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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第三章 仮面の少女

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#13 総合演習③

 「ふう」

一度深呼吸すると落ち着いた。副会長との練習を思い返せばやってやれないことはないと思う。

壁から出るとイットウさんと対峙する。

「君はもう逃げるのかと思っていたよ」

「それも考えていました。ただ」

グッと力を入れる。

「宣戦布告したので、倒しに来ました」

「あれは冗談かと思ってたけど」

「勝てる道筋が直前で出来たので、遅くなりましたけど、倒しに来ました」

イットウさんは非常に冷静だった。

「君は【第二術式 射弾】を一回しか撃てないだろう。そうなれば僕の【第一術式 球盾】を破れない」

「対して貴方は【第三術式 射葡萄弾】を3つ撃てますからね」

どちらが勝つかは歴然だ。

「で? どういう小細工を考えている? リアでもここに呼んでくるかい?」

「そうですね。あっちが終わるまでイットウさんを足止めするのも悪くないですね」

「それは困るね」

イットウさんは魔弾を3つを放った。

放たれた魔弾を一つは【第一術式 球盾】で防いだ。もう一つは魔力を収束させて魔弾と相殺し、稼いだ時間で【第一術式 球盾】を再度展開する。

これで3つ防いだ。

「言ってはなんだけど、【第一術式 球盾】精度では僕以上だよ」

「はい。【第一術式 球盾】は一番自信がある術式ですから」

【第二術式 射弾】が襲ってくる。

それを【第一術式 球盾】で防ぎながら壁の後ろへと後退する。

「結局壁の後ろに隠れるなら出てきた意味ある?」

「意味がありますよ」

そう良いながら【第二術式 射弾】を壁の間から放つ。当然【第一術式 球盾】で防がれる。

よし、これで小細工の準備は出来た。後は成功するだけだ。

息を落ち着かせてもう一度壁から出た。

「本当に時間稼ぎするつもり?」

「いえ、勝つつもりです」

イットウさんは【第二術式 射弾】を放った。それを見て私は走り出した。イットウさんが放った【第二術式 射弾】は私を通り抜けた。

「ッ!」

それも当然である。当然だが、【第一術式 球盾】は安全に守ることができる反面、球体に展開される性質上、体積がデカくなる。そうなるとどうしても魔弾に当たりやすくなってしまう。だからこそさっき壁に隠れていたおかげで、魔弾が当たる場所を誘導することができた。イットウさんは無意識に私ではなく、【第一術式 球盾】を展開していたら当たる場所と壁に逃げる道に重なる場所に放っていたのだ。当然【第一術式 球盾】を展開しなければ、すり抜けられる。

 イットウさんは走り抜ける私を見て、【第一術式 球盾】を展開しつつ、【第三術式 射葡萄弾】を詠唱した。私が【第二術式 射弾】を放っても【第一術式 球盾】の守りを抜くことができない。

「悪いけどネズミを狩るにも本気を出すよ」

そう言うと【第三術式 射葡萄弾】による魔弾を5つ展開した。まだ力を隠していたのか。確実に私を仕留める為、今まで3つの魔弾を見せていたことすらブラフだったのだ。これを私は防げないだろう。

だけど、私の勝ちだ。

「【第一術式 球盾】!」

リア様から学んだことは沢山あるけど、魔術の使い方であの方程、卓越した人は見たことがない。これを見たのは冬の事件の時、リア様が咄嗟にイスカ様を守ろうとした時だった。私は最初【第一術式 球盾】見た時、自分ではなく誰かを守る為に使う術式なのだと思っていた。

 だからイットウさんを守った。イットウさんが収束した魔弾ごと【第一術式 球盾】で覆ったのだ。

「は?」

咄嗟のことで混乱したイットウさんの魔弾は私の【第一術式 球盾】を壊すのと同時にイットウさんの【第一術式 球盾】をも破った。

私はそこに【第二術式 射弾】を放つ。

第【第一術式 球盾】を破るのは、2発必要だ。でも、それは私である必要はない。

イットウさん本人の魔術でも良いのだ。

私の【第二術式 射弾】は吸い込まれる様にしてイットウさんに当たった。

「やった」

そう喜んだのも束の間お腹に強烈な痛みがやってきた。

何が?

いや、【第二術式 射弾】があたったのだ。これはイットウさんではない。

「流石に1年同士の戦いに入るのは気が引けたけど終わったなら良いでしょ」

「ッ! ジュナ先輩」

ジュナ先輩は勝ち誇った顔でこちらを見ていた。狡いとは言えない。でも、悔しかった。私だって攻撃をした瞬間を狙った。でも、攻撃した瞬間に防御が疎かになるのは私も同じだ。

「同感だ。流石に1年の戦いに入るのは気が引ける」

ジュナ先輩は咄嗟に【第一術式 球盾】を展開するが、連続した二発の【第二術式 射弾】によって倒された。ジュナ先輩は「痛ってえ」と言いながら反省した様子もなく、素直に退場する。あっちは生徒会のメンバーをやれて、こっちはただの一般生徒にやられただけ。こっちの命とあちらの命では価値が全然違うからだ。

「カルロス先輩…」

「よくやったね」

まだ、私は2人しか倒せてない。

「正直言って君は口だけ達者なのかと思っていたけど、どうやら魔術師としても優秀だね」

「ありがとうございます」

褒められるが、素直には喜べない。

「気持ちはわかるけど、後は任せて」

「はい。後はお願いします」

退場すると演習場の端へと向かう。基本的には自主退場となる。

当然同時に倒された人達とは一緒に帰るので、イットウさんと一緒に帰った。

「君は勝った癖に落ち込んでいるようじゃ、負けた僕は何を悔しがればいいんだい」

イットウさんは思ったよりも怒っていない。この人は私が勝ったら怒ると思っていた。それにも関わらず冷静だ。

「いえ、あの人に関してはいらない喧嘩を買ってしまったので後悔しているだけです」

物事は穏便に済ませるべきだと再三気付かされる。ジュナ先輩もこの前あんなやり方をしなければこっちを狙ってこなかっただろう。

「あんた達どうして2人とも浮かない顔をしているのよ」

ヴィクトリアさんも近くで待っていたようだった。

「それを2人で話していた所だよ」

「しかし、何でいきなり宣戦布告してきたのよ」

「君もそうなのかい? 2人に同時に宣戦布告とは随分と傲慢だと思うけど」

バレてしまったのはしょうがない。

「あなた達に宣戦布告したのは、個人的に苛ついたからです」

自分でも普段そういった物言いをしないのは自覚しているが、私からそんな言葉が出てくると思わなかったのか、唖然としていた。ただ、まだ2人への復讐は終わっていない。

「そろそろでしょうか?」

そう言ったタイミングで演習場に爆発音が響いた。

「一体君は何を企んでいる?」

この爆発音が私が計画したものと気づいたのは、イットウさんただ1人だ。

「どういうこと?」

私の背後でオレンジ色の気炎が舞う。それに遅れるように熱気が肌を焼いた。

「あの炎はツバキのだろう。何を考えている?」

「言ったじゃないですか2人に個人的にイライラしてたって。でも、それは私だけじゃないんですよ」

2人に勝てた嬉しさを隠しながら、私は私の計画を話した。


 時はツバキさんとの話し合いまで時間が戻る。

「今朝、ヴィクトリアさんに会いました。そこで昨日何があったか聞きました。火傷のことも」

昨日の夜のことを聞かれたのが気まずいのか、それとも過去を聞かれていたのが嫌だったのか無言になった。

「……」

「そこで改めて聞きたいことが出来ました」

「.......」

これを聞いたら下手したら嫌われるだろうと思っている。いや、聞くほうがおかしいかもしれない。

「貴方は自分の人生を可哀想だと思っていますか?」

これを聞くのは緊張した。でも、私の予想が合っていれば彼女の答えは......

「質問の意図がわからない」

まあ、いきなり変なことを聞いた自覚はある。

「貴方は自分が不幸だと思っていますか」

でも、これは聞くべきだ。

「…思っていない」

「それは何でですか?」

「それは答える必要がある?」

「あります」

「今、こうして学校に通えているし、寮長には良くしてもらってる。イットウのお母様とお父様のおかげだ」

全く幸福の上限が低すぎる。1年前の私を見ているようだ。この学園に通っている貴族はそれを幸せとは言わないだろう。

「それで終わりですか?」

「え? うん」

この子はきっと本当にそれだけで良かったのだ。予想通り自分自身を可哀想とは思っていない。

「ここの人間は暴言を吐いたり、叩いたりをしないし」

「ああ、もういいです」

これ以上は可哀想だと思ってしまいそうだ。私は可哀想と思わないと決めた。

「昨日はどうして火傷を見せて来たのですか?」

「…それはわからない」

しばらく考えた上でそう答えた。本当にわからないのだろう。

「その理由を教えましょうか?」

「…教えて欲しい」

「私と友達になりたいからです」

目を丸くした。ああ、自分でも恥ずかしいと思う。ヴィクトリアさんでもこんな馬鹿なことを言わないぞ。

「昨日、貴方は私を遠ざけようとして、火傷を見せましたね。そうすれば仲が良くなる前に逃げてくれると思いましたね。まず私はそこに怒りました」

「怒ったのなら何故?」

こうして目の前にいるのかと言いたいのだろう。

「いいですか? 私が怒ったのは火傷を見せた程度で貴方を遠ざけたりしません。そうすると思われたのが、心外です」

言葉が見つからないという様子で見てくるが、知らない。

「そして、今朝のことです。ヴィクトリアさんに会いに行きました。そしたら貴方のことを可哀想だと思っていたのです。これには大層むかっ腹が立ちました。勢いで宣戦布告してきたくらいに」

「それは違う。彼女は私を見て怖がっていた」

「そこですよ! 私が苛ついたのは!」

「何で彼女が怖がっていたのか? それは貴方を可哀想だと思っていたからです。これに関してはイットウさんも同罪です」

そうすると訳がわからないといった感じでツバキさんが質問してきた。

「何を貴方は怒っているの?」

「…ん。それは」

彼女は私が怒っている理由なぞわからないだろう。これは周囲にも言っていないのだから。でも、彼女の過去を知っているのに、自分の過去を言わないのはフェアじゃない。

「私は目の前でお母さんとお父さんが殺されました」

ツバキさんは目を見開いた。

「確かにそれは私にとって悲しい過去です。でも、今の私は可哀想ですか?」

「それは…」

「いいえ。私は可哀想ではないです。私は恵まれています。リア様に会いました。リンゴォ氏に知識を頂きました。魔術だって少しずつですが、できるようになっています。今、2本足で立って、貴方と今喋っているのは、誰かのお陰です。私を可哀想だと思うのは、それを全て否定することなのです」

「......」

私は彼女の為には怒っていない。私の為に怒っている。私の努力は確かにあった。しかし、私の努力だけではない。そこには素晴らしい人達に会えたという幸運が私を今こうして立たせてくれている。それを否定されるのは好きではない。イットウさんもヴィクトリアもさん彼女が今こうして立っているという幸運と彼女の努力を無視して可哀想な人として扱おうとしている。

「可哀想と思われることは無視されているということと変わりません」

私が彼女に同情していないと言えば、嘘になる。でも、それを認めてしまえば、私の努力も何もかも嘘になってしまう気がした。だから私はツバキを助けたいのではない。

「貴方は可哀想だと思われたいですか?」

ツバキは首を横に振った。

「ツバキさんは、イットウさんをどう思っているのですか?」

「どう、とは?」

「そのまま思っている感情を言って下さい」

「嫌い…」

「やっ」

「じゃない」

危ない。やっぱりとか言うとこだった。紛らわしいことはしないで欲しい。

「でも、嫌われている」

この子にとってイットウさんは大事な人なのだろう。じゃなきゃイットウさんの好悪を気にしないだろう。私視点では結構酷いことされているのにも関わらずだ。どこか止めたい気持ちも、ありつつ。口には出さない。

「イットウさんは付き合いが長い訳ではないですが」

何なら既にツバキの方がもちろん付き合いは長いはずだ。ただ長いからと言って関係性が見えやすい訳では無い。むしろ長いからこそ見失ってしまうこともある。

「嫌いな人は居ないものとして扱うタイプですよ」

だから意外と大切に思われている、のかもしれない。

「ということは…」

彼女は結論を出した。

「私は居ないものとして扱われていたのに気づいていなかった!?」

「いや、逆!」

まさか真面目な顔をして頓珍漢なことを言われるとは。

「しかし、そうなるとやることは決まりましたね」

「やること?」

「はい、2人を見返してやることです」

「見返してどうするの?」

「対等になるのです」

「対等になってどう…」

彼女の質問攻めに合う気がして先んじて答えた。

「友達になって、一緒にお茶をします。お菓子も一緒に食べて恋バナをしましょう。イットウさんとどう知り合ったかを教えて下さいね」

また、どうするのか聞かれたら困ると思ったが、満足したのか、マスクの下がにっこり笑った気がした。

「そう言えば魔術はどれくらいできるのですか?」

「第五までだったら、あと精霊魔術」

「でしたらこうしましょう」

私はこうして今回の計画に線を引いた。



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