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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第四章 意味をなさない言葉

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#16 意味をなさない言葉

 ダンス用のドレスも靴も当然走るのには向いていない。靴はその場で脱ぎ捨て、ドレスの裾を手で持ち、廊下を駆けた。何処で儀式が行われたかは直ぐにわかった。魔術によって放たれた光が、月も見えない夜を照らしていたのだ。

まだ間に合う。

間に合え。

その光が発する棟は私達がいる場所とは反対側にあった。どれだけ最短距離を走ろうとも時間がかかる。

間に合うかどうかの根拠はない。ただ間に合わなければ、私は大事な物を失ってしまう。

いや、今も失い続けている。どんな顔でリア様に会えば良いか分からなかった。

どんな思惑で、どんな思いで、ヴィクトリアさんを攫ったのかわからない。生徒会長が言った通りだ。私は、真っ先にリア様を疑った。でも、真っ先に否定した。リア様がやる理由が思い浮かばなかった。だから私にとって都合のいい犯人を作り出した。

 でも、それはやる理由さえあれば、リア様が犯人というようなものだ。

それだけは嫌だ。リア様が犯人であるというのが、嫌だった。リア様がヴィクトリアさんを裏切るなんてあるわけがない。裏切るとしても何か理由があるはずだ。でも、何もわからなかった。何を考えているか全くわからなかった。

嫌な気持ちを端にやる。そんなことを考えるよりも追いつかなければ。

必死に走って、走って、走る。

追いついた後どうするかなんて考えていない。

やっとの思いでたどり着いた。

扉を開けると巨大な魔力の奔流が光となって私の目を焼く。目も開けられないほどの明るさだ。

「リア様!」

光の中で犯人は見えない。目を瞑りながら、必死に叫んでいた。

間に合ったか間に合っていないかもわからない。ただ、光の元へと足を進めた。

 その時、光が治まった。

「え?」

何か理由は分からなかったが、突然発光が止まった。目を開けるが、まだ目が光に慣れていなく、視界がボヤける。

違う。魔力を見るんだ。魔力で見るとそこには巨大な魔力の塊と小さな魔力の塊があった。見なくてもわかる。リア様とヴィクトリアさんだ。

良かった。ヴィクトリアさんは生きている。それもそのはずだ。リア様がヴィクトリア様を傷つける理由なんてない。しかし、安堵した瞬間、何かが空間を割った。

「え?」

驚くことしかできない。意味がわからないことがただ連続している。その割れた空間から下手したらリア様より大きな魔力が出てきたのだ。

どうなっているんだ。

魔力を見るのを止めて、目を開けるとそこには少年の様な、少女の様な中性的な姿をした存在がいた。その存在を見ると身体が軋むように震えた。

見てはいけない。

アレはこの世のものではない。

「駄目」

そう声を発することすらできなかった。

私の声などまるで届かなく、リア様はそれに近づいた。それは鳥籠の様な物を持ち、その鳥籠の中にいる生物は、ランタンの様に光っている。その存在がリア様に近付いた。リア様から籠の中と同じ色の物を抜き出した。

何故かその光景を見ていると涙が出た。悲しかったわけでも、その光景を理解したわけでもない。ただ、心が震えるのだ。それは生理現象の一つかのように、ただ涙を流させた。それは何故だかわからないが、あの冬の日、朝日を見た時の様に。私の心を満たすのだ。

私は震えていた。

その存在は籠から同じ色の光を取り出した。そして交換する様に、リア様の光を籠の中に、籠の中の光をリア様に入れたのだ。

待って。

そう口に出すこともできない。身体が一つも言うことが効かないのだ。

それが何なのか推測がつかなかった。

「待てよ」

しかし、ただ一人だけこの場で声を出すことができる人物がいた。

「そいつは置いてけ。精霊王。そいつは大事な友達だって言ってるだろ」

どこから声が発せられているのか検討もつかなかった。この場には私とリア様とヴィクトリアさんしかいないのだ。誰も男性の声を発せる者は居ないはずだ。

しかし、その声も聞くことなどなく、精霊王と呼ばれた存在は、精霊門の奥へと消えて行った。

「ああ、クソが。魔力が足らねえ」

その声は悪態をついた。

「おい、ヴィクトリア、生きてるか?」

縄で吊るされているヴィクトリアさんを魔術で落とすとリア様はお姫様抱っこでキャッチした。リア様はこちらに近づいてきた。

「おい、お前も大丈夫か?」

何故かその声も近付いてきた。

「リ、リア様?」

目の前の人はリア様のはずだ。しかし、違和感があった。何故かリア様から意味のある音を発しているように見えた。

「ああ、そういうことか。私の名前はリア・クローバー。こんなことを言うのは何だけど、本物さ。改めましてはじめまして」

心が裂ける様だった。

リア様の姿をして、別人がリア様の体で喋っていた。

咄嗟に魔弾を放った。

「ヴィクトリアさんを返してください! ...偽物」

しかし、第一術式で簡単に防がれた。

「いやあ、まあ、歴史的に言うと俺が本物なわけだけど、君からしたら確かに偽物だね」

「意味がわからないことを言うな!」

何を意味がわからないことを言っているんだ。

リア様の顔でなぜ喋っている?

どんな許可を得て、どんな方法で、どんな道理があってお前が喋るのを許されているんだ。

「うっ」

その時、ヴィクトリアさんが目を覚ました。

ヴィクトリアさん、離れて下さいと言いたかったが、何故か言葉がでなかった。

「おはよう。私の愛しの人。長い眠りから覚めた気分はどうかい?」

偽物のリア様はヴィクトリアの頬をなでた。

気味が悪いと思った。その汚らわしい手でヴィクトリアさんに触るな。

「ヴィクトリアさんから離れてください」

早く離れて!

早く偽物と言ってくれ! その男は偽物だ。誰でもない。人ですらない。私は見たんだ。怪物が魂を交換する所を。

その男は偽物だと言ってくれ。

「こっちの台詞よ。長い眠りから覚めた気分はどう?」

そう言ってヴィクトリアさんは頬にキスをした。

その時、何か心がポッキリと折れる音がした。

「まあ、最高の気分とは言い難いね」

そう言うとヴィクトリアさんは視線で私の姿に気付いた。

「マリー! ボロボロの恰好で大丈夫?」

「リア! じゃなくてリア様も上着くらい貸して下さい」

ヴィクトリアさんは優しく私を慰めようとしているのに、その優しさに触れる度に私の心は毟り取られる様に痛い。

ヴィクトリアさんは受け入れている。

決定的に違うはずなのに、世界は何も変わっていないはずなのに、私はそれを受け入れなければいけなかった。

「リア君!」

生徒会長が部屋へとやって来る。

「ヨーゼフ、久しぶりだな」

「ああ、やっぱり君なんだね」

「ああ」

生徒会長に近寄るとそのまま抱擁すると思いきや、突如生徒会長を殴った。

「え?」

リア様以外驚いた。

生徒会長はちらりと私を見て、納得するように頷いた。

「こう言ってはなんだが、殴られるような予感はしていたよ」

どうしてそんなに納得できるんだ?

リア様はそんな声をしていないし、リア様は人を殴ったりしない。

ヴィクトリアさんだってそんな熱を帯びた目線でリア様を見ていなかった。

一体何が起こったと言うのだ。

教えてくれ。

誰でもいいから私が納得する説明をしてくれ。

ヴィクトリアさんがリア様の腕から降りて、こちらに駆け寄って来た。

「マリー、貴方駆け寄ってくれたのよね。大丈夫。リア様がいるから」

「え?」

冗談みたいだった。一体何が大丈夫だと言うのか。ヴィクトリアさんがリア様のことをずっと警戒しているのは知っていた。別にそれに対して何も思わなかった。二人の間に何かがあるのは知っていたが、突っ込もうとは思わなかった。いや、本心では聞きたかった。でも、聞くのが怖かった。私が知っているリア様が変わってしまいそうで。

しかし、私が何も聞かなくてもリア様は変わってしまった。そして、そのリア様をヴィクトリアさんは信頼しきっていた。

これでは全く逆だ。ヴィクトリアさんがリア様を信頼して、私がリア様を警戒している。

どうしてこうなった?

どうすれば良かった?

私がもう少し早く走っていれば?

私がもう少し早く気付いていれば?

いや、違う。

もしこれが止まっていたとしたら、喜ぶのは私だけだった。

ヴィクトリアさんも、生徒会長も、そして 'リア様’も今目の前にいる男が帰ってきて喜んでいる。

私だけが喜べないでいる。

まるで私だけがこの世界に取り残された様だった。

「ああ」

そうか。

「ああ…」

「マリー?」

哀しみと喪失感は一緒の感情だと思っていた。

でも、哀しみは涙に変わるけど、喪失感は何にも変わらない。

「ああ」

ただ、この喪失感を必死に嗚咽に変えようとしていた。でも、何にも変わらない。

ただ、この喪失感を埋めてくれる言葉を必死に探していた。

だが、この喪失感を言葉に変えたとてリア様が帰って来ることはないだろう。

生きてはいけないだろう穴が、身体に空いていた。

もし人にポッカリと綺麗な真円が空いていたら、その人は死ぬだろう。

なのに私はまだ生きていた。

胸を触って確かめてみる。

残念なことに実際に穴は開いていなかった。でも、肌の下では、きちんとした穴が空いているのを感じた。

ああ、もしリア様が私を思うなら、どうして殺してくれなかったのか、どうして一緒に連れて行ってくれなかったのか。

「ああ…」

「マリー、大丈夫?」

世界が憎くて仕方がない。

どうしてリア様が消えたのにまだ世界は続いているのか、理解できなかった。

「…ああ」

ただ、意味をなさない言葉だけがこの世に残った。

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