#16 マリー狂騒曲
あれだけの騒ぎがあったのに夜はいつも通りだった。総合演習は不戦勝に終わった。まあ、あれだけ被害が起これば仕方がないと言える。しかし、気持ちの面で言えば、違うだろう。
「それでは、生徒会の勝利を祝して〜」
「勝利していないだろう」
カルロス先輩を副会長が咎める。
「あれだけボコしたら勝ちみたいなものだろ。乾杯〜」
「まだ、会長もリア君もいないだろう!」
そう言いつつも、乾杯にはきちんとノッてくれる。カルロス先輩は瓶をそのまま直接飲んでいた。お行儀の悪い飲み方だと思うが、他の方も同じ様に飲んでいるので同じ様に口づける。
何これ、美味しくない。
しかし、カルロス先輩は美味しそうに飲んでいる。
「おや、私とリア君は除いて乾杯か?」
生徒会長がリア様を引き連れて生徒会室にやって来た。
「何を言ってるんですか。会長。乾杯は何度やってもいいんですよ」
「ふむ、私を抜いて乾杯をする様な君には罰だ。これをやらん」
そう言ってまた別の瓶を会長は取り出した。
「ま、待って下さい。会長。それは無いでしょ」
「雑用係の分際で乾杯の音頭を取るからだ」
ワイングラスに会長が5人分注いでいく。
「ちょっ。本気で注がない人がいますか!?」
「馬鹿にはこのワインは勿体ない。申し訳ないがこれは特別なものだからね。開けるのもこうして特別な目標が達成出来た時だけだ」
「はい、マリー君。これをどうぞ」
副会長から手渡された飲み物を受け取った。
「ありがとうございます」
今度は葡萄色の飲み物が渡された。ワインは聞いたことがあるが飲んだことはない。葡萄色なので、葡萄味がするのだろうか。
口に含むと豊かな葡萄の香りがした。それなのに想像する様な葡萄の甘みも無い。
不味い。
これは予想した美味しさでないから不味く感じるのか。
全部飲める気がしない。
ふと顔を上げると物欲しそうにカルロス先輩が見ていた。
「カルロス先輩、私にはまだこれを味わうには早い様で良かったら飲んで頂けますか?」
「本当に!? マリーちゃん、まじ天使!?」
この美味しくない飲み物を渡して喜ばれるなら喜ばしい限りだ。
「マリー君も気を使わないんで良いからね」
「いえ、気を使うなんて全然」
「ぷはぁ。美味い」
「良くもまあ味わわずに飲めるものだ。値段を誇りたい訳じゃないが、結構良いものなんだぞ」
「勿体ない」
「これだけ良いお酒なんて学校で手に入らないだろうに」
「#」
私を除いた人がカルロス先輩を責めた。
しかしお酒。
お酒?
「因みに麦酒は1人2本までだからね」
そうか。
「これがお酒の味なんですね。えへへへ、初めて飲みました。」
ほわほわと身体が暖かい。何だか楽しい気持ちになって来た。
「なあ」
「うん」
「これって、もしかして」
「##」
というのに皆さんは真顔だった。どうしたんだろう。こんなにも陽気な気分なのに。
「皆さん、どうしたんですかぁ?」
「「「女性を騙して飲ませたことになるんじゃないか?」」」
「#」
何故か急に皆が黙りだした。
「マリーさんにビールを渡したのは、カルロス先輩です!」
イワンコフ先輩の告発から始まった。
「おい!狡いぞ。ここは皆が悪いだろ」
「いや、言われてみれば確かにカルロスが悪い」
生徒会長が責め立てるが、カルロス先輩もまた口が達者だった。
「待った。それならばワインを渡したのは、副会長だ」
「なっ、仲間を売るのか?」
「馬鹿野郎、先に売ったのは、お前等だろう」
「私は何も言っていない!」
「止めなかったお前らも同罪だ」
息を飲んで副会長は言った。
「それならワインを買って来たのは生徒会長じゃないか」
「なっ、僕の顔に泥を塗るつもりか、ヨリイチ。それに持ってきた人には罪はないだろう」
「いえ、持ってこなければ私は飲ませることは無かったのですから」
「ナイフがあるから人を殺したと言うつもりか。愚か者。それなら、ビールを買ってきたのはイワンコフ、お前だ」
「ちょ、はあ? 先輩と言えどその暴論とは戦わせて貰います。そもそも買ってきたのは確かに僕ですが、金は先輩達のお金じゃないですか!」
「「「「何だと」」」」
「うふふ、みんな仲がいいですねえ」
やっぱり総合演習が終わってから連帯感の様な者が生まれているのだろう。
「「「「良くない!」」」」
「いや、待てみんな落ち着くんだ」
「カルロス! お前が火蓋を切ったんだろ!」
「いや! 火蓋を切ったのは!」
カルロス先輩は言い返そうとするが、途中で止めた。
「いや、それは大事じゃない。考えろ! この中に悪くない奴がいる。そいつが犯人だ」
カルロス先輩の言っていることを聞いて一斉にリア様を見た。
「#!!!!」
あはは。リア様が何だか焦っていて面白い。
「みんな、よく考えろ。まず、こいつは1年。一番年下だ」
みんな一緒に頷いた。
「次にこいつは喋れない」
みんな一緒に頷いた。
「みんなは誰に罪を被せるべきかわかるな」
みんな一緒に頷いた。
「#%#%%%%!!!!」
リア様も何だか楽しそうだ。
「そうだね。よくよく考えてみればリア君が悪かった」
「%!」
「それもそうだ」
「大きな巨悪を見逃す所だった」
「%!」
リア様がこんなに感情豊かなのはやっぱり良い日だ。
「それにリアとマリーは婚約者だ。ということでリア君。君がマリーを部屋に連れていけ」
「…#」
「なんだい? リア君酔った婦女子を男しかいない空間に置いておく気かい? いくら何でもそれは紳士と言えないだろう」
「##!…#」
リア様が何を言っているかわからないが、何故か私をおぶってくれた。
リア様の背中大きい。
それに暖かい。
このまま眠ってしまいそうなくらいだ。
もっと温もりを感じたい。
何だか今日だけはもうちょっとぎゅっとしてはいけないだろうか。もうちょっとだけで良いからリア様に近づきたい。
腕に力を込めてぎゅっとする。
ああ、やっちゃった。
「リア君、気恥ずかしいから。さっさと行きなさい。何だか悪いことしてるみたいだ」
「いや、僕達最低野郎ですよ」
イワンコフ先輩は動揺していた。
「普段強気な後輩が甘えているのを見ると弱み握っているみたいで妙な罪悪感があるね」
リア様が指を指して何か言った。
「##¥#$#」
「許せない的なこと言ってますね」
「まあ、それはそうだろう」
リア様が不味いジュースの瓶を何本か取った。
「ちょっと取りすぎだって」
「カルロス先輩、流石にそれぐらいは許しましょうよ」
「うっ。まあ、それもそうか」
リア様が生徒会室から出ると生徒会室に比べて肌寒かった。祝賀会は少し遅くからやった為、周りは真っ暗だ。身体だけは妙に熱いが、何だか外気に触れて気持ちが冷静になっちゃいそうだ。
リア様は瓶を飲む。あれが私の気分を高揚させてくれているのだ。今、私は冷静になってはいけない気がした。
「リア様。それを下さい」
リア様の横顔はしょうがないとばかりに笑った。
「#」
瓶を私の口に付けるとそのまま瓶の底を高く上げた。手渡しで貰えると思ったから、びっくりした。こんな飲み方はしちゃ駄目だといつもだったら思うだろう。でも、今だけは許されると思った。でも、こんな飲み方上手く行くわけもない。口から溢れる。リア様の肩を汚してしまった。
「ごめんなさい」
「##」
リア様は気にしないで良いと言った。
リア様はそのまま瓶に口を付けた。
「あっ」
身体が熱くなる。
あの飲み物のせいだろうか。
何だか顔を見られたくなくてリア様にくっつく。でも、それもいけないことをしているみたいだ。
「リア様、覚えていますかぁ。初めて一緒に空を飛んだ時のこと」
「#」
「あの時は空の高さが怖くて、恥ずかしくてしょうがなかったんですよー」
「#?」
私は一体何を言ってるんだかわからない。
リア様が徐々に女子寮へと近づいて行く。何だかこれが終わってしまう感じがして嫌な気がした。
「リア様〜」
何だかいつもは言わないことも言える気がした。
「一緒にいて下さい」
あっ、言っちゃった。何だか超えてはいけない線を越えてしまったかのようで、笑いが込み上げてきた。
「えへへへ」
でも、女子寮の前に着いてしまった。
「##€?」
部屋はどれ?
「あっちです」
リア様は第四術式重壁を階段みたいに建てる。私が指を指す窓へと向かって行った。
窓を開けると驚くヴィクトリアさんが見れて、面白い。リア様の顔は見えないが、驚いているだろうか。
「まさか夜這いに来たわけじゃないよね」
「%%!」
「その反応もムカつくけど」
そう言ってから私に気付いた。
「後ろの奴降ろしなさいよ」
「#」
リア様が身体を屈めて部屋に入るとベッドに下ろそうとした。
「待ちなさい。そっちはよくよく考えればリンディのベッドよ。こいつのベッドに降ろしなさいよ」
「#?」
部屋は何処と聞いているが、リア様が言っていることをヴィクトリアさんはわからなかったようだ。
「私はシンディの部屋で寝ますわ」
レイチェルさんは暗がりにいたのでよく分からなかった。
「いや、それは…いや、お願いするわ。変に騒ぎを起こされても困るし」
「初めてが3Pのお嬢様に仕えられるなんて光栄です」
「ヤラねえよ。私はお前を解雇したくなったよ」
「まあ、お嬢様御冗談ばかり」
「本気でやるぞ!」
ヤルだなんてはしたないとか言って、レイチェルさんが出ていくと部屋が少し静かになった。
「早く降ろしなさいよ」
「#」
リア様は了承するが、私は了承しない。
「いやです」
ベッドにリア様が座るが、このままじゃ帰っちゃう。
「帰らないでください〜」
何だかこのままリア様がこの部屋にいると思うと面白い
「どうするの。この酔っ払い」
「うふふ」
「笑うんじゃない!」
ヴィクトリアさんが怒った。
「うふふ」
「一体何倍飲ませればこんな面白くなるのよ」
「3口くらい頂きました〜」
「殆ど飲んでないじゃない」
「##」
リア様が私の手を引き剥がそうとするが、そうはいかない。
「嫌です。離しません」
まだ一緒にいたい。
「…飲ませると可愛いわね。リア、その酒瓶寄越しなさいよ」
「%?」
「何よ。ここで飲むんだから良いじゃない。幸い面白い酒の肴はそこにあるんだから」
「魚? 何処にいるんですか」
私にはわからないが、リア様は納得された様に酒瓶を渡した。
「私にも下さいよ〜」
「いや、駄目に決まって…いや、やっぱり飲んでいいわよ」
「わ~い。今日のヴィクトリアさんは優しい」
あんまり美味しくないので、ちびちびと飲んだ。
「ぶん殴ってやろうか」
反対側のベッドにヴィクトリアさんは座った。
「リア開けてよ。瓶抜きなんてこの部屋に無いんだから」
そう言われるとただ手をかざすだけでポンと小気味よい音を立てて、開けた。
「本当に魔法みたい。どうやってやるのよ」
「#」
「そうですよ〜。リア様は凄いんですよ」
「はいはい」
「何だかヴィクトリアさん。扱いが雑です」
「面倒くさいわね。あっ、良いこと考えた。マリー、そうやってリアをいつまでも捕まえているの疲れるでしょう」
「…大丈夫でしゅ」
大丈夫じゃない。本当は疲れた。
「まあまあ、聞きなさいよ。まず、あんたの頭をリアの膝に置くでしょ。そうしたらあんたは寝ているだけで、リアが帰らない様にできるでしょ」
「わあ、本当だ〜。ヴィクトリアさんにしては賢いです」
「そろそろ本気で殴ろうかしら」
「##」
「何よ。文句あんの? 美女の枕になったんだから感謝しなさいよ」
手をリア様から離さない様に、滑り落ちるように膝に収まった。
「リア様のお膝気持ちが良いです」
「それにこうしてればそのうち寝るわよ」
「寝ませんよ」
子供じゃないんだから。
「はいはい」
全く寝ないと言ってるのに。
「いつもこんなに可愛げがあれば良いんだけど」
ヴィクトリアさんは瓶を煽った。
「まっず。よくこんな安いの飲めるわね」
やっぱり不味いんだ。
「まあ、敗北の気分的にはこれで良いか」
ヴィクトリアさんが手を差し出したので、とうとう手を出してきたと思い、目を瞑るが、想像とは違うことをされた。頭を撫でてきた。リア様を帰さないという任務があるので、逃げられない。
「子ども扱いしないで下さい」
「良いじゃない。あんたを子ども扱いなんて、早々出来ないんだから」
意外と撫でるのが、上手い。
「リア、あんたも撫でてやったら」
「あっ」
リア様に撫でられるのは気恥ずかしい。リア様のお腹の方を向いて顔を見られない様にする。
「露骨に反応が違うじゃない。まあ、良いけど」
何だか、ヴィクトリアさんに顔が赤いのがバレているみたいだ。
リア様の手は大きくて私の顔なんて包み込んでしまうだろう。その大きな手の中には血管があって、血管はリア様の心臓に繋がっている。そんな何でもないことが、まるでリア様の心に触れているみたいでくすぐったいのだ。
チリチリと心同士が触れ合う。それが心地よくて、段々眠くなる。
「寝ちゃった? はあ、昼間はあんなにも言ってくれたっていうのに。呑気に寝やがって」
いや、寝てないよ。そう、返事するのも億劫で返事出来ない。
「リア、あんたに聞きたいことがあるの」
私に秘密の内緒話なんてしないでよ。そう言いたいのに、どんどんと視界が暗くなる。寝ちゃいけないのに、気持ちよくて寝そうだ。
「ねえ、あんたは、マリーのことが好きなの」
駄目。後ちょっとだけ起きていればリア様の気持ちが聞けるんだ。
「■■■■」
え? なんて?
「そう」
リア様がなんて言ったのか気になるのに、気づけば、暗闇の中に沈み込んでいた。
「いったぁ」
何故か頭が痛い。起きて自分を見ると寝間着に着替えずに寝てしまった様だ。
「いけない。服にシワが」
急いで来ている服を脱ごうとするが、部屋の調度品が違う。そして気づけばベッドに寝ている人も違う。
「起きてください。ヴィクトリアさん」
「何よ。さっき寝たばかりなんだから起こさないで」
「貴方部屋間違えていますよ」
「部屋間違えたのはお前じゃい!」
寝起きなのにヴィクトリアさんは元気だ。
「いや、ヴィクトリアさんじゃあるまいし」
「この部屋があんたのじゃないってわかるでしょ」
確かに部屋はヴィクトリアさんのものだ。
「ていうか昨日の記憶ないの?」
「昨日の? 痛っぁ。何でこんなに頭が痛いんですか」
「あんなに迷惑を掛けたのに覚えていないの?」
「いや、私が迷惑をかける訳無いじゃないですか」
ヴィクトリアさんじゃあるまいし。
「はあ、勝手にしなさい。私はまだ寝る」
寝るって状況を説明してもらわないと困る。
「ちょっと私何でここにいるんですか? 昨日何があったんすか? ヴィクトリアさん! ヴィクトリアさん!!」
ヴィクトリアさんは嫌そうな顔をして布団に潜り込んだ。しばらく引っ張ったりしてみたが、ビクともしない。
窓を見ると雀がチュンチュンと鳴いているのが、嫌な想像をさせた。
「私、何したの!?」




