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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第三章 仮面の少女

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#4 調べもの

 どちらかと言えば、ヴィクトリアさんに関していえば、参加しようとしまいとどちらでも良かったのだ。後々の面倒を考えると誘わなかったら面倒臭いだろうと思っただけだ。ただ次の選択肢こそが本命だった。私の知り合いの仲では、唯一仮面の少女とクラスが一緒なのだ。とは言えど、あまり会っている姿は見せたくない。特にヴィクトリアさんには。

あまり人目がない場所へと呼ぶと彼女がそこで待っていた。彼女が私を見つけるとパッと花が咲いた様な笑顔になった。

 私は少しだけ寒気の様なものがした。

「ご機嫌よう。リリーさん」

「リリーさんなんてそんな他人行儀なこと言わないで下さい。お姉様。私のことはリリーとお呼び頂いて結構ですので」

別に寒気がしたのは彼女だったからではない。彼女の変わりようが著しい為に、未だに彼女に慣れないのだ。ていうかお姉様とは一体何だ。私は一人っ子だ。

 彼女との出会いはあまり良いものと言えなかっただろう。私を虐めていたリーダー格だったのだから。それを気にしていたかと言えば、実はあまり気にしていない。彼女のお付が下手に魔術を使ったせいで少しだけ大ごとになってしまったが、彼女自体は何故か嫌いになれなかった。彼女とはあの竜の事件以降、一度仲直りをしたのだ。確かに仲自体は深まったのだが、何故かあれ以来お姉様と呼ばれているのだった。

「同じ学年の生徒なんですし、お姉様はちょっと」

誰にも言っていないが、何なら年齢も私の方が2つ下である。年上にお姉様と呼ばれるのは何だか倒錯的な関係性に思えた。しかも、何なら私が嘘をついているだけで、彼女は当然知らないわけで、なんだか私が騙しているみたいだ。

「いえ、お姉様はお姉様ですので」

いや、私悪くないな。よく分からないのでスルーすることにした。

「それで仮面の少女に関しては調べて頂けましたか?」

「はい、とは言っても謎が多い娘みたいで、あまり大した情報はありませんでしたが、彼女の名前はツバキ シラヌイ。東の国出身だそうです」

「東の国ですか」

これと名前の情報だけでもありがたい。本当に情報が一切なかった。

「ただ別に東の国の子とも仲が良いわけじゃなくて。東の国の子でも、彼女が誰なのか分からないそうです。名字も聞いたことがないそうです」

名字も聞いたことがない。それはおかしなことだ。私だって西の国全ての貴族を知っているとは流石に言えないが、大体の貴族はわかる。もちろん新興の貴族であったりすれば、わからないが、大抵自国の貴族は把握しているものなのである。

「ただ私が聞いた子は全員下級貴族なので」

「もしかしたら上流貴族なら知っている可能性もありますね」

それならば宛がある。

「後一つ気になることが」

「気になること?」

「誰もいない状況でよく1人で喋っていたそうです」

「1人で?」

それは本当に1人だったのか? 

「ありがとうございます。リリーさん」

「いえ助けになったのなら良かったですわ」

「もし何かあったら私に言ってくださいね」

「ええ、もし何かあったら」

少し彼女には苦手意識がある。虐められていたことよりも、こうして慕われる方が何処か怖いのだ。


 ある程度情報が集まったので、ヴィクトリアさんとお話をすることにした。

「という訳でいくつか情報を仕入れてきました。お名前はツバキ シラヌイ」

自信満々に言うが、ヴィクトリアさんが勝手に続くので口を閉じざるを得ない。

「東の国出身。しかし、東の国ではあまり聞いたことがない名字。身長小柄。体重不明。休日にはゴスロリの服をよく好んで着る。情報それ以外なし」

「殆ど言われてしまいました」

「まあ、謎に包まれているわよね」

「追加で言うならば、独り言を言う姿を確認されているそうです」

「独り言? どんなに寂しい人生を送っているとそんな虚しいことをするの?」

「別に独り言自体は誰でも言いますよ」

少しだけ自分に刺さりそうなので擁護しておく。だって森で1人だと寂しいのだ。

「私はお喋りな自信があるけど誰もいない場所で喋らないわよ。おかしいわ。狂ってしまったんじゃないの?」

「独り言くらいで大袈裟ですよ」

そう言うが納得はしていない様子だった。

「だって喋りたくなったら友達なり、使用人と喋ればいいじゃない」

それはずっと人が一緒にいるからこそ出る発想だろう。

「誰も周りにいない人だっていますよ」

「ふーん」

「まあ、マリーも喋るの下手だもの。マリーが正しいと思うわ」

「怒りますよ」

誰がボッチの専門家だ。

しかし、一つだけ1人で喋っている心当たりがあった。

「もし寂しくて独り言を言っているのでないとしたら、喋っている相手が見えなかったという可能性はないでしょうか?」

「見えない?」

「精霊です。ヴィクトリアは見ていないかもしれませんが、彼女は精霊魔術を使っていました。精霊魔術の召喚で呼んだのかもしれません」

「それは絶対にないわ」

絶対という言葉が気になった。

「精霊魔術の召喚は難しいの。それこそリアレベルの魔術師でないといけないし、あの子の実践魔術は上級レベルと言えど、精霊魔術の召喚ができるとは限らない。それに第一、精霊と喋れないことは貴方の方が知っているでしょ」

彼女技量を考えると出来ても可怪しくないのだが、リア様を引き合いに出されると意見も引っ込んでしまう。

「それもそうですが」

別に精霊とは喋れない訳では無いのだが、リア様のお言葉を類推して喋っていることを「喋っている」としてしまうのはどうかと思う自分がいる。

「それでは精霊魔術の契約の場合、どうなるのですか」

精霊魔術には召喚と契約の二種類がある。私はまだ契約した人と直接喋ったことはなかったから、どうやったら契約できるのかも、契約という状態がどういうことができるのかもわかっていない。

「どうなるって私が知る訳ないでしょ」

「いや、さっきまでは自信がありそうだったじゃないですか」

さっきの確信めいた自信は、まるで自分で使えるくらいの自信の有り様だった。

「知らないわよ。精霊魔術の契約なんて雑魚が使う技でしょ。知らないわよ」

「ええー」

じゃあ、何でさっきはあんなに自信ありげだったのか。

「でも、奴の近くで精霊なんて見てないわよ」

「それはそうですね」

小精霊レベルであれば、それこそどこにだっている。だけど虫のように、まともに会話することもできなければ、意志が存在するのかもよくわからない存在だ。だからこそもし喋っていたとしたら中精霊以上だ。しかし、そんな存在の影もない。

「しかし、こうなると振り出しね。いっそのこと、とっ捕まえてふん縛ってお話をしましょうかしら」

それはお話ではなく尋問です。それは最後の手段です。

「その前に頼む人がいるじゃないですか?」

「誰よ」

「東の国出身で上流貴族の息子と言えば…」

そう言うと思い出したようだった。

「ああ!」


 時間は人が少なくなる夕方を狙った。2人揃って教室へと向かうと対象の人物を見つける。

「イットウ君、お話があるんだけど」

ヴィクトリアさんが我先にと話しかける。

「断る」

流石にヴィクトリアさんでは断られるか。しょうがない。イットウ君とは親しいとまでは言わないが、リア様とは仲が良いし、別に仲が悪い訳でもない。私はヴィクトリアさん程悪名高くないから大丈夫だろう。

「イットウさん、お———」

「断る」

ふんとヴィクトリアさんが笑った。

「お話だけでも聞いて貰えませんか」

ヴィクトリアさんが駄目なのはなんとなくわかるが、私まで駄目なのは納得がいかない。

「君子危うきに近寄らず。だよ」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず。とも言いますし」

「虎の子なぞいらないよ」

うーん、取り付く島もない。

「話だけでも」

「聞かない。何故なら君はそうやって交渉に入ろうとする。しかし、君と交渉をすることで時間が食われる。僕にとってメリットがないね」

「では、メリットがあれば」

「いらない」

本当に取り付く島もない。

「あんた、こっちが下手に出ていれば」

ヴィクトリアさんが妙に静かだと思っていれば、イライラしていたみたいだ。

「ヴィクトリア嬢。君はそうやって癇癪を起こせば言うことを聞いてくれるお人形がいっぱいいるみたいだけど、僕は生憎お人形じゃない」

「なっ」

「君は一緒にボードゲームをやって、負けそうになるとテーブルをひっくり返して、自分が勝負は無効だと言ってくるタイプだ。そういう人間とボードゲームは興じない」

あり得そうと思ったから、擁護はできなかった。

「そして君は」

「え? 私」

まさか此方にまで火の粉が飛んでくるとは思わなかった。

「ヴィクトリア嬢より厄介だ。ボードゲームに命をかける人間だ。熱中するという意味ではなく文字通りね。君が勝手に自分の命でオール・インするからリアまで一緒に相手しなきゃならない」

それは恐らく合っているのだろう。私の価値なぞリア様の付属品に過ぎないのだから。

「......」

「......」

2人して何も言い返せないでいるとイットウ君は背を向けて去っていった。

ブレスレットを外して、その後ろ姿に当てようとするヴィクトリアさんを止めながら言った。

「そういう所ですよ」

「あんただって言われてるでしょ」

「ですが事実です」

たった一言、二言話しただけで少し心が痛んだ。でも、見当違いだと怒ることもできなかった。それが事実だと思えてしまうくらいには冷静さがあった。それに妥当だとすら思っていた。

しかし、私もヴィクトリアさんもこのイットウさんの言葉を受けて反省しようなどはきっと考えていなかった。今考えればイットウさんは私たちのことを良く観察していたことに気づかされる。そしてこれが彼なりの優しさだったのだが、それに気づくのはしばらく後だった。そして、彼が言った言葉に実感を持つのは更に後だった。


 別に私もヴィクトリアさんも続けようと思えば、この調査を続けることができた。しかし、自然とこの調査は中断された。あまりにも情報が掴めなかったし、何よりもイットウさんが近づくなとばかりに牽制したので、あまり深く立ち入るのが憚られた。それにそこまで深く立ち入る理由も特になかったのである。


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