#2 仮面舞踏会の準備
総合演習からしばらく経ったと言えど、次のイベントは間近に迫っていた。生徒会の仕事が一段落ついた所で生徒会長に聞いてみた。
「仮面舞踏会って結局どのようなイベントなのですか?」
舞踏会をするのはわかるが、仮面をつける意味がわからない。
「生徒達にとっては娯楽的なイベントだよ」
生徒会長の言い方は何だか含みがある言い方だ。
「生徒達に私達は入っていますか?」
「まあ、当日は割と面白いイベントだよ」
「前日までは苦しいってことですか?」
「ああ、いや、そういうことじゃない。君達は雑用を頼まれてくれさえすれば良いから」
何だか意外だ。
「まあ、これに関しては本当に生徒会長だけが大変だからね」
話に割って入ったのは、カルロス先輩だった。何だか不気味なくらい笑顔になっていて怖い。
「仮面舞踏会自体は本当に最近のイベントだから他とは毛色が違くてね」
「端的に言うと有力貴族から募金がされるんだ。その為のお金管理が厄介でね」
「募金ですか?」
「はあ、考えるだけで胃が痛いよ」
生徒会長がしおらしいなんて珍しい。
「まあ、歴史的には女性が入ってきたのが、最近って話をしただろ。でも、イベントが軍事的なものしかないってなって他のイベントもやろうとなったんだよ。で、生まれたのがこの仮面舞踏会。一番特殊なイベントだ」
「初めはちゃんとした舞踏会だったんだけどね」
「腐っても貴族だから、娘、息子に良いものを着せてやりたいだろ。で、このイベントの為に大金叩いて服、装飾品なんかを豪華にしたんだが、イベント自体が見窄らしかったんだよ」
カルロス先輩が付け足した。
「その当時の生徒会がね。より豪華にするために募金を許してしまったんだ」
「豪華になるのなら良いのでは?」
「俺達が貴族じゃなかったらな。やれ何処の貴族がどうこうってうるさくなってしまったんだよ。学園の不文律を破りそうになってしまった」
つまり募金を許す代わりに自分の娘、息子を優遇しろということか。学園では、平等という建前があるにも関わらずだ。学園は基本的に募金を許していない。募金を許せば有力貴族があまりにも有利になるからだ。今まではその隙がなかったが、それがこの舞踏会で生まれてしまったというわけだ。
「つまりは学園における平等が侵されてしまったということですか」
「まあ形だけとは言えど、建前が無ければ雁字搦めで動くことすらできない。で、それをどうにかしたのが、こいつ」
カルロス先輩は生徒会長を指差した。
「へえ」
「まあ、そうだけど。それはやらないと不味かったのさ」
「言っちゃあなんだけど前生徒会長の不祥事があってな。その時の副会長のこいつがそのまま会長の座に上り詰めたのさ」
「ああ、言っていましたね。それでどうして舞踏会が仮面舞踏会に」
「それはもちろん誰かわからなくさせてしまう為さ」
誰かわからなくさせる。
「つまりは権威を受け取るのは中止できないから、その権威が誰なのかわからなくさせてしまうってことですか」
「その場しのぎの悪あがきなんだけどね」
生徒会長は謙遜するが、悪い考えには思えない。
「良い考えだと思います。イベントは学生達の物ですから、大人の顔が見えない方が良いでしょう」
そう言うとカルロス先輩が笑った。
「去年のこいつと同じ事を言ってるよ」
「ただ一番の目論見は生徒会長の仕事を減らす事だったんだけど、それができない事だね」
「まあ、背後の圧は減ったから良いだろう」
「君は関係無いからって勝手なことを」
生徒会長がカルロス先輩の戯言にまともに付き合うのも珍しい。
「まっ、背後関係が無いって言っても、仮面してようが親しい仲だとわかっちゃうけどな」
確かにリア様が仮面をしていても雰囲気でわかってしまうだろう。
「それはどうしようも無いんだけど、仲の良い人が結局固まっちゃうのがな」
「皆、結局上流は上流で固まっちゃうしな」
「それなら会場を一度暗くして全く別の人と踊って頂くとかはどうでしょうか?」
咄嗟に思いついたが面白いと思った。
「いいね。それは面白そうだ」
「やるかどうかは知らないけど、やる場合は責任持って貰うからね」
「それくらいでしたら」
「じゃあ、頑張ってね」
「カルロス先輩にも手伝って頂きますから」
「ええー」
「そういえばお二人は誰と踊るんですか」
舞踏会ということはパートナーと共にやるのが、一般的だろう。
「僕は流石に当日踊るような余裕はないよ。パートナーを待たせてしまうし」
「いや、付きっきりでいてやれることはないだろうけど、開会式で踊るだろうよ」
そういうものかと一瞬納得しかけたが、カルロス先輩が突っ込んだ。
「え? ああ、そうだった。すっかり忘れていた」
生徒会長にしては珍しく抜けている。
「当日やることで頭がいっぱいだよ。しかし誰と当日踊ろうか。多分開会式以外は踊っている暇はないしな。生徒会のメンバーで踊った方が面倒が少ないか? どうだいマリー君。君がよ「マリー君はリア君と踊るんじゃないか?」
何故かカルロス先輩が食い気味に生徒会長に被せた。
「ほら同郷だし」
「リア様と踊るかはわからないですけど、そんな誰でも良いなんて態度を取る殿方の手は取れないですね」
「それは失礼した」
普通は同郷の人と踊るのが一般的なのだろう。
「先輩は何処の国出身何ですか?」
「うん? 中央国だよ。生まれも育ちも」
そうか。今まで4つの国のどこかだと思ってたけど、中央国でも当然生まれ育つのか。
「だから同郷の人は殆どいなくてね」
「お父様やお母様は何処の国の方なんですか」
4つの国の何処から移り住んだのだろうか。
「それも中央国さ。ウチは割と中央に統合する前から住んでいる一家なのさ」
自分の思慮の浅さに気付かされる。4つの国の方が大きくて、つい忘れてしまうが、中央国は交通の要衝というだけでなく、中央国にだって国民と王がいるのだ。
「あっ、失礼しました。そういう方もいらっしゃいますよね」
「良いんだ。もう殆ど残っていないよ。他の4つの国の血と混ざっていない家なんて殆どないよ。僕の家も僕の代から混ざるだろうし。結婚できればだけど」
そう冗談めかしく言った。
「お前の家で結婚できない訳ないだろ。お前が結婚できないなら俺が結婚できる見込みはいくらあるって言うんだ」
「それもどうかね」
「はっ、お前の白薔薇を貰いたい奴が幾らいると思ってるんだよ」
白薔薇。また聞いたことがないワードが出てきた。
「白薔薇ですか?」
「ああ、それも知らないのか。簡単な話だよ。男が白薔薇、女が赤薔薇を持って意中の人間に渡す。そうすると男で赤薔薇、女で白薔薇を持つ人間はパートナーがいるってことになる。ここら辺は舞踏会そのままだよ」
「そうなんですね」
「因みに舞踏会の招待状代わりだから無くさないでね」
なるほど。つまりは、仮面を被っているからと言えど、何でもして良いわけじゃないと。
「それでマリー君は誰を誘うんだい?」
「いやいや、それはリア君でしょ」
「いえいえ、会長達を手伝いますよ」
きっとリア様はヴィクトリア様を誘うだろう。
「いやあ、ほんと助「いやいや! 1年生の女の子が出ないで良いわけがない」
何だかカルロス先輩は必死だ。
「いえ、それにリア様にはヴィクトリアさんがいますし」
「いやあ、それは…」
「何だか、カルロス先輩変ですよ」
「そうかな。あはは」
生徒会長も忙しくて変だし、カルロス先輩は何時も変だ。ただ自分で言うのもあれだが、私もまた変だった。
お茶会という名目で男女が集まっていた。普通に考えれば、付き合っていると考えるのが筋だろうが、この2人の間柄は違う。
「という訳で会議を開始したいと思います」
カルロスとはあの時知り合ったが、別に普段お茶をする仲では決してない。お茶をするのには、理由がある。その理由が無ければ、ヴィクトリアは、ここにはこなかっただろう。
「何がという訳よ」
「良いじゃないか。僕達は協力した仲でしょ。マリー君の恋を応援しようって」
「応援するなんて言ってないわよ。面白い見世物があるから最前列で見たいってだけで」
「僕はこのままだと何もなく、終わると思うな」
「・・・・・・」
それはリアとマリーの関係性だろう。
「まあ、それはそうなんじゃない?」
あれだけ死地だろうと突っ込むマリーと言えど、ことリアには突っ込めていない。
「むしろ今までリアとあんなに近かったのに、意識していなかった方が驚きよ」
「近かったからこそ、意識してはいけないと思っていたんでしょ」
「そんなものなの?」
「それを言うなら君だって…いや、何でもない。あまり何も知らない僕が言うべきでは無かったね」
何かを言いそうになるカルロスに目線だけで釘を刺す。
「話を戻しましょう」
「そうそう、問題は仮面舞踏会だよ。君としては踊ろうが、気にしないんでしょ」
「というより私を口実にして踊らないのが気に入らない」
リアとなんて踊りたくもない。
「まあ、君とリア君は仲よさげに見えるし」
「どこが仲が良いのよ! あんな男」
「でも、問題は両方にあるんだよね」
怒る私を無視して話を続けた。しかし、怒り続けるほどのことじゃない。
「そうね。マリーに至っては分かりやすく好き避けしてるし」
「リア君はそれで普通に傷ついているし」
「「2人とも早くくっつかないかなあ」」
それが2人の総意だった。
「ていうか好き避けってなんだよ。ガキか!」
何時も大人顔負けな知識と立ち振舞を見せる癖に、情緒が育っていないガキみたいなことしやがって。
「ウンウン、青春って感じだよね」
「しかもアレで隠し通せてるみたいな顔しやがって」
「まあ、マリー君、腹芸は会長並みに上手いからね。実際情報を照らし合わせてわかったもんね」
そう、忌々しいことにマリーは演技をしていたのだ。
「お酒で記憶を失った振りしたり」
一瞬信じかけてしまった。
「あれで気兼ねなく甘えてから男として見ちゃったってことなんだろね」
そう思うと口の中に砂糖が広がったような感じがして紅茶を口に含んだ。
カルロスも同じ様に口に含んだ。
「なんかこの紅茶甘いね」
「ええ」
それでいて明らかにリアから避けたり、リアと一緒にいると顔を真っ赤にさせているのだ。
「バレバレなのよ」
「そうなんだよ。しかもあれから一カ月何の進展もない。何ならリア君に至っては落ち込んでいるし」
「何で気づいてないのよ!」
もどかしい。
「そうなんだよ! もどかしいんだよ! という訳でくっつけようよ」
気持ちはわかるが。
「それは違うでしょ」
「ええ!?」
わざとやっているのか本気でやっているのか知らないが、カルロスは大袈裟に驚いた。
「だってそんなことやられたら嫌だし」
「ここに来て冷静な正論!」
「それに恋ならそれでも良いかもだけど。愛ってそうじゃないでしょ」
記憶の片隅にある愛の記憶は、私の中に確かなものとして残っていた。
「自分の気持ちが、愛に変わった時にさ。誰かに背中を押されたからじゃなくて、自分の気持ちで告白したいじゃん。背中を押したら、私達のせいで告白できなくなっちゃうよ。そうなったらきっと後悔するよ。私だったら自分自身が信用できなくなっちゃう」
これは私がきっと愛されたからこそ言えるのだろう。
「いや、まあ。それはそうだね」
ただ、何か言いたげだ。
「でも、リア君が耐えられるかだね」
まあ、可能性的にはマリーが好き避けしている間に、リアが本当に嫌われたと感じちゃう可能性は0じゃない。好意は態度で示されるとは限らない。むしろその反対の態度で示してしまうことだっていくらでもありえる。
「そうよ。そこよ。それが好き避けだってことくらい気づきなさいよ。男なら男らしく女の好意に気づいて告白しなさいよ」
「それを男らしくと定義されるのは同性として断固として拒否させて貰うが、でも、それが良いのもまた真実だ」
しばらく考えてから言った。
「ここはリア君を呼び出そうか」
「いや、それは…」
できるだけ口を出したくない。
「ここは最近ギクシャクした関係性を憂う先輩という体で話しかける」
「そこは体裁じゃなくて本心から相談しなさいよ! 実際ギクシャクしている訳だし」
いやあと遠慮がちに笑った。
「それにリア君がマリー君を恋愛対象として見て無かったらあれだし」
「それは、リアに好きかって聞いたら好きって答えてたよ」
あの夜確かにそう聞いた。
「それは聞き方が良くないだろう。恋愛対象かどうかわからないだろう」
「何? どういうこと? 男って好きでもない女を好きって言うってこと?」
「それは女性も言ってるだろうが」
まあ、それは否定しない。
「そもそもリア君に好きと愛しているの違いはわかるのかな?」
「さあ?」
そればっかりは知らない。マリーと並んでいるからそう見えているのか知らないが、今の奴は子供っぽいのだ。
「全く私の元婚約者様は今頃何やってるのかしら」
寂しさを感じさせる風が秋を感じさせた。




