#12 総合演習②
大演習場は、他の演習場に比べると圧倒的に大きかった筈だ。しかし、300人が横に並ぶと手狭に感じる。実際手狭なのだろう。それに対して此方は非常に広く感じた。6人しかいないからというのもあるのだろう。単純計算して1人で50人倒さないといけないのである。そしてその内1人は最近魔術を覚えて来たばかりだ。まともに考えるならこんな勝負まともに成り立たない。でも、これから圧勝するのだ。
「さあ、始まりました。第37回エキシビションマッチ」
「始まりましたねえ」
音を増幅させる魔道具による実況と解説の声が聞こえる。
「解説のスズキさんはどう思いますか?」
「そうですね。普通に考えれば、生徒会がどれだけ生徒達の猛攻を凌げるかに掛かっていると思います」
「そうですよねえ」
「ですが、それは普通に考えればです。今回は西国の竜がいます。もしかしたら生徒会にも勝利を見せてくれるかもしれないです」
「おっと、なかなか希望が見られる一言ですね」
実況を聞くと近くにいたカルロス先輩が悪態をついた。
「全く好き勝手言ってくれるよ」
カルロス先輩を見ると手が少し震えていた。
「君にはありがとうを言わせて欲しい。この緊張する気持ちを忘れていた。もしかしたら僕はこれから逃げ出したくて、あんなことを言いだしたのかも知れない」
「私は何も」
私はこの戦いにおいて大きなことは何もできない。
「よし、それでは始めるか」
顔を上げると皆と目が合う。
「それでは両者準備が出来たようです」
この場にいる全員が身構える。
「よーい」
そして戦いの火蓋が切られた。
「始め!」
「【第六術式 創多重土壁】!」
カルロス先輩は、始まってすぐに魔術を展開していた。此方側の端から端までに大きな土の壁を築いた。土重壁陣形は瞬時に土属性が付与された魔術の壁を生成する魔術である。曰く最も持久戦に向いた防御術式である。普通【第四術式 創重壁】は射弾派生の術式を弾くことができるが、槍系統の術式は刺さると砕けてしまう。しかし、土重壁陣形は槍系統の術式をくらっても土が覆いかぶして穴を塞いでくれるのだ。だから最も持久戦に向いた術式と呼ばれていた。
「当然ですが、槍系統の術式は使ってはいけません」
「人に当てるものじゃないですからね」
実況は笑って言うが、こっちは笑い事じゃない。
「さて、生徒会は普通に考えればここから生徒をちまちまと削っていくつもりでしょうか?」
そう、定石を考えれば持久戦に持ち込むのが良いわけである。
しかし、そんな戦略を取ればこっちがジリ貧となり負けてしまう。
「おおっとー、ここで生徒会から単騎で誰か前に出た。一体これは、誰だ?」
でも、此方にはリア様がいるのだ。
「言うまでもない。前に出たのは西国の竜、リア・クローバー。さあ、出てきたのは作戦か? それとも無謀な挑戦か?」
そんなのは決まっている。
両方だ。
リア様を狙おうと多くの生徒が魔術の準備をする。しかし、それでは遅い。普通、【第二術式 射弾】と【第三術式 射葡萄弾】を同じタイミングで始めた場合、【第二術式 射弾】の方が早く構成することができる。しかし、リア様であれば、誰よりも速く、そして誰よりも多く組み立てられる。
【第三術式 射葡萄弾】
「あれは一体なんでしょうか? 解説のスズキさん」
「信じがたいですが、あれは1人の人間によって作り出された【第三術式 射葡萄弾】です」
【第三術式 射葡萄弾】の午前試験では、だいたいどの生徒も2つから5つ程の魔弾を発射していた。もちろん熟練度が高い生徒でももっと数が多いだろうが、それでもリア様を超えることは決してないだろう。
「信じられません。数としては、百、いや、千は超えるでしょうか」
壁の隙間から生徒達を見ると彼らの顔が青ざめたのがわかる。
彼らはきっとリア様の前に立つということがどういうことかわかった筈だ。彼らは一方的な攻勢を予想していた筈だ。自分が死んでもそこまで大きな痛手にならず、自分がもし痛手を与えられれば英雄に成れる。楽な狩りだと思っていた筈だ。
しかし、自分が狩る側ではないと気づいてしまった。狩られる側なのだと。
【第三術式 射葡萄弾】の雨が降り注ぐ。しかし、それによって生徒の数はあまり減っていなかった。【第四術式 創重壁】があるからである。生徒側でも使える者は少なくない。使えないものも皆それに隠れた。重壁を貫けるのは槍系統の術式だけだ。だからこそ攻め手に欠けてしまうのだが、それはこっちにも有利に進むし、相手にも有利に進む。
「さて、面白くなってきました。最初の攻撃こそ生徒会が有利に見えましたが、未だ生徒側の方が有利であることは変わりません」
「これは不味いですねえ」
「不味い? 一体何が不味いのですか?」
「リア君の位置です。これでは300人の【第二術式 射弾】を1人がくらってもしまいます。上手く下がれるのでしょうか?」
いや、そんなことはしない。
生徒達が重壁から身体を出して【第二術式 射弾】を唱えた。そこに対してリア様はカウンターで【第二術式 射弾】を20発連続で放つ。唱えたはずの第二術式はリア様の第二術式に押しつぶされ、そのまま【第一術式 球盾】が砕け、本人に当たった。決して油断した訳ではないと思うがあまりにも力の差が違った。
「おおっとここでカウンター! しかし、この判断正しいのか? 三百に近い数の魔弾がリア君に襲いかかる」
あれだけの人数差があるにも関わらず、リア様の【第三術式 射葡萄弾】の方が数が多い。しかし、魔術師の数が脅威であることには変わりない。もちろんこれを【第四術式 創重壁】ならば防ぐのは簡単だ。しかし、それでは駄目なのだ。防いだら最後、リア様が出れないように【第四術式 創重壁】目掛けてずっと魔術を放たれれば、流石のリア様と言えど何もできなくなる。
だからリア様には避けて貰わねばならない。
リア様は数百ある魔弾をわずかばかりの移動で避けた。数百の魔弾と言えど、その狙いが正確である訳ではない。その魔弾の殆どがリア様の居る場所目掛けて放たれた。ということは避けてしまえば、リア様に向かう魔弾の数はあまり多くないということだ。それでもこの人数だ。決して少なくないが、魔弾が干渉しあって相殺したり、【第二術式 射弾】で相殺し、それでも躱しきれないものは【第一術式 球盾】で受けたりと受け流している。一方的な防戦ではない。これは攻撃のチャンスということだ。避けると一瞬の隙に【第二術式 射弾】を二十発程放った。無防備に撃ったものはこれだけで終わりになる。
三百人の魔術師の猛攻を受けながら、四十人程の生徒を返す刃で退場させた。
「いやあ、誰が予想としていたでしょうか?」
「申し訳ないですが、西国の竜のファンになってしまいました」
「いやあ、それは私もです」
「しかし、まだ数の差は歴然と残っています。生徒達も同じ手法は食らわないでしょう」
そうなのだ。これで有利に立ち向かえるほどではない。
「さあ、もう一度生徒達の攻撃が放たれた」
「そこにカウンターのようにリア君が【第二術式 射弾】を差し込む。が、【第一術式 球盾】によって防がれました。【第一術式 球盾】であっても【第二術式 射弾】は一発までは防げますからね。【第一術式 球盾】を完璧に下すには【第二術式 射弾】を2発当てる必要があります」
しかし、そう上手くはいかない。リア様が【第二術式 射弾】を放つと【第四術式 創重壁】へと隠れる。生徒達は息継ぎでもする様に、隠れては【第二術式 射弾】を放つ。
「生徒達の猛攻は続きます。【第二術式 射弾】が放たれた!」
「今度は避ける先にもきっちりと分散されています」
リア様はそれを見て避けることよりもしゃがむことを選んだ。
「しゃがんだ!?」
「そして!?」
リア様の足元が光り、リア様は上空へと舞い上がった。
「飛んだー!」
魔弾を避けつつ、【第三術式 射葡萄弾】を展開する。さっきまでは、【第四術式 創重壁】の壁が邪魔だった。だったらそれを飛び越えて魔術を放てば良い。数百の魔弾がそれこそ雨のように降り注いだ。
「一体、どういうことでしょう? 飛行魔術は今回使えないはずでは?」
「今回のは【第四術式 創重壁】と付加術式の応用、【第五術式 創重風壁】です。本来重壁と風の付加術式の相性はあまりよくありませんが、地面に設置した重壁内に風を発生することでバネの如く飛び上がりました」
「解説されましたが、理解不能です」
「さて今の攻撃で五十人近くがどうやら落ちたようです。どうですか?」
「正直言って異常事態です。百人近くを今の一瞬で倒しましたからね。最早これだけで歴史に名を残すでしょう。しかし、残ったのは更に強い二百人です。リア様はどうなるのでしょうか?」
「最早様付けに変わっていますね」
「変わらざるを得ないでしょう」
「おおっと今度はリア様が【第四術式 創重壁】を繰り出しました」
「等間隔に設置することで避けながら撃つスタイルです。ここからは流石に持久戦に持ち込むか?」
よし、ここまでは作戦通りだ。リア様が取り敢えず前に出て減らす。作戦なんて無いに等しかったけど今のところ有効に働いている。
「皆、リア君が100人近く減らしてくれた」
生徒会長は【第六術式 創多重土壁】の後ろに隠れていた生徒会メンバーを集めた。
「ここからは集団戦に飽きて単独行動を取る人間を狩る。ここまでの作戦を考えてくれたマリー氏何かある?」
え?
そんな大事そうなこと私に任せます?
「リア様のおかげで我々が一人一人が残り四十人程倒せばよくなりました」
本当に馬鹿な計算で笑ってしまう。生徒会長も副会長も笑っていた。
「全ての生徒にこのエキシビションマッチを刻み込んでやりましょう」
全員で笑った。
「よし、行くぞ!」
ここまでは本当に作戦通りだ。リア様に全ての人が集中しているこの時だ。静かに端っこの方で動く人影が見える。私はこれを待っていた。土の壁に隠れて待つ。
集中しろ。
まず、魔術を球体状に形成する。
そして、これを発射するのだが、発射するタイミングも大事だ。リア様は全て相手が攻撃するタイミングと同時に攻撃していた。だから相手が攻撃するまで待つ。と言っても自分が狙われている瞬間を狙うなんて高度なことはできない。だから待つのはリア様を狙う瞬間だ。どうせリア様に狙ったとしても当たらないのだから。ゆっくりと待つ。そして相手が形成し、発射した瞬間に、私も魔弾を放った。絶対に当たった。こちらが放った瞬間にも気づけていない。勝った。
「いった!」
ヴィクトリアさんの横っ腹へと魔弾が当たった。これで彼女は退場だ。
「あんたこの前まで【第二術式 射弾】使えなかったじゃない」
「練習しました」
「あんた何だかんだ———」
何か言いかけていきなり叫んだ。
「———ッ! 危ない!」
ヴィクトリアさんの声に反応して【第一術式 球盾】を展開する。魔弾は2つ迫っていた。一つは【第一術式 球盾】で相殺しても、2つが当たってしまう。
だったらと【第一術式 球盾】を展開した状態でダッシュした。後ろで【第一術式 球盾】が砕け散るのを感じながら壁へと滑り込む。それと同時に壁へと魔弾が当たった。
考えが浅かった。そう後悔する間もなく、こちらに魔弾が飛んできた。壁に隠れて、体勢を整える。私では、単に対峙するだけでは勝てない。
「流石に今のは利敵行為じゃないの? 君がいなければ生徒会のメンバーを倒せたんだけど」
「私に勝ったやつが雑魚の不意打ちに負けるのは気に食わないのよ」
ヴィクトリアさんの声と聴いたことがある声が聞こえた。
「雑魚の不意打ちに負けた癖によく言うよ」
この声はどう考えてもイットウさんだ。
「なんですって!」
声を聞く限り、イットウさんは余裕綽々といった感じだ。それもそうだろう。彼はクラスで二番目に強く、私はクラスで一番弱いのだから。
壁に隠れながら副会長との特訓を思い出した。
「やった。【第二術式 射弾】が出来ました」
特訓を始めて10日、そして総合演習までは残り3日となった日のことであった。
「うん。おめでとう。よくやったと言わせてくれ」
「ありがとうございます」
ここは素直に褒められておくべきだろう。撃てないよりは撃てた方が、断然良いに決まっている。
「しかし、君は満足はしていないようだね」
副会長は苦笑いしながら言った。
「正直言えば私、これだけでは役に立たないですよね」
「正直に言えば、そうだ」
副会長は厳しい方だけど正直な方だった。
「私もっと役に立ちたいです」
「正直言えば厳しい。【第一術式 球盾】を破る為にはどうすればいいかわかるか?」
「わかります。【第一術式 球盾】に対して2回魔弾を撃たないといけないんですよね」
魔術破る為に一回、身体に当てるための一回だ。
「そうだ。普通、【第二術式 射弾】を2回放つまでの間に、【第一術式 球盾】を組み立てるのが早いからね。【第一術式 球盾】を再度構築する前に、高速で【第二術式 射弾】が撃てる人は生徒の中では多くない。少なくとも生徒会レベルの技量が必要だ。基本的には【第三術式 射葡萄弾】で魔弾を連続で当てる必要がある」
「あと3日で【第三術式 射葡萄弾】を覚えるのは…」
「現実的ではないと思う」
「ですよね」
本当にできると思っている訳ではなかったが、言ってみた。
「本当に第二術式を間に合わせると思っていなかったから、ここまで来たことは褒められたものだよ」
「でも、生徒会のメンバーとしては、足りませんよね」
「…うん」
副会長は本当に正直だ。
「でも、あと残りの期間でできることは小細工と得意なことを伸ばすことだよ」
「小細工ですか?」
「例えば1年の子とかだと【第二術式 射弾】を放つのに集中してしまうから、そこを狙うと【第一術式 球盾】が間に合わず、倒されるし。下手な子は最高学年でもそういう子はいるし」
「なるほど、そういった小細工ですか」
それなら私にもできそうだ。
「私、倒したい人が、2人いるんです」
「それは好敵手か何かかい?」
「いえ、イラッとしたので?」
「…別に戦いの理由が立派であれとは言わないけどそれは言わない方がいいよ」
「でも、絶対に勝ちたいんです」
副会長の目を見ると面白いとばかりに頷いた。
「理由は何であれ、努力するのなら、最後まで手伝おう」
「ありがとうございます。それで一つだけ思い出したんですけど、得意なことを伸ばせって言っていましたよね」
「ああ」
「リア様が前にやっていたのですが…」
それを説明すると副会長は驚いた。
「いや、それは、君ならできるのか?」
「私は【第三術式 射葡萄弾】を今から覚えるよりは良いと思っています」
「うーん。確かにそうなのか? いや、私にはそれでいけるという自信はない。しかし、最後まで付き合うといった以上付き合おう」
残り3日でできることなんて大したことはない。
でも、勝率を1%でもあげれるのなら何だってする。




