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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第三章 仮面の少女

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#5 嵐の前のボヤ騒ぎ

 仮面の少女の件は難航していた。しかし、それだけにかまけている訳にもいかなかった。生徒会は、学校の雑務を行うだけに留まらず、様々な運営、設営を行う必要がある。

「皆、聞いてくれ。私達はこの2週間弱でイベントの準備を行わないといけない。と言ってもこの総合演習に関しては教師と一体で行うイベントの為、そこまで準備が必要な訳ではない。しかし、総合演習には大事なイベントがある」

生徒会長の言葉を誰もが真面目に聞いていた。

「全校生徒と生徒会での対決だ」

対決、対決か。生徒の代表と一対一で戦うのだろうか?

「イベントの目的のメインは学生の練習成果の確認というところが大きいからね。そっちも頑張るように」

概要を全て言い切ったと言わんばかりに大きくため息を吐いた。

「去年までの僕らでは半分ぐらいしか減らせなかったからね」

半分? 生徒会長の言葉には、違和感を持たざるを得なかった。

「いえ、六割、七割は減らしていましたよ」

「それは流石に記憶の美化というものだ。実際私達の実力では5割程に過ぎない。しかし」

生徒会長は言葉を貯めて言った。

「今年はリア君がいる」

私とリア様以外の4人が拍手をした。

「あの、少しいいですか?」

盛り上がる先輩方を止めるのは気が引けたが、聞かなければならない。

「あのさっきから半分とか言っているのですが、生徒の方と一対一で戦うのですよね?」

魔術師の決闘は基本的に一対一の筈だ。きっと全校生徒から選抜されたメンバーと対峙する筈だ。

「何を言っているんだ?」

え? 嘘ですよね?

「さっきから全校生徒対生徒会だと言っただろう?」

生徒会の方たちはみんな優秀だ。魔術、学問、精神性。心技体が揃っている。しかし、今初めてこの人たちが馬鹿なんじゃないかと思い始めた。でも、副会長なら真面目な方だからこんなバカなことをは止めるだろう。

「全く何を言ってるんだ君たちは!」

ほら副会長の言う通りだ。

「生徒会とは優秀な人材の集まりだ。それこそ頂点と言うべき人達なんだぞ。全校生徒にも負けないぐらいの力を持っていて当然だ」

———副会長も馬鹿だった。副会長は生徒会長をいつも止めているので、冷静な方とばかり思っていた。

「えっと、魔術師同士の戦いって基本的に手数が多い方が勝つんですよね」

「それ以外の条件は様々なものがあるが、基本的には間違っていない」

「だったら人数の大きい方が手数が多いですよね」

「ああ、間違ってないぞ。しかも昔と違って最近は私達と同じくらい強い生徒も数えられるくらいにはいる」

それって昔は教育の水準が甘くて生徒会のメンバーとその他の生徒の力量差が開いていたからこそこのイベントが成り立っていたのでは?

「しかし、先程言ったように条件はそれだけではない。当然危ないから槍系統の魔術は禁止されているからね」

副会長が言うが、それが何だと言うのだ。第二魔術だろうと当たれば痛いのだ。

「ちなみに数の差はいくら程ですか?」

「うーん、ひと学年100人程でかける三学年で300人対6人だな」

「1人五十人か。いけるな」

バカなんですか

「私も数に入っていますが、私第一術式以外できないんですから」

「じゃあ特訓だな」

「バカなんですか!」

思わず口に出してしまった。

「マリー嬢は勝ち目がないと思っているか」

カルロス先輩は自信がないとばかりに言ってくるが蛮勇以外の何物でもないだろう。

「こういう考え方もできる。マリー嬢は生徒会の一員とは言えど、リア君の補佐だ。一般生徒という見方もできる」

それは私をメンバーとして認めていないみたいで嫌だが、こんな馬鹿な戦いに参加するくらいならいっそと思ってしまう。

「なるほど、それもまたありだ」

生徒会長があっさりと私が参加しないことを認めるとは思わなかった。

「いや、どうだろうか? 周りの人間に何を言われるか」

意外にも私を引き留めたのは、副会長だった。

「おや、君が引き留めるのか」

これには会長もびっくりした様子だった。

「ああ、いや、別に、マリー嬢を気にしたわけではありません。生徒会の評判を気にしたのです」

「ふふっ、わかっているとも」

「しかし、マリー嬢に決めさせたいね。実際、生徒会の方が危険ではある。このエキシビションマッチに一般生徒として参加させるのは優しさにも思える」

何だか生徒会長が優しい? 

いやこれは私を誘導しようとしているのだ。

それはおかしい。

何が目的で?

私が一般生徒として参加したらどうなる?

「あっ」

生徒会長を軽く睨んだ。

「いえ、やはり生徒会の一員として参加します」

「おや、その心は?」

会長がわざとらしく聞いてきた。

「リア様と絶対に戦いたくないです」

一般生徒300人がもし魔弾を撃ったとしても300発、もし1人が2つ魔弾を撃っても600発しか無いのだ。でもリア様だったら何発撃てる? 第六術式を空が埋まる程撃てるのだぞ。リア様と対面するというのはそういうことだ。空が埋まる数の魔弾は数百では済まない。数千というレベルだろう。

「あー、いやなんだ。流石にリア君がいるとは言えど、あっさりとは勝てないと思うぞ」

副会長はは何でそんな弱気なんだ。

「然り然り。リア君は第九術式を修めているとは言えど、持久戦だしな。危ないから槍系の術式は止められているし」

カルロス先輩の言っていることは何を言っているかわからなかった。

そうか。ほかの生徒会の人たちはリア様が戦う様子を見ていないのだ。それならその反応も不思議ではない。だってあのリア様だ。その私の様子を見て生徒会長は笑った。

「そうだ。親睦を深めることを考えて変則的な魔術戦をしようか」

「おお〜、良いね。竜殺しの実力見てみたい」

「後輩ではあるが勉強させて貰おう」

「#」

生徒会で外に出る準備をしていると突然副会長が声をかけた。

「私とマリー嬢は別行動でいいか?」

「え?」

別に何か示し合わされていた訳ではないので、驚いた。

「いや、生徒会のメンバーとして第一魔術しか使えないのはマズイだろう」

「確かにな」

そうかもしれないが。

「副会長がリア様と練習した方が結果を出せるのでは?」

「残り2週間だぞ。難しい技を私が覚えるよりも君に簡単な技を覚えて貰った方がいいだろう」

それもそうか。

「それでしたらご指導お願いします」

そして、このイベントが生徒会の不和を引き起こすとは露程にも思わなかったのである。


 先生方に許可を貰って実践練習場を借りてきた。借りるために色々手続きが必要なのだが、やっぱり先輩方は慣れている。

「それではまず第一術式を見せて貰おうか」

私達とは別に魔術師戦をするリア様を横目に見ながら、副会長に第一術式を見せる。

「第一術式 盾」

正直第一術式に関して言えば、かなりの自信があった。こればかりは先生にも褒められたのだ。

「クリアスフィアか」

「クリアスフィア?」

私が怪訝な顔をすると副会長は申し訳なさそうに言った。

「すまない。別に公式の用語ではないんだ。ただ魔術師として大成する条件の一つとして挙げられるんだ」

リア様と同じようにしているので当然といえば当然なのかもしれないが嬉しかった。

「その名の通り、第一術式が球体で透明であることを示す。これは第一術式の魔力を均一にできていることの証左だ。普通、均一でないと白く変色したりするからね。侮っていたわけではないが、君の評価を一つ上げなければいけないな。それでは第二術式を見せてくれ」

うっすらそのコツについては気づいていたが、やはりそうなのか。

「はい」

第二術式もリア様が見せてくれた。何よりもリア様がイスカ様に教えている姿を見たのだ。あの時の記憶がきちんと残っている。

まず第一術式で収束する。

「【第一術式 丸弾】」

それは綺麗な球体でないといけない。

「おお」

指の上で魔力の綺麗な球体ができる。ここまではイスカ様が教えて貰った通りだ。

「【第一術式 投射】」

【第二術式 射弾】は2つの術式を合わせた術式だ。上手い人ならばこれを一連の動作として【第二術式 射弾】として放つことができるが、最初の練習ではこの様に術式を分けて行うのが普通だ。

「だ、【第二術式 射弾】」

魔弾は指から離れなかった。

「発射!」

「…もういい」

うぐっ

副会長を見ると険しそうな顔をしながら、こっちを見ていた。これじゃあ使い物にならないもの。これを見た実践魔術の先生は初めてこんな失敗を見たと言っていた。正直、あの先生には先生を名乗らないで欲しいと思っていた。

「正直言おう」

「え、はい」

「私では力になれない。」

「え?」

「こんなこと初めて見た」

やっぱりそうなのか。

「しかし…」

そう、何か副会長が言いかけた時だった。

「危ない!」

私も副会長もその声の先を見た。

カルロス先輩が【第四術式 擲廻転槍】を構えていた。

それは練習という域を明らかに超えていた。普通人に向けていい魔術は第三術式までというのが一般的だ。第四以上の攻撃魔術は人を簡単に貫けるため、攻撃力が強すぎる。

しかし、カルロス先輩はそのまま放った。

「#」

それに合わせるようにリア様が【第四術式 創重壁】を構えた。

巨大な盾の出現でリア様の姿が隠れる。

【第四術式 創重壁】は【第四術式 擲廻転槍】を防げる魔術なのだが、完全に止められるわけではない。その厚い壁により【第四術式 擲廻転槍】が貫通するまでの時間を大幅に稼ぐ魔術だ。これでは盾で防いだはいいものの、槍が貫通しそのうち盾が壊れてしまう。そのため、盾から出る必要がある。盾から出るとカルロス先輩視点で右か左のどちらかに出る必要がある。リア様は盾から顔を出すとカルロス先輩はそれを狙って【第二術式 射弾】を放った。それが分かっていたように同じ第二術式で相殺する。言うなれば石を投げられたのを見て、石を当て返して相殺したようなものだ。

「化け物かよ」

また、カルロス先輩が第二術式を構えようとする。

「ふう、びっくりしましたね」

戦いは終わった。気が緩む私とは違い、副会長は緊張感を持ったままだ。

「いや、まだ終わっ…」

いや、終わりだ。あの場で防御術式を展開しなければいけなかったのに、攻撃術式を選択してしまった。

私の予想通りカルロス先輩は2つの魔弾を腹に受けた。

「勝者、リアクローバー」

生徒会長が宣言した。

「君は見えていたのか?」

「はい」

そう、リア様は盾から顔を出し、【第二術式 射弾】で相殺すると同時に盾と反対側に魔弾を射出していた。カルロス先輩はリア様が出てきた所に意識が行き、リア様が放った魔弾を見逃してしまったのだ。説明されればそんなことでと思わないでもないが、人間の認識は恐ろしいもので、それが「見えない魔弾」として機能するのだ。

「リア君」

起き上がったカルロス先輩は、リア様に近寄った。

「本当に申し訳ない」

そして土下座した。

「#%€!?」

流石のリア様でも面を食らった様だった。カルロス先輩は普段はどちらかと言うとムードメーカーというか、場を盛り上げてくれるタイプの人なので、この反応には生徒会全員が面を食らっていた。

「本当に申し訳ない。君が私の実力の数段、いや、数十段格上と分かって第四術式を放ってしまった。申し訳ない!」

そう、あれはリア様でなかったら事故になってもおかしくない。擲廻転槍を人間に当てるなんてあってはいけない。リア様であったから良かっただけなのだ。でも、カルロス先輩はリア様だからこそやってしまったのだ。

「そして会長。貴方は止めようとしていたのに、そこで止まれなかった。本当に申し訳ない」

「いや、私が無理矢理でも止めるべきだったが、リア君の実力を見てみたいと思ってしまったのも事実だ。私の瑕疵でもある」

「いや、そんなことはない。私が全責任を負う。今回の総合演習は私は出ない」

突然の言い分に理解が一瞬遅れた。

「え?」

その言葉にその場にいた全員が凍り付いた。

「中途半端な責任の取り方だと思う。だが」

「いや、そうじゃなくて今なんて?」

「中途半端な責任の取り方だと」

「その前」

「責任を持って今回の総合演習は出ない」

生徒会長が激しく狼狽するのを初めて見た。

「いや、そこまでしなくてもいいんじゃないかな。相手はリア君だった訳ではあるし」

「だが、リア君でなかったらどうなっていた」

「君はリア君でなければ第四術式を放ったりしないだろ」

「だが、総合演習で誰かに当たってしまったらどうする?」

「撃たないだろう」

その通りだ。カルロス先輩もリア様だからやってしまっただけで、リア様でなかったらやらなかっただろう。

それを受けてカルロス先輩は考える様に黙り、口を開いた。

「それに自信がなくなった。私は生徒会の一員として自覚があった。それは私と同じレベルは君等くらいだと思っていたからだ。生徒会長、君は、ずっと自分より強い人間を意識しながら動いているよな。それは考えすぎだと思っていた」

「それは私が自分より強い人間を見たことがあっただけで———」

「ああ、そうだ。私も今見た。私自身より強い人は今までもいた。でも、年齢だとか、その内私も強くなるとか、そんな適当な希望で見えないようにしていただけだ。私は自分自身のそういった弱さを見つけてしまった」

カルロス先輩は私達全員に頭を下げた。

「皆に迷惑をかけていることはわかっている。でも、リア君の強さに甘えてしまったことは何よりの罪だ。少なくとも総合演習までの期間の雑用は私がやらせて欲しい。お願いだ」

私達生徒会一同は生徒会長を見た。

「君が言っていることは理解した」

この決断を下したくて下したのではないだろうと言うのがわかる。

「君には、総合演習までの期間、庶務の役割を解く。そして雑用係に任命する。マリー嬢が行っていた雑用もやらせる」

「庶務と雑用係って何が違うの?」

イワンコフ先輩が小声で言った。

「知らん」

副会長が真面目に答える。

そこ2人空気読んで下さい。

「そしてもう一つ命令だ。僕達は総合演習までの期間で強くなる。君も強くなれ」

「ああ」

生徒会長とカルロス先輩の友情を尻目に生徒会は窮地に陥っていた。

リア様がただ出れば勝てるというものではないのだと教えられたようだった。


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