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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第四章 意味をなさない言葉

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#13 マリーの推理

 私の穏やかでない胸中など関係なく、舞踏会はつつがなく続いていた。シャンデリアの光にギラギラと乱反射するように、仮面は怪しく光る。仮面そのものが光っているかのか、それとも仮面の裏側の欲望が光っているはわからなかった。

私は群衆の中で人を探していた。とは言っても探し人がどこにいるかはわかりやすい。一番人が集まっている場所にいけばいるのだ。

見つけた。

「生徒会長、ちょっといいですか?」

近づくと歓談する生徒会長に割って入った。

生徒会長も鈍感ではないので、こちらに何かがあるという意図を察して、会話を切り上げてもらった。

「...それで? 何かあったのかい?」

「はい。とりあえずこちらへ」

そう言ってダンスホールから連れ出した。豪華絢爛としたダンスホールから出るすぐに別世界と見間違うような暗闇が広がっていた。古い校舎と暗がりで侵入者がいそうな雰囲気さえする。

「あちらで話しましょう」

連れだしたのは、物が雑多に置いてある物置のような部屋だった。

「それで話とは?」

扉をしっかりと閉め、鍵を掛ける。内側から開けられるが、少しの時間稼ぎはできるだろう。

「そこまでしっかりと閉めないといけない話かい?」

「はい。お互いにとってそれがいいでしょう」

「何だい?」

「端的に言います。生徒会長がヴィクトリアさんを襲おうとしているんですよね」

そう言うとまるで認めるかのように会長は笑った。

「いいや、僕ではないよ」

それでもどうやら簡単に認めるつもりはないらしい。

「ことの発端はシズカさんの予言でした。シズカさんの予言によると今日のこの日、ヴィクトリアさんが仮面を被った男に襲われ、精霊魔術の生贄として使われるようです」

「シズカ・ミナモトの予言だね。有名ではないが、昔それでひと騒ぎあったことは知っているよ」

白々しく生徒会長は言った。

正直な話をすれば、ここに至るまで時間が足りなかった。だからこそ、決定的と言える証拠は存在しない。いや、むしろ未来で起こる事象に対して証拠などと言えるものは存在しないのかもしれない。だからこそ、会長の自供が必要となった。

「そもそもの話ですが、精霊魔術に詳しい人は滅多にいません」

「そうだろうね。でも、だからといって僕が犯人というのは気が早いんじゃないかな。僕よりも詳しい人はいるけど、今この学園にはいないよ」

「そもそも大精霊の召喚術式を書き起こせる人はほぼいないでしょう」

「そんなことないんじゃないか? 先生でも知識さえあれば書ける人はいるだろう」

「起動できる人はいないんじゃないですか?」

「リア君とかだったら起動はできるよ」

私が言った疑問は全てはぐらかされる。それらを一つ一つ論破することはできるだろうけど、そんな時間はない。

「これは今まで思ったことがありましたが、どこか被害妄想のようで考えないようにしていたんです?」

「ふむ、それは一体?」

「犯人はずっと未来を知っていたのではないかと思うのです」

私が生徒会長を疑った理由はそこだ。

そう言うと生徒会長は笑った。

「面白い仮説だ」

「正直今回の事件は何もわかりませんでした。だってまだ起こっていないのですから、起こっていないことの証拠なんてありません」

だからこうして起こる前に潰そうとしている。

「それならどうして僕なのかな? 何か怪しいことでもしていたかな」

「行軍訓練」

そのことを言っても何を言っているかわからない様だった。もしかしたら反応するかと思ったが、やはり弱かったらしい。

「行軍訓練の前に会長は演説を行いましたよね。その時、『生きて帰ってくる様に』と言っていましたよね。でも、普通に考えて行軍訓練はある程度の安全が担保された上で行われています。あの時は何も思わなかったですが、思い返すと会長の注意喚起はあまりにも物々しいものだと思っていました。結果的に見ればですが、会長の言うことは100%正しかったようです。まるでどこか未来でも見えているようだと思っていました」

「ああ、あれのことか? あれにそんな深い意味はないよ。ただ、皆に意義を持って取り組んでほしかっただけさ。悪いが、それこそ未来でも見えているものなら止めていたさ」

確かにそう言うだろうと思った。

「そうかもしれません。しかし、先日のツバキさんの件はどうでしょうか?」

「火の精霊の件かい?」

「あれにはおかしなことがいくつかありました。まず、どうして精霊魔術が発動されてしまったのか? 誰が発動したのか?」

「それにはいくつかおかしな点があると言えど、わからないという結末だったじゃないか」

「そうですね。わからないという結末でした。ただ、あれには大きな疑問が残されていました。あの時わからなかったのは、ピンポイントでツバキさんを生贄にするように発動することがどうしてできたのかということなのです。誰が発動をさせたかよりも、どうやって発動させたかの方が大事なのです」

息継ぎをする。そして生徒会長に口を出させない様に喋った。

「遠隔で魔術を発動させる方法は幾らかあります。でも魔術陣、それも精霊魔術の召喚といった難しい魔術陣は予め書く必要があります。ピンポイントで狙ったようにツバキさんを巻き込む為には、まるで未来でも見えていないとできません」

「それで未来を見て、狙ったと? ちょっと意見の飛躍なんじゃないかな。まだリア君が誘導したとか、リア君が起動したとかの可能性が高いんじゃないかな?」

往生際が悪いとは思うが、確かにどれも可能性の話で証拠としては弱い。

「マリー君、もう少し疑うにしても何かあるんじゃないかな? それだと勘と殆ど変わらないよ」

そうだ。最初からこんなもの勘に過ぎない。

「そうですね。私が言っている事実は、状況証拠にも満たない違和感の積み重ねに過ぎません。ただ、生徒会長が犯人だと言われなければ、これらもただの違和感で終わっていたでしょう」

だけど、きちんと証言してくれている人がいた。

だから、確実にあの時誰が犯人かはわかったのだ。

生徒会長は今度は本当に虚を突かれたように聞き返した。

「一体それは誰が?」

「———火の大精霊です」

会長はその言葉にキョトンとした顔を見せた。

「あの時、火の大精霊に召喚し終わったあと、私たちは誰が召喚したのかと聞きました。しかし、これの意図としては犯人が誰なのか? という問いでした。最初生徒会長がいる方向を指しましたが、その後ろにリア様がいたので、それを文字通り受け取って、リア様が召喚したと答えたと思ったのです。しかし、火の大精霊は正確に答えを出していたのです。あの時、会長を指差したのだから。私たちが生徒会長がやると思っていなかったから、その答えから目を逸らしていただけでした」

「生徒会長、召喚術式をやったのは、あなたじゃないんですか?」

ここまで責め立てても、まだ、確定的とは言い難かった。何しろ途中未来視という他の誰にも知覚できない要素があるのだ。ミステリー小説の様に綺麗に推理することなどできない。

「そうか。僕も気づかなかったな。あの時の大精霊は文字通りリア君が召喚したんじゃないかと答えたのではなく、僕が犯人だと言っていたのか。悪いけどそれには本当に気づいていなかったよ」

「それではやはり?」

「しかし、君が疑うように僕が犯人だったとして、僕も未来視の固有魔法を持っていたということかな。君も知っているように同じ固有魔法はありはしないよ。シズカ君が言っていたことを嘘だと断じるならともかくね」

もはやここまで行くと詭弁に過ぎない。だが、生徒会長は確かに未来が見えているように行動していた。

シズカさんが見た未来視と同様の景色を確かに見ていたのだ。

「でも、それは会長が未来視を覗き見したとしても成立しますよね」

「・・・・・・」

今度は演技でも、嘘でもなく本当に押し黙った。黙らせた。

「私も今回の一件で未来が見えるシズカさんの魔法を見て、納得がいきました。もし未来を視るなんていう、とんでもない魔法が使えるのなら普通の推理は成り立ちません。だって犯人の動機まで未来にある可能性があるのですから。それに魔法は同じ魔法はなく、再現性がないと言えど、未来視と似たような魔法を持っていてもおかしくはない。しかし、今までの記憶を遡ってみた結果、すこしだけおかしなことがあるのです」

「おかしなこと?」

「私が生徒会に入る前のことです。私が生徒会に入る前にこの生徒会をじわじわとぶち壊してやろうと思っていたのですが、生徒会長に見破られてしまいました。しかし、よくよく考えればこれはおかしなことなんですよ。だって私は何も実行に移せていないのだから。生徒会長の威厳に騙されてしまいました。未来を視る能力を疑いましたが、未来を見る能力は未来が必ず叶ってしまう。つまり、この私の企みだけは未来視で見えてはいないはずなのです。だって叶ってはいないのですから」

「...なるほど。君は賢いね」

観念したように笑った。

「そう、まるで見透かされたようだと感じました。しかし、それが比喩表現ではなく、本当に見透かされていたとしたらこの疑問も全ての矛盾も解決します。生徒会長、貴方の魔法は未来視ではなく、心を読む魔法なのではないのですか? それだったらシズカさんが視た未来も全て見ることができるはずです」

「君は本当に怖いね。僕の企みの殆どは暴かれてしまったよ」

ただ会長は罪を認めた。にも関わらず追い詰められた感じでもなく、焦った感じでもない。その理由はわかる。何故なら私が脅威ではないと思っているからだ。

「それは私の心を読んでわかっていたからこんなにも落ち着いているのですか?」

「いや、勘違いされると困るのだが、心を読む魔法は結構準備がいるんだ。部屋単位でしか発動できない。と言っても私室にあるわけじゃないよ。図書室においてあるんだ。それにそんな精度が高いものとは言えなくてね。対象が強く思い浮かべたものしか読み取れない。まあ、いうなれば思い悩んだ心象風景を視ることができる魔法とでも言えばいいかな」

「そうですか」

確かに図書室で思い悩んでいた。それはシズカさんも同じだろう。こういう場でなければ、発動する場所が良いなと素直に感嘆してしまうだろう。

「では、会長、貴方は私程度なら魔術でどうにかなると思っているのではないですか?」

「ああ、いや、そういったわけではないよ。決して」

まるで戦う相手を気遣う様に生徒会長が言った。私は次の一手を用意しつつ、この違和感を感じ取っていた。この部屋にわざわざ連れてきた意味がある。

「だってこの部屋にはカルロスが隠れているんだろ」

「ッ!」

そう言われたら出ないわけにはいけないだろう。カルロス先輩は物音を立てながら出てきた。

「流石だね。アレックス」

生徒会長は後ろにいるカルロス先輩のことを見もせず、私と目を合わせていた。

「マリー君が警戒しているのに、僕と丸腰で相手してくれるとは思っていないよ。リア君はさっきヴィクトリア嬢と一緒にいるのを見たし、マリー君が頼れる強い人間は君くらいだろう。まあ、副会長がいたりしたら、恥ずかしい思いをすると思ったけど」

「じゃあ、バレちまったから聞くけど、今の話は本当なのか? マリーには悪いけど、まるきり信じてついてきたわけじゃない。今もドッキリなんじゃないと疑っている」

カルロス先輩には無理矢理来て隠れて貰ったのだ。会長にバレると思い、直前まで何も言わなかった。だから、ここでカルロス先輩が心変わりしたら、私は負けるだろう。

でも、カルロス先輩が自分の正義を貫いてくれると思ったから連れてきた。

「だから言っただろ。少なくとも僕が行ったことは全部見抜かれたって」

「…ッ! それじゃあ」

「そう、僕が犯人だ」

「じゃあ、侵入者の件も嘘だったんだな!」

「え? あれはマリー君の策略かなんかじゃないの?」

「え?」

むしろあれこそ生徒会長が私たちをバラバラにするための策略だと思ったのだ。だからこそリア様をヴィクトリアさんに付けた。

「困ったな、じゃあ、おそらく別件だ。まあ、今はいいじゃないか。」

良くはないが、この一件に比べたら遥かにどうでもいいのは確かだ。

「それに僕が犯人だと認めたからって、まだ話は終わっていないしね」

生徒会長は言った。

「君たち、いや、正確にはマリー君か。僕が何の目的で企んでいるのかはわかっていないのだろう?」

「...それは」

考えていない訳では無い。ただ会長がそうするメリットが見つからなかった。火の大精霊が教えてくれてたこと以外に明確な確信はなかった。

「だって何を企んでいるかがわかっていれば、こんなところにいないだろうからね」

ここまで生徒会長を追い込んだ筈なのに、何故か態度が一向に変わらない。むしろしてやったりという態度で自信が見える。こうなってくると追い込まれている気さえする。いや、こんなものはまやかしだ。

「適当なこと言わないでください。私を脅しても無駄です」

私が言っていることを無視して会長は続けた。

「正直言えば、そっちがわかっているものだと思ったよ。というよりそんな少ない根拠であてられるとは思ってもみなかったしね」

「それは最初から生徒会長を疑っていたからです」

行軍訓練以降疑っていなければ、たどり着かなかったかもしれない。

「僕は君のこと信頼し始めていたよ。本当に、心から君が生徒会に入ってくれてよかったと思っている。君を入れたのが僕の功績の一つさ」

今敵対視していると言えど、生徒会長に言ってもらえるならば、光栄なセリフだ。

それが本当ならば。

会長はただ真剣に私を見つめた。

それこそが何か重要な局面で私の優位性がひっくり返ってしまうような、そんな気さえした。


「ねえ、マリー君。僕も推理をしていいかな?」

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