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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第二章 竜と竜

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28/82

#13 行軍訓練①

「明日は行軍訓練を実施する」

先生のいきなりの宣言に驚いたもの半々、何を言っているか分からないもの半々といった感じだった。恐らく私と同じ様に知っているものか、行軍訓練のイメージがつくものかなのだろう。先生が説明し終えると直ぐにヴィクトリアさんの近くに寄った。

「ヴィクトリアさん。ちょっと話いいですか?」

「いいわよ」

教室を出るとヴィクトリアさんから声をかけてきた。

「あなた知っていたのね」

「実は生徒会長に教えられまして。ピクニック気分でドレスを着る女子生徒が出てくると言われたので」

「ああ、出そうよね」

伝わらないことを心配していたが、想像しやすかったみたいだ。世の中には命よりもファッションが大事な子だっているのだ。

「それでヴィクトリアさんにそれとなく広めて欲しいんです」

ヴィクトリアさんは私よりも、横のつながりが多い。噂を広めて貰うのは彼女が適任なのだ。

「噂だけでいいの? もっと具体的なことだってできるけど」

具体的なことは想像がつかないが、碌なことにはならなそうだ。彼女は腐っても侯爵令嬢。自分より身分の低い相手には容赦がないのだ。その意味で言うと私は何故か許されているのだが警戒するに越したことはない。

「最終的な判断は個人でするべきかと」

「あなたって意外と冷たかったのね」

「え?」

「ああ、そういう意味じゃないわ。ただなまっちょろいかと思ってただけで」

「もっと酷い言い方に聞こえるのですが」

「だってイジメられているのにも関わらず、相手を庇っていたり」

彼女の視点ではそうなのだ。でも、実際はそんなことはない。彼女は私が仕組んで、あの事件を起こしたことを知らないのだ。私は思われているよりも狡猾で、残忍だ。

「あれは相手が手段を選んでたので、こちらも手段を選ぼうとしていただけです。言ってしまえば、ルールに則ってやっていただけです」

「よくわからないわ。ルールなんてそれごと轢き潰せばいいじゃない」

「それは強い人の考えですよ」

「何言っているの? あなたは私なんかよりも強いじゃない」

どうやら何か勘違いしているようだ。

「私は弱い人間ですよ」

「弱い人間はそもそもリアの横に立てないわよ。あなた達は割れ鍋に綴じ蓋なんだから」

単純に受け取れば何もかも持っているが喋れないリア様と何も持っていないがリア様の言葉を喋れる私ということなんだろうけど、少し違和感がある。

「一つ聞いていいですか?」

「いいわよ」

「馬車でリア様と何があったのですか? 最初に出会った時とはリア様に対する態度が違いますよね」

そう言うとヴィクトリアさんは閉口した。

私を値踏みするようにしっかりとした目で見つめた。

「…別に。リアが思っていたような人と違っただけよ」

「それは———」

何を言えばいいかわからなかった。

「リア様は優しいですよ」

咄嗟に出た言葉は何とも情けないものだった。

「———知っているわよ」

沈黙が続く。何かリア様の名誉のために言わなければといけないのに、何も思いつかない。

「———噂はこっちで広めておくわ」

そう言うと去ってしまった。

少なくとも馬車で何かあったのは間違いがない。しかし、それが何なのかわからない。

彼女とは新年の挨拶で会ったのが最初だった。その時は彼女のお父様と一緒だったが、リア様に向けた笑顔は嘘に見えなかった。

彼女は本当に好きな様に見えた。あの時は分からなかったけど今ならわかる。彼女はとびきりのお洒落をしていた。まるで好きな人の前で着飾るように。しかし、彼女のリア様への態度はまるで反対だ。どうでもいいような、投げやりな様な態度だ。

「一体馬車で何があったの?」


 行軍訓練当日は晴れの日だった。

「雨だったらよかったのに」

そう言っている女子生徒もいたが、雨天決行だ。むしろ地面がぬかるんで大変なことになるだろう。

「全体、整列!」

その声に全員が集まり、綺麗に列をなした。

「傾注。生徒会長からのお話」

壇上を見ると生徒会長が喋りだした。ああやって喋っている姿は優雅だが、いつもの姿を見ると言いたいことがいくらかある。

「君達に大事にしてもらうことが一つだけある。それは生きて帰ってくることだ」

それを冗談だと思ったのか、いくらかの生徒が笑った。

「冗談だと思っている子もいるようだが、これが実際の戦いだったら、どうだろうか?」

周りの雰囲気が変わっていくのを感じる。

「これが人と人との戦いだったら? 魔獣を倒しに行く遠征だったら? 君達は誰かの庇護にあるという認識が未だにある。気を引き締めて欲しい」

この場にいる人間全ての目線が生徒会長に集まった。

「これはただ目的地に行くという訓練だ。君達は、これが終わったあと一皮剥ける。でも、それ以上に大事なことは生きて帰ってくる。ただそれだけなのだ」

会長の話には、少し違和感があった。いつもなら華麗な言葉遊びで綺麗に終わらせるが、この終わり方はいささか気持ちが悪かった。だからこそ行軍訓練というものの真面目さがわかる。これはきちんとした軍事行動なのだ。開会式が終わると周囲が遠ざかる様に円を作っている人だかりを見つけた。ヒラヒラとした服を着ていて明らかにこの場に似つかわしくない。周りの人達も白んだ目で見ているようだ。あの子は見たことがある。家格はギリギリ中級貴族といったところだけど、色んな人に突っかかるのだ。当然ヴィクトリアさんにも。

「言っておくけど、私はちゃんと直接言ったからね」

「わっ」

後ろから声をかけられてびっくりした。びっくりしたお返しに一つ質問した。

「一応聞きますが、煽ってこっちを着ていく様にしたわけではないですよね」

「…黙秘するわ」

段々とこの人がわかってきた気がする。

「ヴィクトリアさん!」

「あら噂で良いと言ったのは、貴方よ。そのついでに私の利益を追い求めただけ。ありがとうと言われど、怒られる筋合いはないわ」

「それは…ありがとうございます」

釈然としないが、間違ってはいないだろう。事実彼女達以外はこの訓練に見合った格好だ。

「あらあんな高いヒールなんて履いちゃって」

「先生達も注意しないのですね」

「注意して恨まれることもあるからね」

「大変ですね」

「まあ、注意しなくても恨まれるけど」

大変だ。

「さて煽って来ようかな」

「止めてください」

目を離したら煽りに行きそうなヴィクトリアさんを止めていると流れで一緒に歩くことになった。チラリと騒ぎになっていた少女を見るが、着替えに行けそうな時間はない。このままの恰好で行くのだろう。

「馬鹿ねえ。ちょっと考えればわかるのに」

煽って冷静にさせなかったのはこの人なのだが、まあ同意する。

「女ってのは、中身が大事なのに」

少し意外だと思った。

「何よ。その顔」

「いえ、意外だなと」

流行の服に詳しくて、いつも綺麗だからお洒落が一番だと思っているタイプだと思った。

「なんでもかんでも素直に言えば許されると思うなよ」

頭をぐりぐりとこねくり回される。

「私馬鹿は嫌いだけど、頭がいい奴は好きよ」

乱暴にしてくる手が次第に優しくなり撫で始めた。

「私結構あなた気に入っているのよね」

リアくれないかしらと冗談めかしく言う。

「リア様が喋れるようになったら雇ってください」

こちらも冗談で言ったのだが、何故か真剣な目で見られた。

「考えとくわ。真剣に」

何だかもしお役御免になったとしても意外と就職先は困らないかもしれない。

目的地までの道のりは遠く、少しの沈黙が続いた。

な、何か喋らないと。

「ヴィ、ヴィクトリアさんはお茶菓子は何が好きですか?」

そう言うと何故か笑われた。

「あなた、もしかして会話下手?」

何かすごい暴言を吐かれている気がする。

「まあ、いつもあなたじゃなくて、リアがあなたの口で喋っているものね」

それは耳に痛い話だった。私自身が喋ることよりもリア様の言葉を喋ることが多いのは、事実だ。

「だから友達が少ないのよ」

「なんでもかんでも素直に言って許されると思わないでください!」

そればっかりは、心に突き刺さった。

「フフッ、ごめんなさいね。あなたって面白いものだから」

それは果たして褒められているのか? 馬鹿にされているのか?

「次の御茶会は貴方に自己紹介させるから」

「え?」

「え? じゃないわよ。あなたがあなたのこと喋らないんじゃ、誰もわからないんだから」

それは確かにそうだ。

「あなたって社交界で受けそうなのに、どうしてそんな内気なのかしら」

「内気ではないと思いますけど」

さっきから言いたい放題だ。

「もっと自分の人生楽しみなさいよ。リアばっかり見てないで」

本当に好き勝手言ってくれる。

こっちが何を考えているかも知らないで。

でも、その考え方は少し憧れる。

この人みたいに自由に何でもかんでも言えたら良いなと考える。

「・・・目的地まで遠いですね」

本当につまらない会話だ。

「・・・そうね」

でもヴィクトリアさんとの会話は嫌いじゃなかった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ヴィクトリアさんと喋らなくなって二時間ほど経過した。二時間と言っても体感二時間というだけで、もしかしたら一時間も経っていないかもしれない。そこにあるのは、気まずさなどでなく、ただ単に疲労感だった。

『君が思っているより歩くのは、辛いものさ』

認めたくないが、生徒会長が言っていたことが身に沁みる。

 訓練内容は主に2つである。学園から都市の門まで歩くこと。そして街の外に出ることだ。学園から都市までは思ったよりも疲れなかった。歩道は石畳だし、何よりも魔獣に襲われる可能性は少ない。本番は街の外である。街の外と言っても、魔獣に出会う可能性はあまり多くない。既に多くの魔獣が間引かれた後なのだ。ただ危険性はないと言えどやはり街の外は気を使うし、デコボコとした道は体力を徐々に奪っていった。

 行軍訓練といっても重たい荷物を持つわけではない。本当にただただまっすぐ歩く。何処まで歩くかわからなくて辛い。歩いていると時たま耐えきれなくなったのか、すすり泣く少女の声が聞こえる。それでも別に誰かが助けてくれるわけではない。少しだけ男子が助けてくれても良いのではないかと思わないでもないが、女子とは違い、男子はバッグを持たされている。流石に言うのは気が引けるし、男子も疲れているのかどこかピリピリとしていた。

「どこまで行くんですかね」

「さあ」

この会話はおそらく10分ごとに何度も繰り返されている。私は昔は野山を一晩中駆けずり回っていたこともあるし、多少は体力に自信があったが、どうやら周りとそう大差なかったようだ。この1年お屋敷に籠もっていたこともあって、体力も落ちたのかもしれない。元気が良かったのは最初の一時間ほどで、あとは疲れ果てていた。

 突如鳥たちが飛び立った。カラスの鳴き声が森中に響き渡る。何か胸騒ぎがした。しかし、私の胸中とは別に、人の行列は滞りなく進んでいく。

 魔獣が出たことも考えられる。しかし、根拠としてはあまりにも薄かった。巨大な地響きもしない。しかし、先程から仕切りに鳥が空を一定方向に飛んでいるのだ。

「ヴィクトリアさん。気にし過ぎかもしれないんですけど、何か森が変です」

「気にし過ぎよ」

疲れているのか適当にあしらわれる。

「魔獣が出たかもしれません」

下手に聞こえてパニックにならない様小さな声で言った。流石に聞き捨てならないのか、真面目に聞いてくれる。

「さっきから鳥が仕切りに飛んでいます」

「気にし過ぎよ。魔獣が通るような足音も聞こえないじゃない」

「はい、でも用心したほうがいいです」

この危険に対する感覚を説明することはできなかった。でも、私の真面目な雰囲気を読み取ったのか、真剣な面持ちになった。

「でも、リアがいるんだから気にし過ぎじゃない?」

確かに今までリア様は圧倒的に魔獣を倒した。今回も倒してしまうかもしれない。

「でも、以前会長と話したんです。リア様は個として見れば強いだろうが、群として戦えば、群は重荷にしかならないだろうと」

もし100対1で戦えばリア様はきっと無傷で勝利する。しかし、100対100で戦った場合、リア様は無傷かもしれないが、残りの99人は無傷という訳にはいかない。

ここでの99人は私達で、ここでの重荷とは私達だ。


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