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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第四章 意味をなさない言葉

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#9 予言の対策

 帰ってから、というよりは話を聞いてからずっと頭の中でどうすればいいか考えていた。あの後リア様とのデートを続けるほど、薄情にはなれず、結局デートの後、生徒会長の元を訪ねていた。あるものを返してほしかったのだ。

「生徒会長、実は折り入ってお願いが」

「ああ、ちょうどよかった。実は君から借りていた本の写本が終わったから返そうと思ってね」

「ああ、本当ですか? ずいぶん早いですね」

丁度よかった。

「流石にすぐに返したくて急いでやったさ」

「ご自身でやられたのですか?」

生徒会長なら忙しいので、誰かにお金を払わせてやるかと思った。

「本の中身を丸ごと覚えたいのなら写本するのが一番早いのさ。特にこんな難しい本だとね。作者の手癖もわかるし」

成程。その考えはなかった。後で自分も時間があったら、写本でもしてみようかな。

「それでお願いとは? こんな休みの日に訪ねてくるなんて」

「いえ、この本を返してほしくて、今日精霊魔術に覚えのある方に出会ったので、その方に見せてみようかと思いまして」

もちろん嘘だ。

できるだけ知らせないようにとのことなので、適当な嘘をついておく。

「そうなのか。だったら僕も是非紹介してほしいな」

「ええ、機会がありましたら消化します」

そう言って本を返してもらうと図書館へと向かった。


 シズカさんには帰り際図書館で待つようにお願いしていた。図書室に入るといつもの場所で待っていたが、いつもとは違い、緊張するように本も読まずに待っていた。

「ごめんなさい。やっぱりあなたとリア・クローバーとでどこかにお出かけをしていたのでしょう。気遣えればよかったのだけれど、あまりにもタイミングがなかったの」

「わかっています。気にしないでください」

それに今頃謝られても休日は戻らないのだ。

「今、私たちの問題点はいくつもありますが、肝心の精霊魔術に無知すぎます」

ここで生徒会長に手を借りられればよかったのだが、生徒会長に教えてはならないとなれば、自分たちで調べるしかない。

「ツバキさんの時もそうですが、精霊魔術の媒介に人を使うことに何か意味があるのでしょうか?」

本を改めて開いてみると以前見たページで止めた。流石に全部を読んで理解するような時間は残されていない。

「本にはこう書いてあります。【任意の精霊を呼ぶには検索句が必要になる。検索句が足りなければ、適当な一番近い精霊が選ばれてしまう。】 この言葉をそのまま信じ、かつ人を生贄とすることに意味があるとするのならば、検索区=人という等式が成り立ちます」

「でも、別に意外でもないわ。魔術的な意味あるかは置いて、多くの儀式の供物に意味がある」

「ええ、人のみ単品で意味があればですが」

「どういうこと?」

「昔リア様と地中に閉じ込められたことがあるのですが———」

「それは突っ込んだ方がいいの」

「スルーしてください。それで閉じ込められて精霊魔術で土の精霊を召喚しようと検索句を使おうとリア様自身を検索句としたのですが、召喚に失敗しました」

「———それは判断に困るわね」

「はい。その時の召喚に失敗した条件が検索句の失敗だと思っていましたが、別にそれ以外の可能性もありますし、こんな情報役に立たないかもしれませんが、一応」

「———そもそも検索句というキーワードも初めて聞いたものだし、それくらい精霊魔術についてはあまり情報がない」

そして、それに詳しい生徒会長にも助けを求めることができない。

「でも、人そのものに意味があるとすれば、ヴィクトリアさんを使って、ヴィクトリアさんの要素に関連がある精霊を呼び出そうとしていることは確かです。それにツバキさんから聞いたことによると彼女の母が死んだときには、非常に強い炎の精霊が現れたと言っていました。もし、その精霊とあの時ツバキさんを媒介に召喚した大精霊が同じ精霊ならば、人の要素を媒介に精霊を呼び出せるという理論は合っていると思います」

「では、ヴィクトリアが過去にあったことがある精霊か何かを召喚しようしているという可能性があるということ?」

「はい」

ツバキさんのときの犯人は誰なのかがわからなかった。そして、その目的もわからない。精霊召喚で一体何を召喚しようとしているのだろうか? もしさっき言った理論が当たるのであれば、私の友達が二回も召喚魔術の媒介になる。ツバキさんの時は必要な魔力が足りなくて暴走したと聞いているが、結局あれが誰のせいで行われたのか分からなかった。犯行手段的に、犯人は同じに思える。もし、犯人が同じなら今回にも意図があるはずだ。

「怖いのは精霊魔術が成功したときよりも失敗したときです。仮に炎の大精霊を召喚したとするとヴィクトリアさんがあの業火に耐えられるとは到底思えません」

「じゃあ、予知通り召喚自体はさせて、召喚するのを成功させないといけない」

「そうなると思います。ただ何処で召喚するのか、いつ召喚するのか、そして誰が召喚するのかはわからないといけないと思います」

「じゃあ、結局振り出しに戻った形よね。仮面舞踏会当日になんとかするしかないのか」

「はい。ですが、一つわかったことがあります」

「勿体ぶるけど、それは何?」

「言いません」

「いや、冗談ではなく」

「こちらも冗談を言っているつもりはないです。そうではなく、今考えたことを言うつもりはないということです」

そう言うとシズカさんは少し考えて答えた。

「つまりあなたは犯人の目星がついているということ?」

「はい。その通りです。ただ証拠がありません。消去法とちょっとした勘なので、確定情報として扱うと二人して間違った方向に思いっきり進む可能性があります。だからこっちで勝手に動きます」

「そうは言うけど、二人で合わせて動いたほうが、もし何かあったときに対処できる幅が大きいのでは?」

「ですが、二人合わせて動くと何かあったときに手遅れになる可能性もあります」

「そこはリスクをどう取るかでしかないか。わかった。じゃあ、あなた達に任せる」

「はい。どうせヴィクトリアさんを守るのはリア様に任せようと思います。よくも悪くも私が近くにいては邪魔ですから」

「なるほど最初から別行動というわけね」

「はい。結局は場所と時間さえわかれば対処できますから、探すために手分けをしたほうがいいと思います」

「そういうことならそれで行きましょう」

「はい」

そう言って二人で別れた。


「はあ」

自室に帰ってから思わずため息が止まらなかった。

朝まではウキウキでデートのことを考えていたのも最早遠い過去のようだ。

「そんなに上手く行かなかったの?」

同室のアンナはきっと私がデートが上手くいかなかったから落ち込んでいると思っているだろう。

「ああ、いえ」

そうではないと弁明しようと思ったが、よくよく考えれば私が考えたデートプランなんて上手く言っていない。よくわからない市民の恰好をして、市民のような遊びをして、知らない人の家にお邪魔するなんて普通のデートとは思えない。それでも楽しかったのは楽しかったのだが、男女のデートとは少し違うような気がする。いや、男女のデートの参考資料なんて小説や劇でしかないので、わからないと言えばわからないのだが、これがしたかったことかと言われると違うと思ってしまう。

「想像していたのとは違いましたが、楽しかったのは楽しかったです。それとは別の悩み事が舞い込んできただけで」

「悩み事?」

そう訝しげに聞き返されるが、答える間もなく、悩み事の方が飛び込んできた。

「どうだった~?」

その『悩み事』はとても晴れやかな笑顔をしていて、主人の帰りを待つ犬みたいに元気に飛び込んできた。

「ドアのノックくらいしてください」

全くこっちの気も知らないで。

まあ、シズカさんが持ってきた悩み事がなくても、デートは普通とは違ったものなので、彼女に罪がないと言えばないのだが。

「なんだうまく行かなかったの? あいつも駄目ねえ。男っていつもそう。自分が楽しいところばかり連れていくんだから」

自分が楽しいところ? じゃあ、あの市民の恰好をするのも、そこら辺の屋台で食べることもリア様が楽しいとこだってことだろうか?

いや、流石に考えすぎか。

別に今までリア様と外に出る機会がなかった訳ではない。リア様はごはんの好みが特別あるわけではない。よく言えば好き嫌いがないが、悪く言えば食に興味がない。屋台のごはんだって食べる機会はあるが、リア様から提案をされたことはないのだ。

じゃあ、なんでだ?

そこで一つ浮かんだ?

もし、私が小説や大衆演劇のようなデートを立てていたように、リア様もこれが理想のデートだったら? すこし考えが飛躍しすぎかと思うが、もし、過去に同じようなデートをしていたとしたら?

「マリー?」

そうだとしたら目の前のヴィクトリア様がそのお相手?

「はい? なんですか?」

「なんですか。じゃないでしょ。デートどうだったの?」

「いえ、中々楽しかったですよ。私が思ったのとは違いましたけど」

「ふ~ん」

そんなわけないか。一番文句言いそうだもの。

それに今はそれどころじゃないだろう。

ヴィクトリア様を見て、自然と浮かれていた心を襟を正すように元に戻した。

「ヴィクトリアさんは———」

誰かに狙われている。でも、それがなんでかわからない。敵を多く作るタイプではあるけど、それと同じくらい味方をいっぱい作る。意識して作っているかどうか知らないが、派閥というものがあるのなら、ヴィクトリアさんの名前が挙げられるだろう。もちろん彼女がその派閥を伴って何かをしたことはない。でも、人は集団になるだけで大きな力を持ってしまうし、その力を行使しようとしまいと大きな影響を及ぼしてしまうものだ。

「最近普段と様子が違う人を見ませんでしたか?」

未来予知というのがどれだけ信頼できるか知らないけど、ヴィクトリアさんが狙われるとしたら、ヴィクトリアさん個人を狙った怨恨や恨み、嫉妬などが第一に考えられる。誰でもいいなら、わざわざヴィクトリアさんじゃなくてもいいのだ。

「———」

何も期待していなかったが、ヴィクトリアさんが指を指した。

「あの、こっちは真面目に聞いているんですよ」

「私も真面目に指を指しているわよ」

ヴィクトリアさんが指を指した相手は私だった。

「この二、三週間で貴方より変な奴はいないわよ」

「むっ」

流石に言い返せない。変だった自覚はあるし、思い返すだけで身体が熱くなってどこかへと逃げ出したくなる。

「そ、そんなことないですよ」

無理矢理誤魔化そうとするが、流石に無理があるのはわかっている。

「はいはい」

なんだその態度。ムカつくな。子供扱いされているみたいだ。

「まあ、勇気を出して誘っただけ合格点にしてやりましょうかね」

「なんですか、その態度は」

だから、上から目線がムカつくとあれほど言ったのに。

「また誘えばいいのよ」

え?

ヴィクトリアさんからそんな言葉が出てくるとは思わなくてびっくりした。

「どうせ恋愛小説染みたシチュエーションを期待してたんでしょうけど、今回がそう上手く行かなかったら、また一緒に行けばいいの。何度だって連れ出して、たまに喧嘩して、ダメだししてやればいいの」

「いや、それは———」

リア様と喧嘩するなんて考えられない。どの立場で言うのだというのもあるし、そもそも嫌われたくない。

「マリー、貴方はなんでもかんでも思い通りに行くと思いすぎなのよ。実際貴方は優秀だから思い通りに行くのかもしれないけど、人間ってそんなに思い通りに行かないの」

「そんなこと———」

「思ってるよ」

ヴィクトリアさんの意見に反論したかったけど、反論は見つからない。

「でも、それが悪いことじゃない。貴方が他人をわかろうとして、人を信頼している人だと思うから」

「私、そんな良い人じゃないですよ」

これは本心だ。私は我が身の可愛さだけを気にしてずっと生きている。

「貴方が勝手に期待して、勝手に失望するような奴だったらもっと嫌な奴だけど、貴方はそういうことしないのはわかってる。でも、人を信頼しすぎ」

「信用はしていないです」

信用していないからこそ、色々な策を練って、どう転んでもいいようにしている。

「そうね。信用は中々してくれない。だから、むしろもっと信用はしたほうがいいよ。信用と信頼を足して二で割ったら丁度よくなるんじゃない?」

意味がわからない。信用と信頼なんてそんなに変わらないじゃないか。

「あんたが見たくないものをわからない振りするのも、わからないでもないけど」

「———もう説教するくらいなら出て行ってください!」

全く一体何なんだ。気持ちよく喋るヴィクトリアさんを部屋から追い出すと机に向かって日記を書き始める。

「ヴィクトリアさんも心配症だね」

さっきまで黙っていたアンナが口を開いた。

「どこがですか! ああいうのはマウントを取ってるって言うんですよ」

人が恋愛経験がないのを馬鹿にしているのだ。

「そうかな? ヴィクトリアさんはあんなにマリーのこと見てるんだって驚いたけど」

「———」

アンナの不思議な感性には閉口してしまう。

全くヴィクトリアさんもアンナもこっちの気を知らないで。

いや、未来予知の内容なんて知らないのも当然なのだが、それでも勝手なことを言われるとイライラしてしまう。

日記を書く手が一切動かない。

それに書く内容を考えなければいけないので、自由に書くこともできない。

「寝ます」

そう言ってベッドに入った。

 寮に帰ってから、何かが引っ掛かっていた。

「アンナ、私何かを忘れている気がするんです」

「何って何が?」

「それがわからないから聞いているんじゃないですか?」

「告白することとか」

「……それは、忘れて来たわけではありません」

「うーん、恥じらいとか」

私はベッドから起き上がって、頬を引っ張った。

「いひゃい、いひゃい、やひゃひはを忘えてえうよ」

「優しさも忘れていません。全く昔のアンナはあんなにも可愛かったのに何処でそんな皮肉を覚えてきたんですか?」

アンナは私の後ろを指差した。

「後ろには何もいないですよ」

「それは本気で言ってるの?」

全く小さい時のアンナはあんなにも可愛かったのに。

「まあ、十中八九ヴィクトリアさんのせいでしょうが」

「ああ、うん。マリーがそれで良いならそれで良いよ」

「それで私はなにを忘れているのでしょうか?」

「だから知らないってば」

「考えることが多すぎて何か重要な事を忘れている気がするのですが」

私はこの日思い出せずに眠ってしまった。

不幸なことについぞ机の上の白薔薇の事を思い出すことは無かったのである。

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