#11 ちょっとしたいざこざ
その日の実践魔術の時間は、いつもマンツーマンで見てくれる先生が忙しいとかで初級の授業に参加していた。実際に入って見るとマンツーマンで行った時とそんなに変わらないと思った。そもそも魔術を全く知らない人向けの教え方など存在しないわけで、マンツーマンで受けたって受けていないのと変わらない。普通の授業を受けているのと全く変わらない。初級の授業を受ける人は大体二分化された。そもそも真面目に受ける気がなく、お話ばかりしている人と中級に上がろうと必死に努力しようとしている人だ。教える先生は、真面目に学ぶ生徒に教えるのが忙しいのか、話している人間を気に留めようとしない。比率的には初級の人が一番多いので、真面目に学ぶ気がない生徒まで手が回らないのだろう。
当然私は真面目に学ぶ気がある人間だ。と言っても第一術式の盾すらできないので、周りから見れば笑えるものかもしれない。試行錯誤していると声をかけられた。
「ねえ、生徒会に入ったって本当なの?」
その少女達は、違うクラスで、一度も話しかけたことはなかった。
「いえ正確には入った訳では無いですし。恐らく正式な発表があるかと」
正式な発表がある前に勝手に情報を流すのもどうかと思い、いつもこの様に返していた。
「ねえ勿体ぶらずに教えてよ」
「いえ、勿体ぶるも何も」
その顔を見ると彼女達が何を考えているのかが、わかってしまった。少女達は私を見下すような侮蔑するような目をしていた。
そこで私は生徒会長のことを思い出したのだ。
『もっと周りを見たほうがいい』
なるほどと内心頷く。
少女達の後ろにいる人達は私をチラチラと見るが、助け船を出す様子はない。
何となくわかる。
私はイジメの対象になったのだ。
どちらかと言えば、遣る瀬無い気持ちになった。恐らく解決方法は簡単だ。リア様に頼んで脅せばいい。でもこんなことにリア様の手を煩わせるのは何よりも嫌なことだったし、元はと言えば自分の撒いた種だ。自分で片付けたい。入学式を経て今に至るまで、私には友達がいなかった。同室の子だって別に特別仲が良いわけではない。リア様のお側にいるから忙しいのだという言い訳をして、自分から友達を作ろうとしなかった。リア様に近づく人達のことを勝手に私のコネクションだと勘違いしていたのだ。恥ずかしい人間だなと思う。
「ねえ? 聞いているの?」
私の自己嫌悪の時間は彼女たちには関係がなかった。
私に話しかけてくる女の子が、良いことを思いついたと言わんばかりの表情をした。
「ねえ、私が第一を手伝ってあげる」
彼女が手を前に出してこっちに歩いて来た。
直ぐにその意図がわかった。前回リア様の特訓を真似たのだ。このまま何もしなければ、ぶつかって張り倒されるだろう。
ペシッ
向かってくる少女の腕を軽く弾いた。反撃されるとは露程にも思わなかったのか、一瞬意外そうな顔をした後、怒りを見せた。
「私が手伝って上げると言ったでしょ!」
彼女が声を上げると流石に周りの人達もこちらを振り向いた。彼女自身もこんなに大きな声が出るとは思わなかったようだ。
「君達授業に戻りなさい」
その先生の声でひとまずは収まった。しかし、それはイジメが終わったわけではなかった。
「あの子が生徒会に入ったって子? 地味よね」
「何か魔術もまともに使えないんですって」
「えー、何でそんな子が?」
「リア様のお気に入りらしいよ」
私に聞こえるように陰口を言われた。もしかしたらそれは私が鈍感すぎて今まで気づいていなかっただけだったのかもしれないが、それは明確な悪意を持っていた。この間私に突っかかってきた彼女はラインをつくるのが上手かった。決してリア様のことや生徒会を馬鹿にすることはしなかった。標的を私だけに絞って、取り巻きが間違っても馬鹿にする前に牽制した。私は内心それには感心していた。
私があまり気にしていなかったのは、イジメと言っても被害がそれほどなかったというのもある。
「ねえ、放課後空いている?」
「すいません。忙しいので」
放課後は何かと理由があって断りやすかった。
「そうよね。生徒会があるものね」
クスクスと笑う。
この件をリア様に知られたくはなかった。だから放置していたのだが、どんどんと他のクラスの女子の態度がだんだんとよそよそしくなっていったのがわかる。私はそれに毅然とした態度を続けていた。だが、それはそれ以外にできることがなかったというだけである。
「ちょっといいかしら?」
だから、ヴィクトリアさんが声を掛けてくれたのは本当に嬉しかった。
「はい」
ヴィクトリアさんとは普段一緒に話す仲ではない。でも、彼女は変わらず接してくれた。
「貴方、もっと人に頼った方が良いわよ。どうやら勘違いされているみたいだし」
「言うほど勘違いでないかもしれないですよ」
彼女達は私をおもちゃにしようとしているだけで、ただの子供の遊びに過ぎない。
それよりも反省すべきはこの展開はもたらした私の不手際だ。
「この間は御茶会のお誘いを断ってしまってごめんなさい」
「そんなことは気にしなくてもいいの。それよりも私がガツンと言ってあげようか?」
確かにヴィクトリアさんが作ったグループは大きく、彼女の輪に入れば、多分わかりやすい様なものはなくなるだろう。
「そうなると彼女達の立場が悪くなりますよね」
「だからなんだって言うのよ。彼女達は貴方の立場を悪くしているのよ。それが逆転するだけよ」
ヴィクトリアさんが怒ってくれているのがわかる。こうして私の為に怒ってくれるのは少し意外だった。
「それが上手くいかなかったらヴィクトリアさんの立場が悪くなります。わざわざそんなことしないでいいですよ」
「そんなことではないし、いざとなればリアの権力を振りかざせばいいじゃない。逆に言うとこれ以上悪化するとリアが直接手を出しかねないじゃない」
私もリア様が手を出すのは嫌だが、ヴィクトリアさがそれを気にするとは思わなかった。
「言い方が気になるのですがリア様はどの様に手を下すと?」
私のイメージでは大雑把に魔法を使って脅すくらいだ。
「貴方、リアと一緒にいて、何も思わなかったの? リアは残忍で狡猾よ」
残忍、狡猾。どれもリア様のイメージとはかけ離れる。だってリア様は私の父と母を殺した強盗にも、衛兵も最後まで殺そうとはしなかったのだ。むしろ心優しいイメージだ。
「それは幼少期の頃のことではないのですか?」
虫を潰して遊んでたとかそんな感じじゃないだろうか。
「確かに小さな時だけど。まあ、あんたが言うなら落ち着いたのかもね」
まあ、何でもいいわと話は、中断された。
「今度また御茶会を開くからその時参加しなさい」
「はい。それは是非」
「きっと貴方のことをきちんと知ったらきっと皆評価してくれるわ」
自惚れかもしれないが、ヴィクトリアさんの私に対する評価が高いのではないかと思い始めた。同郷のよしみもあるのかもしれない。
その期待に応えるために頑張らないと。
ヴィクトリアさんと別れると図書館に行った。魔術の特訓をシズカさんに見てもらうために行くのだ。
魔術の習得に兆しが見え始めた。
この前のリア様の意図がわかったのだ。そこだけは本当に彼女達に感謝しているのだ。




