおまじないがあるの。試してみない?」
雑談の途中で出したその話題は、イリーナの作った真っ赤な嘘だった。そんなまじないがあるのなら市井にもっと浸透させている。
イリーナは自然にメディルスに触れる機会を作りたかったのだ。
「そんなものがあるのかい?それは是非とも試してみたいものだ」
「手を出してみて」
イリーナは差し出されたメディルスの手を両手の平で挟み込むように握る。
(よし。これならオーラの浸透を、かけれる)
それっぽい精霊の言葉を呟きながら、イリーナはオーラの浸透をかける。
「イリーナ、その、すまない」
「どうかされましたか?」
10分かそこらだろうかその状態が続いたところでメディルスから声が上がる。
(流石に照れられてしまったのかしら)
どことなく顔の赤いメディルスはもう辞めて欲しいと言うようにイリーナの手を振り払った。メディルスのオーラはまだ弾け続けている。体感ではあるがクリスのように数分かけ続けたら消えるような弾け方ではないとイリーナは感じていた。
「すみません。少し不躾でしたわね」
「いえ、少し失礼します……」
メディルスがそう言って立ち上がるとガクンと、彼の体は傾いた。
「えっ、め、メディルス!?」
「すまない、何故だろうか、少し目眩が」
イリーナはすぐにピンと来た。オーラの浸透をかけた途端に暴れだしたウロボロスを思い出す。
「大丈夫ですの?」と駆け寄ってきたミーチェを視線を制止し、イリーナはメディルスにかけより、ふたたびオーラの浸透をかける。
「ぐっ、うぁ」
すると彼は呻きながら倒れ込んで気絶してしまった。
(今がチャンスかもしれない)
「ヒナツ、彼を客室に運んでくれるかしら」
「わかったよおじょーさま」
後ろに控えていたヒナツはとてとてと近づいてきてメディルスを魔力で浮かびあげる。気絶しているうちにかけられるだけオーラの浸透をかけようとイリーナは決める。
「お嬢様、なにか落ちましたわ」
「えっ?」
はいとミーチェから渡されたメディルスの懐から落ちたそれは試験管のような入れ物に入った無色透明な液体だった。だがイリーナには分かった。ただの液体ではないと。
なぜならそれはうすくだが紫色のオーラを放っており、そのオーラはパチパチと例の如く弾けていたのだ。
「待って〜それ、精霊の血だねぇ」
シェンの間延びした声もどこか真剣味を帯びていた。




