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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第三章 仮面の少女

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33/82

#1 手紙①

背景リンゴォ様

 冷たい春風も暖かな風へと変わってきました。西の国でも風の便りはお変わりないでしょうか? 入学してから沢山の事件が発生しました。もしかしたらいくつかはそちらの耳に届いているかもしれません。リア様の身を案じているかもしれませんが、リア様も私も元気です。新しい学園生活ではリア様のご友人も増えました。西の国のダーシー様、東の国のイットウ様、南の国のアリー様がリア様のお友達になってくれました。私が通訳をすることもありますが、私抜きでも楽しく会話しているようです。


 以前私とリンゴォ氏によって議論されていたことは、言語の法則を理解していなくても、身振り等で相応の会話が成り立つ、ということでした。以前までの私だったら、私という存在を棚上げして、リンゴォ氏のその主張に対して半身半疑でした。その態度について謝らないといけないようです。リア様がご友人と話す様を見れて、やっと納得ができました。しかし、その態度にも理由があるのです。


 リア様が喋っていることがあまりにも他のメイド達に通じていないのを見てそう思わざるを得なかったのです。議論した時にも、それをあげていたかと思います。リンゴォ氏も私もその理由が詳しくわかりませんでした。しかし、私は一つ仮説を立てました。きっとそれは対等な立場でないために理解しえなかったのだと思います。何故メイド達はリア様の言葉を理解しなかったのかと言えば、それは身分の違いにあると思います。正確には身分に対する畏れと言った方が正しいと思います。


 メイドの子達はリア様に対して畏れを抱いていました。それは恐怖とは違い、尊敬の念からの恐怖。もしくは執事長やメイド長が怖れているので、更にそれよりも偉い人に対する恐怖なのかもしれません。そういった恐怖がリア様に対する理解を拒むのだと思っています。と言ってもこの仮説も私という例外はあると思います。しかし、敬っていなかったわけではないので悪しからず。私は物を知らないので、リア様に対等に接することが可能だったのだと思います。


 紙も少なくなってきたので、考察はここまでにします。私の考察の続きは書かなくてもリンゴォ氏が行ってくれるでしょう。


 西の国の天候をまとめた資料をありがとうございました。もしかしたらもっと古い資料をお願いするかもしれません。今、これを使って研究を進めている最中です。私達の研究は重大な欠陥を持っています。それはリア様の発声した音とリンゴォ氏が作り上げたリア様の発声を記した文字で、お互いの共通認識を作れなかったことにあります。リンゴォ氏が作り上げた文字と私のイメージでは全く違う物でしょう。出発までにこれに手が回らなかったのがただただ後悔するばかりです。きっと私が西の国へと戻った際には、それを擦り合わせる作業をしなければならないのでしょうね。


 しかし悔やんでいてもできないものはしょうがないと言ってくれると思います。


 少し話は変わるのですが、恋人同士の手紙は暗号文を使うのが、流行りだと学友に教えて貰いました。文字の変換表をお互いが持ち、手紙としては、数字だか、記号に見え、本人からすると恋文として読める秘密の恋文になるそうです。お友達に少しだけ見せて貰ったのですが、手紙の冒頭の定型文が予想できるので、そこから逆算して暗号を解くことができそうです。流石に暗号を解くつもりはありませんが、指摘するのも憚れるので、もどかしい気持ちを含め、ここに記載させてください。

 もっと他にお話するべきことがあるかと思いますが、初めての手紙の為、お許し下さい。


追伸 リア様の言語についてのレポートを同封しています。まだ頭の中がぐちゃぐちゃで纏まった資料ではありませんが、拝見ください。

 

マリーより


 親愛なるマリー嬢へ

 手紙を書くのは、どうも得意じゃない。私は時節の候を省略してしまうのだが、君は気にしないと信じている。君も知っての通り、手紙には時間がかかる。もし手紙の行き違い等があって、会話が噛み合わないことがあっても許してほしい。


 リア君はしっかりと学校生活をやれているだろうか? 私はそこが心配でならない。できればそこをマリー嬢にはサポートして貰いたい。反対にマリー嬢はあまり心配していない。君は器用だから案外初日から友達を沢山作っているんじゃないかと思っている。ああ、それから君の手紙に関して言えば楽しく読ませて頂いたよ。その調子で頼む。天気に関するレポートは役立っているかな? それとこの文はチョムスキー夫人に読まれていることだけは伝えておく。中央国で手に入る物は夫人が準備してくれるそうだ。くれぐれも悪口を書かないように。悪口を書きたい場合は暗号で書くように。とまあ冗談はおいて一つ忠告がある。リア君を気にしすぎるのは良いが、自分自身を大事にすることだ。リア君は多分君が思っている頑強だし、君は君が思っている以上に脆弱だからね。


リンゴォより


 手紙を読み終わると思わず笑ってしまった。リンゴォ氏は手紙まで何処かせっかちだ。私の方が友達が多いなんて見当違いで、むしろリア様の方が友達作りが上手い。クラブでもチョムスキー夫人と私がお話をしている間に、知らない人達とカード遊びをしていたと聞けばリンゴォ氏は驚くだろうか?

「故郷の恋人ですか?」

同室のアンナが声を掛けてきた。私の知り合いでは、数少ない北の国の出身だ。

 背が私よりも小さく小柄で気弱な性格だが、心優しい。権謀術数渦巻く学園の刺々しい関係性の後に彼女を見ると心が落ち着く。

 そんな少し頼りないものの優しい彼女だが、私よりも年上だ。アンナが特別上という訳ではなく、私の年齢は14で、他の人達は16か17。私は年齢を誤魔化して入学している為、私より年下は恐らく存在しないだろう。バレないのかと思うだろうが、意外とバレていない。身長は平均値くらいなのでバレないし、アンナだって私よりも小さい。それに自慢ではないが、私の頭は少し良いらしく常に学年1位を保っているのだ。バレる要素はない。二歳差はかなり大きな違いだが、もしできないことがあっても可愛気として見られていることもある。

そんなしょうもない自慢を心の中のタンスにしまい込み、意識をアンナに戻した。

「残念ながらお師匠様です」

研究結果なども書いてあるので、さっと封筒に手紙を戻した。

「手紙を見てニヤニヤしていました。怪しいです」

「…そうですか。では国家機密が入ったこの封筒を開封しても良いですよ」

リア様の言語について書かれているのだから一応国家機密だ。そうすると途端に顔を青くして首を横に振った。

「…やめておきます」

今見てわかる通り、アンナを簡単に紹介するのなら、気が弱いという一言で説明できるだろう。おおよそヴィクトリアさんの反対の性格だと思えばいい。緊張に弱く、鶏肉の骨のように腕も細い。

しかし、この子の気の弱さも見た目のひ弱さも好きだった。

この子を見ると安心するのだ。

「そうですか。臆病であることは武器ですね」

とか適当なことを言っておく。別に見られて困ることは一切ないが、手紙をみだりに人に見せないだろう。

「アンナは故郷に恋人がいますか?」

「いないですよ。だからここで見つけて来いと言われますが、まあ見ての通りチンチクリンなので諦めているですよ」

アンナは北の国の訛りが抜けない。敬語も少しおかしいのだが、わざわざ注意するのも憚れた。

「マリーはリア子爵と結婚するのですか」

アンナから思ってもいなかった言葉が飛んできた。

「......はい」

少し考えてから答えた。

「予定的には」

「予定的には?」

変なこと言わなければよかったと後悔しつつ、正直に答えた。

「リア様の正室となってくれる人を探さないといけません。私では身分不相応ですから」

私はこの言葉に対して大した感情も思い入れもない。自分でも思ってもいないことを言っているという自覚がある。私はこの言葉を自分の言葉で喋っていない。旦那様の言葉をなぞっているだけだ。でも、この言葉を嫌っている訳では無い。拒否感も無ければ、嫌悪感もない。ただ地平線の彼方まで続く道を見るように、これがどの様なものなのかわかっていないのだ。

だがアンナの顔を見るのが怖くて見れなかった。

「それは———」

アンナは何かを言おうとして止めた。彼女だって同じ立場だったらと考えたに違いない。

「———一つ教えて下さい。それはマリーの考えですか? 親の考えですか?」

少し逡巡した。ある意味どっちもと言えたし、どっちでもないとも言えた。

「…...どっちもです」

「…...そうですか」

それがどう受け取られたかわからなかった。私の論理はそれが正しいと言っていた。これは到底他の人が経験し得ない幸福なことだ。実際私はリア様が好きだ。でも、きっと私はリア様に恋はしていない。私が恋をするにはリア様との距離があまりにも遠すぎた。

「マリーは大人ですね」

「大人ですか?」

思っても見なかった。だって恋すらしたことない子供なのだ。

「私は子供ですよ」

そう言うとアンナは口を尖らせた。

「そういうところが大人なんですよ」

アンナは何故か不機嫌だった。


 アンナは何故か不機嫌だったが、夕食の時間になれば機嫌を取り戻した。

「ごはん! ごはん!」

人生の喜びは3度の食事しかないと言っていたが、流石にそれは嘘だろう。

寮の夕食は皆で食べる。当然見知った顔も多い。

「マリーこっちに来なさいよ」

いきなり声をかけてくるのはヴィクトリアさんだ。彼女の供回りであるリンディとシンディも一緒だ。ヴィクトリアさんを見るとアンナは私の後ろに隠れた。

あーあ。

そんな姿を見たらヴィクトリアさんがいじわるするに決まっているというのに。

「あら、いつの間にペットなんて飼い始めたの? リスを拾ったのなら教えて欲しかったわ」

アンナは余計に縮こまった。

「リスなんて飼っていませんよ。ここにいるのは私の友人のアンナだけです」

「あら私ったら見間違えてしまったわ」

全く反省していない声色で言った。

「早く席に座ったらどうかしら。とは言っても何処も席が埋まっているわね」

席が空いているのにわざとらしく言った。席は決まっているわけではないが、大抵皆が同じ場所に座っていた。しかし、今回はどうやら私たちが座っている場所は誰か使ってみるみたいだ。

「私の手のひらの上なら空いてるわよ。そこのおチビちゃんくらいなら乗るわよ」

息を吐くように煽るものだから少し感心してしまった。

「どうです? いっそ乗ってみてはいかがですか? そこの椅子は装飾品も沢山ついた高級品みたいですよ」

とアンナに勧めるが、顔を青くして首を振った。

「…これがかの西の国の煽り」

「いえ、こんなに治安が悪いのはヴィクトリアさんの周辺だけです」

そう事実を教えるのだが、何故か顔を凝視された。

「———そうだね。周辺だけ」

アンナさんの言葉に含みがある。

「あら最近の小リスはどんぐりじゃなくて、真実を見つけるのが上手いみたいね」

「まるで私の口が悪いみたいな言い分止めて下さい」

ヴィクトリアさんに言い返したかったが、寮長が前を行くのを見ると黙ってヴィクトリアさんの前の席についた。

「それでは皆さん。食事が前に行き届いていますか? それでは食事前のお祈りをしましょう」

寮長は敬虔な精霊教徒だった。普段は優しいのだが、精霊教となると厳しい人になる。この食事の前のお祈りだってサボったりしたら大目玉を食らう。

祈りを終えるとすぐに騒がしくなった。ルールさえ守れば、後はとても寛容なのだ。

「私、最近気づいたんだけど」

ヴィクトリアさんが話始めたが、食事の手は止めない。付き合っていると食事の時間が終わってしまう。

「仮面の女は夕食時間にいないのよね」

それを聞いて少し周りを見た。記憶上でも確かにいた記憶がない。

「私、あの女の仮面の裏を見てみようと思って、食事をする時に見れないかと思ったんだけど、そもそもここにいないのよ」

「普通にお話をして取ってもらったらどうです?」

ヴィクトリアさんの考えることは大抵とんでもないことなので、どうか止めるように促してみる。

「それで取るやつが仮面を付けないでしょ」

確かにそうかもしれない。

「あの仮面どうなっているのでしょうね」

「もしかして化け物みたいに不細工かも」

「もしかしたら絶世の美人かもしれませんよ」

彼女の供回りのリンディとシンディが言った。この二人は何処か似ているのに正反対のことを言う。

「いや、私は考えがあるのよ」

少し嫌な予感がしたが、尋ねた。

「どんなですか?」

「多分、私は誰かに似ていると思うのよ」

「誰かに?」

似ているからって何だと言うのだ。

「双子よ。偉い人の双子。もしくは浮気した女の子供と瓜2つとかね」

「双子は凶兆の証なんでしたっけ?」

王家にとって双子は縁起が悪い。だってその内王権が分裂するからだ。リア様とイスカ様の兄弟だって周りの人間があれほど騒いだのだ。双子は生まれた時が同じなのだから、権力が分裂する理由に確実になり得るだろう。

「でもそれってあの小説ですよね。『鉄仮面の男』」

そう。彼女はただ小説で起きた事件がそのまま現実で起きていると言っているに過ぎない。

「あら貴方も読んでいたの?」

「ちょうど最近読んだんです」

とはいえ目についた理由と言えば、件の「仮面の少女」だ。私もヴィクトリアさんと同様に気になっていた。と言っても気になっていた主な理由はリア様の言葉に何かしらの発見があるを期待してだった。


精霊魔術。

今のところ彼女以外で使える人を見ていないが、もしかしたらリア様の言葉を理解するためには必要なことかもしれない。

それに。

懐にしまってある一冊の本を見た。これは精霊魔術の本だ。未だに内容は殆どわからないが、著者がリア・クローバーと書いてあるこの本も精霊魔術を知れば読めるようになるのかもしれない。


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