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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第三章 仮面の少女

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#10 傷ついた訳

 部屋に戻るとアンナが勉強していた。

「———もしかして何かあった?」

「いえ?」

生徒会の業務で遅れるということは知っている筈なのにどうしてそんなこと思ったのか。

「そうなんだ。さっき自由時間の時にリンディとシンディが来てマリーがいないか聞いてきたの」

「それでしたら明日部屋に行きます」

「うん、それで良いと思う。でも、凄い焦ってた」

「焦ってた?」

2人が焦るとすれば十中八九ヴィクトリアさんのことだろう。何かあったのか。いや、あったとしても私に声を掛ける必要はないだろう。不思議がりながら、明日の為の準備をしているとあっという間に消灯時間になってしまった。

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

いつもだったら疲れてそのまま寝入っていた筈だ。だけどヴィクトリアさんのことが少し気になってしまった。まあ、しょうもないことで悩んで、リンディさんとシンディさんに迷惑をかけている可能性もあるけど。そう笑って自分を誤魔化した。どちらにしても消灯時間には動けまい。


 その時戸を叩く音がした。

「お休み中失礼します」

小声で入って来たのが直ぐにリンディさんだとわかった。

「マリーさん、折いって頼みがあります」

当然だが消灯時間を過ぎて起きていれば、寮長に怒られる。

「申し訳ないですが、明日でも?」

だからこそ彼女がここに来たのはのっぴきならない事情があるということだ。だけど私は眠たくて嫌なフリをする。そうすると彼女は無理を承知でお願いする。

「無理を言っているのはわかっています。ヴィクトリアお嬢様を助けてくれませんか」

彼女は下手に出たということは、私が主導権を握ったということだ。

「じゃあ」

起き上がり、彼女の表情が見える様に近づいた。

「事情を教えて下さい。寮長が来る前に」

リンディさんにはちょっと悪いけど、機嫌があまり良くなかった。さっきのツバキの件で少し傷ついていたのだ。それにわざわざ私の眠る時間を削る人に配慮する必要はない。

「ッ!」

少しだけ機嫌が良くないことに気付いたのか、リンディは気圧される様に1歩下がった。

「早くしないと来ちゃいますよ」

「あっ、それで————」

彼女の話を聞くとヴィクトリアさんが帰ってきたから寝込んでしまったこと。イットウさんとツバキさんを呼び出したこと。そして、そのことを後悔していることを聞き出した。

「そうですか」

状況は理解した。

ツバキさんのあの反応に納得がいった。どうして素顔を晒して私を怖がらせようとしたのか不思議に思っていた。大方勝手に呼び出して、仮面を剥いだか何かしたのだろう。

「じゃあ、寝ますね」

そう言ってベッドに戻るとリンディが驚きながら起こそうとしてきた。

「ちょっと何でよ! マリーじゃないと駄目なの!」

「いや、今消灯時間ですし」

眠いですし。

「ヴィクトリア様のあんな反応はおかしいわよ。何かされたか、何か言われたのよ!」

「うるさいです。アンナが起きたらどうするんですか!」

さっきからピクリとも動かないので、実際は起きているだろう。

「マリーじゃないと———」

マリーじゃないと? そんな訳ない。別にヴィクトリアさんはあなた達にも信頼を置いているだろう。それでも私の毛布に捕まるので答えた。

「明日の朝、行きますから」

「マリーが思っているより深刻で———むぐっ」

手で物理的に唇を閉じた。

「———うるさい。明日の朝行きますから」

それでも納得していないから更に適当なことを言っておく。

「どうせ今日は何も聞こえませんよ」

「———」

「人の話を聞くのに時間が必要な場合もあります」

別に彼女の焦る気持ちも理解しない訳じゃない。私だってリア様が落ち込んでいたら焦るだろう。

「———ごめんなさい」

「謝罪を受け入れます。早く出て行って下さい。人には寝る為の時間が必要です」

そう言うと足音を立てずに俊敏に帰っていった。

「良かったの?」

やっぱりアンナは起きてたみたいだ。

「良いんですよ。もう夜中です」

「でも、ヴィクトリアさんの親友じゃん」

「———なんですか。それ」

いつの間になったんだ。

「今回私はヴィクトリアさんの味方じゃないです」

悪いけどヴィクトリアさんには怒っている。ツバキさんを悲しませたのは、彼女だからだ。一晩くらい反省したっていいだろう。

「それにあんなに親身になってくれる従者が2人もいながらどういうことですか? 慰めて貰うなら2人にやらせて下さい。大体2人もなんで私に⋯」

「それはマリーがマリーだからだよ」

アンナは少し言葉が足りなくてよくわからない。

「多分ヴィクトリアさんと同じ立ち位置に立って欲しかったんだと思うよ」

「いや私とヴィクトリアさんじゃ階級が違いますから」

そう言うことじゃないよとアンナは笑った。

「でも、その割にはヴィクトリアさんに辛辣だよね」

「それは———」

ヴィクトリアさんの普段の行いが悪いだけで。

「多分駄目なことは駄目って言えるマリーだからだよ」

「——————」

駄目なことは駄目と言うか。

それは確かに私の美徳かもしれない。

「ああ、そうですね。最初からそうすれば良かったのですか」

「うん?」

「アンナさん、ありがとうございます」


 翌朝目覚めるとそのままヴィクトリアさんの部屋に直行するわけでもなく、優雅に朝食を取った。ヴィクトリアさんには悪いが、今日の予定は詰まっているのだ。朝食をしっかり取った後、ヴィクトリアさんの部屋へと向かった。コンコンとドアを叩く。返事は無いが気にせず部屋に入っていった。私の部屋とも大きく違わないのは、寮なのだから当然か。でも、置いてある装飾品、調度品の数は私の部屋を大きく超えて全く別の部屋みたいだ。

部屋に入っても、誰もいない。のではなく、布団の中には塊が入っているのが見える。まるで拗ねた子供みたいだった。

「ヴィクトリアさん」

「.......」

入ってきたのが私だとは思わなかったのだろう。少し身じろぎをした。これは起きているのだろう。

「貴方の御付きの侍女が私に助けを求めてきました。昨日から起き上がらないし、朝食も取らないと」

「......」

「悪いですけど少なくとも顔は見せて貰いますよ」

布団から引き剥がそうとするが強い力で抵抗された。

「冬の時のリア様ですか!」

しばらく奮闘していると諦めて、布団から出てきた。

「全く酷い顔ですね」

笑ってしまうくらい傷ついているのが、わかりやすい。目元を真っ赤にして、隈だってついている。大方、一晩中泣いていて眠れなかったのだろう。

「少し聞きました。昨日、イットウさんとツバキさんを呼び出したのですよね」

「…うん」

いつもは格好いいとか、美人という評価だが、萎れているヴィクトリアさんはもしかしたらこの世で最も可愛いかもしれない。

「私は最低よ———」

あの自信の塊の様なヴィクトリアさんにここまで言わせるとは一体どんな恐ろしいことがあったのだろうか。

「———人の掘り返されたくない過去を掘り返して」

ということはヴィクトリアさんはイットウさんから過去を聞いたのだろう。

「それに火傷の痕を怖がってしまった」

「ヴィクトリアさん。私も彼女の顔は見ました」

「それは!」

何かを言い掛けて止めたのがわかる。

「私も怖かったです。でも、それは悪いことでしょうか?」

別に同情したくて言っている訳じゃない。

開き直っている訳でもない。

「それは貴方が彼女の過去を知らないから」

「だったら教えてくれるのでしょうか?」

「ッ! マリー! あんたはこんな時でもそうやって言わせようとするの?」

言わせようとしている。確かにそのとおりだ。だってここに来たのはそれが理由なのだから。

「はい」

私はヴィクトリアさんの顔を見てそう答えた。

一瞬、彼女は怒りを見せた。

でも、彼女は直ぐに

「約束したものね」

彼女はイットウ氏から聞いたツバキの過去を教えてくれた。


「ありがとうございました」

語るのが辛かったのか、彼女は疲弊した様だった。

「貴方はいつも平然とした顔をするのね。たまに貴方の感情がないのかと思う時があるわ」

「残念ながら見慣れてしまいました」

別にツバキの過去に同情しない訳ではない。悲しいなとも思うし、可哀そうだとも思う。

「それはいったい、いや、良いわ」

今日のヴィクトリアさんは何かを言い掛けてすぐ止める。何かを警戒している様だった。

「私は、この件から降りる」

「…そうですか」

予想していなかったかと言えば嘘になる。

いや、そうだと思っていた。

「では、私から宣戦布告させて下さい」

そのヴィクトリアさんの顔は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をしていた。

「ヴィクトリアさん、貴方を総合演習の時に倒します」

「ちょ、ちょっと待ちなさい。どうしてそういう結論になったのよ」

「どうしても何も必然的にとしか」

「意味がわからないわよ」

「ヒントを少し与えるなら、私は2人に怒っています。いえ、正確に言うと4人くらいに怒ってはいるのですが、この後、怒りをぶつけに行くので大丈夫です」

「はあ!? 貴方は何言ってるの!?」

「考えて下さい」

「面倒くさい彼女みたいなこと言うな!」

さてと立ち上がった。これ以上敵の居る場所に長居する訳にもいかないだろう。

「じゃあ、帰ります。授業にはしっかり出て下さい」

「あんた」

「あと、総合演習まで話しかけないで下さいね。喧嘩中なので」

「最後まで面倒くさいこと言って去ってくるのやめろ!」

ヴィクトリアさんを見ていたら元気が出た。

今日の予定はいろいろいっぱいなのだ。目論見通りヴィクトリアさんとは喧嘩に持ち込めたし、次は「雑用係」の場所だ。


 私の計画の始まりはカルロス先輩への八つ当たりから始まった。

 「雑用係」は生徒会室にいた。

「やあ、マリー嬢、清々しい朝だね」

この人は今本来の立場より低い立場にあるのにこの生徒会では今一番楽しそうだ。責任が無いからなのか知らないが、きっちりと責任を果たして欲しい。

「おはようございます。カルロスさん」

この人は雑用をやるとか言っておきながら、責任ある仕事は雑用だからと断ったり、わざわざ私を弄ってきたりと自由そうにしているのだ

「カルロスさんは今雑用係なのですよね」

私は笑顔で言った。

「ああ、そうとも」

「でしたらお手伝いして頂きたいことがあります」

「もちろん。して何の仕事を?」

「雑用係の方には教えることができませんね」

そう言って生徒会室を出た。

「いくら雑用係とは言え仕事内容は教えて頂きたいものだがね」

カルロス先輩が付いてきた。

「では、黙って付いてきて下さい」

「ふむ、難しい仕事を頼んでくるものだね」

カルロス先輩を引き連れながら最上級生のクラスに着いた。

「失礼、ヴィラ先輩はいますか?」

目の前にいた人に頼んで連れて来てもらった。カルロス先輩は何も言っていないのに隠れるような位置に立った。別に不都合は何もなかったので何も言わない。

「は~い」

「貴方がクラスの代表の方であるヴィラ先輩で合っていますか?」

「あってるよー」

「このクラスの総合演習の出場科目のリストが遅れているみたいですが」

「あー、出すよ。出す」

少し思案した様な素振りを見せてからわざとらしく言った。

「でもさあ、ちょっと待ってくれない? ちょっとぐらい待ってくれてもいいじゃん?」

「いえ、他のクラスは出しているので今日の昼までに出してくれませんか」

「いや、出すからさあ、夕方まで待ってくれない?」

「昨日もそう言いましたよね?」

そう、私はとても舐められた態度をされているのだ。多分、彼女はただ嫌がらせの為だけに提出を遅らせているのだ。

「これ以上は貴方のクラスは提出しなかったと見なして参加資格から取り消されますが」

「でも、出されなかったら困るのは貴方よね」

こればっかりはそうなのだ。残念ながらここで強気に出ても、良いことはない。だからこそ彼女はこうして嫌がらせをしている。何が彼女がそう駆り立てるのか理解できそうにはない。

「言っておくけど私の方が生徒会のメンバーと仲が良いんだから、あんたの言うことよりこっちの言うことを聞くに決まっているでしょ」

「そうですか。残念です」

ヴィラ先輩は意地悪に笑った。

「では、行きますか」

そう言うヴィラ先輩の笑顔が歪んだ。それはきっと私の後ろで隠れていたカルロス先輩を見ていたからだろう。

「なっ、何でカルロスが!」

「・・・・・・」

カルロス先輩は黙って私に付いて来る。

「ちょ、ちょっと待ちなよ。今のは冗談じゃん」

「・・・・・・」

カルロス先輩は黙って私に付いてきた。私がそう言ったからだ。

「待ちなよ」

カルロス先輩に話しかけるのは無駄だと悟ったのだろう。私の方に話しかけて来た。

「何でしょうか?」

「出すよ。出すから」

「それでは提出して貰えますか?」

「今、用紙が無いから後で出すよ」

「そうですか。では、1時間後までに生徒会室に出しに来てください」

「は? さっき昼までって」

「さあ? そんな約束しましたっけ?」

「てめえ!」

「それではご機嫌よう」

憂さ晴らしとしてはちょうど良かった。

「ククッ」

「カルロス先輩も楽しそうで何よりです」

「いやあ、こんな雑用係の使い方は初めて見た。笑いを堪えるのに必死だったよ」

「下っ端の大変な気持ちがわかりました?」

「ああ、このまま下っ端でもいい位にはわかったよ。しかし、君は良い性格をしているね」

「よく言われます」

「なるほど、リア君は脇が甘いと思っていたが、どうやら脇を守ってくれる人がいるみたいだね」

「それって誉めてるんです?」

「もちろん」

「さて、野暮用も済んだので本題に移りましょう」

「そら来た。次は何をするんだい? 雑用係だから聞かないといけないよ」

言質を取りました。

「では、これから女の子を拉致するので、手伝って下さい」

「ちょ、ちょっと待て」

カルロス先輩は戸惑った様子ですが、知りません。言質を取りました。

「ほら雑用係の方、行きますよ」

「そんなのは無理だっ」

「命令その1、黙って付いてくることですよ」

「・・・・・・」

捉えどころがないと思っていたが、意外と可愛い方なのかもしれない。

「現生徒会で一番怖いかもしれない」

小さい声だが、聞こえている。

「そこ! 黙って付いてくる」

「・・・・・・」

無言で付いてくる先輩を周りの生徒は意外そうに見ていた。


 抵抗されたらカルロス先輩を使うつもりだったが、目的の人物は、素直に付いてきてくれた。まるで小柄な子供が誘拐されるかのように付いて来てくれた。仮面の少女は今身長が高い男子とそれを従える女子に囲まれていた。身長が学年でも一番小さいのではないかと思っているが、カルロス先輩に比べると本当に小さい。

「これどう見ても犯罪現場じゃない?」

「違いますから」

変なことは言わないで欲しい。

私と違って確かにカルロス先輩は危険そうですが。

「怯えているんですから滅多なこと言わないで下さい。勘違いされたらどうするんです?」

「勘違いか? 本当に?」

「カルロス先輩のせいで怯えています」

「いや、君のせいだからね。僕は、連れて来られただけだから」

「しーっ、声がデカいです」

「うっ、それずるいよ」

うるさいカルロス先輩を無視してツバキさんに話しかけた。

「怖かったですよね。こんなデカい人に人気がない場所へと連れてかれて」

ツバキさんに一歩近寄ると一歩下がった。

「?」

もう一歩近づくともう一歩下がる。

「社交ダンスか!? どう見ても君を怖がってるよ!」

「しーっ、声がデカいです! カルロス先輩のせいで顔が青ざめています」

「うっ、違っ、だからそれずるいよ」

「女の子同士の話に入ってこないで下さい」

そう言うとカルロス先輩は諦めた。

「わかったよ。【第五術式 創多重壁】」

そう言うと私達を囲うようにして魔術の壁が生成される。リア様ほどではないが、この練度は流石の生徒会メンバーといった形だ。カルロス先輩としては多分遮音性のためにやったのだろうが、どう考えても逃げ場を失くしたようにしか見えない。

しかし、どうしてツバキさんは手を前に突き出しているのだろう。まるで助けを求めているみたいだ。

「さて、それではお話をしましょうか」

差し出した手を両手で覆うように挟んだ。

「ッ......」

「昨日のお話の続きがしたいんです。いいですか? お二方」

「私の周りにはまともにお話をしてくれない人ばかりです」

話を遮る。逃げる。怒る。煙に巻く。

「だったら無理矢理席に座らせるしかないじゃないですか。ねえ」

私が微笑むとツバキさんは何故か一歩下がった。

私はここで初めてツバキさんとお話をした。

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