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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第二章 竜と竜

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#12 やり返しとやりすぎ

 幸か不幸かヴィクトリアさんとの御茶会をする前に実践魔術の授業が来た。私はこの日の為に準備をしてきた。と言っても別に喧嘩をわざと吹っ掛けてやろうとかは思っていない。彼女達がもしわざわざ関わってきたらこちらも少しやり返してやろうと思っているだけ。そう自分に言い聞かせた。内心ドキドキした状態で授業を受けていた。

「マリーさん。手伝ってあげようか?」

そら来た。内心微笑むが表情には出さない。

ちょっとだけ仕返しするだけなのだ。

「結構です」

そうは言いつつも反対のことを考えている。むしろ、前みたいにふざけてこっちに来れば計画通りにことが進む。

「そんな素っ気無いこと言わないでよ」

そう言って前の様に巫山戯て手を出して歩いてきた。

それをやられても手を出さない。

彼女の手は段々と私に近づいてくるが、途中で止まった。

まるで透明な壁でもあるかのようである。

いや、実際に透明な壁があるのだ。

「第一術式 盾」

前回の出来事からわずか3日で完成に至ることが出来た。ポーカーフェイスを保っていた私ですら笑みが溢れる。

「お手伝いして頂きありがとうございます。でもご自分の練習に戻るのが良いかと」

リア様がどうして手を近づけて近寄って来たのか、彼女達のお陰でわかった。そう普通の人は手を前に出されながら近づかれるのは嫌な行為なのである。私が手を反射的に払った様に、近づいてくるものを素直に受けようとは思わない。防衛本能と言い換えてもいい。何故一番簡単な術式である第一術式が防御の術なのか? それを考えれば簡単にわかることだった。本能的に使えるからだ。そしてリア様にやられてもよくわからなかったのは、リア様にやられても嫌じゃないからだ。それを彼女達3人に気付かされた。自らのリア様への敬意が恐ろしいほどである。

「・・・・・・」

意外にも三人組のリーダーである彼女は驚きこそすれど、他の二人と同様に侮蔑する様な目はしなかった。

 私自身何故かわからないが、他の2人はともかく彼女とは意思疎通がしっかりと取れているような気がした。下手したらヴィクトリアさんよりも気持ちがわかる気がするのだ。

 意外と仲直りできたりしないだろうか? そんな希望が少しだけ湧いてしまう。

「でも防御できないと意味ないでしょ。私が試してあげる!」

「え?」

私が描いていた絵はここで終わりの筈だった。これからは関わらなくなって終わり、その筈だった。

「第二術式」

まさかそんな思慮の浅い行動をされるとは思わなかった。

「待って!」

それはリーダーらしき彼女も同じ様子だった。

「魔弾」

その発射される距離は2メートルも無いので避けられなかった。魔力によって作られた球体は、私に向かって飛んできた。

第一術式と第二術式がぶつかったらどうなるか?

基本的には、相殺されるというのが答えである。と言っても第二術式が消えるのと第一術式が消えるのが等価かと言えば微妙なところである。魔術の基本は防御する側が不利。そう決まっているのだ。

 しかし、覚えたばかりの第一術式と第二術式がぶつかったらどうなるだろうか?もちろん魔術の力量は練度の差が出る。それに防御の魔術と比べると攻撃の魔術の方が威力が上がりやすい。彼女の魔術の威力は低く見積もっても、振り下ろされた木剣と同じくらいの威力はあるのだ。


 土埃が空を舞った。びっくりして尻餅をついた。自分自身が怪我をしていないか確かめるが、どうやら怪我はしていないらしい。

お尻以外は特に痛みもない。

「何やってるの、馬鹿!」

「で、でも」

激昂している声と今にも泣きそうな声。2つの声が聞こえる。

何が起こったのかわからない。でも、一つ確かな事があった。私の第一術式は傷ついていなかった。私は無事だったからそこまで怒らなくてもと思った。しかし、そうはいかななかった。


 どんな物事にもラインがある。それを超えてしまえば、いかに貴族と言えど、いかに王と言えど、その座から降ろされてしまう。


 リア様が舞い降りた。比喩でも何でもなく本当に空から舞い降りたのだ。これは第九術式 飛行、使える人はリア様ぐらいしかいないような高度な魔術であった。

「##€#!?」

怒気を含ませた語気で何かを喋る。

この場にいる誰もが理解した。

これは少女と少女のちょっとした見栄の張り合いでは収まらないのだ。

「え、あ、あの」

私に当てた女の子よりも早くリーダーらしき女の子は、素早く言い訳を述べる。自分の身を守る為でもあるが、何とか『こと』を大事にしない為の言い訳なのがわかる。

「申し訳ありません。リア様。私のお友達が間違えて当ててしまったみたいで」

「#=×÷#?」

「え? 今なんと?」

私だって事を大きくしたい訳ではない。本当に少女のちょっとした諍い程度にしたかった。

しかし、既に遅かったのである。

リア様は魔術を展開した。

「リア様!」

それに対応できたものは誰もいなかった。

体に響く様な轟音と土煙が舞った。その後に彼女たちはリア様が魔術を放ったと初めて気づかされた。どれだけ凄まじい威力だったか。土煙は5mほどの高さを超えていた。パラパラと土が落ちる。それをただ呆然と見るしかない。

「###>!」

リア様が何を言っているか。私にはわかった。無闇に人に打つな。そう言っているに過ぎない。もっと威力が強かったら、死んでいたんだぞと伝えるているに過ぎない。

 でもそれがわかるのはこの場の私だけだった。

「ごめんなさい。殺さないでください。殺さないでください」

私に当てた子は、土下座をしながら泣きじゃくり必死に助命を懇願する。これが平民であればおかしな事もない。しかし、彼女は腐っても貴族。これは異様と言うしかない。

「殺さないでください」

リア様は下手に人を殺そうとする様な人ではない。そんなこと分かりきったことである。しかし、それがわかるのは私だけだ。

リア様を皆勘違いしている。

「ァ、あっ」

しかし、言葉が出なかった。喉が締め付けられた様に声が出ない。どうやらさっき魔術を当てられた時に腰を抜かしたようだ。そこから緊張で上手く声が出せない。この状態を何とかしないといけないのに、何もできない。

「謝るのは、リア君に対してではなく、マリー嬢にだろう」

思わぬ人から助け船が出た。ダーシーさんなどの違うクラスの人達も見に来た様だった。

「どうやらリア君は手が滑って撃ってしまったようだね。君達もリア君が謝っているみたいだし許してあげたら?」

全く見当違いのことを言うが、イットウさんはわざとこう言っているのだと気付いた。

この人達は無かったことにしようとしているのだ。

「もし許してくれないというのなら君達がマリー君に故意に撃った可能性も考慮しないといけないけど」

「リア君。こっちは収めておくから彼女を医務室に連れていってあげなよ」

そう言われてハッと気づいたのかリア様はこっちに向かってくる。

自分自身ではどう解くかわからない第一術式を僅かな動作で壊すとその場に屈んだ。

「ただ腰を抜かしただけなので怪我はしていないです」

肩を貸してくれるのかと思い、恐れ多いがその好意を素直に受け取るべきだと思った。

「ちょっ」

実際にされたのはお姫様抱っこでした。

「リア様! そこまでしなくても」

視線を感じる。ただ腰を抜かしただけなのだ。

しかし、リア様は私の言葉など聞く気がないかのようにそのまま歩き出した。恥ずかしいというよりも焦った。思わず叩いてしまうがビクともしない。

どうすれば良いかわからない。


 医務室に着くと軽く治療される。転んだ時に手を地面について、どうやら軽く手首を捻挫してしまったみたいだ。

してやったという気持ちはなかった。後悔しか残っていない。ここまで事を大きくするつもりはなかったのだ。それにリア様を勘違いさせてしまったのだ。リア様は心優しい方なのに、リア様が人に魔術を向ける様にしてしまったのだ。

「リア様、申し訳ありません」

リア様は私の言葉を勘違いしたのか。私の髪を撫で付けた。

「違います。今回のことは私が仕向けた様なものです。ここまで大きくするつもりはなかったのですが」

本当に思慮が浅かったのは、私だ。

第一術式を覚えたら、このイジメられている状況を打破出来ると思っていたのだ。

それでもリア様は髪を撫で付けた。

「#%#€#」

リア様が何と言ったのかわからなかったが、恐らくは、慰めてくれようとしているのはわかる。

リア様と並ぶ様な人にならないといけないのに、私では、まだ足りていないのだ。自分でもズルいと思う。ずっと自分に都合が良くなるように動いている。自分勝手だった。あの時、ヴィクトリアさんに頼っていたら、その方が上手く行っていた筈だ。何が相手の家格を落とさないようにするだ。私がやったことは第一術式を自慢して、相手に恥をかかせるつもりだった。そこで相手は引いてくれると思ったのだ。しかし、実際には、リア様が介入するレベルまでことを大きくした。それだけじゃない。相手の家格を大きく下げた。それにリア様に第四術式を使わせ、リア様が魔術を人に向ける人だと勘違いさせてしまった。リア様は仕方がない時以外に人に魔術を向ける方じゃない。

 これは己の傲慢さがもたらしたものだ。

 自身の傲慢さを戒めなければならない。



 学園にも慣れてきた。私が生徒会に入ると正式に発表された時、思ったよりも騒動は起こらなかった。リア様が怒ったこともあるだろうけど、一番は根回しのおかげだ。生徒会の方達に、ヴィクトリアさんやダーシーさん、アリーさん、非協力的に見えたイットウさんまで手伝ってくれたのだ。物事には順序があるとは知っていたけど、ただ知っていただけでは意味がない。今回は私の力のなさを恥じるばかりだ。何か挽回できることはないかと必死に生徒会の業務、つまりは本来ならリア様がやるべき業務を覚えていた。

「もうすぐ行軍訓練の時期だね」

生徒会の仕事をする最中に聞こえた生徒会長の言葉に反応せざるを得なかった。

「行軍訓練ですか?」

名前から想像するに訓練とつくのだから易易とできる訓練には思えない。

「ん~。もしかしてまだ聞いていない?」

「え、あっ、はい」

「これは間違えたね」

間違えたとは1ミリも思ってもなさそうに言った。

「いやあ、例年何故かこのイベントを上級生が黙っているなんて慣例があるせいで言ってはいけないのに間違えて言ってしまったなあ」

「そうですか。では聞かなかったことにしますね」

生徒会長の企みにはそもそも乗らないことが大事だ。

「つれないねえ」

「では、どの様な訓練なのですか?」

仕事もあと少しなのでほんの少しだけ付き合っても良いかもしれないと思った。

「歩く。ただ歩く」

会長の言葉の続きを待っていたのだが、何も続かないので我慢できなく聞いた。

「それだけですか?」

「それだけだとも」

また仕事に戻った。

「おや、リア君の代弁者である君がそんなんでいいのかい?」

「いや、歩くだけなのですよね」

会長は私は屋敷から出たことがないと思っているかもしれないが、足場が安定しない森には歩き慣れている。

「君が思っているより歩くのは、辛いものさ」

「会長が思っているよりも、歩き慣れていますよ」

「そうだといいんだけどね」

ケラケラと会長は笑った。

「ちなみに毎年ピクニックと勘違いしてピクニック用のドレスを着てくる子がいるからその子には事前に注意してあげてくれ」

「その助言は助かります」

もしかして事前に教えたのはこれを注意する為か。

「今や、忘れられているが、僕たち貴族は戦う人間なのさ。いつだって戦う準備は必要だよ」

「それはこの訓練の意図ですか?」

私の回答には答えず、質問をしてきた。

「君は集団で戦う異議とは何だと思う?」

少なくとも婦女子に振る話題では無いだろうと思いつつも答えた。

「数が多いほうが強いから。では駄目ですか?」

「君からそっちの回答が出てくるとは思わなかった。ではリア君1人と100の兵士どっちが強い?」

「それはリア様ですけど、それは例外では? そんなことを言ったら集団で戦う意義等話す意味が無くなります」

「そうだ。1人の圧倒的に強い魔術師がいれば、集団戦の意義等話す意味はない。確かにその通りだ。100対100の戦いだとしてもリア君がその中の1人だったら何も意味がない想定だ。むしろリア君1人と兵士99人の場合、兵士が邪魔になってしまう。リア君にとって集団戦とはただの重荷に過ぎない」

はあと力なく返事した。生徒会長の意図が分からなかったのだ。

「女の子は会長の話なら何でも聞いてくれるのですか?」

言外に会長の話はつまらないと言ったのだが、それにも笑った。

「ははは、君は面白いね。王宮で道化でもなったらどうだい?」

「それもいいですね。リア様の通訳の仕事が無くなったら考えます」

しかし、この話が後々身に染みることになるとは思いもしなかった。

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