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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第四章 意味をなさない言葉

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#8 シズカの話

 私がシズカさんについて知っていることは、多くない。私より学年が一つ上なこと。勉強ができること。何かの理由で喋れないこと。人を邪険にしている様に見せかけて優しいこと。そして意外と寂しがり屋なことだ。

「私がここに来た理由だったわね」

そう、私たちがこのビブリオテに来ることがわかる人は誰もいないはずだ。

「中央国に来た時以来、私はこのビブリオテカのことを他の誰にも話していないです。私とリア様がここに来ると知っているものは誰もいないはずです」

「...そう、そうだったの。それは知らなかったわ」

だったらどうやって? いや、それよりも。

「喋れないのでは?」

「喋れない訳ではないのよ。人と関わりたく無かったから喋らなかっただけで」

どうしてそんな面倒臭いことをと思ったが、彼女もおそらく事情があるのだろうと察せられた。

「どうしてそんなことを? 私は貴方が人嫌いだとは思っていませんでした」

「私もこんなに人が、好きだったとは思わなかった」

シズカさんは含みがある様に言った。私の質問に答えるでもなく、彼女は言った。

「貴方は固有魔法という言葉を知っているかしら?」

「いや、質問に…」

「後で答えるから待ちなさい。まず前提を話さないといけないわ」

納得はしていないが、彼女に従った。

「それで固有魔法ですか?」

聞いたことはないが、予想するに一般的に使われている魔術とは違うということだ。

「そもそも魔術と魔法の違いは何か知っているかしら?」

「魔術が人間が再現できるもの、魔法が再現できないものと聞いています」

「そう、その認識で間違っていない。私たちが精霊が扱う魔法を使うことができないように、人間には使える魔術に限りがある。もちろん魔術でそれらしく見せることはできるでしょうけど効率が悪いものもある。しかし、固有魔法と呼ばれるものは、魔術で再現できない魔法、そしてその人しか使えない魔法のことを言うのよ。そして稀に一般的な個人が魔法と言われるものを持つことがある」

「その魔法を持っているということですか?」

「そう、私の固有魔法は未来を見ることができる。私の望む望まず関係なくね」

望む望まず関係なくという言葉が気になったが、ひとまず置いた。

「それで私たちがここに来ることを知っていたと」

「そう、と言っても私は未来の光景しか見れない。私も何度か来ているから、この店だとわかったというだけだけよ。もし私が全く知らないお店だったらわからなかったわ」

そうだったんだ。いや、そこはよくよく考えればおかしくないはずだ。だって私に教えてくれた通りすがりのおじさんも知る人ぞ知るという感じだった。しかし、私たちが来る場所を予想できたとしても、わざわざ来るとは思えない。

「それで何のためにここに?」

私たちを驚かしたかったわけではないだろう。

「私は貴方たちの友人のヴィクトリアが誘拐される未来を見たの」

「ヴィクトリアさんですか?」

私とシズカさんの仲で出る名前の中では意外だった。

だって別に共通の知り合いという訳ではない。

シズカさんは未来を滔々と語った。


「…というわけよ」

シズカさんが語った未来からは様々な情報が得られる。

「確認なのですが、その未来視では、ヴィクトリアさんが死ぬという訳ではないんですよね」

「ええ、ただ、決して死なないわけでもないわ。だから貴方達に協力を仰いでいる」

「二つ質問があります」

「なに?」

「一つは未来を見るという証拠はあるのですか?」

「ないわ」

そう自信満々に言った。

「ないけど、私はあの鳥の魔獣が来ることも、東の国の仮面の少女が精霊魔術の媒体になることは見えていた」

別にシズカさんを恨むつもりはないけど、一瞬それで苦しんだ仲間の顔が思い浮かんだ。

「...それを止めようとは?」

「無理よ。未来は止められない。昔止めようとしたことはあったけど、止められたことは一度もない」

止められない。

その意味がわからない。

「ヴィクトリアさんが誘拐することを止めることはできないのですか?」

「さっきも言ったでしょ。私が見た未来自体はどうやってもその通りになる。そうじゃなければ、行軍訓練だって、総合演習だって無理やり止めていたわよ」

「...そうですか」

「でも、別にヴィクトリアが囚われたという未来が見えたというだけで、ヴィクトリアが殺されることが確定したわけではない。むしろヴィクトリアが囚われただけで、召喚術式自体が成功するとは限らないの。囚われた後に助け出せるかもしれない。私たちが最低限やるべきことは、ヴィクトリアが殺されてしまうようなことは避けるということよ。確定していないということは決して殺されないという未来ではないのだから」

それはそうだ。ツバキさんはあの時業火に焼かれた。それはツバキさんが火の精霊との契約によって体に耐性が付いていただけで、もしそれがヴィクトリアさんだったら一瞬で焼け焦げてしまうだろう。

「どうにか止める必要がありますね」

「…貴方達は、本当に信じるの?」

顔を上げるとシズカさんは心配そうに私たちを見ていた。

「今更どうしたんですか?」

「いや、未来が見えるなんて」

「信じて貰えないと?」

シズカさんの表情を見ると不安と緊張が見て取れた。おそらくは今まで信じて貰えなかったのかもしれない。

「正直言えば、信じた訳ではないです」

そう言うとシズカさんの顔は更に曇った。

「ああ、そう言う意味ではなくて、それが嘘か本当かは置いておいて、どっちにも対応出来るように動けばいいと思っているのです。シズカさんの予言が嘘だったらそれはそれで良いじゃないですか。でも、本当だったらきちんと動かないといけない。シズカさんが嘘を言う人だったと思っている訳ではないです」

「わかった。わかったから」

シズカさんは少し照れた笑った。

「シズカさんは疑ってはいないのですが、予言はその通りに動くのですか?」

「少なくとも経験的には。ただリア子爵のような大魔術師が関わったらどうなるかはわからないけど」

そう言うとリア様が一言も喋っていないことに気付いた。

「リア様も協力しますよね?」

シズカさんは私の友人と言っても差し支えないけど、リア様からしたら別に義理があるわけでも何でもない。

「#」

リア様からの頷きに安堵した。リア様は今まで見た通り、強い。鳥の魔獣も竜も大精霊さえも倒してしまった。リア様がいれば仮面の男でさえも倒してしまうかもしれない。

「今回は予言によって事前に分かっていることがある」

「一つはその日の天気が雨になること。そしてもう一つは仮面舞踏会にそれが行われるということよ」

「まあ、普通仮面被る状況なんてないですからね」

1名の顔が思いついたが記憶から消す。

「そして体格から男だとわかるということ。そして魔術師としては下手したら格上ということよ」

「リア様を除いてですよね」

流石にリア様が負けるなんてことは思わない。

「それはわからないわ」

「え?」

「だって2人に協力を仰げたということは、それ以上の魔術師か、リア子爵を出し抜ける実力ということよ」

そうか彼女は、予言が外れないと思っているからそういった予想を組み立てるのか。

「とは言えど、リア子爵の実力を超える者なんて殆どいない。この世界に1人は居るか居ないかよ。だからこそ出し抜ける何かを持っているとしか考えられない」

「そうですか」

シズカさんに言われて気付いた。

私は何処かリア様を全面的に信頼し過ぎているのだ。リア様が戦えば、絶対に勝てると思っている。いや、おそらくは戦うことさえできれば、勝てるのだ。しかし、それ以外の手段だっていくらかある。

「それと一つだけ注意があるの」

「注意ですか?」

「絶対に貴方達以外にこの事を教えないで」

それは意外な選択肢だった。

「教えないのですか?」

「ええ」

「普通に考えれば、人数が多い方が有利ですよね。せめて生徒会くらいは」

「そうでもないのよ。もし、これが内部犯だった場合、その内部犯にも情報を与えることになる」

「…それは」

つまりはみんなを疑えということになる。

「私の見た未来は絶対にその方向に向かう。もし、私の見た未来をみだりに人に伝えれば、私たちの敵も知ることになる」

「改めて聞くのですが、私達が実行犯だとは、思わないのですか?」

「ヴィクトリアの友達のマリーは確率的にあり得ないし」

少し戸惑って冗談でも言うかの様に言った。

「リア子爵が犯人ならお手上げだからよ」

「ふふっ、確かにそうですね」

リア様が犯人とは決して思えないが、もしそうだったら、誰も犯行を止められないだろう。

「だから貴方達以外に教えないで欲しいわ。特に生徒会のメンバーには。あなた達は一年生だから仕込める可能性が低い。でも、他のメンバーだったら何か仕組むことができるかもしれない」

「まあ、一応全てのイベントに関わっていますからね」

「#」

「とは言えど、生徒会の誰かが行ったとまでは断言できないし、もしかしたら1年生の誰かでもおかしくはない」

「そうですね。起こった事件的には鳥の魔獣と竜の事件だけは人が起こしたとは言いづらいですが———」

「関係がないとも言い切れない」

「一般的には竜が移動したから鳥の魔獣が動いたと言われていますが、去年はこんなこと起こっていないのですか?」

「そりゃあ毎年1人か2人魔獣に食われるくらいはあるけど」

つまりは事故みたいなものということだ。本当にそれらが人為的に起こされたかどうかはわからない。

「それ以外は流石にないですか。過去の手段を考えて、火の大精霊の事件と今回の事件は確実に関係がありそうですが」

「少なくとも犯人は同じだと思う」

「そうですよね」

そこで聞いていて思ったことがあった。

「その犯人がヴィクトリアさんと同じく、予知の魔法を使えるということはないのですか?」

「さっきも言ったでしょ。これは固有の魔法なのよ。使えるとしても似たような全く別の何かよ」

再現性がないということは、同じ魔法が使えないということでもある。ただ歴史的に見てどうなのだろうか? 予知の話はしばしば聞く。いや、今はそれはどうでもいいか。

「…そうですか。少なくともヴィクトリアさんが捕まることは確定なんですよね」

「ええ」

「ヴィクトリアさんを囮にするにも追いつけないといけないですよね」

「囮ってエグい事を考えるわね」

捕まることが確定しているのならいっそのこと簡単に受け渡せばと思ったのだが、そうではないのだろうか?

「うーん。考えを整理する為に解散してもいいですか」

ヴィクトリアさんを守る案は幾つか思いつくが、有効な案には思えない。

「それもそうね。デートのお邪魔をして悪かったわね」

「え?」

デート?

そう言えばデートだった。

「それじゃあ、私は退散するわ。適当にお金を置いとくからこれで食べておいて」

「じゃあ」と言って止める間もなく、行ってしまった。

リア様の顔を見ると2人で笑ってウェイターを呼んだ。

「お腹空きましたね」

「#」

「…」

今更この空気で何を喋れば良いかわからない。

いや、私のそもそもの目的はここでこ、告白することだった筈だ。でも、そんな雰囲気ではなくなってしまった。いや、でもここを逃せば、いつ2人きりになれるかわからない。今、ここで告白できなかったら、いつ、告白するのだ。

「リア様!」

「大変お待たせしました。ご注文の料理です」

「ヒャッ!」

ウェイターが訝しげにこちらを見て「少しお時間待って提供しますか?」と言ってきた。

「いえ、もう料理を置いてください」

私は心でも読まれているのかと思って、早急にウェイターを下げた。さっきの決意も何処か行ってしまった。

リア様を見るとご機嫌に食事を取っていた。

何だかこの和やかな食事を邪魔してしまうのも良くない気がしてしまう。

いや、でも私はリア様との今の関係性を変えたいからここに来た筈だ。だから。

「リア様……」

そう、ここで言うのだ。

「舞踏会では、ヴィクトリアさんを守りましょうね」

「##!」

私はニッコリと笑った。

言えない。無理だ。

言う決心は確かにしたのに、言うことができなかった。

言い訳をしようと思えば理由はいくらでも出てくる。タイミングが悪いとか、そういうムードじゃないとか。

でも、言うタイミングはおそらくここしかないのだ。

いや、他のタイミングもあるには、ある。

でも、その日はおそらく一番忙しい。

仮面舞踏会、その日は絶対に忙しい。

ヴィクトリアさんを救って。

仮面舞踏会を成功させて。

リア様に告白しないといけない。

考えただけで目眩がしそうだ。

でも、今だけは都合の良い言い訳だけを考えたかった。

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