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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第二章 竜と竜

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#14 行軍訓練②

 その時風切り音が耳に入った。しかし、それに反応することも、それが何の音なのかもわかることは無かった。そして目の前の光景をどう理解すれば良いか分からなかった。

 大きな鳥がいた。鳶や鷹のサイズではない。小さな家と同じくらいの大きさだ。

鳥の魔獣。

思いもしなかった。

今までは犬や熊の様な地上生物が大きくなっただけだった。もちろんそれは脅威には変わりないが、まだ地響き等で何処にいるかわかった。

 しかし、これは避けようがない。

事実、鳥の魔獣の足下には、1人の人間がいた。上空からの急降下で踏み潰されたのだ。今生きているのはただ幸運でしかない。

鳥の魔獣は、ジャンプして足で掴んでいた獲物を手放すと生死を確認する様に獲物を嘴で突いた。行動は鳥を思い出させるが、サイズ感が違う。巨大な鎚で殴られた様に獲物は滅茶苦茶になる。ここでの獲物とはネズミなどの小さな獣などではない。人間だ。

 そして嘴を生徒だった者に突き刺した。器用に片方の趾で押さえながら、肉を引きちぎると人間は簡単に裂けた。嘴で引きちぎった肉を口の中に運ぶところまでを見ても、現実感がなかった。それを見た生徒の金切り声が聞こえた。そこでやっと現実に引き戻された。

 それを境にしてパニックが始まった。

男子生徒が半狂乱になりながら、魔術を放つ。

しかし、鳥の魔獣は軽く3メートルほど飛び上がって避けるとそのまま隙をついて男子生徒に飛び乗った。

「ああああああああああ」

野太い叫び声が聞こえる。それを助けるために魔獣に対して、第二術式を放ち助けようとした生徒がいたが、あまり傷を負った様子はなかった。

「嘘だろ」

誰が言ったかわからないが、それは周りの人達を絶望させるには十分だった。

鳥は、次の獲物を狙った。鳥がその体躯で飛び乗るだけで人は潰される。そしてその狙いは私を次の標的にしていた。

上空からの風切り音。地面を抉る轟音。

反応できない。できたのは咄嗟に目を瞑るのみ。しかし、感じるのは土埃が降りかかることだけ。痛みもなければ、むしろ今こうして意識があるのは生きているかどうかの実感さえない。

恐る恐る目を開けると大きな嘴が開いていた。

「っ!」

思わず後ずさるが、その嘴が動かないことに気付いた。よくよく観察してみれば、鳥の魔獣は釘でも打たれたかのように魔術が突き刺さっていた。

【第四術式 擲廻転槍】

槍状の魔術を投擲する魔術で、第二術式に比べると大幅な貫通力を誇る。

どう見てもこれは上空から放たれた物だ。そして空から放つ様な人は1人しかいない。

「早くこっちに逃げなさい」

声がする方を見るとヴィクトリアさんが木の下に隠れていた。確かに何も無い道のど真ん中よりも格段に良い。

滑り込むように木の下へと逃げた。

「リアも全く遅いのよ」

ヴィクトリアさんは悪態をつくが、私は最悪を想定していた。

「鳥の魔獣は一匹じゃない可能性があります」

「は?」

「リア様の性格を考えて、殺してそのままというのは考え難いです。恐らくは次の魔獣を倒しています」

それを証明する様に、腹に響く様な音が轟いた。

「森に阻まれて何匹いるか検討もつきませんが、少なくともリア様の手に余ると思われます」

「じゃあ、どうするのよ。私じゃあ第四魔術も打てないし」

そう第四魔術は卒業までに出来たら良いとされている程に高度な術式なのだ。見た通り第二魔術では、刃が立たない。

「いえ、逆です。犠牲者を減らしましょう。恐らく第一術式でかなりの時間が稼げます。そして木の後ろにいれば、恐らくは空中から急降下で強襲されることはありません。これを皆に知らせましょう」

「恐らくって、一発で割られたらどうするのよ」

「張り直してください」

「そういうことじゃないでしょ」

そう、そういうことじゃないのだ。怖くて、自分の命が惜しくてしょうがない。それだったらここから動かず必死に息を潜めていたほうがいい。

「それでしたらヴィクトリアさんはここにいて大丈夫です」

それでも空で戦っている人がいるのだ。

「ちょっ」

私は走り出した。道にいる人を見つけたらすぐに森に寄るように叫んだ。足場の悪い道沿いの森を駆け抜ける。

一人でも生き残らせる。一人分でもリア様の負担を減らす。

皆状況が伝わったのか、森の下に隠れている人が増えてきた。道のど真ん中に立つ人等いない。

「誰か」

しかし、自分の意思ではなく座り込む人はいた。

「大丈夫ですか?」

森の中から声をかける。近寄ると足を怪我しているのがわかった。それに…

「あなた…」

その少女は、この間、私に突っかかってきた少女達の1人だった。複雑な気持ちはあるが、助けたいのは嘘じゃない。しかし、助けるためには視界が開けた道に出ないといけない。それが恐ろしかった。私の心の中にイジメられたのに助けるのかという恐ろしい発想が生まれる。周りを見渡しても誰もいない。つまりは私が見捨ててもバレないということだ。

森の中で一歩踏み出す。

もう一歩。もう一歩と踏み出し、彼女に肩を貸した。

「…ありがとう」

今にも泣きそうな顔で感謝を言われた。

「イタッ」

「もしかしたら骨折しているかも」

彼女を引きずるように森まで引っ張る。正直歩けない者を背負える程力持ちではない。それに疲労感もあって震える足で一歩一歩ゆっくりと進むしかない。下を向いて自分の足取りを確かめる。

地面を見て考えを切り替えた。

冷静に考えてこっちのほうがいい。

「やっぱりこうするべきですね」

彼女を突き飛ばした。

「え?」

意味が分からないという顔をした彼女は、生垣に突っ込んだ。

彼女が突き飛ばされたのを確認すると浮遊感を感じる。

これでよかったのだ。

私は地面に映し出される巨大な影を見逃さなかった。


 風が衝突する音が聞こえる。空を飛ぶ機会は二度目だ。だが決して楽しい状況ではない。強襲した鳥に足で掴まれ、空中で運ばれていた。ギリギリ【第一術式 球盾】が間に合った。【第一術式 球盾】は球体上に体をすっぽりと覆うため、四方八方どこから来ても防げるため、見ていなくても防げた。ただ、もし間に合わなかったら、確実に死んでいただろう。しかし、初撃が防げても、命の危機に変わりはない。なんせ落とされただけで一溜まりないのだ。鳥の魔獣は第一術式に爪を立てるが、まだ割れていない。このままどうか落とされないことを祈った。しかし、現実はそう上手くいかない。鳥の魔獣はこのままじゃ割れないと思ったのか、私を落とした。

「ヤバい!!!」

爪は第一術式で防げても、落とされて地面にぶつかるのは防げない。地面にぶつかるとバウンドした。第一術式の中でシェイクされるが、頭を打つのだけは何とか防ぐ。もう一度バウンドすると第一術式は壊れ、地面に投げ出された。

全身が痛い。

逃げたい。

怖い。

でも、投げ出せない。

投げ出された視界の端で鳥の魔獣を捉える。まだ、終わっていないのだ。

鳥の魔獣の爪が迫る。

【第一術式 球盾】

魔術を張るのが、間に合った。鳥の爪が透明な盾から見える。鳥の魔獣の全体重が乗るが壊れない。鳥は直ぐに行動を変えた。嘴を盾に叩きつけた。高速で叩きつけるが、盾は、ビクともしない。

これまでの魔術の特訓に感謝した。それにこれが壊れてもすぐに魔術を張り直す準備はできていた。

 しかし、この鳥の魔獣の怖いところはそこではなかった。鳥の魔獣はまた爪で掴もうとした。

「それじゃあ破れないですよ」

言葉のわからぬ鳥にたいして意味などないと思うが、必死に強がるのをやめられなかった。

第一術式が掴まれ、鳥が飛び立つと体が浮いた。その意図を察すると血の気が引いた。鳥の魔獣は私を持ったまま、上昇する。単純な話だ。また高い場所から落とせばいい。鳥の魔獣の爪や嘴の攻撃では第一術式を破れないが、さっき空から落として、一度破って見せたのだ。

「ま、待って」

待つはずがない。鳥の魔獣はどんどんと高度をあげる。第一術式を解除する? しかし、鳥の鉤爪に握り潰されないか? そう考えている内にどんどんと降りられない高度まで上がった。駄目だ。この高度まで上がったら骨折じゃ済まない。私の思惑とは別にどんどんと高度が上がる。

内臓が迫り上がるような感覚がした。

何かないか。

空を飛ぶ手段じゃなくていい。地面に落ちるときに何か衝撃が軽減される手段さえあればいい。しかし、次の一手を思いつく間もなく、落とされた。

ガラスの様に透明な第一術式から地面が近寄ってくるのがよく見えた。

お母さんやお父さんの顔が見える。

今、そっちに行くからね

そしてリア様。

出来の悪いメイドでごめんなさい。

「###!!!!!!」

突如私の第一術式が割れる音がした。

それと共に体に強い衝撃が走る。空に投げ出されると空気に叩きつけられるように風がぶつかった。しかし、叩きつけられる様な風が一瞬にして凪いだ。

【第九術式 飛行】

高度なこの魔術を使える人等この人しかいない。見た目は一見第一術式と変わらないが、難易度は段違いだ。

「リア様…」

強くリア様にしがみつく。

怖かった。

辛かった。

リア様が来ると恐怖と苦痛から来る緊張の糸が切れて、気丈に振る舞っていた仮面が壊れてしまった。リア様の暖かな体温に心から安心しきってしまった。一度泣き出してしまったら、もう堰が外れてボロボロと涙が溢れ、リア様の肩へと落ちた。

既視感があった。これは、お父さんとお母さんが死んだ時と同じだ。あの時もリア様は胸を貸してくれた。

でも、あの時とは違うことが一つだけある。

「真上の敵を撃ってください」

私はまた仮面を作り直し、それを被った。

風切り音がした。

鳥が目の前を降りる。

否、鳥は目の前を落ちていた。

一瞬頭蓋に大きな杭の様な魔術が突き刺さるのが見えた。

「リア様、早く次の標的に向かってください」

涙の跡は残れど、涙は渇いていた。もう、あの時の小さな女の子ではない。

「前方2体確認しました。右の魔獣を処理しましょう。人との距離が近いです」

リア様が言葉なく頷くと急激に体に重さが加わった。飛行の魔術が加速したのだ。改めてリア様との最初飛行は加減していたのに気づかされた。

「私がガイドします」

リア様は鳥の魔獣よりも格段に早い。鷹が小鳥を襲う様に素早く近づき、後ろから頭に向けて魔術の槍を放つ。

「次の標的はあっちです」

早すぎて方向が分からない。リア様がすぐに捉えられるように指を差した。

視界範囲内に黒い点が見えた。

「次の標的の方向はあっちです」

鳥の魔獣が存在している間隔が疎らだ。リア様が中々倒しきれなかった理由がわかる。

これだけの数がいると目に付く魔獣を次から次へと殺しても結局間に合わないのだ。

リア様が鳥の魔獣を殺すと口を開いた。

「リア様。方針の提案をさせてください」

「#?」

このままでは、生徒会長の言ったとおりになってしまう。リア様だけで広域に広がった生徒を守るのは不可能だ。だからこそ、効率を考えなければいけない。ほかの生徒を見殺しにしてでも。

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