俺の学校
戦闘シーンは苦手です。
…じゃあなぜ書いたし。
ここは俺の古巣であり、そして牢獄である。
ひらがなだらけの可愛い掲示物に囲まれた、どこか懐かしい教室。ガヤガヤとうるさい子どもたち。黒板に書かれた、「あたらしいおともだち」という文字。
すべてが今の俺を嘲笑しているようですらあるこの状況で、俺は教卓の前に立たされていた。
「柑崎明音です。よろしくお願いします」
精一杯大人っぽく喋っても、その声はすでに子供のそれだった。
こうなった発端は、間違いなく琴音のせいだが、目の前の状況が馬鹿らしすぎて、悪い意味で夢のようで、その妹を恨むことすらできない。
「じゃあ、明音ちゃんの席はあそこ。美姫ちゃんのとなりね」
「…はい」
案内された座席へと、トボトボ足を進める。
…隣には、見覚えのある顔があった。
「あ、あかねちゃん!一緒の学校だったんだ!」
あの時の、ブルー…もとい、真城美姫。
「改めてよろしくね、美姫ちゃん!」
営業スマイルで答える。
魔法少女だかなんだか知らないけど、仲間なら仲良くしないとな。
前の席の女の子が、美姫ちゃんに話しかけた。
「あれ、美姫ちー、この子知り合い?」
「うん、昨日公園で偶然あったんだ」
ふいに彼女はこちらを振り返る。よく見ると、彼女の手首には、俺や美姫のものと同じブローチがついていた。
「はじめまして、明音ちゃん。私は、卯月薫っていうの。みんなにはかおるん、って呼ばれてるんだ」
「よろしくね、薫ちゃん!(ひょっとして、薫ちゃんも魔法…しょーじょなの?)」
バレたらまずいので、返事したあとで小さな声で聞く。
「うん!なんで知って…あっ、天音ちゃんも?一緒に頑張ろうね!」
「…うん。よろしくね!」
男の頃と違って、仲間、あるいは友達はたくさんできそうだ。
…嬉しいかどうかは別にして。
……………………………
チャイムが鳴り響き、先生が入ってくる。一年生だと、ふつう一人の先生がすべての教科を担当する。
「一時間目、さんすう!きりつ、れい!」
''起立''の意味も分かってなさそうな男の子が、大声で音頭を取る。
「「よろしくおねがいしますっ!!」」
…馬鹿らしい。
このクラスの担任は、さっき俺を紹介した指扇梨乃という30代くらいの女教師だった。俺が小3くらいのとき、持ってもらった先生にどことなく似ていたが、あの人は指扇なんて名前じゃなかったはずだから違うのだろう。
転入したばかりで教科書がまだ届いていないので、隣の美姫ちゃんに見せてもらうことになった。
教科書を見て、愕然とした…小学校一年って、こんなもんだっけ。
たしざん、ひきざん2
[1]つぎのけいさんを しましょう。
(1)7+6=?
(2)2+9=?
(3)5+4=?
(原文ママ)、である。
「じゃあみんな、1番の答えは何かな?」
「「じゅうさ〜ん!」」
「よく出来ました〜!!」
…勘弁してほしい。
とはいえ、不真面目だと思われるのも何か癪なので、真面目に頑張って問題を解いている…フリをする。
四十五分間×4、苦痛でしか無かった。
……………………………
「いただきます!」
「「いぃたぁだぁきぃまぁすっ!!」」
授業と言う名の処刑が終わり、懐かしい金属製の食器で給食を食べる。
机は向かい合わせになり、前に美姫ちゃん、斜め前に薫ちゃん、隣には…男が座っていた。
…変わってねえな。
うちの学区は中学から弁当持参なので、給食を最後に食べたのは四年前だ。ABCの文字にカットされた「何か」が浮いたスープ然り、ココアの味の揚げパン然り…みんな、もう食べるはずのないものだった。
小学校六年になる頃には小さく感じた金属のお箸とスプーンも、今の手の大きさでは大きかった。
なんか、切なかった。
…………………………………
午後、国語の授業中。突如として警報が鳴り響いた。
「魔獣出現、生徒は避難すること。繰り返します。魔獣出現、生徒は避難すること。」
「まっ、魔獣!?」
俺は驚いて椅子を倒してしまった。
「何驚いてるの?ウチらの出番よ!」
これは美姫ちゃん。もうブローチを振り上げて変身準備中。
「へ…変身するの、学校で?」
…一方、薫ちゃん。
「み…みんなが危ないし…仕方ないよね」
俺もブローチを取り出す。
「ラブリーレッド、トランスフュージョン!」
「チアリーブルー、トランスフュージョン!」
「く、クイニーイエロー、と…トランスフュージョン!」
三つの光が、俺たちを包む。
相手は…仮面○イダーにでも出てきそうなキツネ怪人。
生徒を人質に取っているので、こちらも積極的に攻撃はできないが…
「かおるん!ピカってくるやつやって!明音ちゃんは私と突進の準備!」
美姫が指示を出す。
「うん…ら、ライトニングスマッシュっ!」
魔獣が怯み、隙が生まれる。
「…美姫ちゃん、突進する?」
「うん、行くよ!頭寒足熱、フルマット…」
「「ブースト!」」
スピードが上がる。
「ファイアファイナルソード!」
「アイススプリンクラー!」
「「頭寒足熱っ!」」
早い話が、頭を極限まで冷やし、体を極限まで温める。
このフォーメーションが、怪人や魔獣の動きを押さえ込める。
「薫ちゃん!」
「サンダー…スプラッシュ!」
悲鳴を上げ、怪人は倒れた。
「やった!」
「やったね!」
一番に叫んだのは、美姫ちゃん。その次が、薫ちゃん。
「完全に倒れたね」
一方俺は不慣れなので、肩で息をする疲れっぷりだ。
「ほら、折角だから!」
美姫ちゃんが手を高く掲げる。俺と薫ちゃんもそれに続く。
…パンッ!
この世の何よりも暖かくて、柔らかいハイタッチ。
「「「アンリミテッド」」」
それが、何より達成感と、楽しみに満ちていて。
「…授業、戻ろうか」
女の子もいいかなって、少しだけ思ってしまった。




