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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第四章 意味をなさない言葉

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#7 デート

 その日は秋晴れもかくやというような空模様でした。待ち時間までまだあるというのに早めに待ち合わせ場所に立ち寄りました。

心が痛い。

私はこの準備に時間を掛けました。戦士がフルプレートアーマーを装備するが如くに、服を選び、お化粧をしました。途中アンナにその心意気は間違っていると言われ、方向性を話し合いながら、この戦いに挑みました。

 だと言うのに準備が足りていなかったかの様に心が痛い。何が足りなかったのかを考えると思いつきはするものの、それはアンナと話し合って捨てたものでした。変なことばかり考えてしまう。というかリア様が来るのが遅くないか? 時間を見ると5分前で、よくよく考えれば、私が時間より前に来ているのです。

別にリア様は悪くありません。

ただ、待っている時間が苦痛で仕方がありませんでした。

そうこう考えているとリア様の姿が見えた。

「リア様!」

しかし、姿が見えると暗い気持ちも何処かへと行ってしまった。

「リア様…」

でも、一つだけ気になることがある。

恰好がいつもと変わらない。

いやリア様の恰好が違うことなどあまり見たことがないし、制服で来なかっただけましなのかもしれない。

「…私だけが、期待していたみたいじゃないですか」

もしかしたら私が誘った意図等考えていないのかもしれない。

そう思っているとリア様が急にお姫様抱っこしてきた。

「リア様!?」

それと同時に第九術式飛行で空を飛んだ。

「#」

リア様が下を指差して見ろと指差すので、視線を下に向けると他のクラスメートが幾らかいた。

「あの人たち!」

隠れていたのか。

もしかしてリア様はアレを見て?

しかし、リア様の意図が全てわかる筈もなく、そのまま学園からどんどんと離れていく。

離れると何処かを探し回るように空を飛び、降り立った。当然、周囲の人達は私達を見るので恥ずかしくなった。

「あの、リア様降ろして下さい。降ろして貰えると嬉しいです」

リア様が降ろすと恥ずかしくて良かった様な悪かった様な感覚になった。リア様が降ろした先を見ると服屋があった。

「あの、リア様?」

しかし、服屋は貧相というか、古着を扱う様なお店でリア様の品格とは合うとは思えない。

「ここは…」

そう言おうとするが、リア様に手を引っ張られるので、仕方なく入った。

入った店にあるのは、ぼろ切れのような服から年代を感じさせるような物ばかりだ。リア様の白を貴重とした服は、まばゆく光り、お店の雰囲気とは画している。何故ここに入ったのだろう。リア様が古着を取り、試着室で着替えた。

「リア様? 確かに似合っていますが、平民みたいな恰好をするのは流石に」

止めたつもりなのだが、今度は私の服を持ってきた。着ろということなのだろう。

「しかし…」

「#!」

ああ、そんな笑顔で見られたら、断れませんよ。

仕方なく着替えた。姿見を見る。これじゃあまるで平民みたいだ。

平民?

そういうことか。平民に扮するということか。

いや、なんで?

リア様とのデートについて色々考えていたのだ。リア様も有名だからあまり変な場所にはいけない。如何わしい風聞でも立ちようものなら、流石に自由を許している旦那様と言えどお叱りになるだろう。

つまり、今から行く場所は如何わしい場所ってこと?

いやいやリア様に限ってありえないでしょう。

じゃあなんで?

リア様は服屋に金を払うとそのままの恰好で外に出た。

「あの、リア様。もともと来ていた服はどうされるのですか?」

「#」

大丈夫とばかりに笑って次のお店に行った。

「ここは…」

どう見ても質屋である。物品と引き換えにお金を得られる場所である。

「リア様?」

「#」

そのまま入って行くので、しょうがなく付いていく。

「いらっしゃい」

「#」

店主はリア様を見て直ぐに何をして欲しいかわかったようだ。私には何もわからない。

「貸し入れで良いんだろ。銀貨五枚でいいか? 返す時は1割だからな」

「あ、あの?」

この服の値段が銀貨五枚なんて筈はない。

「なんだ、嬢ちゃん初めてかよ。ここは質屋、物をここに置いていけば、お金を貸し出す。物を返して欲しい時は金を払う」

「いや、知っていますが」

質屋にどうして来たのかが気になっているのであって、ここで何が行われているかはどうでもいい。

「じゃあ、いいじゃないか」

リア様は銀貨を受け取るとそのまま質屋を出た。

「リア様!」

私の手を取るので、仕方なく付いていく。そのまま手を繋いで、街を歩いた。

あっ、そういうことか。これは貴重な服を預けたのだ。物を返して貰うのに、手数料などは払う必要があるが、逆に言えば、手数料だけで貴重品が預けられるのだ。

凄い。賢い。思いつきもしなかった。

でも、一つだけ引っかかるとすれば、何だか遊び慣れているように思えることだ。そりゃあ知っていればわかることかもしれないが、普通の貴族が覚えている様なことには思えない。昔は女性好きだったと風の噂で聞いたことはあるが、まさかリア様に限ってそうとは思えない。

「#」

でも、そういった訝しむ心も何処かへと行ってしまった。リア様が本当に楽しげに笑うのだ。そうか。考えて見れば今の私たちは主従ではなく、ただの平民の男女なのだ。

 その時何か香ばしい匂いが漂ってきた。

「何だかいい匂いがしますね」

そう言うとリア様は手を引っ張ってくれた。しばらくリア様に従って歩くと屋台が見えた。

「どうやらこの香りはアレらしいですね」

屋台では小鳥の串焼きが売っていた。

「2つほど買ってみますか?」

「#」

「いらっしゃい」

「串焼きを2つほど」

「はいよ」

屋台の店主が焼いた串焼きを受け取るとそのまま食べた。

小鳥の肉はコリコリしていて美味しいが如何せん食べる場所が少なくて物足りない。それに小さな骨が多かった。

「ふふっ、こういうのもいいですね」

でも、リア様と一緒なら楽しいのだ。

それにこの大味で塩辛い味付けは、寮では中々食べられなくもある。

「#?」

そのまま歩くと大きな広場に出ていた。何か催し物でもあるのか、広場では人が集まっていた。

「何の集まりですかね?」

二人で首を傾げていると平民の子供に声をかけられた。

「そこのカップルの人たち」

「あはは、カップルではありませんが」

そうだったら良かったのかもしれないが、そこまで厚かましくはなれなかった。

「あんたら金持ってるんだろ。俺の家二階にあるから俺の家の窓だったら見れるぞ」

用はこの広場の特等席を用意してやるから金を出せということだった。

「一体何の集まりなんですか?」

「え? 知らないで集まってたのかよ。ザンシュだよ。ザンシュ」

ザンシュ?

聞きなれない言葉だが、すぐにわかった。

斬首だ。

「い、いえ、それでしたら遠慮します」

聞いたことがある。中央国では、死罪の罪人を斬首刑にする際に、見世物にするそうだ。それは、市民に向けた罪の重さを知らしめる刑罰だったが、次第に娯楽としての要素が強くなって来たのだ。こんな晴れ晴れしい日にそんなものは見たくない。

「リア様、立ち去りましょうか」

「#」

「何だよ。よく見れるぞ」

斬首よりもグロテスクなものなど沢山見てきた。

それが自慢と言えるとは決して思わない。

この広場に集まる集団が悍ましいものに見えてきた。


 広場を避ける様にどんどんと街の中心へと逸れていった。

しかし、貴族がいるような所に行くわけには行かない。一般市民には分からないだろうが、貴族にはリア様だと分かってしまう。ただ庶民が行くような娯楽など知りようがない。

「#」

え?

リア様が付いて来てとばかりに引っ張っていった。デートのプランは色々立てていたけど、こんな平民の恰好をすることなんて想定していない。リア様が引っ張ってくれるのは助かったと思うのと同じくらい恐怖心が湧いた。

花の匂いが道の中を漂っていた。

気づけば街の雰囲気はガラッと変わっていた。さっきまでいた場所は木と石によって建てられていて、道は煤けて、汚れていた。しかし、この場所は違う。確かに道は汚れていたが、この汚れは歴史の積み重ねだ。

旧貴族街とでも言えばいいのだろうか?

クローバー伯爵が住んでいるような新しい貴族街とは違う。建物自体が古びていて、植物に寄生されたかのように一体化している。

そんな街をリア様は何処か目的地がある様にどんどんと進んでいる。

「リア様、一体どこに?」

リア様の歩幅は大きいので、半ば走るように追いかけた。気遣ってもらえないのが、リア様らしいというかなんなのか。

そろそろ止まってくださいと言おうとした時だった。

「べっ」

リア様が突然止まったので、顔を打った。

「##」

何と言ったかわからなかったが、何に対して喋ったかわかった。

この目の前の家だ。リア様が中央国に過去立ち寄ったことがあるとは、聞いたこともない。

でも、懐かしむ様に目の前の家を見ていたのだ。

「…リア様?」

私の声に気づくと我を忘れていたかの様に、こちらへと振り向いた。

「あんまり知らない家の前にいると怪しまれてしまいますよ?」

私の行っていることに納得したのか、リア様はそこから離れた。

よかった。そのまま入って行くつもりなのかと思った。

流石にそこまではしないか。

そう安堵したのも束の間、少し表通りを外れ、裏道に入ると第五術式 風重壁を使って壁を乗り越えた。

「ちょ!」

流石に非常識だと怒りたかったが、そんな声を出したら住人にわかってしまう。

「もう!」

小さい声で怒るが、まるで聞いていない。

そのままドカドカと進んで行った。

「おかえりなさい」

「ッ!」

思わず口を手で閉じた。

この声はおそらくここの住人だ。目の前の方はたいそうお年を召した老婆だった。名家の生まれなのか、腰が曲がっていようが、気品に溢れている。

しかし、もしかしてリア様を知っているのか?

もしかしたら私が知らないリア様を知っている人がいるの?

「アレックス」

それを聞いて全身の緊張が一瞬解けた。

リア様は老婆に近寄り、左手を両手で包むように握った。

「おや、手がデカくなったわね」

恐る恐る近寄るとリア様をアレックスと間違えた理由がわかった。

目が見えていないのだ。目医者ではないので詳しいことはわからないのだが、白ばんだ目の虹彩はリア様にピントが合っていなかった。

「ねえ、アレックス。あなたの隣の子は誰? お友達?」

リア様は何か誤魔化してと目線をやった。

「あ、あの」

何か言い訳をするより早くお婆様は喜んだ。

「まあ! 彼女さんかしら! まあ、困った。ちょうど使用人が出払っている時に呼ぶなんて、アレックス。気が利かないわよ」

見知らぬアレックスさんのためにも、弁明しないといけなかった。

「彼女さんではなくて、友達です。あの、これは…」

その時、またあの花の匂いが鼻をくすぐった。

この匂いは…

「金木犀。金木犀が見たいと言ったら、立派な金木犀があると聞いたので。それにいきなり行って歓待していただくのも迷惑かと思いまして」

「あらあらそうなの」

何処か嬉しそうにお婆様は笑った。十中八九勘違いしていらっしゃる。

「うちの金木犀はね。良い香りでしょ。目が見えなくともこの香りはずっと感じられる。アレックスの誕生を祝って東の国から取り寄せたものなの」

「そうなんですか」

一部の貴族は誕生した時に木を一緒に埋めると聞く。これほど立派な木は大切に育てられたのだろう。

「アレックスも久しぶりね。あの時のお友達は元気? 急にいなくなったと言っていたから心配だったのよ」

「はい、元気にしています」

訳も分からないが、とりあえず誤魔化しておいた。

「よかったわあ。余りにも落ち込んでいるから喧嘩でもしたのかと思っていたわ」

リア様は一言も喋らない。いや、喋れないのだろう?

「アレックス?」

老婆も不思議に思ったのか、もう一度呼んだ。

リア様はもう一度、手を握り返した。

「あ、あの。実はの…」

喉を痛めていてと言い訳しようと思った時だった。

金木犀が風に舞った。金木犀の花が突如こちらに向かって飛んできたのだ。

「...綺麗」

あの時の春の記憶を思い出した。あの時は春一番だった。

「#”%##」

「え?」

老婆が聞き間違えたかのように言った。

「...金木犀が綺麗だと言っていました。あの私たち帰ります」

「え、ええ。そうよね。お若いお二人さんを引き留めるのもね」

そう言って笑った。

私たちは逃げるようにその御屋敷から出た。御屋敷からでると二人で笑いあった。


 なんというか生まれて初めてのデートはデートらしくなかった。

デートプランは一つも役に立ってないし、頑張って用意した服も殆ど見てはくれていないだろう。

でも。

「リア様、今日は楽しかったです」

本当に何も考えず、楽しんでいた。これまで悩んでいたのが、嘘みたいだ。この秋晴れの様に気持ちは、爽やかだ。

「リア様、行きたい場所があるんです」

本当は最初からそこに行くつもりだった。計画が崩れてしまったと思ったけれど、今ならまだ、行ける。

「ビブリオテカに行きたいです」

ビブリオテカは私達が最初に行ったお店だ。

「#」

私はそこで自分の今を伝える。

自分の今の気持ちを。

好きだってことを。

「その前に」

「#?」

「着替えないといけないですけど」

「#」

2人して笑った。ドレスコードが求められるようなお店ではないけど、流石にこの恰好で行きたいとは思わない。


 質屋で服を取り戻すとそのまま着替える。今気づいたが、私が1人で着られない服を着ていたらどうするつもりだったのだろう? というか公爵の家で着替えれば良かったんじゃないか?

「ふふっ」

リア様にはもう2度とやってはいけないですよと言おう。他の人にやられても困る。

 そこまで考えてから自分が告白するつもりなのに、他の女の人のことを考えてどうすると思った。

「でも、リア様を独り占めにすることほど難しいことはないだろうな」

駄目だ。今から人生の大一番なのに、余計なことを考えては。

自分の頬を叩いた。

「よし」

弱気なマリーはこの試着室に置いていこう。

試着室を開くとリア様が待っていた。

「行きましょう」

リア様の腕に手を絡ませる。

顔が真っ赤になるほど熱いけどここで退いちゃ駄目だ。


 ビブリオテカに着くと呼び鈴を鳴らした。

「お待たせしました」

ウェイターがやって来た。

「失礼ですが、ご予約は?」

「マリーの名前で予約してあります」

「マリー様ですね。お先にお待ちのお客様は着いています」

「え?」

そんな筈はない。だってここのお店を知っているのは、私とリア様だけだ。私とリア様がここに行くことなど誰も予想できない筈だ。

「あの、何か間違いでは?」

「いえ、そんなことはないですよね?」

私とウェイターの二人で疑問符を浮かべた。

「取り敢えずお待ちのお客様がご知り合いか見て貰っても」

「え? はい」

そんな訳はない。

「失礼します」

ウェイターがドアを開けるとそこには見知った顔がいた。

「御機嫌よう。マリーとリア子爵」

「ど、どうして」

貴方がここにいるの?

どうやってここに来ると知り得たのか?

そんなことを思ったが、それ以上の疑問は飲み込んだ。

じゃないとどうして私の邪魔をするのかという疑問を口に出しそうだったからだ。

リア様をチラリと見るとリア様もまた意外そうな顔をしていた。つまりは彼女がいるのは、リア様の手引きではない。

「ごめんなさい。貴方達2人の邪魔をするつもりはなかったのだけれど」

この人の言っている邪魔と私が言っている邪魔はきっと違うものだ。

「このタイミングしか無かった」

「いえ、そんな謝罪よりも貴方がここに来た理由を教えて下さい」

私はその人の名前を呼んだ。

「…シズカさん」

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