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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第四章 意味をなさない言葉

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#12 ヴィクトリアのために

 明らかに生徒ではない風貌の人が生徒会長に一直線で向かってきた。部外者かと警戒するが、どうやら衛兵らしいことは直ぐにわかった。衛兵が生徒会長に何かを伝えると生徒会長の雰囲気が変わった。

「皆、話すことがある」

生徒会の各々は、生徒会長へと意識を向けた。

「仮面舞踏会で事前に懸念していたことがある。それは外部の者が紛れ込んだ場合、非常に分かりづらいことだ」

それ自体は事前に共有されていた。だからこそ、生徒会のメンバーに緊張が伝わった。

「今、何者かがこの学園内に侵入した様だ。先程怪しい人物が校内に侵入したと連絡があった」

「中止します?」

副会長は躊躇わず、主張した。副会長の懸念も最もである。侵入者が何者かわからないが、この学園に間者、暗殺者が入り込んだ可能性はゼロじゃない。それにあの予言がある。

「それは、最終手段にしたい」

生徒会長は意外にも拒否した。

「というのも私がもし暗殺者だったら、この混乱に乗じて寮に潜むだろう。皆が寝静まった時に、暗殺を狙う。もしくは混乱を起こして暗殺を行うかもしれない。」

確かにそれは考えられることだ。

「逆に言えば、今この状況は暗殺が起こりづらいとも考えられる。僕が暗殺者だったら逃げ道が用意できていないと暗殺しないからね。上手く混乱を起こすことができなければ、捕まるだけだからね」

「じゃあ、どうするんだ?」

「基本的には警戒しつつ、何もしない」

「なっ!」

その選択にカルロス先輩は驚いていた様子だった。

「僕たちには、情報がない。そして狙われているのが、君等という可能性もゼロじゃない。ただし、これを周知してパニックを起こす気もない。だから、君等は何事も無かった様に過ごしてくれ」

生徒会長はその発言に恥じなかった。

「こちらから探すことすらしないのか?」

カルロス先輩がそう言うと生徒会長は周りを見渡した。そこには見渡す限りの仮面がある。照明に照らされてか、それとも欲望渦巻くせいか、仮面がギラギラと輝いて見える。それが誰なのか、果たして本当に生徒なのかをわかる者はいない。

「もし、リア君より強い魔術師がいたらどうする?」

それは、あくまで可能性の話だが、勇み足を止めるには十分な想定だった。

「でも、そんなの」

「いないかもしれないが、じゃあ、マリー君より強い魔術師は? カルロス君より強い魔術師はどれくらいいる?」

答えで言えば、私より強い魔術師はこの学園でも沢山いる。そしてカルロスさんより強い魔術師は少ないだろうが、確実にいると想像できるくらいにいるのだ。

「何も魔術師だけを考えればいいわけじゃない。人が蠢くこの空間の中で、針に毒を塗った暗殺者に近寄られて、気付くことができるか?」

「…できないです」

あえて私はできないと言うことにした。じゃないとカルロス先輩は納得しないと思ったからだ。

「残念ながら入りこまれた時点で後手後手だ。今更手を打った所で君達を危険に晒すだけだ」

「しかし」

それでも納得できないのかカルロス先輩は食い下がった。

「わかった。それならば、マリー君と一緒に下手人を捜査してくれ」

「いや、それはマリー君が危ないだろう。戦力という面では、リア君が」

「悪いがリア君はダンスホールにいて貰わないと困る。人混みを楽々と飛び越えられるし、リア君がいるだけで抑止力がある」

「しかし」

「多分会長は私を連れていけないなら、行くなと言いたいんだと思います」

そもそも生徒会長は、カルロス先輩ですら危ないと言っているのだ。その勇み足を止める為に、私を相棒にしたに過ぎない。

「でも、私はカルロス先輩と共に行きたいです。少なくとも、下手人がこのダンスホールに入るには、幾つか条件が必要です。薔薇が必要なこと、仮面が必要なことです。これを少なくとも満たさないといけないですが、条件としてはさほど難しくないです」

難しくないからと言って簡単なわけではない。

「と言っても、可能性として、これらを用意できない可能性もあります。そこで人気の無い場所などの声掛けをするのは一定以上の効果があると思います」

例えこれから起こる犯罪を直接防げなくとも、防犯には確かな意味があるのだ。

「人気の無い場所か…」

カルロス先輩の勇み足が何故か止まった。

「会長、やっぱりダンスホールで警戒することにします」

「え!? なんでですか?」

突然のカルロス先輩の変わり身の早さには少し驚かされた。

「いや、マリー君。言っては何だか時期も時期だよ。今日は、仮面舞踏会という特殊なイベントだよ? そんな中で男女が茂みに入ったら...」

そこまで言ってカルロス先輩は笑いながら私に聞いた。

「そこまで言えばわかるよね?」

「え?」

何が?

「え? ってこっちがえ? だよ」

何もわからないでいると先輩達は、頭を抱えだした。

「カルロス先輩、最低です」

イワンコフ先輩がカルロス先輩を見下すように咎めた。

「何で俺なんだよ。むしろ頑張って隠しただろ」

「まあ、マリーさん意外とお嬢様してるというか、染まってないというか」

「大切に育てられたというか」

皆は私がわからないことを話している。私が城壁の外の人なので、そんなイメージ通りの人ではないのだが、何故か私は高貴な人間だと勘違いされるのだ。

「奇しくも空気が和んだね」

生徒会長はまとめようとしている。

「まあ、それはそうだな。このまま最後まで頑張ろう」

副会長は会話を終わらせようとしていた。

何故かわからないが、私以外は一体感が形成されていた。

「さっきのは一体何の話なんですか?」

「「「「・・・・・・」」」」

誰も喋らずここから去ろうとしていた。

「さあ、見回りとまでは行かないが、ダンスホールを回ってこようかな」

「僕も付いていきます」

「会長、馬鹿達を放っといて行きましょう」

「そうだね」

とカルロス先輩とイワンコフ先輩、生徒会長と副会長の2人一組になって別れて行ってしまった。

何だったんだ。

「リア様」

「#!」

何故かびっくりしていた。

「行きましょうか」

「#」

そう言うと安心した様に直ぐにいつものリア様に戻った。

「何だか疎外感を感じてしまいます。来年は女子をもう1人入れましょうか」

そんな権限もないのだが、言ってみる。

リア様はそんな私を見てただ笑うのみだった。


 しかし、リア様と二人きりになれたのは幸運というしかないだろう。

「リア様、ヴィクトリアさんの所に行ってくれませんか?」

「#?」

リア様は何を言っているかわからないという顔をしていた。

「いえ、実はこれは簡単な話なのです」

そう言ってリア様に説明した。

「そもそも私達は未来がわかっているのです。だからこのお話の結末がどうなるかはわかっています。生徒会長のお話が本当だとすると侵入者は、ヴィクトリアさんの方に向かって行くでしょう。逆に言えばそれ以外は注意しないといけないのですが」

それでもわかっていることは多い。

「だからヴィクトリアさんにリア様が付いて上げて下さい」

一つだけわかっていることは、ヴィクトリアさんが捕まることだけだ。

でも、わからないことが一つある。どうやってリア様の隙を縫ってヴィクトリアさんを奪い取るのかということだ。リア様を超える魔術師は国中を探しても1人もいないと言っても過言ではない。シズカさんの言う未来が必ず起こるとは未だに思えなかった。でも、それでも起こる可能性を考えて私は動く必要があった。恐らくは何かしらのリア様の気を引く方法があるのだ。

「#」

リア様が頷いた。

「その上でいくつか作戦があります」

「#>#」

何を手伝えばいいと言っているが、その必要はない。

「いえ、事前に罠を張るだけなので、気にしないで下さい。リア様がヴィクトリアさんの側に付いてくれる方が嬉しいです」

「私が何だって?」

「あっ」

美しい黒のドレスに身をまとった猫の仮面の女の子が近付いてきた。仮面を被っているがどう考えてもあのふてぶてしい態度はヴィクトリアさんだ。

「何だか失礼なこと言ってなかった?」

「気の所為ですよ」

「#」

「ふーん、まあ、良いけど。それでどうなったのよ」

どうなった?

「どうなったとは?」

「はあ!? 決まってるでしょ。 デートよ。デートあんたら一緒に何か行ったんでしょ」

全くそれどころじゃなかったというのに好き勝手言ってくれる。

「というか、この間———何もありませんでしたよ」

何故一度聞いたことを再度聞くのかと思えば、私がリア様の前でボロを出すのを期待しているのだろう。

「何もなかったってことはないでしょ」

まあ、その通りなのだが。

「でも、適当に回ってお食事をしただけですよ」

「ふーん。意気地なし」

「なっ」

それには反論をしたかった。

「いや、途中に急な予定が入っただけで…」

そこまで言って口をつぐんだ。

「何よ。急な予定って?」

しまった。何で余計なことを言ってしまうんだろう。

「…何でもありません」

「何よ。教えなさいよ」

「何もありませんでしたし、私が意気地なしなだけです」

「あるって言っている様なものじゃない」

私の態度に諦めたのか、やれやれとばかりに話題を変えた。

「それよりもさっきのダンス良かったじゃない」

「ありがとうございます。練習をした甲斐がありました」

「まあ、最終的には生徒会長に目が行ったけど」

「それは、私も驚きました」

「何? 事前に聞いてなかったの?」

ヴィクトリアさんのマスクの下から笑顔が溢れていた。

「会長も人が悪いですからね」

「…それでダーシーのことだけど」

ヴィクトリアさんからの躊躇いのない疑問が私に突き刺さる様に投げかけられた。

「…それでは、リア様ヴィクトリア様をよろしくお願いします」

私はその場から逃げた。私としてもまだ触れられたくない話だったのである。

「ちょっと、逃げんな。何であんたによろしくされないといけないのよ!」

その場から立ち去った。チラリと後ろを見るとリア様がヴィクトリアさんの腕を組んでいた。

多少無理のある去り方だったが、問題があるわけでもあるまい。でも、申し訳ないが、私には、やることがあった。今日この日の為に色々と準備したのだ。

ヴィクトリアさんをやらせはしない。

そう、これはヴィクトリアさんの為なのだ。

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