#11 総合演習①
色々忙しく日々を過ごしていたらあっという間に総合演習当日を迎えた。
総合演習の目的は表向きには一つである。今までの練習の成果を発揮することである。しかし、よく考えて欲しいのだが、学園に入って3ヶ月程、練習期間を考えれば、もっと遅くやっても良いはずだ。
恐らくこの演習の本当の目的は、練習をやった気になっている学生の鼻を折ること。もしくは自分とのレベルの違いを知ってもらうことだろう。だから基本的には練習した魔術を先生に見せるのが、主なイベントなのだが、学生達の思惑は違う。
———生徒会とのエキシビションマッチ。
それでどうやって有名になるかの方が大事なのである。
「それでは皆さん、それぞれが参加する術式のテストに並んで下さいね」
「#♪」
私とリア様は生徒会のメンバーなので、一学年を纒める役だった。総合演習は基本的には攻撃術式と防御術式を見てもらう。私が見てもらうのは【第二術式 射弾】と【第一術式 球盾】だ。これは、多くの魔術師が見て貰う最低限のレベルである。自身のレベルに合わせて志願をするのだが、1年生の多くはこれを見てもらう。私は魔術が一切できなかったとは言えど、一年生の基本的なレベルまで追いついてきた。ただ生徒会の一員としてこれでいいのかと言うとそれはまた別だ。
「ですが、思ったよりも二年生、最上級生も防御術式は【第一術式 球盾】を見て貰うんですね」
みなさん教育が行き届いている方が多く、最初にまとめさえすれば、あとは勝手に並んでくれる。暇になったので、同室であるアンナに話しかけた。
「そりゃあ、そうでしょ。3年かけて第三術式が出来れば最低限卒業できるんだし。防御術式は第一術式の上は、第四術式くらいしかないしね。わざわざ難易度が高い【第四術式 創重壁】を狙う必要がないし。将来的にあんまり魔術を使わない奴もいるそうだし」
リア様や他の生徒会メンバーが楽々と使うから忘れがちだが、第四術式は非常に難易度が高い。一生掛かっても第四術式が出来ない人がいるほどだ。
「皆中央国の官僚を狙ったりしないんですか?」
中央国の官僚になるには魔術としての素質が一番だと西の国の公爵は仰っていた。
「そりゃあ、全員が全員狙うわけじゃないし、祖国から帰ってこいって言われているのもいるでしょ」
まあ、リア様だってよくよく考えれば祖国に帰るのだ。
「中央国の官僚を狙うような奴は祖国に居場所がないか、野心があるかの二択よ。あんたが良く釣るんでいる長男連中には、関係ない話よ」
長男連中とは、リア様、アリーさん、ダーシーさんのことである。多分アンナさんはイットウさんも含めて考えているとは思うが、実は彼は次男である。
「しかし第四術式以上の防御術式に並んでいる人が少ないんですね。あまりモチベーションがないんですかね」
「防御術式に比べて攻撃術式はバリエーションが沢山あるからね。【第四術式 創重壁】ができなくても、コツさえ掴めば、攻撃術式の第五術式が使えてしまうのよね」
「なるほど」
ネームバリュー的には第四術式が使えるより、第五術式が使えるといった方がいいのだろう。ただあの最初の授業を思う限り、先生方はむしろ防御術式を頑張って欲しいのだろうな。
「マリーさん、マリー・スプリングフィールドさんはいますか?」
「はい!」
順番はまだだと思っていたが、突然先生に呼ばれた。
「はい、なんでしょうか?」
「君一番最初ね」
「え? 最初は三年生からだと聞いていましたけど」
「君、生徒会でしょ。早いほうがいいよ。準備だってあるだろうし、生徒の整列とかも手伝ってもらうし」
「わ、わかりました」
そういって【第一術式 球盾】を展開する。
「はい、もう行っていいよ」
「...あっさりですね」
「これから何百人と見るわけだしね。それに君の第一術式は綺麗だしね。第四術式には、挑戦しないの?」
「いえ、私は第二術式までしかできないので」
普段は私とは接しない先生なので、私が最近まで魔術もできないことを知らないのだろう。
「それは驚いた。基礎を大事にしているんだね」
「そういったわけではないのですが...」
どうやら変な勘違いをしてしまったようである。
「じゃあ、攻撃術式を見てもらいな」
「はい、失礼します」
第二術式のほうを見ると人が沢山いた。基本的に皆さんが頑張るのは、攻撃術式のほうなので、攻撃術式は分散される。当然だが、数字が高い術式の人間は待ち時間が少なく、早く終わる。生徒会の面々も基本的には早く終わるはずだ。比率的に言えば第四術式までで大体八割ほどの人間がいた。勘違いしないでほしいのだが、残りの二割の人たちが100%の成功率で第五術式や第六術式をできるわけではない。例えこの総合演習で認められれば、50%ほどの成功率でもできたということになるので、挑戦している人も少なくないのである。だからこそピリピリとしているのだが、他の生徒会の皆さんは当然、全員第六術式の場所にいる。そこで和気藹々と喋っている。この人たちは失敗なんて考えていない人たちである。改めて考えると私が場違いというのはあながち間違っていないのだろう。
「おい!」
突然声をかけられたことにはびっくりするが、その声で誰かわかった。
「どうしました? イットウさん」
イットウさんは明らかにイライラしているのがわかった。
「何を企んでいる?」
「何も企んでいませんが?」
「じゃあ、あれはなんだ?」
その指さす先では、ツバキさんが第五術式の列に並んでいるのが見えた。
「おや、第五術式に並んでいるようですね」
自分でも笑っちゃうくらいわざとらしく言った。
「俺は一年生が出場予定の名簿を見た時は、誰も第五術式に登録しているやつなんていなかったぞ」
この人こういう細かいこと気にするんですね。まあ、名簿は回収した後に私が変えたのですが。
「それは、本来の力を出して頂いただけです」
イットウさんはリア様を除けば、学年で一番才能があると言ってもいいだろう。でも、それは公式上の能力の話だ。イットウさんより第一術式の出来がいいツバキのほうが、魔術が上手いのだろうとずっと思っていた。でも、使うのは、精霊魔術か、番号の低い魔術ばかり。そこに疑問を持ったのだ。
「私は出せる力で一番高い術式を教えてくださいと答えただけです」
「それが第五術式なのか?」
「はい」
イットウさんは一瞬にして無表情になった。これはきっと一種の感情をコントロールする術だ。私はこの人が考えていることが隅々までわかるわけではない。この人は感情を殺すのが上手い。でも、ツバキさんのことだけは感情を隠し切れないのだ。
「もう一度聞くけどお前は何を企んでいる?」
企んでいることなど沢山ある。それが全部成功することも失敗することもある。でも、成功させたいものはいくつかある。
「私は宣戦布告します。イットウさん、あなた達を倒します」
「あなた達って何を言っているんだい?」
私が宣誓布告したことではなく、言葉尻を捉えられてしまった。私が倒す可能性を万が一にでも考えていないのだろう。
でも、勝つのだ。
そう、私たちの力で。
「それでは、私は忙しいので」
そう言って私がその場を去ると歓声が聞こえた。横目で見ると仮面の少女が【第五術式 擲廻転炎槍】を成功させていた。
「私も頑張らないと」
第二術式の列へと並んだ。私たちの本番はまだこれからなのである。
私が第二術式の試験を終えると皆が既に集まっていた。
「やあ、マリー嬢。試験はどうだったかな?」
生徒会のメンバーが集まっているところに行くと生徒会長が最初に私に気づいた。
「無事完了しました」
「来年は第四術式を覚えて、再来年は第六術式だね」
笑顔で無茶ぶりをするのは止めてほしい。第四術式だって私の何倍もやっている人ですら、できていないような凄い技なのだ。この人たちが上澄みなだけだ。
「頑張らせていただきます」
まあ、だからと言って頑張らない理由にはならない。
「それじゃあ、午後のエキシビションマッチについて準備していこうか」
「それについて提案があります!」
生徒会の面々は驚いただろう、まさかいの一番に提案するのが、私だとは思わなかっただろうから。
「提案とは?」
私は今回の提案を話した。しかし、私はみんなよりも別に魔術の経験があるわけでもない。だから、これが全く通らない可能性についても考えていた。でも、これが通らないと作戦は成功しない。
「では、それでいこうか」
意外にもそれを了承したのは生徒会長だった。
「生徒会長!?」
「よくよく考えてみてください。生徒会長! 定石とあまりにも離れすぎています!」
副会長が否定するのも無理がない。
そう、私が提案した戦い方は、普通の戦い方とは大きく違うのだ。
「正直言ってこの作戦は狂っています」
「狂っている? 確かにそうだな」
そう言って生徒会長は笑った。
「でも、こちらにはリア君がいるんだぞ?」
生徒会長が言っていることもまたおかしなことを言っていた。
「いや、リア君がいるからって」
「どうにでもなってしまうだろう?」
「それなら手堅くやったって」
「いや、手堅くやるというのは間違っているね。そもそも僕たちは数の差で劣っている。僕らが十人力、二十人力の力を発揮したところで、数の差に食われてしまう。だったらそもそも手堅くやるというのは、手堅くやって負け方を決めるという話にしか過ぎないのだよ」
「———」
会長が言うことに一定の説得力があったのだろう。副会長が黙った。
「...わかりました。それでは作戦をそのように」
「待ってください!」
悪いけどまだ決まりでは困るのだ。
「なんだい? 突飛な作戦に続き、まだ何かあるのかい」
「あります」
流石にこれを言うのは緊張する。
「雑用係の方、試合に出てください」
私がそんなことを言うと思わなかったのか、生徒会長が噴き出して笑った。
「い、いや、だから、私はでないと」
カルロス先輩は焦っていた。
「雑用係の都合なんてしりません」
今度は私と雑用係以外の全員が噴き出した。
「いや、君にはわからないと思うが、これは男と男の約束で...」
「では、私には関係ないですね」
私女ですし。
「それにこれは生徒会全員との約束で」
「公的な約束ではないですよね」
「———」
そうそんなこと知ったこっちゃないのだ。
そんな変なプライドで私の思惑が潰されては困る。
「どうする?」
笑いを堪えながら生徒会長はカルロス先輩に聞いた。
「はあ、僕が役職に戻ったら覚悟しろよ」
「果たしてここまでの醜態を晒しておいて、元の役職に戻れるかどうかですね。私が代わりになってもよろしいですよ」
こっちは迷惑をいっぱいかけられたのだ。皮肉の一つでも言ってやらないと気がすまない。
「生徒会長!」
カルロス先輩が吠えるが、生徒会長は笑い飛ばした。
「それは今日の活躍次第だね」
そう聞くとカルロス先輩は髪を掻いてから笑った。
「君ら全員覚えておけよ」
これで土壇場だったが、全てのピースが揃った。皆には申し訳ないが、今年のエキシビションマッチは生徒会の圧倒的な勝利で今年は終える。




