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きらびやかにシャンデリアが輝くパーティ会場に、イリーナは1人寂しく足を踏み入れる。
今日はラインザール侯爵家でのパーティの日だ。
イリーナは夜会用の群青色のパーティドレスに身を包みボーイに渡されたグラスを傾ける。
イリーナくらいの年代の令嬢なら、素敵な男性にエスコートされていそうなものだが、まぁ別に一人で来ても特に問題は無いものだった。
一人で大人しく挨拶周りをしていると、ヒソヒソとイリーナの事を言う噂好きの夫人たちの声も耳に入る。
「イリーナ様、よくレイトン公爵家に出入りしているのだとか」
「まぁ。あのエンディオ様の所へ?追い返されていないのかしら」
「なんでも押しかけていって居座っているって話しよ……」
「まぁなんて強引な……」
どれもこれもまぁ事実といえば事実なのでイリーナは気にも留めていなかった。イリーナに害のあるような過剰な噂が出回るようなら訂正して回ることも考えたが、聞いている限りそんなことも無さそうだ。
(あとでエンディオ様にも挨拶しに行こう)
それは噂の種になるような行動だったが、イリーナは全く気にしていなかった。強いていえば自分の恋心がバレバレで恥ずかしいということくらいだが、これは他の令嬢へのいい牽制になる。
つまるところ、『今私が狙ってんだから手を出さないでね』と暗に言っているということだ。
イリーナは着々と外堀を埋めている現状にほくそ笑んでいた。
パーティ会場内を歩いていると見慣れた漆黒のオーラを見つけてイリーナは浮き足立つ。
「ごきげんようエンディオ様」
「お前か……」
エンディオはイリーナが声をかけると不機嫌そうに顔を歪めた。
「まぁ。お前かとは失礼な。同じパーティに招待されていると話したではありませんか」
「そうだったな」
「せっかくですし、一緒にダンスでもいかがですか?」
イリーナはまた、あわよくばワンチャンを狙ってエンディオに問いかける。
「ダンスは苦手なんだ」
またどうせ「誰がするものかバカもの」なんて辛辣な言葉が返ってくると思っていたが、そんな言葉が返ってきてイリーナは目をぱちくりとさせるのだった。
―――
「はじめまして。私メディルス・サレンと申します」
エンディオと別れ、しばらく挨拶回りを続けたり、情報収集も兼ねた雑談をしたりしていると、声をかけてきたのは薄紫色の長い髪を上品に後ろで結った金色の瞳をした青年だった。年は30近くだろうか、グレーのパーティスーツに身を包み、笑顔を向けてくる彼は少し軽そうな人だという印象を受けたが、そんなことよりイリーナは驚いた顔を隠すのでいっぱいいっぱいだった。
彼の濃い紫色のオーラはウロボロスの祝福だが、例の如くオーラが弾けていたのだ。
「ええ、初めまして。イリーナ・サーシェスと申しますわ」
(サレン家といえば、ウロボロスの聖印を引き継ぐ帝国の名家だわ。何故アーライル王国のパーティに?それに、、、何故この人オーラが弾けてるの?)
「美しいお嬢さん、一曲お相手願えますか」
メディルスは優雅にイリーナの手を取るとそう提案してきた。イリーナとしては今日は踊る気はなかったのだが、オーラの弾けている人物との接点を今はとても欲しているところだった。
「ええ、是非」
イリーナはメディルスにエスコートされてダンスフロアへ足を進めた。今回の音楽は穏やかな曲調のワルツ。
三拍子のそれをメディルスのリードに合わせて軽やかに踊る。メディルスは相当ダンスが上手いのかイリーナが困るような事は一切なかった。
イリーナは彼のオーラに意識を向ける。
(やっぱり、弾けている……。でも強いオーラだわ。頑張れば聖印を表面化できそう)
パチパチと弾ける紫色のオーラはこの間浄化し自然に返したウロボロスを彷彿とさせるものだった。
踊りながらオーラの浸透をかけるような器用な芸当はイリーナには出来なかった。あれは結構集中力を要するのだ。
「君のことを一目で気に入ってしまってね。サーシェス辺境伯家は精霊術師の家系だったかな?」
「ええ。と言っても、私は精霊とは契約しておりませんが」
メディルスはかなり精霊術に興味があるのだろうか、その知識はなかなかのものでイリーナは踊りながら精霊術談義に花を咲かせることとなった。
「それだけの知識がおありでしたら精霊術師になれますわよ。精霊に気に入られるかどうか」
「どうやら私は精霊に好かれない質のようでね」
そのオーラは精霊を不快にさせる原因なのだろうか。
(1度なんとしてもシェンに来てもらって会わせないと…)
こんな所でシェンを呼ぶ訳にもいかず、イリーナはそう心の中で思うのだった。
ダンスが終わりフロアから離れる時に少し疑問に思っていたことを聞いてみた。
「メディルス様はどこかお体が悪かったりするのですか?」
「いいえ?なぜそのようなことを?」
「いえ、その、なんとなくですわ。気にしないでください」
どうやら体調は悪くないらしい。クリスもウロボロスも辛そうにしていたからこの現象は身体には良くないものだと思っていたが、そうではないのだろうか。
「精霊術の本がうちにはたくさんありますのよ。ご都合よろしければ1度見に来てくださいな」
「こんなに話の合うレディははじめてだ。是非訪問させてもらうよ」
イリーナはメディルスの興味を引き、どうにか後日会う約束を取り付けるのにすこし必死だった。
傍から見るとメディルスに恋した乙女のように映るということにイリーナは気づいていなかった。




