#9 リア様の脱走
放課後になって、図書室に行こうとしていた所に、声を掛けて来たのは、意外にもヴィクトリアさんだった。
「ちょっといいかしら」
驚かなかったといえば嘘になる。
「どうされました?」
「貴方を御茶会の席に呼びたいと思っていて」
「御茶会ですか? それは是非。いつ頃ですか?」
「この後なんだけど」
「この後ですか、それは少し用事があって」
「…そう」
ヴィクトリアさんは私に近寄ると小さな声で言った。
「貴方もっと周りの人と関わりをもったほうがいいわ」
その言葉は忠告とも警告ともとれた。
「は、はい。機会があったら是非」
本当に用事があるのだが、その用事を言うわけにもいかないので困った。
加えて言えば、ヴィクトリアさんとの接し方は少しわからなかった。同じ西の国出身とは言えど、別に共通の話題もない。いや、一つだけある。それはリア様のことだ。彼女は前のパーティーでリア様を少なくとも好ましく思っていた。パーティーで言っていたように彼女とリア様をくっつけてしまうのが、リア様にとって一番良いことかもしれない。しかし、一つだけ不可解な事がある。彼女の態度があの時とは違うのだ。もちろんパーティーだからということはあるだろうけど。でもあの時の彼女はリア様への好意を隠そうとしなかった。しかし、今の彼女にはリア様を好きな感じがあまりしないのだ。それだけが引っ掛かる。
まあ、次の御茶会で聞けばいいか。
その日は直ぐに図書室に向かった。ある約束があったのだ。
「こんばんは。シズカさん」
「こんばんは」
「##〜」
そうこの場に本来今の時間であったら生徒会にいるはずのリア様がいた。しかし、私が呼んだ訳では無い。リア様が自主的に来たのだ。そしてその理由とは。
「失礼するよ」
そう言って男性三人が図書室に入ってきた。
「おや、マリー嬢。君はいつも放課後は図書室にいたのか?」
そう話すのはヨリイチ様だ。
「ええ。シズカさんに勉強を少し教えて貰っていて」
シズカさんを軽く見ると関わりたくないとばかりに睨見つけられた。ついでにこの場にいたはずの人間を探すがいない。隠れたのだろう。
「ところでリア君を見ていないか?」
「…見ていないですね」
もちろんさっきまでそこにいたので嘘だ。
「すまないが奥まで見せて貰うぞ」
「えっ」
普通に考えれば、本棚の後ろとかに隠れているだろう。まずい。止めないと。
「そこまではしなくても」
「いや、別に君達が嘘をついてるとは思っていないさ。ただ、リア君はかなり巧妙でね。君達すら騙している可能性があるんだ」
いえ、全然嘘ついています。
というか奥まで行かれると困ります。
と言っても止めようが無いので、どんどんと奥に進んでいく。しかし、図書館の奥に着いたが、リア様の姿はない。
「まあ、流石にいないか」
しかし、私にはどこにいるのかわかってしまった。
「別の場所…」
この図書室から去ろうという時に一陣の風が吹いた。
風を感じると嫌でもリア様をイメージしてしまう。風が吹く場所を確認すると窓が少し空いているのがわかった。
「ちょっと待ってくれ」
「あっ」
ヨリイチさんが窓に近付くと心拍数が一気に跳ね上がる。
まずい。リア様は十中八九窓の外にいる。
何か誤魔化せないか? そう思うが、何も目を惹くようなものも思いつかない。
探している内にヨリイチさんが窓に手を掛けた。
まずい!
ヨリイチさんは窓を開けてしばらく見渡した。
「流石にいなかったよ」
よかった。思わず安堵の声を上げそうになる。
外へと歩き出して誘導しながら、ヨリイチさんに話しかける。
「どうしてリア様を探して居られるんですか?」
「うん、マリー君だったら良いだろうが」
そう言って声を小さくした。
「リア君が逃げた」
まあ、それは知っている。
「ちなみに何故ですか?」
「それがわからないのだ」
チラリと他の人たちを見る。
「他の方々も同じ用事ですか?」
「いや、違う。君達マリー君になんで来たのか説明してあげた方がいいぞ」
「リア君の知り合いかい。私は乗馬倶楽部の部長だ」
「そして私が決闘倶楽部の部長だ」
「生徒会と倶楽部活動は兼用しても大丈夫だからね。彼らは勧誘しに来たんだ。」
「流石に倶楽部の兼用は難しいから、どちらかにしか入れないだろうがね」
リア様を見かけたら宜しく言っておいてくれと言われ別れました。
「ふう」
そのまま図書室に戻ると先程までいた窓の近くに行き、窓枠の上側に向かって話しかけました。
「もういいですよ」
「#」
リア様は窓の上の壁にいたようで、そこから降りてきた。
「見つかるかと思いました」
『私には見つかっているけどいいの?』
「ヨリイチさんが来たときに言ってないのに、言うつもりですか?」
『いいえ。正直図書室が騒々しくなるよりはいいわ』
あえてシズカさんも言いふらすような真似はしないだろう。先日の一件以来シズカさんの性格がわかってきた。
「それでリア様。結局なんで嫌なんですか?」
「#€####」
リア様に理由を聞いてもその想いが直接わからないのは歯痒く思う。
「この際倶楽部云々は置いて、生徒会に入りたくない理由はあるんですか?」
シズカさんを横目で見ると興味がない振りして本を読んでいるが、さっきから1ページも捲っていない。
「何か人間関係が問題とか」
虐められるとか、そんなことを想像してしまうが、その一方でリア様が虐められるのは想像できない。
「%」
首を横に振る。
しかし、それ以外思いつかない。
私が困っているとリア様は私を指差した。その後リア様の近くに指差した。まるでこっちに来いとばかりに、言っているようだったが、まるで意図がわからない。
「え?」
一瞬助けを求めてシズカさんを見た。
『私がわかるわけない』
ぶっきらぼうに断られる。まあ、そうかもしれない。
「でしたら私、ヨリイチさんに断ってきましょうか?」
生徒会の話はリア様に相応しいと思っただけで別に無理してまで入って欲しい訳では無い。
『話が絶対拗れるわよ』
しかし、その考えはシズカさんに止められた。
『ただでさえ、女性が生徒会の運用に口を出すのでさえ憚られるのに、貴方が止めさせたとなれば、この学園中敵にするわ』
「そうなんですか」
『元々歴史的に男性だけで運営していたんだけど、前の会長職で女性の言いなりになって、一悶着があったこともあって、特に今は厳しい目で見られる』
だからあの時、ヨリイチさんは私を関わらせるのを嫌がったのだろう。リア様がいくら我儘を言っても許されると言っても、世間の目を気にせず行動するのは得策ではないだろう。私がそんな差し出がましい行動をした場合、殺されても文句は言えないかもしれない。
「ですが」
そこまで言ってシズカさんに言うべきではないと口を閉ざした。
「わかりました。しかし、私が通訳するぐらいなら前にやったので、問題はないと思います」
『まあ、それくらいなら』
大丈夫です。リア様、私がきちんと辞めさせます。
「?」
リア様は関わっていないから大丈夫です。
生徒会室は普段生徒がいる部屋とは離れていた。そのため静かでペンが走る音のみが良く聞こえた。
「痛っ」
潰れかかっていたペンだこが遂に潰れた。ここ最近忙しさかったせいか、ペンだこができているのは分かっていたが、潰れるとは思わなかった。
「大丈夫かい。ヨリイチ君」
声を掛けて来たのは、アレクサンドル・ヨードル。この生徒会の会長だ。
「ただペンだこが潰れただけです。気にしないでください」
実際潰れるなんてことはよくあることだ。いちいち気にすることでもない。
「しかし、最近どうやら仕事を増やしているようだね」
会長が言っているのはリア君が生徒会に入ったことだろう。そしてリア君は訳あって文字を書けない。その結果、私が仕事を引き受けている状態のことを言っているのだろう。
「と言っても仕事量自体は変わりませんよ。リア君がいない時から仕事は変わらないのですから」
「でも最近はリア君は逃げているんだろう」
「まあ、それは…」
事実といって差し支えない。
「しかし、結局リア君がいてもいなくても仕事の量は変わりませんからね。任せられる仕事が肉体労働しかありませんし」
じゃあ、何でリア君を入れるのかと聞けば家格や政治だけではない。
「それに総合演習には絶対にいないといけませんし」
「それは確かにそうだけど君が仕事を貯めているのも気になる」
「そうは言っても会長も仕事があるでしょう」
「うん。そうだね。だからリア君が仕事を出来るようにしないといけない」
「いや、会長。そうは言っても」
リア君は文字が書けないじゃないですか。そう言いかけて止めた。何か失礼に当たる気がしたのだ。
「そうだ。ここは僕に任せてくれないだろうか? いい案がある」
会長は物事を上手くやり遂げる。そこは素直に尊敬すべきところなのだが、それをやり遂げる過程でかなりの迷惑を被る場合が多い。今回は、変なことがなければいいのだが。




