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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第三章 仮面の少女

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#6 遅くまで続く特訓と偶然の出会い

 カルロス先輩が雑用係となってから、私には良いことはなかった。

「マリー君、手伝おう!」

「マリー君、肉体労働は私が」

「マリー君!」

カルロス先輩とは積極的に絡む方ではなかった。何より普段私より忙しそうだからだ。でも、前の練習から雑用係に変わったことで積極的に絡む様になってしまった。良くないことというのは積極的に関わるようになったことではない。

「ねえ、あの子カルロス先輩のこと顎で使ってるよ」

「1年生の癖にね」

「魔女、魔女よ。あの子」

わざわざ近づいて違いますとも言えないので、押し黙るしかない。生徒会室に辿り着いた後、周りの生徒の目が無くなったことを確認すると開口一番で言い放った。

「カルロス先輩、外であの様な振る舞いお辞め下さい!」

「ふむ、善処しよう」

この人、わざとやっているのではないだろうか?

「マリー君もカルロス先輩なんて呼ばなくてもカルロスで結構だぞ」

「カルロス先輩は雑用係になったとしても、先輩でなくなった訳ではないですよね」

先輩としての威厳までも捨てたわけではないですよね?

「はっはっは、鋭いな」

「そんな奴放って置け」

副会長が疲れた様に言い放つ。

「何だ疲れているように思えるな。肩でも揉もうか?」

「誰のせいだと思っている」

「大丈夫ですか?」

心配して副会長に声を変えると眉間に皺を寄せながら答えた。

「総合演習の運営に関して言えば大丈夫だ。でもエキシビションマッチが1人減った状態でいけるかどうか」

「それはリア君がいるから大丈夫だ」

カルロス先輩は楽観的に言っているのかと思いきや、意外にも真面目な顔で言った。

副会長もそれに面食らっていた。

「君は楽観的過ぎる。技量だなんだで押し返せる数じゃないぞ」

「いや、数だって此方が勝ってる。会長は100%勝つから99%勝つに下がっていたから動揺していただけだし普通に考えて順当にこっちが勝つ」

「数で勝ってるって何を言ってる?」

カルロス先輩は口ごもって説明が面倒になった様に誤魔化した。

「まあ、本番になればわかるよ」

私も副会長もカルロス先輩のことを深く追求しなかった。

「それでマリー君、君の特訓のことだが」

「え? あれで終わりでは?」

「訓練は一朝一夕で身につかないぞ」

ああ、そうですよね。正直言えば昼の時間でも実践魔術の練習をして放課後でも練習するのは、疲れるのだ。

「でも、雑務が」

「それはこの雑用係のカルロスにお任せを」

断る理由も他に思いつかない私は仕方なく「はい、是非ご指導お願いします」と泣く泣く言う羽目になった。別に練習が嫌な訳じゃない。でも、あんまり向いていないことをずっと練習するのが嫌なだけで......。


 訓練場に着いてから副会長は開口一番に言った。

「君は実はそんなに魔術が下手な訳ではないかもしれない」

「え? 本当ですか!」

実践魔術では初級だけど、上級に上がる条件は実はクリアしている。真剣も通さない【第一術式 球盾】については成功しているのだが、先生には上級に上がることは可能だが、おすすめはしないと言われた。普通、上級に上がる様な人は少なくとも第二術式が出来ているとのことだ。また、別に上級に上がった所で教えて貰うどころか。むしろ自己練習の時間になるのでおすすめはしないと言われてしまったのだ。

「だが、今のままだと決して上手いとは言えない」

それは自分でも自覚していた。

「君の魔術の出来を例えるのなら投石のフォームは完璧と言えるが、何故か投げられていないという所だ」

「え?」

わかるような、わからないような?

「少し見ていろ」

そしてポケットに入っている石を握り、投げた。投石という単純そうに見える行為でもきちんと投げ方に沿わないと遠くまで飛ばないのだ。副会長は綺麗な振りで石を投げる振りをした。

「さて石は何処に行った?」

「投げてないですよね」

「君は目がいいな。騙せたと思ったよ。では何故投げられなかった?」

「手を石から離せていないからですよね」

「そうだ。その前の投げるフォームについてはどうだ?」

「別に問題なかったですけど」

「そう! これが君の状態なのだ」

「なるほど私も第二術式を放つまでは完璧とは言わないまでも良くて、放つ時が下手だと」

「そうなんだが、君の問題は少し別にある。マリー君、もしも私がこれで真面目にどうしても投石ができないと言ったらどうする?」

「単純に手を離せば良いと言いますが」

「私は手を離しているつもりなんだが、出来ていないのか?」

やや芝居臭いが言いたいことはわかった。

「それが私が出来ていない理由ということですね」

おそらく普通の人間が躓かないところで躓いているのだ。石を投げるのにどうやって手を放せばいいか聞いてくる人はいないだろう。

「でどうすれば?」

正直言えば、そこができていないのは私にもわかっている。私が知りたいのは、それを直すやり方だった。

「わからない。君だって単純に手を離せば良いのではと言っただろう」

「それもそうですね」

だとすると副会長がいる意味がないのでは?

そうは思ったが口に出すことはしない。

「それでは第二術式をやってみろ」

「え? まず方法を考えた方が良いのでは?」

「それはさっきわからないと言っただろう。だからこそ数をやるしかないだろう」

嫌な気持ちが口を充満する。口にこそ出さないが、止めたい。

「ほら」

しかし、そんなことは許されそうにはない。副会長は意外にも根性で何とかするタイプだったのだ。

「…はい」

私は大人しく第二術式を唱えるのであった。


 その日の練習は夜遅くまでかかった。

「あっ、夕食どうしましょうか?」

夕食の時間はとっくに過ぎて、普通は夕食などない時間だ。

「大丈夫だ。この時期は生徒会が忙しいということで寮長も夕食を遅くまで置いている」

「そうでしたか。でも、女子の寮にも置いてあるでしょうか?」

元々女子が今まで生徒会に入ることなどなかったのだ。だから男子の寮に置いてあるからと言って女子の寮にも置いてあるとは限らないと思ったのだ。

そう言うと副会長は足を止めた。

「どうしたんですか?」

「すまない! そこは完全に抜けていた。男子寮では必ず置いてあるんだが、女子寮までは頭回っていなかった」

「ああ、いえ」

私よりもひと回りどころかふた周り以上大きい人間に謝られるのは此方が申し訳なくなる。

「今から男子寮に行って取ってくる」

「いえ、大丈夫です。遅いと言えどパンくらいならあるでしょうから」

「いや、しかし」

魔術の練習もあったし、それに朝からカルロス先輩からもその様な絡み方をされていたので(あれは半分くらい私の反応を楽しんでいそうだったが)疲れていた。

「大丈夫です」

「いや」

「大丈夫ですから」

そうやってやり取りをしていると女子寮へと近づいた。

「すまないが、女子寮へとあまり近寄りすぎると風聞が」

このまま女子寮に入るまで続くかと思われたが、流石に控えてくれたようだった。

「ええ、わかっています」

「それでは失礼する!」

副会長は良い人なのだが、硬い人なので本当に疲れるのだ。


 寮に恐る恐る戻ると意外にも食堂に灯りが点いていた。もしかしたら寮母さんが私がいないことに気づいてご飯を残してくれたのかもしれない。

「失礼します」

別に何かある訳ではないが、小声で食堂のドアを開いた。いつもは開けっ放しだったので、気付かなかったのだが、ドアが軋む音が食堂に響いた。

「ひゃっ」

誰かまだいたのだろうか?

そうやって声がする方を見ると暗闇から仮面が出てきた。仮面はどんどんと此方に近づいて来た。

「うわあああああああ!」

驚いて尻餅を着くと仮面は私には向かって来ず、私が入ってきた出口に向かった。心臓が早鐘を打つ。

「び、びっくりした」

まだ、心臓の鼓動が収まらない。

「どうしたんです?」

寮長が驚きながら、食堂へと入って来た。

どうやら騒ぎを嗅ぎつけたのだろう。

「この時間は部屋に戻っている時間では?」

寮長は少しピリピリしていたが、此方には大義名分があった。

「すいません。生徒会のお手伝いで遅れていたんです」

「…そういうことですか。それならちゃんと次からは言ってくださいね」

寮長はすぐにここから離れようとした。

「あの、今誰かここにいた気がするんですが」

「...気のせいではないのですか? 私は見ていませんが」

声が少しだけ震えたのがわかる。嘘をついているのだ。

「あの、寮長は精霊教の信奉者でしたよね」

「え? あ、はい」

私がどうしていきなりそんなことを言ったのかわからず寮長は答えた。

「ところで話は変わりますが、うちの寮内にツバキという生徒がいるそうです」

寮長はすでに何を言っているのか分かったようだった。

「私の友達が言うには、そのツバキという生徒は寮の食事の時間にはいないそうです。その子はどうやって食事を取らずに生きているのでしょうか? 私は誰かが食事を与えているのだと思います」

わざとらしく確信を外して質問する。

「それで誰が与えていると?」

「いえ、それは私の調べではわかりません。先ほどの見た幽霊とツバキさんが似ていたというだけです」

「私を脅すつもりですか?」

「脅す? 何を言っているかわかりませんね」

私と寮長の立場を考えれば、寮長のほうが立場として強い。多少私が何か言ったところでその関係性は変わらないのだ。それに食事の時間を変えるなんて配慮は別に怒られることでもなんでもないだろう。それを根拠に脅すなんて愚の骨頂だろう。

「ただ、私の友達にいる、ヴィクトリアという少女がいるのですが、その人に噂として流してしまうかもしれませんね」

寮長の目がカッと開いた。寮長が分かりやすいくらいに動揺しているのが分かる。

脅しではないが、確かに寮長の肝を少し冷やそうとした。

したにはしたのだが、ヴィクトリアさん、警戒されすぎでは?

私も少し動揺させようと思っただけで、こんなに動揺するとは思いませんでしたよ。

逆にヴィクトリアさん、大丈夫ですか?

一体何をすればそこまで警戒されるのですか?

「それを脅していると言うのです!」

語気を強くされながら言われたのだが、本当に脅すつもりなんてなかった。だが、まあいいでしょう。

「別に寮長に便箋を図ってほしいとか、そんな大したことは言いません。ただ、今後も遅くなるので遅くなっても食事を取れるようにしてほしいだけです」

「そんなことお願いしなくても」

言わなければいいのにと思った。寮長は正直すぎた。

「ええ、ですが、件の少女のお食事の時間をお邪魔してしまうのも私としても嫌ですから、一緒に食べるなどはどうでしょうか?」

「そ、れは」

おそらく寮長はこれを断らない。

「わかりました」

だってこれは彼女のためにやっているのだから。寮長は非常に敬虔で優しい人だった。別に寮長が何か贔屓したとて、それは別に許されることだ。むしろ寮長が自分で自分を縛るからこそ、それが自分自身で許せなくなっているのだ。その寮長が自分からルールを破って、「一人の特別」を好き好んで認めているとは思えない。恐らくはこの対応も何かしらの思いやりあってのことだ。

そして別に私もそれを咎めたいわけでも、その恩恵に享受したいわけでもない。

私の目的はただ一つ。

仮面の少女と少しお話をすること。

仮面の少女の持つ精霊魔術がリア様の言葉をわかる第一歩となるような予感があるのだ。こんな形でその機会を得られるとは思ってもいなかったが。

「しかし、私からも一つお願いがあります」

「なんでしょうか?」

「ヴィクトリアにだけは教えないでください」

「あ、あの、いや教えるつもりはないのですが、そこまでヴィクトリアさんは悪い人ではないですよ」

別に悪態はつくが、どちらかと言えば善良な人間なのだ。態度が悪いだけで。

「いえ、長年の経験的にわかります。あの子とヴィクトリアの相性は悪いです。どうやっても一緒にいることができない人間関係があるのです」

ヴィクトリアさん。

あなた信頼されていないですよ。

こちらがかわいそうになるくらいです。

「わかりました。絶対に言わないので安心してください」

「正直あなたなら信頼できます。あなたは同室のアンナとも仲が良いですしね。でも、こんな脅してくるとは思いませんでしたが」

「ヴィクトリアさんを出したのも含めて、脅したつもりはなかったんですよ」

こればっかりは本当なのだが、納得はしてもらえなかった。

ヴィクトリアさんに日頃の行いを正すべきか本人に言うべきか迷った。

しかし、私は寮長を少し見くびっていた。寮長は余りにも潔癖すぎるところがあって、人間を善悪二元論で判断していると思っていたのだ。だから、もう少しこの言葉をよくよく考えておけばよかったのかもしれない。

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